「葵?」
「よぉ、セージュンじゃん。どうした」
道ばたで、ばったり出会った。
「どうしたって……いや、珍しくバイトがない正真正銘の黄金に輝く日曜日なのだから、図書館で勉強でもしようかと」
「はは。バカみてぇ」
「……バカにバカって言われた!?」
「オーケーオーケー。朝からクラス連中片っ端に通神入れて、全員から居留守使われて遊び相手なくて死にそうに
なってんだな?」
「人を武蔵王みたいに言うな! アポなし突撃でもだいたい三人目で通神繋がるんだからな!」
「いいからいいから。んじゃ、今日は俺と遊ぼうぜ」
「は? な、なんでそうなる。だいたい、お前、ホライゾンはどうした?」
「ああ。なんか昨日丸一日ずっと後ろから抱きしめてたら、『鬱陶しい』って言われて、
今日一日半径百メートルに入ったら君主権限で絶交するって言われた。へへ、これってデレだよな!?」
「……よく知らんが、それはブッチ切りでツンじゃないか? しかもツンツンで発展性が感じられないっぽいな」
「でさ、どこいくよ?」
「……結局、寂しいのはお前のような気がしてきた。このまま哀しまれでもして死なれたら寝覚めが悪いどころじゃ
ないので、まぁ、付き合ってやろう」
「じゃ、取りあえずぶらぶらすっか!」
三十分後。
「お、あんなとこにゲーセンあるぜ! 寄ってこうぜ!」
「いいけど……いきなり脱衣麻雀とか始めるなよ? そんなお約束はいらないからな」
「ああ!? なに言ってんだよ! 俺は脱衣麻雀なんかしねぇよ! ――やんなら脱がされ麻雀だよ!」
「なんだその受動態!? 説明してみろ!!」
「画面の中のOLねーちゃんに先に上がられたら、俺が脱」
「あーあーあー! 聞ーこーえーなーいー!」
「まぁ、今日は麻雀やんねえし」
「……あー、そうしたほうがいい。周囲が迷惑だし。主に私が」
「あれにすっか」
「UFOキャッチャー……か。上手いのか?」
「セージュンは? どうよ」
「わ、私か? いや……あんまりしたことないし。とれたことはないな」
「そうかよ。じゃ、俺の腕前見せてやんぜ!」
十五分後。
「……なんか、一向にとれてないっぽいが」
「あれーあれー? っかしーなぁ」
「ああ、百円玉が次々と……。くぅ、ぱ、パンの耳が何グラムに相当するか換算すると気が遠くなる……!!」
「おお、きた!! きたぜ!!」
「あ? 紐……! 紐にひっかかって……!」
子狐の、可愛らしいぬいぐるみが落ちてきた。
「おっしゃ! げーっと!!」
(やれやれ……バカみたいにはしゃいで。そんなに嬉しいものなのか? ……フフ)
「おし、ほら、セージュン!」
「え?」
「やる」
「は? ど、どうして? お前が大金つぎ込んで取ったんじゃないか」
「ああ。けど、最初からセージュンにやるつもりだったしな。だから、かまわねぇ」
「い、いや……その……。あ、ありがとう」
「名前、つけてやれよ。名無しじゃ困るだろ?」
「? どうして困るんだ?」
「抱いて寝るとき、名前がないと愛でにくいじゃん」
「抱くか!!」
その日の夜。
「全く。今日は勉強の日だったのに、結局遊び回されて……さっさと寝るか」
机の上に、子狐が無言で座している。
正純は、横目でしばし見つめて、
「……名前、か」
「……」
「……おい、葵・トーリ。……今日は楽しかったぞ。ありがとな」
抱いては寝なかった。