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 さて唐突な話だが、僕こと鹿島・昭緒はフツノと一緒に風呂に入った事は無い。  
 いかに少女型とはいえフツノは僕の子。何度か一緒に入ろうとしたのだけれど、毎回とんでもない突っ返しにあってとてもじゃないけれど入る事は出来なかった。  
 晴美や奈津さんだったら一緒に入ってくれるのになぁ、とか言ってみても駄目。  
 風呂場の鏡をマジックミラーにして増築した隠し部屋から覗こうとしたら、マジックミラーを砕かれて全身に破片を浴びる羽目になった。  
 大城全部長が極意を教えようとか言って来たけど、その時はフツノと一緒になます切りにした。うーん、親子の絆バンザイ。  
 とにかくそんなこんなで僕はフツノと一緒に風呂に入った事はない訳で。  
 まーフツノも恥ずかしいんだろう、とか納得して諦めてた訳で。  
 だからその時、全く何の意図も計略も無く、本当に偶然から、フツノと風呂場ではち合わせた時はびっくりしたもんだ。  
 
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 何だろーこの状況は。  
 ちょっと前まで僕は、帰宅して、洗面所で服を脱ぎ、今日一日の疲れを洗い流そうと風呂に入ろうとしてた訳で。  
 なのに何でこんな、嬉し恥ずかし三流ギャルゲー主人公的展開になっているんだろう。  
「と、父様……?」  
 硬直する僕の眼前で、同様にフツノが固まっていた。片足が湯船に浸かっている所を見ると、丁度あがる所だったんだろうな。  
 艶のある黒の短髪、ほっそりとした手足、きめの細かい白肌、そして起伏もへったくれもないスレンダーな体つき。うーん、何度見ても僕の娘、フツノだ。  
 でも一つだけ、見覚えのないものがあるな。  
「――傷?」  
 それはフツノの胸元、鎖骨と乳首の間ぐらいの所にある、横一文字の大きな傷痕。白肌以上に白いそれが、左の脇から胸を通って右の脇へと刻まれていた。  
 なんだろう、これは。  
 誓って言うが僕は家庭内暴力は全く行っていない。むしろ家庭内暴力があったら殴り込みをかける位の家族・愛ラブユー主義者だ。勿論それは奈津さんも同じ、だからこの傷は僕らがつけたものじゃない(そもそも覚えがない)。  
 では開発課の同僚か? それも有り得ない。野生生物の熱田も含めて、あの人等は僕じゃとてもついていけないぶっ飛んだ連中だが、少なくとも子も同然に大事な制作物に傷をつける奴等じゃない。  
 だとしたら戦闘か? と思い、そこで僕は一つの事実を思い出した。  
 フツノは、2度も折れた機殻剣だという事を。  
「……フツノ、まさか」  
「――あ」  
 それを問おうとして、僕が見たのは表情を歪ませたフツノだった。  
「や、やぁ」  
 フツノが、崩れていく。  
「見ないで下さい……お願いです……っ」  
 胸元の傷を隠そうとして、でも大き過ぎて隠せずに、フツノは膝をつく。  
「こんなフツノを、見ないでください……っ!」  
 ぼろぼろ、とフツノが涙を零す。嗚咽する。肩を震わせる。  
「フツノ」  
 それでも僕は、問うしかない。  
「その傷は、折れた時についたものだね?」  
「……はい」  
 ぐずる声で、フツノは答えた。  
「どうして、すぐに言わなかったんだい?」  
 フツノはすぐに答えず、間。  
 少ししてから唇を開き、  
「知られたくありませんでした。父様に、こんな傷があるなんて、知られたくありませんでした」  
 もしも知られたら、と続けて、フツノは口を閉ざした。  
 そうなったらどうだっていうんだ。まさか、僕がフツノを捨てるとでも思ったんだろうか。  
「見ないで下さい、……見ないで下さい」  
 うわ言の様に繰り返すフツノ。彼女に、僕は歩み寄る。  
 
