濃い茶色の染みが幾つか出来た木製の床が軋みの音を上げる。  
 音を生み出したのは人間の重量による歪みであり、それを生み出した主は、  
「……なんだこりゃ」  
 金の短髪を持った青年であった。  
 二十を過ぎて少し、といったところであろう彼は現状を把握しようと周囲を見渡す。  
 青年は仰向け状態だった身体を上半身だけ起こした状態で布団に入っている。  
 勿論ベッドなどの高級品は無い。  
 無いのには肌に合わないという理由もあるが、金銭問題があるのも事実だったりする。  
 ともあれ、木製の床が醸し出す微妙な匂いに備え付けのキッチンから漏れる生ゴミ臭。  
……間違いなく俺の部屋だな。  
 布団の近くには一張羅である戦闘用の白コートも放り投げてある。  
 傍から見るとコスプレイヤーにしか見えないようだが、青年はその服を気に入っていた。  
 そして、青年はその白コートを手を伸ばして掴み、引き寄せる。  
 白コートの胸には一枚のネームプレートが付いていた。  
 部署名と自分を表す名――熱田・雪人。  
 確かに自分の持ち物だ。  
 ならば、この状況は何なのか。  
 自分の住居の寝床に身を置き、周囲には自分の所有物達が散乱している。  
 何の問題も無い筈だ。  
 その筈だ。  
 が、  
「……なんなんだ、こいつぁ?」  
 青年――熱田は自分の隣に寝る一人の少女へと目をやる。  
 自分より少しばかり年下に見える。  
 恐らく十七、十八くらいの年頃だろう。  
 黒い長髪を白い敷布団の上に盛大に広げ、身を横向きに熱田へと体を寄せている状態だ。  
 それだけなら熱田もまだ気が楽だっただろう。  
 しかし、現実は何時だって理想とはかけ離れたものだと相場は決まっていた。  
……なんで裸なんだこいつ……?  
 思考は意外に冷えている。  
 ちなみに熱田は下着一枚を着込んでいるので特に問題は無い。無い筈だ。  
 上半身は寝る時に熱いので投げ捨ててしまったので裸だがノープログレム。  
 取り敢えずは目の前の少女を起こそうと手を伸ばす。  
「おい、起きろ」  
 試しに頬を叩いてみた。  
「ぅ……んんぅ」  
 軽く身じろぐだけで起きる気配はない。  
「……おい」  
 次はもう少し強く叩いてみる。  
「ぃう……むうう」  
「ぬおっ!?」  
 唐突にガッチリと少女が熱田の胴体に抱き付いてきた。  
 胸の柔らかい感触がなんともかんとも。  
「って、ちげぇ!起きろこの馬鹿!」  
「いーぁー……」  
「寝ぼけんなぁああああああああ!」  
 頬を思い切り抓ってやると少女は離れた。  
「いはい、いはい、いはーいぃいいいいい!?」  
 痛いと叫んでいる様なので抓っていた指を離す。  
 重力に引かれて少女が布団の上に落ちた。  
「……」  
「痛たたたた……」  
 両手で頬を押さえた状態で呻く少女を熱田は眉を寄せながらも見る。  
 陶器の如く綺麗な肌に整った顔立ち。  
 若干つり目がちな目の中、黒い瞳が恨みがましく熱田の事を睨んでいた。  
「で、なんだお前は?」  
「……いきなり人の頬、引っ張った奴には教えない……」  
「……」  
「ひっ、構えるな!指をワキワキさせるなぁっ!こ、怖いって!?」  
 
 人の隣に全裸で張り付いておいて今更何を言っているのだろうか。  
 だが、これだけ脅しておけば問題ないだろう、と熱田は判断。  
 腰を落ち着けて布団の上に胡坐をかく。  
 すると少女は安心したのか布団を掻き集めて身に巻き付け、  
「えと……」  
 不機嫌そうな熱田と視線を合わせる。  
「で?」  
「え?」  
「名前だ。お前の名前。あと素性もな」  
「……覚えてない……」  
「は?」  
「……知らない……」  
「……」  
「……小麦粉か何いだだだだだだ!?」  
「そりゃ危ないからやめとけ。で、何だ?教えられないってか?」  
「違う!本当にわから痛い痛い!本当なんだよぉ!」  
「よし、わーった。俺が責任を持って行き着けの病院に送ってやる」  
「いやぁあああああああああああ!」  
 少女が両手を勢い良く振る。  
 頭を掴む熱田の手から逃れようとする動きだ。  
「「あ」」  
 が、少女の体を包んでいるのは一枚の布という事を二人は失念していた。  
 当然の如く、少女の両手という束縛を抜け出した布団は万有引力の法則が適応され、  
「い――」  
 床へと落ちた。  
 少女の無垢な裸体が熱田の眼前に現れる。  
 暫くの間。  
 そして、熱田は落ち着く為にまずは深呼吸を一つ。  
 裸体を惜しみなく曝す少女の真っ赤な顔を真っ直ぐ見つめ、  
「落ち着け」  
「い、いやあぁああああああああああああああああああああああああああ!」  
 言葉を放った直後、全力の平手が飛んできた。  
 
