UCAT内にある、客の少ない喫茶店にて、二人の美少女がなにやら話し合っている。
古今東西、年頃の少女がする話など大体決まっているものであり、
少女ではあるがおとめではない彼女達がする話など、それこそ一つしかない。
「原川さんは優しすぎるんですの。美影さんのほうはどうなんですの?」
「リュージくんは・・・優しいけど、するときは、うん、すごく激しい」
そっと頬を赤らめて視線を逸らす顔は、普段は見られない女の艶っぽさを湛えており、
むしろヒオのほうがより顔の温度を高めてしまっていた。
ああそれほどまでに、この人は愛を受けているのだと──
それが羨ましくもあり、少しだけ妬ましい。自分だって、もう女なのに、と。
──抱かれて満足できる子供じゃありませんの。
「……ヒオは、もっと乱暴にされたいの?」
「ら、乱暴にって」
よからぬ想像をしてしまい、さらに身体が熱くなる。いやそれはちょっと怖いけれど
興味がないと言えば嘘っていうかたくましい腕で無理矢理ベッドに押し付けられてキャー
でもでもそういう原川さんも男らしくてステキ──
「ここにいたのか」
よく通る声が思考を中断させた。
声の主は誰あろう、原川だ。
「美影も一緒か。飛場はどうした? 一緒じゃないのか」
「トレーニングしてくるって言ってた」
「そうか。……どうしたヒオ・サンダーソン」
「なななななんでもありませんのよ?」
ずごごごご、と誤魔化すように残っていた『メロン一番搾り』を飲み干した。
「? まあいいが。それより、行くぞ。日が暮れる前に夕飯の買出しをしたい」
「今日はここに泊まるはずでは? 哨戒任務の一環として」
「その名を借りた当直だ。部屋にキッチンがあることは確認している。君の食生活の面倒も、
俺の仕事のうちだ。アメリカ人は高カロリー食品を摂取しすぎるきらいがある。つまりよく肥える」
「ひっ、ヒオは今も昔も痩せ型ですのっ」
構わず歩き出す原川を、小走りでヒオが追いかける。それを、
「待って」
美影が呼び止めた。振り返る二人をちょいちょいと手招きし、その手をとって、
「おまじないしてあげる。二人がもっと仲良くなれるように」
取り出したペンで、ヒオと原川の手の甲に読めない文字で何かを書き込んだ。
「お幸せに」
二人の手を包み込むように握って、神に仕える淑女のように柔らかに微笑み、
そしてぽかんとなる二人を残して、足早に去っていった。
その夜。
「本当にやるんですか? あとで怒られるかもしれませんよ?」
「大丈夫だから。絶対」
力強い美影の言葉に、ためらいを覚えつつもシビュレはパネルを操作した。
行われるのは概念空間形成。宿る概念は1st-G。
場所は宿直室、原川とヒオがシャワーを浴び終え、就寝前の談笑を行っているその場所。
──それにしても、本当に大丈夫なんでしょうか。
シビュレは、美影の意図に完全に気づいている。
宿直室の二人、その手の甲書かれた文字を読めばそれは明らかだった。
それは3rd-Gで使われていた文字であり、翻訳概念下でもなければ3rd-G出身者以外読めない。
だが読めずとも、その意味は文字を力とする1st-G概念下では十全に発揮される。
その3rd-Gの言葉は、つまりこのような意味を持っていた。
『発情期』と。
──あの二人がそうなるなんて想像もできませんけど。
しかし興味がないと言えば嘘になる。シビュレもまた、年頃の少女であるからだ。
そうこうしているうちに、お膳立ては全て完了してしまった。
シビュレは幾許かの迷いを捨て去り、最後のキーを叩いた。
「……準備完了。概念空間、展開します」