「犬っコロ、全部あんたが悪いんだからね!」
ジュジュは床にあぐらをかいているガルムを睨み付けた。
「あんたさえ邪魔しなければ、できそこない達はあたし一人でコテンパンにやっつけてやったっていうのに!」
「ふん、小娘こそおれの攻撃を何度も邪魔しおって。貴様の遠距離攻撃は全く当てにならんのだ」
ガルムも負けじと言い返す。普段ならばこぎれいな格好をしている彼だが、今は違う。服のあちこちが裂け、血が滲んでいた。できそこない達――つまりはフィール達と激しい戦いを行ったためである。
「な、なんですって! あたしのレクスに文句つけようっての!?」
ジュジュのレクスが彼女の意志に沿って、即座に臨戦態勢を取った。羽根が大きく広がり、その中の一本がガルムの首に突きつけられる。かすかにその切っ先が震えているのは、怒りに染まっているからか。
「小娘、いい機会だから言っておく。貴様はレクスの扱いがなっておらん!」
ジュジュの顔が見る見るうちに紅潮していく。
「パスの取りこぼしは多い。かといって、一人ではトスも上げられん。唯一使える必殺技も、これでは発動のしようが……」
ガルムはそこで言葉を止め、素早くジュジュのレクスを――ガルムの首を掻き切ろうとしたそれを握りしめた。
「……どういうつもりだ、小娘」
「……殺してあげる」
頭に血の上ったジュジュは、相手が負傷して対抗する力がほとんどないことを、完全に忘れ去っていた。
エテリア達を呼び寄せ、自らの体にまとわりつかせ――
「そこまでにしておけ、ジュジュ」
傍らで黙って二人の様子を見ていたヴィティスが、低いが良く通る声で言い放った。ジュジュはエテリア達を解放すると、憤慨の表情でヴィティスを振り返る。
「どうして止めるの、ヴィティス!? 犬っコロの分際で、あたしのレクス達をけなしたのよ!?」
「少しは冷静になれ。……ガルムもだ」
視線をジュジュからガルムに移動させる。
「なっ、おれのどこが興奮しているとい……」
「負けて悔しがるのはいいが、それを当てつけないでくれ」
「当てつけてなどいないッ!」
ガルムの体が小刻みに震えている。ヴィティスの言葉がよっぽど効いたのだろう。
「そもそも、おれと小娘を同時に出撃させたヴィティスが悪いのだ! おれの攻撃力の高さ、タフさはヴィティスも知っているだろう!」
「……」
ヴィティスは小さくため息をついた。
「あんた、ヴィティスまで……!」
瞬間。ジュジュのレクスが、ガルムの腹にめり込んだ。
「がっ……!」
血をまき散らしながら、ガルムは宙に吹き飛ばされる。これには当のジュジュも驚いた。通常であれば、彼女の吹き飛ばし攻撃などで吹き飛ぶガルムではない。だが、今はフィール達との戦闘で傷つき、弱っていた。
「ヴィティス!」
ジュジュは彼の名を叫ぶ。言われるまでもなく、ヴィティスは着地地点を目指し疾走していた。低空飛行していたガルムが床に激突する……しようとして、再び空高くその体が舞い上がる。
「ぐはあっ!!」
ガルムの絶叫が、ほとばしる。ヴィティスが、しまったという表情を見せた。ヴィティス自身には、パスを繋ごうという気は全くなかったのだ。しかし、何者かに突き動かされるかのように、彼は打ち上げ攻撃をガルムに喰らわせていた。
浮き上がり、停止し、自由落下。ガルムの体は、今度こそ固い床に叩き付けられた。
「ヴィ、ヴィティス……」
ガルムが、信じられないという表情で一旦ヴィティスを見、そのまま気絶する。
「習慣とは、恐ろしいものだな……」
一人納得したように、ヴィティスは何度も頷いた。ジュジュの方を見やるが、唖然とした様子で言葉も出ないようだ。
「まあ、こういうこともある」
ヴィティスはそう言い残して、宙へと消え去った。残されたジュジュが、未だに倒れたガルムの姿を凝視していた。