ある部屋で。
コタツに入った少女と老人が向き合っている。少女の方は戸田・命刻、老人の方は大城・一夫と言う。
世間一般はクリスマス一色だが、この二人は相も変わらず自分達のペースを貫いている。
さりとて、浮世離れしたこの二人と、てクリスマスを意識していないわけではない。
「クリスマスじゃなあ、命刻くん」
「うむ。もうそんな時期だな」
「いやあ、毎年この時期になると思い出すなあ」
「?…ああ……以前言ってたこの時期になって結成する独身UCAT職員のみ『クリスマス討滅隊』結成か…」
「うん、わし名誉会長だったんじゃよ。妻帯者の職員の家まで行って朝まで飲み続けたり、デートスポットの爆撃作戦、多摩川を全隊員による全裸で東京湾まで泳いで、なんてのもあったでなあ」
「……この世界での日本UCATが変態集団だと言われてるのがよく解かる」
「そんなこと言わんといてな命刻くん。まるでそのトップに立つわしが変態のトップみたいじゃないの」
「……それはギャグで言ってるのか?」
「酷いな命刻くん!八号くんの毒舌がうつったでな!」
命刻は苦笑しながらそれには答えず、コタツの上のミカンに手を伸ばした。
大城はまだブーブー言ってるが、聞かずに皮をむき、一つミカンを口に入れる。
一つのミカンを食べ終わった頃、大城も話し疲れたのか、お茶をズズッと飲んでいた。
ふと、思い出したように命刻が言う。
「…では、今年はそれに参加しないのは何故だ?」
大城がその問いに、お茶を飲む手を止める。
「ん〜、だってなあ」
「?」
「わしがそっち行っちゃったら、命刻くんこっちで一人になっちゃうじゃろ?」
「…!……バカにするな、一緒に過ごす友達くらいいる。むしろ、私がそっちに行ったらあなたが一人になるだろうと思ったからこうして一緒にいてあげてるのだ」
「あらら、そうじゃったの?一夫余計な気遣いしちゃったでな?……でもなあ、命刻くん」
「ん?」
「何かを、一緒に祝う家族がいないってのは、寂しいもんじゃなあ」
「……うん………ケーキ、食べるか?」
「ああ、そうじゃったそうじゃった。買っといたんじゃ(経費で)。食べよう食べよう」
「……ありがとう」
「…ん?何か言ったでな命刻くん?」
「ん?…ふふ、なんでもない。なんでもないぞ。それよりケーキを食べようじゃないか」
「そうじゃな、家族いない者同士でな」
この日、この家で笑い声が二人分聞こえた。
この笑い声は、まるで失った家族が戻ってきたような、そんなとても幸せそうなものだったと言う。
ちなみに、後日大城へ、独身UCAT職員全員によるリンチが行われたのは言うまでも無い。