 
 
   ●  
 
 
 
 白く塗られた壁と床が広がる部屋がある。  
 部屋の中には幾つもの作業用のデスクトップやPCが置かれ、その前にはそれぞれの作業をこなす人々の姿があった。  
 熱田もその礼に漏れず、自らのデスクトップの前に座っていた。  
「畜生、あの女……手加減ってもんを知らねぇのか」  
「ん?熱田どうしたんだ、頬なんて赤く腫らして」  
「なんでもねーよ、てかお前の机なんだがドンドン変な方向に進化してねぇか?」  
 熱田は相変わらずの不機嫌そうな表情で横を見る。  
 そこには各々の机を作業空間として区切る為の低めの壁があり、その壁の横からは、  
「いやいや、これでもまだ足りないくらいだよ」  
 大量の家族写真が貼り付けられたデスクトップの持ち主である人の良さそうな顔に眼鏡をかけた青年が顔を出していた。  
「だからって俺んところまで家族写真を侵食させんな。てかお前は動画一筋じゃねぇのか」  
「……最近、大城全部長の言にも一理あると思い始めてね……」  
「おーい、月読のババア、なんか馬鹿が変態菌に感染してるぞ」  
 遠くの方を見ている眼鏡の青年を放って視線をデスクトップの群の一番奥へと向けると、  
「あたしゃアンタも鹿島も同じようなもんだと思うけどねぇ……あと、熱田」  
 月読と呼ばれた白髪の女性は、白衣を揺らしながら苦笑。  
 手をこっちへ来いという様に熱田へと振った。  
「?」  
 取り敢えず熱田は自分のデスクトップに貼り付けた家族写真を愛でている馬鹿の横を通り、月読のテーブルへ向かう。  
 前に立つと彼女はデスクトップに置かれた電話の受話器を片手に、何か気味が悪いくらいの笑顔で、  
「アンタに電話よ。女の子から」  
 
「「「は?」」」」  
 首を傾げる。  
 同時に上がるのは部屋全体から来る疑問の波であり、部屋に居た全員が振り向く音と立ち上がる音だ。  
 誰もが信じられぬといった顔で熱田を見る中、熱田は眉を寄せた表情で、  
「……」  
「はい、どうぞ。かなり慌ててるみたいよ?」  
 受話器を貸せとばかりに手を差し出す。  
 すると輝かんばかりの笑みで月読は熱田へと受話器を手渡した。  
「俺だ」  
『ゆ、ゆきひとぉおおおおおおお!?』  
「ぬがっ!?」  
 話しかけた瞬間に耳が破壊されかけた。  
 思わずのけぞった体を戻し、再び受話器に耳を戻す。  
「んだ、お前か。なんだ俺ぁ、仕事中だ。切るぞ」  
『うわ!ゆきひとの冷徹魔人!というか、卵が腐ったような匂いを!バイオハザードォーッ!?』  
「……」  
 駄目だこいつ早くなんとかしないと。  
 なんとも言えない表情の中で目を細めるが事態が変わるわけでもなし、取り敢えずは状況を把握しようと言葉を選ぶ。  
「おい、一体何をした」  
『え?いや、腹が減ったからご飯を作ろうとしてフライパンに卵を落として色々混ぜたら』  
「何を混ぜた」  
『えーっと……白いのを二種類と黒いのと、あと虹色の』  
「捨てろ」  
『え?ちょ、せっかく作ったんだぞ!?』  
「捨てろ」  
『あ、臭っ!聞けよ、人の話!』  
「捨てろ」  
『勿体無いと思わないのか!?そもそも卵というのはだな、小鳥の命の源を――』  
「じゃあ食え」  
『いますぐ捨てます、ごめんなさい』  
 即答だった。  
「……ったく、あとで弁当でも頼んどいてやる。我慢してろ」  
『……ごめん』  
「迷惑かけたと思うんなら、変な事すんな。んじゃ、俺は仕事に戻るからな」  
『ん、解った……』  
「じゃあな」  
 受話器を電話本体に戻して通話を切る。  
「ふう……ったく、ん?」  
 疲れた様子で頭を掻くと同時に熱田は気づいた。  
 周囲の視線が妙な事に。  
「なんだ?」  
「熱田」  
「あ?」  
 何時の間にか後ろに居た眼鏡の青年――鹿島が声をかけると同時に熱田の肩を叩く。  
 良い笑顔がうっとおしい程に眩しかった。  
「家庭は良いもんだろ、漸くお前にもそれが解ったんだな?」  
「……テメぇの頭の構造がおかしくなってるってのは良く解った。つか、聞けよ」  
 言うが、鹿島は聞かずに背を向けて自分のデスクトップへ戻ってしまった。  
 その際に手を振ってくる姿が妙にハードボイルドでムカついた。  
 追いかけて殴ってやろうと思うが、  
「熱田」  
「あぁ?」  
 今度はさっきから笑顔を浮かべっぱなしの月読が声をかけてくる。  
 上司と部下の関係上無視するわけにもいかないので振り向くと、  
「これ、キチンとうちの部にも出してね」  
「……」  
 一枚の書類が差し出されていた。婚姻報告書、と一番上に書かれた書類が。  
 無言で破く。  
 取り敢えず原型が解らなくなる程度にまで。  
 
