ふと、真夜中に目が覚めた。
月光がカーテンを透かし、部屋の中を薄暗く彩る。
熱い。
熱帯夜の暑気が眠りを妨げたのか、ひどく体が火照っている。
と、掛け布団をはねのけようとしたが体が動かない。
金縛り…?
ぼやけた頭で考えた次の瞬間、体の上を何かが這っているような触感を得る。
否、ようなではない。
何か、得体のしれない物が私の体にまとわりつき、動けなくされている。
「っ!?」
とっさに悲鳴が出かかり、口が開く。が、音が放たれるよりも何かの動きの方が速かった。
「んむっ!」
何かが口の中に入ってきた。ぬらぬらネバネバとした何か。柔軟だがそれでいて硬い、ゴムのような何か。
熱い。暑気で体が火照ったのかと思っていたが、熱の原因は体を這う何かだ。
恐怖と気持ち悪さから、抵抗という考えすら浮かばない。
「もあ?」
唐突に口の中の何かから空気が放出された。肺が気体で満たされ、思わずせき込む。
何故か何かは口から出て行った。
「ゴホッ!ゲホッ!ッ!」
咳が納まり、自分が上半身を起こしていることに気づいた。相変わらず体中を何かが這いまわっているが、ベットに寝た状態から座った状態へと変わっている。
「はれ?」
目は完全に覚めていたが、何故か視界がぼやけた。酔っぱらった時のように頭がクラクラとしてはっきりしない。
だが、それを疑問に思うより早く、何か――カーテン越しの薄明かりが見せるこれは俗に言う「触手」だろうか――がついに私の服の中に入り込んできた。
ボタンで留めるタイプの寝巻き、その合わせの隙間から数本の触手が入り込んできている。
素早い触手は私が驚いているうちに胸に絡まり、搾りあげるように揉み込んできた。
「んあっ」
乱暴な動きだと言うのに痺れるような感覚が胸に走る。
「ひゃ、ひゃにこれ」
気持ちいい。
恐怖が消えたわけじゃない、なのに体には初めて体験するような信じられないほどの快感が走っている。
「ん、くふ、んんん、あっ、ふぁうんっ、すごっ、ひぃ、にゃにほれぇ」
触手は次々と服の中に忍び込み、ヌルヌルと私の体を愛撫する。
触手が動くたび、私の体には例えようもないほどの快感が走る。
「んあぁっ、らめぇ」
触手が股間に達した。パンツの上から絡みつき、締め上げてくる。
目の前にスパークが走り、何も考えられなくなる。
「あっ、ひゃあんっ、くぅあぁぁぁ」
強弱をつけながら女の部分を締め上げてくる触手。そのたびに私ののどは嬌声をあげ、私の腰は卑猥なダンスを踊る。
今では触手は私を拘束せずただ愛撫をするために絡みついている状態だったけれど、もう私にそれを振りほどくことは出来なかった。
触手が求めるまま、快感のなかで踊り狂う。
初めは恐怖から浮かんだはずだった涙も、今では私の歓喜の証しとなっている。
「ふぇ、や、やめにゃいでぇ」
触手が私の股間の締め付けをといた。
唐突に去る快感。私は必死で触手に媚を売る。
だが、触手は去ったわけではなかった。太い触手と入れ替わるように、細い触手が私の股間に近付いてきた。
細い触手は私のパンツを破り捨て、どろどろに濡れた女の部分へとじかに愛撫を始めた。
「んあぁぁぁぁぁぁっ!」
再び始まった快感、いや先ほど以上の快感に目の前が真っ白になる。
「あ、ひゃ、入ってくりゅうぅ」
ぬぷぬぷと卑猥な音を立て、いぼいぼの生えた触手が私の中に入ってきた。
触手がゆっくりと進み、私の中にゆっくりと快感がため込まれていく。
「んひぃっ」
軽い感触、刺すような快感、触手が私の最奥に到達した。
そのままグネグネと膣をこねまわす触手。その快感を受け止めようと、私の腰も必死に踊る。
「ん、あ、ふぁ、うはぁ」
ずりゅぅっ、そんな音が聞こえそうなほどの勢いで唐突に触手が引かれた。
凶悪に張ったえらが私の膣壁をこそぎ落とす。
体の中身を丸ごと持っていかれたかのような感覚に私は今までで最大の絶頂に達し、そのまま真っ白な闇の中へと落ちて行った。
「…っ!?」
跳ね起きる。
掛け布団が飛ばされてベットの下に落ちたがそんなことは気にならない。
心臓が痛いほどに鼓動している。
「ゆ…夢?」
果てしない疲労感と共に言葉が漏れる。
「ま、マジデ?」
頭が回らない。いっそ面白いほどに私は混乱していた。
しかし、いつまでもそうしているわけにもいかない。
寝汗が気持ち悪いし着替えよう。
「!」
服に手をかけて気づいた。これは汗じゃない。ヌルヌルとしたこの感じ、昨日の触手…っ!?
「ゆ、夢じゃ…」
と、机の上に置かれた紙にふと目が行った。
昨日彼氏に渡された紙だ。妙にニヤけながら渡された白紙。
「……」
いま、その紙の上には黒々とした毛筆で二つの単語が書かれていた。
<欲求不満><触手>
「………」
私はその紙を手に取ると優しく握りつぶし、ゴミ箱へとたたき込むとクローゼットへ向かった。
今日の学校の準備は昨日済ませたつもりだったが一つ忘れていた物があったことに気づいたからだ。
「ふふふ、もう」
私はクローゼットの奥に立てかけてあった一本の金属バットを取り出し、かばんの横に置いた。
学校で彼氏に会うのが楽しみだ。
「命知らずなんだから…♪」