ゴミ箱がある。外では疲れきったクラスメイト達が勝利の宴を開いている中向井鈴はそれに向き合っていた。  
正確にはゴミ箱に突っ込んだその手に触れた粉々の紙くずとだ。  
 
感覚強化の加護、そして絵画、文字理解の加護賢石が鈴に伝える  
彼女の思い人、葵トーリが立っているとそして彼女はゴミ箱を持ったまま硬直している、何故か?  
 
彼に胸を揉まれていたからだ。それもいきなりに、しかし無造作ではない  
その僅かな柔らかさを確かめるようにだ。トーリ君、声にならない思いでで目の前に感じる思い人に呼びかける  
そしてトーリは応えた。  
 
「なあベルさん、俺、ベルさんのこと好きだ」  
 
心臓が止まるかと思った、今目の前のトーリはどんな顔をしているのか鈴に知ることはかなわない  
しかしトーリはホライゾンに告白するはずで、それで、だから私にこんなこと言うわけなくて  
 
 
「聞こえてるか、俺、ベルさんのこと、向井鈴が本気で好きみたいだ」  
 
混乱する鈴には現状がよく理解できないただ目の前には好きな人がいてその人が真剣に自分に告白したということだけが理解できる。  
鈴の音が鳴る。それはトーリが鈴の体に触れるときの合図、そして次の瞬間抱き寄せられた鈴の唇は塞がれる。  
それは一瞬のことかそれとも数分のことか  
まるで永遠のように感じながらも離れた唇に鈴は惜しさを感じつつも彼の耳元に顔を寄せる  
 
「私もトーリ君のことが好き」  
 
そして今度は鈴自らの手でトーリの顔の位置を確かめると再び口付ける  
今度は舌が入ってきた、しかし鈴はそれを拒まない、むしろ迎え入れるようにそして忍び込むように  
互いの舌をからめてゆく、トーリの手が再び胸に伸びてくる、恥ずかしいと鈴は思う  
しかし同時に心地よいとも思う、もっと触って欲しいくすぐったいような感覚とともにボタンの外れる音が聞こえる  
 
「あ」  
 
思わず出たのはそんな言葉か、それさえ重ねあう唇から偶然もれた音かどうかもわからない  
ただわかるのは自分が生まれたままの姿にされているというただそのことだけ  
トーリは私のことをどう思うだろうか、クラスメイトの浅間達と比べ貧相な自分の体をさらしてがっかりされないだろうか  
しかしその心配はトーリの  
 
「きれいだ、俺すげえ興奮してる」  
 
その言葉だけで霧散する。お腹に熱を感じ始める。足を動かすとかすかに水音が響いた。  
だから素直になろうと思った。  
 
「私、トーリくんが好き」  
「ああ俺もだ」  
 
うれしい、恥ずかしいのに自分がすごくいやらしくなっているのにそれさえうれしい  
だから鈴からトーリを抱き寄せると耳元でつぶやく  
 
「私の初めてもらってください」  
 
 
 
・・・・・  
読み取ってしまったのはそんな内容の作文の切れ端だった。大きさからすればほんの一部分だとは思う  
しかし鈴の纏う感覚理解の賢石は確かにそんな情景を鈴に伝えた  
しかし鈴はぺたんと地面に尻をつけると大きくため息をつく  
「私のして欲しいこと」たしかそれが今日の作文のテーマだったと思う  
理解の賢石が正しいならば誰かの書いた作文を鈴に当てはめて理解させてきたのだとは思う  
しかしこんな内容の作文を書きそうな人間に心当たりが鈴には全くもってなかった。  
ということは誰かの純粋なして欲しいことを鈴が勝手に自己流に解釈したに違いないわけで鈴は頭を抱えてしまう  
穴があったら入りたいとはこういう状態のことを言うのだろう  
私トーリくんにあんなことして欲しいなんて・・・少しは思っているかもしれない  
 
自己嫌悪に陥る鈴の横には名前だけ書かれた作文用紙の引き裂かれたような切れ端が落ちていてそこには浅間智とあった。  
 
 

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