「フィール、単細胞が呼んでいるぞ」  
 風を感じながら座っていたフィールに、飛んできたトトが声をかける。  
「なんだろう?」  
 フィールは立ち上がる。  
「単細胞のことだ。たいしたことではないだろう」  
「じゃ、行ってくるよ。トトは?」  
「……疲れた」  
 そう言って、フィールが座っていて温まった場所へトトは寝転んだ。  
「わかった。出発になったら起こしに来るから」  
 レオンは、アルミラとテオロギアまでのルートの打ち合わせをしている。道程を知らないフィールは二人の邪魔にならないところで休んでいたのだ。  
 ルートが決まったから教えてくれるのだろうか。  
 思いながらフィールは二人のいる場所へと向かった。  
 
「ボウズ、ちょっとこっちに来い」  
 レオンが激しく手招きしている。  
「レオン、何をするつもりだ?」  
 アルミラの言葉から、フィールを呼んだ理由は彼女にもわからないらしい。どうやら、フィールを呼んだのはレオンの独断のようだ。  
「フィールに癒しのひとときを与えようと思ってな」  
 二人の傍に座ったフィールに、レオンが得意げに言いだす。  
「癒す力など持ってないはずだが?」  
 アルミラの言うことはもっともである。レクスには癒しの能力などない。  
「頭で考えるんじゃねぇよ。癒しはレクスに頼らなくても与えられるんだぜ」  
「どういうことだ?」  
「アルミラが持ってるもんだ」  
「だから、私は癒しの力など持ってはいない」  
「ボウズはわかるか?」  
「アルミラにわからないもの、僕がわかるはずもないよ」  
 困惑するアルミラの横でフィールも首を振る。  
 単細胞といわれるレオンだけが『癒しの力』の正体を知っているらしい。  
「ボウズの隣にあるじゃねぇか。……そこのでっけー胸」  
「胸?」  
「えっ……む、胸?」  
 けげんな表情で聞き返すアルミラと、明らかに混乱し始めるフィール。  
 レオンがいきなり頭を下げる。  
「男の頼みだ。アルミラ、ちょっと胸を貸してくれ」  
「何をするつもりだ?」  
「俺とボウズが触るだけだ」  
「触るだけ? それでいいのか?」  
「ああ、十分だ」  
「……しかたがないな」  
 
 許可を受けて、まずアルミラの胸に触れたのはレオンだ。味わうようにぎゅっと包む。  
 それを見てフィールが冷静でいられるはずもなく、平気そうなアルミラと、幸せそうなレオンを、ただひたすら凝視している。  
「え、あ、あの……レオン? ぼ、僕は触らない、よ。あっち行ってる、から、ゆっくりしてきたらいいと思う」  
 アルミラの胸に釘付けになりつつも、座ったままフィールは後ずさる。  
「待て。騙されたと思って触ってみろ、ボウズ。アルミラもいいって言ってんだからよ」  
「ああ、気にすることはない、少年」  
「……って言われても、そんな、触るなんて、胸に」  
「じゃ、手置くだけでも置いてみろよ」  
「ごめん、アルミラ……」  
 そっと、フィールはアルミラのそのふくよかな胸に手をのせた。軽くのせただけなのに、予想以上の柔らかさにフィールの指が包まれる。  
 初めての感触に驚かずにはいられない。  
「どうだ、ボウズ? 癒されるだろ?」  
「癒されるのはお前だけだろう」  
 フィールの頭には感嘆符が溢れている。驚きすぎて、言葉がうまく口から出せない。  
「放心してやがる。……しょうがねぇな。こっちも貸してやる」  
 レオンが、余っているフィールの片手を、さきほどまで自分が触っていた場所へのせた。  
 フィールの両手を、アルミラの胸の柔らかさが襲う。  
「ちくしょう。幸せもんだな、ボウズ」  
 レオンは羨ましそうに笑っているが、フィールはもちろんそれどころではない。  
「レ、レオン……」  
「お、どうした?」  
「変な気持ちになってきたんだけど、これ、癒されてるってこと?」  
「……すまねぇ。ボウズにはちと早すぎたか。俺はどっか行ってるから、アルミラ、こいつの発散させてやれ。初めてってわけでもないんだろ?」  
 レオンに助けを求めたフィールだったが、彼の言っていることは意味がわからない。ただ、アルミラの胸から手が離せない。離れたくない、と自分のどこかが言っているのだ。  
 だが、アルミラにはレオンの言った意味がわかったようだ。静かに頷く。  
「わかった。レクスの扱いに支障が出てはまずいからな。なんとかしてみよう」  
「じゃあな。適当に戻ってくる」  
 レオンは去っていき、胸に触れたままのフィールと、何かをする段取りを整えたらしいアルミラが残された。  
 
