「……おおぉ、すっげー!!姉ちゃん、極々稀にはいい仕事するじゃん!」  
「フフフ、賢姉を存分に褒め称えなさい、愚弟。勢い余って四つん這いになって靴舐めてもいいのよ!」  
「おいおい、姉ちゃん!そんな奇行を期待されてもやるようなバカはいねーよ!変態でおまけに忍者なんて奴がいたらともかくさ!」  
 ……くっ。  
 朦朧とした意識の中、耳に飛び込んできたのは葵・トーリとその姉の喜美の声だった。  
 頭にがんがんと響く声に、たまらず額に手を当てようとし、しかし、その手が少しも動かせないことに気づくと、本田・正純は初めてこの異常事態に気づいた。  
 緩んでいた思考が急速に正常運転を開始する。  
 ……ここはどこだ?  
 あたりは妙に薄暗く、目の前の姉弟の姿も彼らの背後から差し込んでくる光でやっと確認できる程度。  
 漂う空気はかなり湿度が高く、ねっとりと肌にまとわりついてくる。  
 おまけに、鼻につくかび臭いにおいと、うっすらと見えるよく知る器具の数々とくれば……  
 ……体育倉庫?  
 そう結論付けた瞬間、正純の背筋に冷たいものが走った。  
 薄暗い体育倉庫、そこに拘束された自分。  
 トーリのようなその手の求道者とは真逆に位置する正純だが、このようなシチュエーションでのお約束ぐらいは知識として知っている。  
 しかも、自分をここに拉致した実行犯と思われる二名は校内エロランキングで長いこと1位2位を独占している(校内変態ランキングはコンマ秒単位で順位が大きく変わる群雄割拠状態)のだから不安は高まる一方。  
 ともすれば、自分が意識を失っている間にすでに何かをされている可能性もあり、とにかく確認しようと自分の体を見下ろすと、  
「……なっ!?」  
 絶句。一息おいて、  
「なななななななな…っ!?」  
「おう、セージュン、目は覚めたみたいだな!元気してるか!?」  
 いつもと何一つ変わらぬ軽い口調で語りかけてくるトーリに対しても言葉が出ない。  
 それほどまでに眼前の光景は衝撃的なものだった。  
 上着である男性用制服とその下の肌着がはだけられているのはどうでもいい。いや、どうでもいいですませられるようなことではないのだろうが、現状においては些細なことだ。  
 問題なのはそれらよりもさらに内側にあった。包帯のような細長く白い布が幾重にも胸に巻かれ、そこを締め付けていたのだ。  
 意識がはっきりとした直後から、胸への圧迫感はあったのだが、手が動かせなかったこともあり、それも自身の身動きを取れなくするためのものだと判断し、あまり気に留めていなかった。  
 しかし、そこに布が巻かれているのが問題なのではない。何よりも重要なのは、その布に覆われた部分が内側から盛り上がっていることだった。  
 そのなだらかな凹凸は、それが幾重にも布を巻きつけたためにできたものであることを否定し、その内側に豊かなふくらみがあることを示していた。しかも、正純が感じている圧迫感の強さを考えると、それがかなり圧縮された状態であると判断できる。  
 だが、それは正純にはありえないはずのものだった。否、数年前に捨て去ったといった方が正しいか。  
 
「な、なんで……私に、胸が……」  
「はぁ?なに言ってんだよ、セージュン!セージュンは女なんだからオッパイがあるのは当たり前だろ!」  
 そんな、本当になんでもないように言うものだから、一瞬自分はパラレルワールドに迷い込んでしまったのかと錯乱し、しかし即座にいやいや待て待てとセルフツッコミを入れ、  
「なに言ってるんだ、は私の言葉だ!私は胸を削ったのだから無くて当然……」  
「それだ!」  
「!?」  
 大声と共にビシッと指を突きつけられ、思わず言葉が途切れる。  
「それだよそれ!なーんか引っかかってたんだよ、あの時から」  
「あの時?」  
「みんなの前でセージュンの貧乳触った時だよ!」  
「なっ!?」  
 瞬間、正純の顔が真っ赤に染まる。  
 思い出したくも無い光景が脳裏に蘇る。忘れたくても忘れられるものではないのだが。  
「あの時は変なおっさんがセージュンのこと馬鹿にしやがったから、貧乳組合員のセージュンも貧乳として頑張ってるんだぞって言ってやったけどさ」  
 一息。  
「――オッパイ取っちゃうってダメじゃね?」  
「待て待て待て待て待てええええええええ!?」  
 手が動かせるなら頭を抱えたかった。あの時言っていたことも今とそう変わったものではなかったが、それでも自分の体についての認識を改めるきっかけとなったのは事実だ。  
 だが、それを言った本人が真っ向からその言葉を否定してきたのだから、正純にとってはたまったものではない。  
「あぁ、誤解すんなよ。貧乳がダメって言ってるんじゃないからな!  
