「おーい、アルミラー」
朝と言うべきか昼と言うべきか判然としない光を視界の端にとらえつ、
ノックもなしに女性の部屋へ押し入る。
「神命だとよ…って、あ?」
白い寝台。横たわる肢体に絡みつく白いシーツ。白い肌。
薄桃と橙と白金を混ぜたような髪が四方へ流れている。
閉じた目蓋。
「…何でまだ寝てんだよ」
彼女はいつも機械的に定時に起床し、いつも何か有った時は自分の方が起こされる。
カインはテオロギアの内部で心当たりを、レオンは一応部屋を捜すことになったのだが。
まさかこの時間にまだ部屋にいるとは、否まさか寝ているとは。
「アルミラ、オイ起きろっつってんだよ」
「…………………何、」
「いや何じゃなくてよ、神命だって…おい寝るな」
一度だけ顔を上げたと思ったら更に深くシーツの中に潜る。
「仕舞いには殴るぞコラ」
言ってシーツを剥ぎ取るようにして引っ張る。と。
レオンはそれを見て思わず数歩ダッシュで下がる。
勢い余って壁にしたたか頭をぶつけたがそれどころではない。
大体がどうせこれ以上悪くなる頭を持っていない。
「…寝る時まで露出度あげなくていいだろうが」
「ん?」
「うんじゃねーよ!服着ろよ!びっくりしただろうが!!」
「…なんだレオンか…」
「って今更かよ!声で気付けよ!!
誰だったら良かったんだよ、ったく」
「夢をみていたんだ」
「話をきく気は皆無ですか」
「お前がいた」
「あん?」
「お前が何か解らんものにタコ殴りにされていたな…」
「オイ」
自分の夢を見ていた、というから少し期待してみたらこれだ。
一瞬でも有り得ない想像に捕らわれた自分に嫌悪した処で
アルミラが更に続けた。
「私はどうにかお前の助太刀に行こうとするんだが…
結界のようなものがそれを遮っていた」
「……」
「お前は単細胞だし愚鈍だから打ち上げられると回避がうまくいかない」
「…真剣な話なのか笑う処なのか解らねぇよ」
「私は必死だった」
レオンは更に追求しようとした口をつぐむ。
「回りに仕掛けのようなものも見当たらない、
お前の叫びが木霊するたびに焦る、
嫌な音が響く、私の声はどうやら聞えないらしい…」
半ば眠りのなかにいるのか、か細いつぶやきにしゃがみこんで近付く。
長いまつげの先から一筋、極小の粒が零れた。
「お前なんか嫌いだ…」
不意にアルミラが身体を小さくかがめて唸った。
「私を置いてどこまでも行ってしまうような奴は、嫌いだ」
「…アルミラ」
シーツに押し付けたままで喋るくぐもった音は泣いているようにも聞える。
右手で、壊さないように軽く腕に触れる。
差し込む光とシーツに溶けそうな程白い肌は質量など無いように見えた。
「置いてなんかいくかよ、お前がいないと困るだろうが」
目線を同じ高さに合わせて荒れた髪を梳いて整えた。
頬にかかった糸を後ろへやるついでに、いまだ開かれない瞳に顔を寄せる。
潮の味がする。
「…レオン…どこにいったんだろうな」
一方、捜し終わったら戻ってくると話していた待ち合わせ場所で
カインは待ちぼうけをくっていた。