「いやぁねぇ、照れちゃって」  
「ババアまで勘違いするんじゃねぇえええええええ!」  
 
 
 
   ●  
 
 
 
 白い光が照らすのは広めの廊下だ。  
 長く続くその道を歩く人影は少ないが、昼時という事もあってどこか楽しげであった。  
 しかし廊下を行く人物の一人である熱田の足取りは重い。  
「うっう〜酒の肴にお前の鯖ぁ〜……うまくのらねぇな」  
 何時も通りの調子を出そうと唱ってみるが、うまい歌詞が浮かんでこない。  
……ったく、それもこれもあの女のせい、ってかぁ。  
 不満げに当てもなく廊下を流離いながら熱田は普段はあまり使わない思考を働かせる。  
 先程の電話は熱田の自宅からであり、通話の相手は今朝熱田の住居に不法侵入していた少女だ。  
 ちなみに平手を喰らった後、彼女との熱きファイトがあったのだが、それは今は置いておくとする。  
 取り敢えず仕事に行かなければならないという理由もあり、彼女は住居に置いて来た。  
 取られて困るものも無いし、出て行くならそれで問題はない。  
 ただ彼女の服は見当たらなかった為に着せたワイシャツ分の出費がかかるが。  
 まあ、それも想定の範囲内というやつだ。  
 むしろ出て行ってくれたほうがありがたかったのだが。  
……どう考えても居座る気だよな、ありゃぁ。  
 面倒な事になったものだ、と熱田は吐きたくもないため息を一つ。  
 足を止める。  
 目の前にあるのは熱田が所属する組織であるUCATの配達サービスもやっている購買部だ。  
 確かここの配達可能範囲には熱田の住居も入っていた筈。  
 それに弁当のレパートリーも豊富。  
 少女もこれならば不満も漏らさないだろう。  
 本来ならば気遣う必要もないのだが、一応は女だ。  
 男として気遣うのは道理というもの。  
 だから熱田は弁当を頼む為に購買部の受付へと足を踏み出そうとして、  
「おい、あんた」  
「あ?」  
 不意に横の通路からかけられた声に首だけを動かして振り向いた。  
 そこにいるのは、濃い色の肌を持った一人の少年とその後ろに若干隠れる体勢を取った金髪の少女だ。  
 濃い色の肌の少年は堂々と、金髪の少女は落ち着かない様子で熱田を見ていた。  
 熱田の顔見知りだ。  
「原川・ダンに、ヒオ――あー、なんたらだったか?」  
「ヒ、ヒオ・サンダーソンですの!」  
 少女ことヒオ・サンダーソンが隠れたままの状態で叫ぶ。  
「ああ、そうだったそうだった。んで、なんだ?こっちは時間がねぇんだ、とっとと用件を言いな」  
「そうさせてもらう」  
 と、原川が一枚の紙片を差し出した。  
「なんだこりゃ?」  
 