 ただ、セージュンにはオッパイ取らなかった場合にどういうオッパイに育つかという、無限のオッパイ的可能性があったわけで、  
 それを取っちゃったってことは無限のオッパイがこの世に生まれる機会を失ったってことになるじゃん!  
 つまりは、俺が揉む事のできないオッパイが無限にできちゃったわけで、俺もいわゆる一人のオッパイソムリエとしてそれを見過ごすことはできないわけでー。  
 どうすっかなーと考えに考えた結果、そのうちの一つのオッパイを揉む事で他の可能性のオッパイも垣間見ることができるんじゃねーの的な結論になったわけよ。わかる?」  
「わかるかああああああ!! せめて、人間の言葉で話せ!!」  
「それにさ!エロゲで男装っていったら、サラシで潰した隠れ巨乳って相場は決まってるじゃん!!」  
「それが本音か、おまえはー!!?」  
 律儀にツッコミながらも、このままではトーリペースのまま流されることは容易に予測できた。  
 ならば、と正純はこの場にいる3人目へと希望をつなぐ。  
「貴女も、なんでトーリに協力をしているんですか!?」  
 問われた本人は数秒、たっぷり間をおいて、  
「フフフ、愚弟。もしかしてあの貧乳政治家、私に対して聞いてる?」  
「姉ちゃん、会話はスムーズに進めようぜ!たとえ問われたのが自分でなくても、なし崩し的に答えちまえば、こっちの相手を嫌々でもするしかないもんな!」  
「愚弟としてはナイスな提案ね。賢姉の心の広さを見せ付けるという意味でも、その案を採用してあげるわ!代わりに私の言うことは今後全て従うのよ!特にエロス関係はね!素敵!!」  
 姉弟の掛け合いを聞きながら、正純はつないだはずの希望が音を立てて崩れていくのを確かに感じた。  
 
「答える前に、どうも一つ大きな勘違いをしているみたいだからそれを最初に正しておくわ。  
 どんな理由があろうと賢姉であるこの私が、愚弟の手となり足となって働く、なんてことは絶対にありえないわ。逆は大いにありえるけどね、フフフ」  
 それを聞いた正純は怪訝そうに顔を歪め、  
「トーリに協力してるわけじゃ、無い?」  
 ならば、単なる傍観者とでも言うのか。だが、それでは肝心な部分が説明できない。  
「けれど、私の体をこんな風に変えたのは貴女ですよね?」  
「おおぉ、セージュンすげぇ!!どんな天才的推理だよ!裏で名探偵でもやってんのか!?」  
 どう考えてもお前には無理なんだから、彼女しかいないだろ!とツッコミたいのは山々だったが今は無視して正純は喜美を見据える。  
 正純の鋭い視線から逃れるでもなく、むしろ自ら引き寄せるように胸をそらしながら喜美が口を開く。  
「その件に関しては愚弟に対するサービス、といったところかしらね。そうした方が愚弟が思い通りに動いてくれると思ったからそうした。それだけよ」  
「おいおい、姉ちゃん!そんなの初耳だぜ!そんなこと言われたら、姉ちゃんの思い通りになんて絶対に動かねーぞ!?」  
「フフフ、戯言は空気中のオパーイ濃度を検出しているその手の動きを止めてから言いなさい」  
 わきわきとそれぞれの指をバラバラにいやらしく動かしているトーリに一瞥をくれる喜美に対し、正純は疑問を口にする。  
「私にトーリをけしかけることで、貴女が何か益を得ると?」  
「Jud.。直接的な益を得るわけじゃないけれど――ね。  
 フフフ、思わせぶりよね!いかにも裏で糸引く悪女っぽいわよね、私!」  
 一人でどこまでもテンションを上げていく喜美をひとまず置いて、正純は思考する。  
 トーリを私にけしかけることで、喜美が得ることのできる益は何か、と。  
 それがわかれば代替案を提出することで、無事にこの難を逃れることもできるのではないかと思ったわけだが、  
「……くっ!」  
 どんなに考えても妥当な答えが思い浮かばない。そもそも、自分が襲われることで益が発生してたまるか、と言う思いもあるわけで。  
「フフフ、悩んでるわね!ここで小出しにヒントを出して焦らしプレイに持ち込むのが常道だけど、面倒だから直接答えを言うわよ!  
