暇だ暇だと言いながら何だかんだでそれを楽しむ大晦日。
「おおスゲェ、相変わらず派手にやってるなあ」
毎年恒例の『告白☆豚合戦』を眺めてみれば、セレブな衣装を着た二人がやたらに眩しい弾幕を撃ち合っている。
東京大断層の中に突っ込んで空白地帯を更に広げるのもいつもの事だ。
国立や三鷹の逃げ遅れた住人達が空高く吹っ飛ばされるのを見ると、ああ、今年も終わりだなあと実感。
だからかもしれないけど、家の中にはいつの間にか新年がやってきていて、僕がノブを握るのを今か今かと待ち構えていた。
「やれやれ、あけなくちゃおめでたい事は何もなしか」
逆に言えば閉めたままでは今年が居座ったままなので、一年をまた繰り返すことになる。
つまり永遠の学生になれる訳なんだけど、中年や年寄りになってもガッコ通うってのはいただけない。
仕方無しに立ち上がってふと思い直す。
「どうせあけるとおとし玉が着弾するんだろうしなー」
おとし玉というだけあって、弾が年齢の数だけ上の方から落ちてくる訳だ。
まあ、面倒臭いから除夜の鐘を聞いてからでも遅くはない。
と、丁度その時君のかけた電話が届く。手に取ってみれば、
「貴方、煩悩以外にも色々忘れてしまってるんじゃないでしょうね、とっとと来なさい」
いきなり何を。僕は別に用事があった覚えはないぞ。
「忘れてしまったのなら覚えているはずないでしょ」
そりゃそうだ。
なにやら近所の寺で総長連合の仕事をやらされるようなので、さっさと向かうことにする。
やけに長い階段を上り終えてみれば、そこに待っていたのは君と令嬢だった。
「あ、来た来た。ボク、すっかり冷え込んじゃったよ」
すまんすまんといいながら、僕は令嬢にさっき自販機で買ってきたホット汁粉を湯たんぽに流し込む。
令嬢の湯たんぽの口に流し込んだのだから、味覚と触覚を同時に満たせるのだ。
「ありがと、やっぱり冬はコレだよね。あー、あったまるー……」
さて、と。挨拶はこれくらいにしてさっさと仕事を済ませよう。
さっきから走り回っている君を捕まえて事情を聞く。
「鐘に合わせて煩悩が零れ落ちてる訳だから、確保する為に東京中の寺の人は出払ってるのよ。
だから貴方は代わりに鐘を叩き続けて欲しいの」
煩悩が満ち溢れてるなんてステキじゃないかと言ったら君に殴られる。
いてて、それは僕の専売特許だぞ。
「まあそれは置いておいて。とにかく、令嬢と貴方の記動力を使えば鐘を叩く人員を大幅に減らせるのよ。
それじゃお願いね」
君の視線を追って成程納得、地面に音叉を並べて鐘の形が作られている。
僕がこの鐘の図を殴って、それを令嬢に共鳴させてもらえば、同じ形のものを一気に鳴らす事ができるのだ。
「こっちの準備は出来てるから、頼んだよ」
了解、と言って記動力を発動すれば、直後に令嬢も彼女の記動力を発動させる。
思い信じて打撃すれば、エネルギー保存の法則に従い、いかなるものも打撃力を受ける。
共鳴するものの性質は等しい。
一発、二発三発四発。
殴る度に鐘があちこちで重奏している。
確か、108発目と同時に新年を迎えるんだっけ。ノリノリでそれ以上殴ってしまいたくなるのを自制する。
――107、と。
そこまで殴った時、僕は肝心なことを思い出す。殴っている間は他の事はできない訳で、それはつまり。
「……僕の年、どうやってあけようか」