「お兄ちゃん、聞いてる?」  
「え?」  
 ドロシーが机をはさんで向かいから身を乗り出してこちらを  
覗き込んでいる。  
「あ、あぁ…友達が家族でピクニックに行ったって…」  
「うん、だからね、あのね…」  
 今の今まで真摯に、熱心に話していた少女は急に口篭もる。  
しゅんと椅子に座り直してうつむき、指をいじっている。  
何だろうとフィールが話の続きを待ってみても、  
ドロシーはどもりながら、ちらちらとこちらを窺うばかりで  
一向に話し出そうとしない  
 
 何が言いづらいのか?  
(…あぁ、)  
 成る程それか。  
「そうだドロシー、僕達もピクニックに行こうか」  
 ドロシーにいつも見せるあの優しげな笑顔で。  
「本当!?」  
 途端、羨望まじりに”家族”の話をしていた時と同じような表情、  
いやそれ以上の輝かしさで椅子の上で立ち上がる。  
フィールはそれを苦笑していさめて座らせた。  
「でも、でもでも、お兄ちゃん外は危ないって。」  
 そう。彼女がためらうのも無理はない。  
ドロシーが”両親”の存在を羨ましく感じるのと同時に、  
村の外では何があるか解らないのだ。  
 最近では御使い達が子供をさらっていくとも聞く。  
「大丈夫。僕がついてるよ。  
 最近は村の周りしか連れて行ってあげてなかったしね」  
 いざとなれば、身を呈してでも妹だけは守るつもりでいる。  
「うん、有難う、お兄ちゃん!」  
「ニャーーーー」  
「あ、トトも、いいよね?」  
「あぁ、勿論」  
 
「ドロシー、本当に料理がうまくなったね」  
「えへへ、そう?」  
 村が見える範囲で、ある程度はなれた森の中、  
木陰が丁度良いところで二人と一匹はドロシーの手製弁当を  
食べ終えようとしている処だ。  
「晴れてよかったよね、トト?」  
「ニャーーー」  
 トトはドロシーの膝の上でのどを撫でてもらっている。  
 フィールが一人と一匹のの和やかな遣り取りから森林を、  
その向こうに聞えるエテリアの様子に気を配っているうちに、  
彼女らの声がないことに気付いた。  
「ドロシ…」  
 そよめく風にうすい金糸の後れ毛がたなびき、とじた目に  
梢々の柔らかな陰が息づいている。  
ゆったりとしたスカートの真ん中で、赤に黒の猫が丸まって動かない。  
 
 二人?して眠ってしまったようだ。  
「…トトも、いつもは警戒心が強いのにな…」  
 たまにはいいだろう。  
フィールはもう一度空を見上げて、ドロシーに身をよせるようにして  
目を閉じた。  
 

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