飛場はある日、大変なものを見た。  
 全裸だ。それも二つ。  
 ……ちょっと待ってくださいよ。  
 落ち着け、と飛場は目を閉じた。意識して息を吸い、ゆっくりと思考する。  
 ここ最近、自分のエロさが増しているように思う。  
 ソレはソレで普段とあまり変わらないのでいいかもしれないなんて思いはするのだが、  
「……さ、流石に美影さん以外の裸まで妄想するのはちょっといけませんよね……」  
 頷き、目を閉じたまま、キチンと腰のタオルが巻いてあることを確認する。  
 ……大丈夫、僕の理性は決壊しません……!  
 エロいことはオトナになってから。具体的には、ゴム製品を買う勇気が出るまで。あとはムードがキチンと  
作れたら。記念日なんかに美影さんの方から迫ってきてくれると嬉しい、なんて夢想したりもするのだが、そ  
れはやっぱり男としていかんだろうというコトで切欠はできれば自分から――  
「リュージ君? どうしたの?」  
 首をかしげた声に、ピンク色空間から引き戻される。  
 はっ、と目を開きそうになるが、先ほどの倫理的ショックからシステム復旧中――  
 ……美影さんの裸を見たら、ああっ、ああッ!!  
 ――なので目は閉じたままだ。  
「ああいえ入っているのに気付かなかったと言うかそんな言い訳をするつもりで美影さんとお風呂に入ろうと  
したとかそういう訳ではなく」  
「じゃあどういう訳だと言う、リュウジ君」  
「はっはっはそれは男の秘密と――」  
 凍りついた。  
 ……今の声は……  
 どこかで聞いたことがある、気がする。  
 見開いた。  
 
「…………」  
 ごしごしと目をこすってもう一度。  
「…………」  
 もう一度。  
「…………わぁ」  
「なんだそのリアクションは。失礼な」  
 湯船に幼女が浮かんでいた。しかも金髪だ。  
 ……だ、駄目だ駄目だ反応するな僕ー!  
 流石にロリコンは犯罪だろう、と飛場は深呼吸する。  
 ……アイアムロゴスアイアムロゴスアイアムロゴス! ロゴスは理性です、今日学校で習った!  
 汗が出てくる。混乱の極地と言っても過言ではない。  
「リュウジ君」  
「はい?」  
 反射的に返事をするのは、骨にまでしみこんだM根性のせいだ。  
「これはなんだね?」  
 ――ニギリ。  
「……!!」  
 握られた。  
 何を握られたかはここでは明記しないが。  
 ……だって名前を呼ぶ声が妙に艶かしい……!  
 思わず言い訳をする。  
「何を固くなっている」  
 ……お、オヤジギャグ?  
 ならば、と飛場は目を見開く。これならば僕の領域だ、と。  
「お、」  
 見開いた先にあったのは、小さな拳であった。  
 打撃だ。  
「ぷふっ」  
 響いたのは金属音だ。  
「おお、悪い悪い。昔のクセだ。リュウジ君、君のお爺さんがいけないのだよ」  
「お母さん、ちょっとは手加減してあげて。リュージ君、死んじゃう」   
 ……お母さん?   
 意味を考える前に、股間に打撃が来た。  
「おふ」  
 肺から空気が漏れる。  
 あっさりと消えていく意識の中で、  
 ……ああ、ちょっと気持ちよかったかも……  
 飛場は頭で浴槽の縁を砕いた。  
 
 
 その変態部署で擬人化が行われたのは数時間前のことである。  
 神砕雷は某ブレードハッピーの被害にはあっていなかったのだが、  
『ついでだし!』  
 ――この一言だ。  
 荒帝を参考にして武神研究のうんたらかんたら、という言い訳を美影に語り、しかも失敗しなかったのはそ  
の妄想力の強さが原因だったのかもしれない。  
 かくして3rd概念核は擬人化される運びとなったのだが、3rd概念核は冥府機構である。  
 意志は雑多な神々が独立したものであるため、一つの擬人化人形を作成することができない。  
 ならば、と大城は鶴の一声を発したのだ。  
『じゃあ一夫ポケットマネーから全員擬人化する予算出しちゃおうかなー?』  
 このときばかりは大城は神であった。英語で言うならゴッドだった。  
 かくして、3rd概念核は数十に分けられ、しかし予算不足のため全員幼女ボディに入れられ、  
「――今ここにいるのだ」  
 最も、俺は男だから幼女ボディなんていヤン、と駄々をこねたのが大半だったのだが、と彼女――レアは茶  
をすする。  
 着ているのはなぜかメイド服だ。  
 飛場を正面に、浴衣を着た美影(のチチ)を背もたれにするような形だ。  
「まあ、人格を完全には分離しきれず、色々混じっているのだが」  
 空になったらしい湯飲みをワキにおいて、彼女は語り出す。  
 まあなんだ、早い話、と。  
「……私は、なんだ、父の意識が混じっていてな」  
 何かをしていないと落ち着かないのか、彼女は金髪をくるくるとひねりながら、  
「……大分エロいんだ」  
 飛場は首を捻る。  
「娘の婿と言うのも気になるし」  
 今度は反対側に捻る。  
「さっきキッチリ洗ったし」  
 味見しようとしたんだがのぼせてしまってな、との言葉に飛場の首は地面と水平になるまで傾く。  
「美影には先ほど許可を取ったしな」  
 頷く美影に、飛場はさらに反対側へと首を捻った。  
 傾きはもはや体ごとであり、  
 ……なんですかこの展開は。  
 耳はドッキリじゃないのかとカメラ音を探すのに余念がない。  
「というわけだ」  
 メイド服と浴衣、二人が立ち上がる。  
 美影は飛場に抱きつき逃さず、レアは押入れから布団を取り出し始める。  
「え、ええと――」  
 ――親子丼、という単語が脳内にガンガンと浮かび上がってくる。  
 リビドー全開。ああ、擬人化よ永遠なれ。  
 

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