「レオンは……お兄さん、みたいな感じだな」
旅の休憩中、三人で座り込んでいるなか、フィールがぽつりと呟いた。
いきなりそんなことを呟かれたものだから、レオンもアルミラも驚いて彼を見返す。
「なんだ、そりゃ?」
「少年、どうした?」
あまりに驚かれてしまったからだろうか。フィールは少し照れくさそうに笑う。
「仲間、なんだけど、僕は二人に面倒見てもらってるような気がして……」
納得がいった、とレオンが先に笑う。
「なるほどな。まあ、お兄さん、は照れくせぇけど……」
「では、私は母親といったところか」
アルミラも頷いて答えたが、残った二人が思わず苦笑いをもらす。
こらえきれずにレオンは声を出して笑った。
「おい、老け過ぎだろ。せめて、お姉さん、にしとけ」
「そ、そうだよ。アルミラをお母さんとは……ちょっと思えない」
結局、二人に笑われてしまったが、アルミラの無表情は変わらない。
「いや、待て、ボウズ」
レオンは何か考え込み、やがて、アルミラとフィールを見てにやりと笑った。
「母親や姉以外にも、まだ、選択肢は残ってるぜ?」
「え、そんなの、あるかい?」
「妹を除けば他に選択肢はないはずだ」
単純に驚くフィールと、論理的に答えを出すアルミラ。
単細胞だとトトによくバカにされるレオンは、わかっていない二人に対し、ほこらしげに言い放った。
「……恋人。ボウズといえども男だろ? 全く可能性がないこともない」
フィールは唖然としている。
アルミラも反論したいところだが、確かに異性同士で可能性がない話ではない。
悩み始めた二人を前に、今度はレオンが驚く。
「お、おい、そんなに悩むこと言ったか? なあ、アルミラ、お前がこの先、絶対にボウズを好きにならないとは限らないだろ?」
「ああ、それはそう、だが……」
完全に否定するほど根拠のない話ではないので、アルミラも感情ではなく、論理的結論として頷くしかない。
だが、フィールは答えたアルミラを見て、一気に頬を紅潮させる。
「ア、アルミラ……そ、そうなの、か?」
ようやく声を絞り出したフィールだが、その頬は気の毒なほど真っ赤だ。
混乱の中に入ってしまったフィールを見て、思わずアルミラが苦笑する。
「安心しろ、少年。私が好きになったとしても、少年が好きでなければ、恋人という言葉は使えない」
「いや、甘いな、アルミラ。逆もあるんだぜ。ボウズがこの先アルミラを好きにならないとも限らない」
アルミラのフォローもむなしく、レオンの一言でフィールはついにうつむいてしまった。
恋人、というキーワードを出されてしまった以上、アルミラの向こう側についその言葉を見てしまう。そうすると、もうアルミラの顔が見られない。
「レオン、そうなるとお前だって当てはまることになるんだぞ」
アルミラが、矛先をレオンへ向けようとしてくれているらしい。
だが、レオンは切り返す言葉を用意しているのか、余裕げな笑いを浮かべた。
「俺は、ない。恋愛感情があるなら、とっくにぶつけてるぜ。それに、今さらアルミラには、なぁ」
「少年もこの男のように、無いなら無いと言ったほうがいい。そんな反応をすれば、この男の思うつぼだぞ」
アルミラの言うことは実に正しい。無いなら、無い、と言ってしまえば済む話なのだが、恋人という言葉がちらついてしまい、アルミラの声にすらどきりとしてしまうのだ。
「わ、わからない……よ」
「お、ボウズはこんなお姉様が好きなのか。やめとけ、レクスの足で蹴られるぜ」
「レオン、それ以上言うと……」
片方しかないアルミラの目が、ふざけるレオンを睨みつける。
アルミラの右足に淡い光を見たレオンは、思わず両手を振った。
「アルミラを殴る趣味はねぇよ」
「……ということだ、少年。こいつの言ったことを気にする必要はない」
「う、うん、そうだね」
これで、あとはフィールの頬が冷めていくだけ、と思われた。
だが、レオンは究極の一言を放り投げて、アルミラから逃げていった。
「ま、この胸は捨てがたいな。その気持ちならわかるぜ、ボウズ」
「む、胸なんて……胸なんて、見て、ない……」
「待て、レオン!」
俊足で追いかけるアルミラの胸が揺れている。いや、俊足だからこそ、その揺れも激しい。
見てはいけないと頭では理解しつつも、思わず見てしまう、少年フィールであった。