「男でも比較的楽に買えるランジェリーショップの一覧だ」  
 
「は?」  
 固まる。  
 そして、原川の顔を見る。  
 サングラスをかけてはいるが多少下にずれている為、その真剣な眼差しは見えた。  
 そう、彼は真剣なのだ。  
……やっぱこいつも全竜交渉部隊の一員だったってわけか。  
 つまりは人として大事な一線を超えてしまっているというわけだ。  
 熱田の思考が頷きを一つ。  
 とてもではないが、御近づきにはなりたくない。  
 
 
 なので、両手を原川へと差し出しノーセンキューのポーズをとり、  
「俺にはそういう趣味はねぇ」  
「何か勘違いしているようだが、家に誰かが転がりこんできたんだろう?」  
 熱田の眉がピクリと反応する。  
「……なんでお前がそんな事知ってんだ?」  
 疑問を放つと原川はまるで何処か遥か先を行く指導者の様な悟りきった目で、熱田の両肩を掴み、  
「開発部から色々と情報が飛んで来てな。それでなんだが、あんたに一つ忠告がある」  
「なんだ」  
 気圧されたわけではないが、なんとなく彼の言葉は聞いておかなければならないような気がする。  
 そう直感が告げていた。  
 故に熱田はそれに従う。  
 直感は数多の戦場を駆けて来た彼にとっては尤も信頼出来るものの一つだったからだ。  
 目の前の少年は熱田の両肩に手を置いたまま、真剣な表情で視線をまっすぐとコチラへと向け、  
「下着だけは着せておけ、後々面倒な事になるぞ」  
「……おう」  
 頷く。  
 原川の言葉は何故か重かった。  
 とんでもなく重かった。  
 言葉に込められた思い出や経験がとんでもない重量を作り出していた。  
 熱田はそれを受け取り、重く頷く。  
 原川も満足したように頷いた。  
 彼と熱田の額をそれぞれ一筋の汗が流れる。  
 空気は二人の立つ場所の周辺だけがまるで鉛の様に重さを増している。  
「え?え?どうしましたの、原川さん?熱田さん?」  
 オロオロと原川と熱田に視線を移すヒオの声に熱田は彼女を見て、重さの意味に納得する。  
 その上で熱田は原川の肩に手を置き返す。  
「お前も苦労したんだな」  
「解ってくれてありがたい」  
 男二人、分かりあえた瞬間であった。  
 
 
 
   ●   
 
 
 
「たぁだいまっとくらぁ」  
「あ、ゆきひと!おかえり!」  
 鉄製の扉を開けるといきなり裸にワイシャツといった姿をした黒髪の少女の輝かんばかりの笑顔が目に入った。  
 だが、熱田は特にそれに対して思う事もなしに、彼女へと紙袋を突き出す。  
「よし、着ろ」  
「へ?」  
 少女はわけの分からないと言った様子で両手で紙袋を受け取り首を傾げる。  
 取り敢えず用件は伝えたので、横を通り過ぎて狭いキッチンに設置された冷蔵庫へと向かう。  
 背後でガサガサと紙を弄る音と小さな悲鳴が聞こえたが熱田は気にしない。  
「ゆゆゆゆ、ゆきひと!?ふふふふ、服が!?」  
「礼は良いから、さっさと着てこい」  
「わわわわ、わかったぁー!」  
 嬉しいんだか、慌てているんだか解らない調子で少女が叫ぶ。  
 と、同時に玄関近くに設置されたトイレの扉が開いたであろう音がし、閉まる音も続いて響く。  
 それを聞いてから熱田は満足そうに冷蔵庫の中から一本の缶ジュースを取り出して、蓋を開け、  
「んぐ」  
 腰に手を当てて一気に飲み始める。  
 喉を流れる液体が体を冷やす錯覚が何とも心地良い。  
 やはり仕事の後の一杯は格別だ。  
 最近はUCAT製の"蜜柑絞っちゃう!"が自分の流行だったりする。  
 苦くて酸っぱい!がキャッチフレーズの甘味一切なしの男の飲料だ。  
 ぶっちゃけ不味いがそこがまた良い。  
 
