朝だ。身を切る寒さは相変わらずだが、心地良い朝。
共に在ると誓い、一人分違う日常を並んで歩んでいる佐山に予定を質問されたのが昨日。それに答え日本UCAT前に来たのが少し前。待ち合わせだ。
予定時刻より1時間前に着てしまった新庄は、しかし佐山ではなく八号に迎えられ、またしばらく移動を経てから今更という前置き付きで
「一つだけ聞きたいことが三つぐらいあるんだけど、良い?」
「フフフ論理的に矛盾が生じても新庄君の質問ならば私は何でも答えるよ?」
ここで初めて、佐山とは違ったものの新年の装いの大城を自然な眇めで見つつ
「……なんで大城さんがいるの?」
「わし新年いきなり総スカンかなー!」
大袈裟に仰け反る大城を佐山がいつも通りに無視し
「今風には、ハブる、と言うそうだがね?」
「新年早々変わり果てた御老体が一人寂しく煩悩爆弾を製造しているなどと他国UCATに知られたら日本男児の沽券に関わるのでね。八号君に連れて来て貰ったのだよ」
「あ、御免ね八号さん、言うの遅れちゃったけど……着付け、手伝ってくれて有難う」
心持ち佐山寄りで大城の隣に立つ赤毛の自動人形が、
「主人の外出の仕度を整えるのは、侍女式自動人形として根幹に根付く機能です」
「で、この晴れ着、もしかして貸衣装?」
「まさか、新庄君が身に着けた衣服を誰かの手に渡すなど。――世界が許しても私が許さないよ」
「遼子のお下がりだ。驚いてくれたかね?新庄君」
「うん驚いた――何で遼子さんなの!?ボク今男の子だよ!?」
その言葉を聞いてしまった周囲の動作が、きっかり3秒停まった
新庄が周りの反応を覗う様に周囲を見渡した。すると、視線を向けずにこちらに意識を向けていた者達が慌てて互いの傍らに立つ人に視線を変え、ぎこちない動作で本来の会話を継続しようとしていた。
「あ……えっと、その」
「大丈夫だよ新庄君、この上なく似合っている事は私が保証しよう」
「うむうむ、良く似合っておるでな」
その言葉に新庄が反応し、おっかなびっくりという風体で自分の姿を確認するために軽く回る。
「? どうしたのかね新庄君、とつぜん身悶え始めて。私を新年早々失血死させる積もりだろうか」
「そうじゃないよ!」
着付けが終わって少ししてから抱いていた疑問を朝の空気に乗せる。
「着物って、下着着けないって思ってたけど、違うの?」
「新庄様、それは良くある誤解の一つです。月読部長直伝の着付けですから、間違いは無いものと判断します」
「御言君からの連絡を受けた途端、大掃除の手を止めてUCAT館内放送で着付けの出来る者を探しておったしなあ
「成程、実演として自ら着付けて貰ったのだね?」
佐山は侍女式自動人形という正装とは違い、だが新庄の着ている物と雰囲気の似ている和装の八号に対し、視線を真っ直ぐに向け、彼女が機能停止をしても忘れないであろう一言を発した。
「君も、良く似合っているよ、八号君」