「……と、父様っ!」  
 そして胸元の腕を掴み、強引に開かせた。その行動にフツノが拒絶する。  
「止めて下さい! 見ないでぇ……父様ぁっ!」  
 静止を聞かず、僕は次の行動をとる。  
 口内に収められた舌をフツノに伸ばし、  
「ひぁ……っ」  
 フツノの胸元へ、横一文字の大きな傷痕に這わせた。  
「と、とうさまぁ……」  
 呼ばれる声を無視して、僕は傷を舐める。  
 右から左へ、左から右へ、丹念に、時々は荒く。  
「や、やぁ……とうさまぁ」  
 だんだんフツノの声が蕩けてきた。  
「やめて、ください……そんなにしたら、フツノは……」  
 フツノの身体は脱力し、肉の薄い尻が浴室のタイルに落ちた。掴まれた腕も力を失い、捕まえている意味も無くなったので放す。  
 そうして空いた手も傷を撫でるのに回す。人差し指が丹念に傷をなぞり、やがてそれは脇を触った。  
 瞬間、  
「あ、やぁっ!」  
 一際過敏な反応。ひょっとしたら、そう思って僕は脇の下にある傷の両端を撫で回す。  
「駄目です、父様ぁ! そこはだめぇっ!!」  
 聞かず、僕は左脇に舌を触れさせた。そして、  
「――――――――っ!」  
 フツノの両手が口元を塞ぎ、声を殺す。  
 そうしなければ、余りにも大きな声が響いてしまっただろうから。  
「……だめって、いったのにぃ……」  
 今度こそ完全に、フツノは崩れ落ちた。浴室の壁に背を預け、上気した頬と潤んだ瞳が僕に向けられる。  
「どうだい、フツノ」  
 そんなフツノに、僕はもう一度訊く。  
「気持ちいいかい?」  
「………はい」  
 僕の問いにフツノは正直だ。  
「フツノは、気持ちいいです。父様に胸の傷を舐められて………き、気をやってしまいました……」  
「だったらそれでいいんじゃないかな」  
 フツノの顔が疑問の表情で僕を見返す。  
「この傷はフツノをよくしてくれる。それで、良いんじゃないかな」  
 僕の言葉にフツノは呆然。そして幾許かの後、また泣き出した。  
「父様は、フツノを愛してくれますか……?」  
 繰り返して問う。  
「――こんな、傷物のフツノでも、父様に愛して頂けますか……?」  
「勿論だよ」  
 抱き寄せたフツノの小さな身体。そしてフツノも、僕の背に腕を回した。  
「……父様、父様ぁ……っ」  
「本当にフツノは、抱き締めるが好きだね」  
 泣き続けるフツノの髪を僕は撫でる。あの時と同じ、心地良い手触りが返って来た。  
 うん、これで解決、僕はそう思う。  
 でもそれは、びくり、と肩を震わせたフツノの反応によって否定された。  
「……フツノ? どうかしたのかい?」  
「と、父様」  
 身を離したフツノの顔は、先ほど以上に真っ赤。そして視線を右往左往させ、やがて人差し指を立てて、  
「――おっきくなってます」  
 僕の一部分を指し示した。  
 
「………………………………………………………………」  
「………………………………………………………………」  
「………………………………………………………………」  
「………………………………………………………………」  
「………………………………………………………………」  
「………………………………………………………………」  
「……………………………………………………………………え、えぇと」  
 あー、しまったー。娘に欲情したー。  
 がっくーん、とかいう擬音付きで項垂れる。  
「…………………ごめん」  
 いやマジな話、僕はこの子に謝り過ぎてる様な気がするよ。  
 そんな中、フツノは指を絡めて、もじもじとしている。  
「……父様」  
 なんだろうな、と思って見れば、  
「……ふ、フツノは、父様が求めてくださるなら、その、――拒みませんよ?」  
 真っ赤な顔とか。  
 いじらしい仕草とか。  
 フツノの太ももを濡らす、お湯以外の液体とか。  
 そんなのが目に入って。  
 ぷつーん、とかいう音が頭に響いて。  
「……ねぇフツノ」  
 僕は訊いていた。フツノが示したそれを指差し、  
「――これ、脇に挟んで擦ってみない?」  
 
 
 
【軍神の奥様が異変に気付いて浴室に赴くまで――――あと3分】  
 
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