 と、味に浸っていると扉が開くと同時にドタバタとした足音が聞こえてきた。  
「ゆ、ゆきひと着れたぞ!」  
「ん?おう」  
 足音が止まると同時に熱田は振り向く。  
 そこには――ポニーテールに髪型を整えた着物姿の少女が立っていた。  
「ゆきひとがまさか着物まで買って来てくれるとは思わなかったぞ!」  
「……」  
 まさか月読にいらない服はないかと聞いて適当に貰ったものとは言えまい。  
 ちなみに紙袋に入れた後の状態の物を渡されたので中身は知らなかったとも言えはしない。  
「ああ、それはほら、俺ぁ良いやつだからなぁ」  
「うむ、ゆきひとは良いやつだ!」  
 ははは、と二人して笑う。  
 チラリと彼女の手元を見ると一枚の髪に色々と書かれていた。  
 恐らく着方などを書き込んだ紙だろう、と熱田は一人納得。  
「でだ」  
 一転、熱田の表情が変わる。  
 真剣、と言える表情へとだ。  
「ん?」  
 対して少女は首を傾げるのみ。  
「名前とかは、思い出したのか?」  
「おお、それなんだけど!思い出したぞ、名前だけだけど!」  
「ほお」  
 それは僥倖だ。  
 明日になって何も思い出さなかったら警察にでも届けるつもりだったが、  
……楽になりそうだなぁ。  
 良い事だ。  
「で、お前の名前はなんていうんだ?」  
「くさなぎ!」  
「は?」  
 首を傾げる。  
 別段、珍しい響きではなかったが、己の使う剣がその名と同じだった為に反応してしまったのだ。  
「どうした、ゆきひと?」  
「いや、なんでもねぇ。で、名前は?」  
「むらくも、ぐにゃ!?」  
 殴っておいた。  
「な、なにするんだ、ゆきひと!?」  
「うっせぇ、なんだテメェ、もしかして"俺達"の関係者か?その名前を出しやがって」  
「……お、"俺達"?」  
「とぼけんな」  
 熱田の声は冷たい。  
 同時に若干の怒りを帯びたものだ。  
「その名前はな、俺達にとっちゃあ、とんでもなくでっけぇ意味を持ってんだ、分かるか?」  
「え、あの、いや……だから、本当に」  
 怯えた様子で少女――くさなぎが後退るが熱田はそれを許さない。  
 彼女の肩を掴まえて、まっすぐと視線を合わせる。  
「うるせぇ、いいから本当の名前を教えろ、このガキ!」  
「ひっ、や、やめろ、ゆきひと!私は本当にその名前で」  
「まだ言うか、くそが、き――!?」  
 もう一度殴ってやろうと拳を振り上げようとしたところで熱田は気づく。   
「な、に……?」  
 動けない。  
「……?」  
 くさなぎが怯えて頭を抱えて身を縮めながらも僅かに開いた横目で熱田を見やる。  
 熱田はそれに対して何も反応しない。  
 否、出来ないのだ。  
……まさかとは思うが。  
 驚愕の後に来るのは驚くほど冷えた思考だ。  
「おい、ガキ」  
 
「ひぇ……?」  
 声をかけるとくさなぎがビクリと身を振るわせながらも顔を上げる。  
「俺に何か命令してみろ」  
「え?」  
「いいから早くしろ」  
「あ、う、うん……じゃあ」  
 くさなぎは大きく深呼吸を一つ。  
 続く動作で口を開いて、  
 
「や、優しくして?」  
 
 と言った。  
 なので熱田の体は勝手にくさなぎに覆い被さっていた。  
「成る程な――って、待て、なんか違ぇだろ!?」  
「きゃー!?きゃー!?」  
「テメエも喜ぶんじゃねぇー!」  
 見れば覆い被さられた方のくさなぎは顔を真っ赤にしながらも何故か楽しそうだ。  
 意味的には思春期の男女が思い浮かべるような方向性の発言だったらしい。  
 熱田は必死に彼女の言葉に抗い、体を押し留める。  
 だが、これで確信出来た。  
 直感もそう告げている。  
 彼女は、  
「な、なあ、ゆきひと」  
 間違いなく、  
「わ、私達まだ知り合って間もないけど、な」  
 自分の知っている、  
「あ、相性は良いと思うんだ」  
 ある意味自分達の生みの親とも言える存在。  
「だ、だから」  
 彼女は覆い被さったまま踏ん張る熱田の顔を頬を赤く染めた恥ずかしそうな表情で見つめて、  
「ふ、不束者だけど……宜しく頼む」  
 言い切った。  
「ぐ」  
 熱田の理性が命令に塗りつぶされて行く。  
 間違いない。  
 彼女は――。  
「んんぅ!」  
 唇と唇が重なり合うと同時に失われつつある熱田の精神は確信を心に刻み込む。  
 そう、彼女は、かつて自分の先祖を生み出した世界――2nd-Gそのものだ、と。  
 だが、その確信にもはや意味はなく、熱田は着物姿のくさなぎの唇を貪る様に――、  
 
 
 
【フツノ様が嫉妬で暴れ始めました。皆様退避をお願いいたします】  
 

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