 自力で真実にたどり着けなかったことを存分に悔しがりなさい!」  
 一息。  
「代演奉納よ」  
 …………………………。  
「……は?」  
 予想外の答えに言葉を無くす正純に、喜美は続ける。  
「あの戦いで私は武蔵に居残り組だったけど、居残り組だからってやることも無くサボっていれば私の株はダダ下がりじゃない。  
 けど、術式を使おうにもあの愚人のダメ侍との戦闘で私も割と消耗していたから、さてどうするかと考えた矢先、脳裏に思い浮かんだのは衆人観衆で見せたアンタの加虐心をそそるあの泣き顔」  
「……って、まさか」  
「フフフ、確認したら一発OKだったから、ためらいも無く奉納したわ。本田・正純の恥辱プレイ」  
「うあああああああぁぁぁぁぁぁ!!?」  
 今日一番の悲鳴が体育倉庫内にこだました。  
 
 かくして、最後の希望は打ち砕かれた。というか希望だと思った相手こそ諸悪の根源だった。  
「私が全部手ほどきしてあげてもよかったんだけど、アンタの場合、トーリをけしかけた方が断然面白そうだしね」  
 ねぇ?と意味ありげに差し向けられた視線に耐え切れず、正純は喜美から顔を背ける。  
「フフフ、恥らってるわね!でも、まだまだ足りないわ。だって恥辱の限りを受けてこそアンタは輝くんだから!この恥辱属性娘が!!」  
「勝手に人に変な属性をつけるな――!!」  
「姉ちゃん姉ちゃん、長話は後にしていい加減俺に揉ませろよー!!」  
「おまえは少し空気を読んで黙ってろ!!」  
「許可するわ、愚弟。思う存分に揉みしだきなさい!」  
「……なっ!?」  
「いよっしゃーーーーー!!!」  
 倉庫中に響き渡る歓喜の声を上げながら、トーリの指がセージュンの胸へと伸びる。  
「ひっ……!?」  
 本能的な恐怖に息を呑みながら、自由に動かせない体で必死に避けようとする。  
 だが、想いだけが先行した分、実際の動きは想定していたものよりもはるかに遅く、  
「……あ」  
 ゆっくりと後ろに倒れこんでいきそうな正純の体を支えるように、トーリの両の手が正純の胸を包み込んだ。  
 幾重にも厚く巻かれたサラシ越しにもしっかりとした力強い手の動きが伝わってくる。その手が胸を掴んだままゆっくりと移動を始めた。  
 トーリに胸を触られるのはこれで二度目だが、あの時は学生服の上からだったし、なにより男性化手術を施した胸では『触られた』という事実への羞恥以外はさして感じなかった。  
 だが、今現在トーリの手に包まれた胸から伝わってくる刺激は、他の部分を触られた時のものとは全く違っていた。その甘い痺れは正純が初めて感じる類のものであり、にもかかわらず体は抵抗することなくそれを受け入れている。ゆえに、  
「……やっ、……あん…っ!」  
 声が、漏れる。  
 それは普段の落ち着いた低い声ではなく、鋭く響く甲高い声。「女」の声だ。  
 自分がそんな声を出したことを認めたくなくて、唇を固く結ぼうとするが、  
「んん……、はっ……やっ、んん、ん……っ!!」  
 声を出すことをやめられない。むしろ、やめようとする努力は声をくぐもらせて逆に悩ましさを増すだけだ。  
 一方の揉んでる側であるトーリは、確認するように何度も縦へ横へと揉みしだき、唐突に首だけ回転させて喜美の方へと振り返ると、  
「姉ちゃん姉ちゃん!やべえぜ、これ!サラシの奥から煮えたぎるオッパイ力(ぢから)が俺を圧倒してきやがる……!!」  
