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ぎゅう、と。抱き締められた。
「………………」
彼女の身体は小さくて、僕の腹辺りに頭が当たる。
やがてその腹に冷たさを感じた。否、湿り気を感じたという方が正しいのか。
彼女は肩を震わせ、僕の身体にしがみついて泣いていた。
「……父様ぁ……」
彼女は僕の事を父と呼んだ。
成る程確かにその通りだ、何故なら彼女を造ったのは、僕なんだから。
……だとしたら酷い父親だな……
勝手に造って、勝手にはしゃいで、勝手に壊して、勝手にほっぽり出した。
人は僕の事を親バカというがとんでもない。子を蔑ろにする僕がそれに当てはまるものか。
「――怖かったです」
「うん」
「――悲しかったです」
「うん」
「――寂しかったですぅ……っ」
「……うん」
腰回りを抱えた彼女の腕に力が入る。
「折れて、そのまま閉じ込められて……捨てられたと思って」
実際、僕はこの子の事を捨てていた。忘れようとしていた。忌んでいた。
「ずっとずっと、悲しかったです」
「うん。……ごめん」
一言では不足しているだろう。僕がこの子にした事は。
補う様に彼女の頭を撫でて、さらり、と流れる黒髪を指に感じた。
「……ん」
気持ち良さそうに彼女は声を漏らす。
「僕が君にした事は、とても酷い事だ。それでも、僕は君に願いたい」
彼女の背に腕を回して、僕からも抱き返した。
「――僕の元に戻って来てくれ、僕の力」
返されたのは静寂。
やがて黙した彼女は抱きついたまま、僕の顔を見上げた。
「……その言葉を、私はずっと待っていました」
父様、と彼女は言ってくれる。
「――フツノは父様が大好きです。父様が言って下さるなら、今すぐにでもお力になります」
そうして彼女は微笑んで、
「もう、折らないで下さいね?」
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前略、折ってしまいました。
事は僕らとの全竜交渉の最中。佐山少年と交戦して、またまたフツノを折ってしまいました。
ええもう、それこそまっぷたつに。
「………あー、フツノ」
「……………………………………………」
フツノは部屋の角に体育座り、こっちに背を向けて顔も見せない。
そんな彼女の後ろに僕は正座している訳で。
「そのー、えっと、何だ」
「……………………………………………」
「………ごめんなさい」
あー何かこの子には謝ってばっかりだなー、とか思う。
「………………………………………………………」
「………………………………………………………」
「………………………………………………………」
「………………………………………………………」
「………………………………………………………」
「………………………………………………………」
「………………………………………………………」
「………………………………………………………」
ち、沈黙が痛い!! 周囲に助けを求めてみても、開発部の連中は速攻で顔を背けた。地獄に堕ちろ。
「……折らないで、って言いました」
ぼそり、とフツノが呟いた。
「もう折らないで下さいね、ってフツノは言いました」
「……はい」
「父様、酷いです。約束破りです」
「……はい、その通りです」
「駄パパです」
「………………はい」
背後、熱田の笑い声が聞こえる。あん畜生、今度戦闘になったら砲弾にして敵中に叩き込んでやる。
「そ、そんな父様は、フツノに対して埋め合わせをしなければなりません」
「…はい」
僕は答えた。あー、何されるんだろ。
するとフツノは立ち上がり、妙に覚束ない足取りで僕の所までやって来た。
眼前まで寄って来て、そして顔を凝視して一言。
「――ちゅう、してください」
【軍神の奥様が気配を察して乗り込んできました。皆様、退避して下さい】
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