「ア、アルミラ?」  
「少年、少し手を離してくれないか?」  
 アルミラがフィールの手をつかんで、そっと胸から離す。そして、自分の服をずらして胸をあらわにした。  
「もう一度、触るといい。いや、触るだけでなく、少年の好きにしていいぞ」  
「好きに……って……言われても」  
 再び両手を胸にのせたものの、そこから何をしていいかわからず、フィールはとりあえず胸を撫でてみた。  
 柔らかなそこは、フィールの手の動きに合わせて、形を変えて応えてくれる。  
 胸の先が気になって、指の腹で押してみた。つついたり、撫でたりしていると、なんとなく固くなってきたような気がする。  
(僕も母さんの胸を吸ったりしたのかな)  
 ふいに思い出し、フィールはおそるおそるその突起を口に含んでみた。舌でころがしていると、さらに変な気持ちが膨らんできて、もう片方の胸を無意識に揉み始めていた。  
 先ほどよりもさらに突起が固さを増している。  
「アルミラ……これ……」  
 固くなった部分をアルミラに指し示す。  
 アルミラは優しく笑って頷いた。  
「少年が上手だ、ということだ」  
「え、上手? 僕は夢中でやっていただけで……」  
「次はここに触れてみてほしい」  
 アルミラが自身の下半身を指す。  
 頭が少しぼーっとなってきたフィールは、あまり深く考えず、言われた通り、そこに指を伸ばした。  
「濡れてる……」  
「そうだ。少年が上手だとそうなる。今度はそこを好きにしてみろ」  
 好きにしろ、と言われても、胸以上に複雑なそこをどうすればいいのかわからない。先ほどと同じように撫でてみることにした。  
 指に液体がまとわりつき、滑るようになめらかなそこから、さらに液体が溢れてくる。  
「痛く、ないかい?」  
「痛くないから、溢れてくる。そういうことだ」  
 触れば触るほど、液体が溢れてくる。  
 生暖かいそこに指を滑らせているうちに、得体の知れない熱にうかされるように、フィールはアルミラの胸の突起を口に含んだ。指のリズムに合わせて、舌で突起をもてあそぶ。  
「フィ……ール……」  
 アルミラの声に思わずフィールは顔を離す。  
 何かに耐えるような声は、ドロシーが高熱を出した時の声にとてもよく似ていた。自分の行為がアルミラを苦しませている、と思ったのだ。  
 
「アルミラ、大丈夫かい? 何か悪いこと、した?」  
「いや、何もしていない。ただ……私ももう限界、だ……」  
「限界? 僕はどうすればいい?」  
「少年、変な気持ちになっているだろう? 一番熱いのはどこだ?」  
「……ここ、だね」  
 苦しそうなアルミラを救うためだ、とフィールは熱くなっている場所――自身の下半身を正直に指した。  
「それを私の濡れてる場所に入れるだけだ」  
「い、入れる? これを、かい?」  
「ああ、そうすれば、少年も私も苦しみから逃れられる」  
 フィールは下半身を出し、おそるおそるアルミラに近づいた。入れろとは言われたが、どうすればいいか、あいかわらずわからない。  
「私が誘導する。とにかく密着させてくれないか?」  
 アルミラの指が、濡れた秘所を開き、一つの箇所を指している。  
「ここ、だ……少年」  
「わ、わかった」  
 ゆっくりと、フィールは下半身を沈み込ませた。  
 今まで味わったことのない感覚が一気に全身を駆け抜ける。まだ正体はわからないが、もう寸前というところまできていることだけはわかった。  
「動くといい」  
 アルミラに言われてフィールは少しだけ腰を動かしてみた。  
 甘い何かが頭の思考を支配しようとする。  
 どうすればいいかわからないと、あいかわらず頭では思っている。なのに、その甘い何かが勝手に体を動かすのだ。  
 フィールは夢中で腰を動かし、アルミラの胸に貪りついた。舌で突起をめちゃくちゃに舐め、もう片方の胸を手で散々に揉みしだく。  
 アルミラの腕に頭を抱きしめられたとたん、最後の抵抗もぷつりと消えた。  
「ア、アルミラ……アルミラ」  
 名前を呼びながら、懸命に腰を振り、胸をただひたすらに愛撫する。  
 どうすれば、この甘い支配から逃れられるのか。この熱にうかされた状態が終わるのか。やはりわからないのだが、こうするのが正解だ、ということを本能だけが理解していた。  
「しょう……ねん……」  
 フィールの下半身を、アルミラの温かさが締め付ける。  
「……ア……ルミ……ラ……」  
 フィールは全ての動きを止めて、全身を襲う快感を受け止めた。  
 
 
 アルミラが抱きついたままのフィールに微笑みかける。  
「よく、がんばったな、少年」  
「ごめん、アルミラ……」  
「いや、私は何も痛くなどない。怪我もない。大丈夫だ。少年こそ、大丈夫か?」  
 フィールが枕にしているのは、アルミラの胸だ。手もいまだに添えたまま。  
 この柔らかさを夢中で揉んでいたことが、ふと脳裏によみがえる。  
「アルミラ」  
「なんだ?」  
「もう一度、味わいたいんだ、けど……」  
 何かをねだる子供のようだ、とフィールは少し恥ずかしくなる。  
 だが、優しく微笑んだアルミラは、  
「旅はまだ続く。また、機会もあるだろう。レオンをあまり長く待たせると、からかわれて困るのは少年だ。今はこれで終わるのが得策だろう」  
「そう、だね」  
 アルミラの胸に軽く口付けて、フィールが離れる。  
「私も名残惜しい……と思っている」  
 呟いたアルミラの声は、服を着ているフィールには届かなかった。  
 

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