「フフフ、熱暴走で言語機能がさらにトチ狂ってて大いに結構よ、愚弟。けど、今の状態でアンタのオパーイ脳は満足するの?」  
「おいおい、姉ちゃん何でもお見通しかよ!オッパイ力を感じ取っちまった以上、今更後には引けねえからな!!」  
 言葉と同時、トーリは抱きしめるような形で両手を正純の背中へと伸ばす。  
「……んんっ!?」  
 体同士が密着し、正純の顔の熱が一気に急上昇する。  
 背中に回されたトーリの手は、サラシを固定している部分を手探りで見つけると、滞りなく器用にほどいていく。  
 瞬間、正純の胸が『爆発』した。  
 
 それは爆発と呼ぶにふさわしい光景だった。  
 サラシの締めが外された刹那、内側へと押し込こまれていた圧力が反転し、はじけ飛ぶようにサラシの拘束が解かれていく。  
 圧倒的な衝撃はサラシを解くだけにとどまらず、バネ仕掛けのように開放された胸を震わせた。  
 そして、その胸の大きさたるやまさに圧巻であり、喜美や浅間・智をも陵駕せんばかりの質量をもちながら、重力に負けることなく己が存在感をアピールしている。  
 湿度の高い倉庫内で密封状態になっていたためか、胸の表面はしっとりと汗ばんで桜色に染まっていた。  
 やがて、胸の震えが収まっていくと、それまでしっかりと閉じられていた口が力無く開き、  
「…ぁ、はあぁぁぁ――」  
 熱い吐息が漏れ、体全体をふるふると揺らす。  
 半ば意識が飛んでいるのか、瞳からは光が失われており、唇の端から唾液が筋となって垂れ落ちていく。  
「ね、姉ちゃん、やべぇっ!マジやべぇっ!!超やべぇっ!!」  
「フフフ、まともに言葉もしゃべれないなんて、いい感じに人間の最低ラインを直滑降で滑り落ちていってるわね、愚弟。――そのまま獣以下まで堕ちなさい!」  
「わおおおぉぉぉぉぉぉんっ!!」  
 咆哮一閃。トーリの両手がむき出しとなった正純の胸を力強く掴んだ。  
「――ひゃっ、あああぁぁぁ……っ!!?」  
 ショック療法よろしく、我に帰る正純だが、先ほどまでとは比べ物にならない刺激に悲鳴じみた声を上げてしまう。  
 最大まで広げられた両手でも豊満な胸全体をカバーすることはできず、指と指の隙間から零れ落ち、その柔らかい弾力を持っていびつに形を変えている。  
 トーリの指の感触、力強さ、体温、そしてそれによって変形している胸の動き全てが暴力的なまでに直接正純に伝わってくる。  
 鈍器で頭部をガツンと殴られたように頭の中が白一色で染まっていく。この状態を何とかしようという考えも、それが形にまとまる前に端から次々と霧散していく。  
 せめて、この責め苦が終わるまでは己を保っていよう、という決心も、  
「ああぁ、やんっ……!ひっ、んんっ、あ、ふぁ…っ!」  
 壊れていく。否、侵食されていくといったほうが正しいか。  
 直接的な原因は胸を揉みしだいているトーリだが、それとは別に篭った熱のような昂ぶりが、体の内側から正純を蝕んでいく。  
「んんんっ、やめっ…あっ、あっ!…っ、トー、リィ…!」  
 あるいは、いっそのことその昂ぶりに身を任せれば楽になるのかもしれない。それは破滅を意味するが、今のどっちつかずの状態はそれ以上の拷問だ。  
 だが、身を任せるにも、どうすればいいのかが正純にはわからない。自慰の経験はさすがにあるが、それに削った胸を使うことは無かった。その時に使ったのは――  
「あっ、くうぅぅぅ……、ん、んんんぅ……」  
 
 ……私はいったい何をやっているんだ?  
 かすかに残っていた理性が問いかけるが、それに返事を返すだけの余力は無い。  
「んんっ、はぁ……あっ……」  
 太もも同士をもぞもぞとこすり合わせる。最初は遠慮がちに、次第に大胆に。  
 下半身を包む密着性の高いインナースーツの内側。地肌との境にあるショーツがねじれ、細長い紐となって秘部の割れ目をこする。  
 クチュクチュと粘性の高い液体をかき混ぜる音が耳に届いてくるのは気のせいだろう。  
 だが、こすり合わせた太ももの内側に感じる湿り気までもが幻ということはないはずだ。  
 「女」として正しい快感を得ていることを歓喜するように、秘部からは愛液がとめどなく流れ出ていく。  
 ぼやけた視界の中、ふと視線を移せば何もかも見透かしたようにニヤついている喜美の姿があった。  
 見られている。そうあらためて認識した瞬間、  
「んんぅっ、あっ、あっ……、……っっっっ!!!!」  
 一際鋭い快感の波が電気の様に全身を貫いた。  
 体全体がびくんと跳ね、秘部から流れ出した熱いものが、太ももを伝っていく。  
 ……イって、しまった。他人に、トーリに見られてるのに……!  
 自分自身が情けなくて泣きたくなってくるが、その羞恥の感情すら快感の糧にしようとしている貪欲な自分を止めることができない。  
 さらに、自分が絶頂に達したことに気づいていないのか、それとも気づいた上でなのか、トーリの胸への愛撫は続いており、絶頂の高みから降りることができない。  
 いまや秘部からの快感が中和剤となって、胸への刺激も快感として体が受け入れていた。  
「あぁんっ、んんっ……、ひゃっ、くうぅ、トーリ、トーリィ……っ!」  
 力強く揉みしだかれ、柔軟に形を変えるたびに、快感の波が大きくうねり、嬌声を抑えることができない。  
 その、胸への愛撫が唐突に止まった。愛撫だけではない、トーリの指も胸から離れていく。  
 ……なんで?  
 愛撫が止まったところで正純の体を焦がす快感の波は止まりはしない。後もう少し遅ければ、肉欲に突き動かされてはしたない懇願が口から出ていただろう。  
 だが、正純は見た。  
「……ぁ」  
 胸の先端、度重なる愛撫によって痛々しいまでに勃起した乳首を。それを摘もうとするトーリの指の動きを。   
 そして、  
「ひっ、やあああああぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!!?」  
 
「感じやすいとは思ってたけど、まさか胸だけで気絶するなんてね。クククそれにかすかに漂うこの臭いは……」  
「姉ちゃん、ここから出る前に鏡見たほうがいいぜ!今の姉ちゃんの顔見たらベルさんあたり、ぜってー泣くぞ!」  
「アンタも大概ね、愚弟。陵辱者のくせにオパーイ揉んだだけで満足するなんて、”不可能男”を”不能男”に改名したら?」  
「おいおい、それはあんまりだぜ、姉ちゃん!なんてったって、オッパイは別腹だからな!!」  
「フフフ、オパーイ(笑)」  
 さてと、と喜美は正純の方へ歩み寄る。  
 すでに正純の胸を作り上げていた術式は解いてあり、はだけられた衣服から見えるものは削った後のものだ。  
「可愛い顔が台無しね」  
 懐からハンカチを取り出し、涙や唾液でぐちゃぐちゃになっている正純の顔を拭いていく。  
 後処理が終わったら、ついでに化粧を施してやるのも悪くない。  
 こんなことのあとに、「なんか今日は綺麗だね」と言われたときの正純の顔を想像する。  
「姉ちゃん姉ちゃん!普段から見慣れてる弟の俺ですら引くってのはさすがにシャレになってねーと思うぜ!!」  
「フフフ、つまりは理想の自分に今日もまた一歩近づいたということね、素敵!」  
 目が覚めたらいろいろと言われるだろうが、それも一つのコミュニケーション。  
 今回はトーリにばかり弄らせていたが、あの乱れっぷりを見た後では、さすがにもったいないことをしたな、とも思う。  
 英国に辿りつけば、またこの”武蔵”を取り巻く情勢が大きく変化していくのは間違いないだろう。  
 自分は概ね普段通りだろうが、正純の方はそうもいくまい。  
 ……愚弟を支えてくれる大切な娘だし、ね。  
 そう思う一方で、どうやって今回のことをネタに弄っていこうか、あれやこれやと考える喜美であった。  
 

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