「……ン。レオン、起きて」  
 優しい声で肩を揺すられる。まるで揺り籠の中にいるような心地良さに誘われ、レオンは閉じていた瞳を薄く開いた。  
 視界に飛び込んでくるのははっきりとした明るい色合いの部屋。大小、それぞれ違う色の箱−レオンが初めて見るような−が立てられてあったり横にされていたりする。  
 そして  
「あるみら……?」  
 薄紫の長い髪、レオンを見つめる隻眼、色の溢れた場所でもよく映える青。  
 確かにその姿はレオンの長年の仲間、アルミラだ。  
 しかし  
 
「もう、駄目じゃないこんなところで寝ちゃ。風邪ひいちゃうでしょ?」  
「……へ?」  
 どうやら自分は寝台でない場所で寝ていたらしい、と思うより先に強烈な違和感がレオンを支配する。  
 アルミラが、優しい眼でレオンを見ている。柔らかく微笑む姿は、まるで子供の全てを赦し受け入れる母親のようだ。  
 −おかしい。  
「ほら、寝癖までついちゃって」  
 起き上がるレオンの髪に細い指が触れる。  
「ななな!?何やってんだよ!!」  
 そこまできてやっと、レオンは大声をあげた。アルミラの手を払いのけ、まじまじと彼女の顔を見つめる。  
 部屋以上の違和感の正体、それは目の前にいるアルミラそのものだ。  
 確かに彼女は優しい母のような面も持っている……が、その対象はあくまでフィールやドロシー等の子供達であり、仲間であるレオンに対しては徹底的に冷酷である。  
 少なくとも今のように彼女に優しく揺り起こされたことはない−寝過ごした時は蹴り起こされる−し、寝癖を直してもらったこともない−直してくれ、と一度頼んだらバリカンで髪を全て剃られそうになった−のだ。  
 それは虐待ではないか、と不満を漏らしても「お前に優しくしても付け上がるだけだ」と表情を変えずに断言されたので、これも一種の愛情表現なのだろうと納得していたのだが。  
 
 当のアルミラはきょとんとした顔で首をかしげている。  
「あら、この前直さなかったのがそんなに不満だったかしら?」  
 女性らしい柔らかな言葉遣いは、本来ならば子供相手にでも出ないものだ。  
「や、そーじゃなくて……ぁっ」  
 違和感の何所から指摘しようか言葉に悩むレオンに構わず、アルミラの手が再びぼさぼさの頭に触れる。  
「この辺りとかよく寝癖がつくわよね」  
 アルミラの顔には微笑みが浮かべられたままだ。  
「やめろ、待てってっ、ぅ」  
 ぼさぼさではあるがおおまかな流れに沿って、髪が梳かれる。  
 頭皮に時折伝わる冷たい指の感触と梳かされる髪が、レオンの脳に直接快感を伝えた。  
 レオンはどうにかアルミラを自分から引き離そうともがくが、全身に力が入らない。「やめろ」と言う叫びも何所か虚しく響く。  
 気持ち良い。寝癖を梳かされているだけなのに、全身をあますことなく撫でられているような快感がレオンを襲う。頭がおかしくなりそうだ。  
 
「レオン?」  
 寝癖があらかた直ったのだろうか、アルミラが身体を離した。先程までとは違う、不思議そうな顔でレオンを見つめている。  
 その視線がゆっくりと下に降りた時、その表情は弾けたように大きく変化した。  
「大変、こんなに大きくなっちゃって」  
「!!」  
 アルミラの指が、まるで腫れ物を扱うかのようにレオンの股間に触れる。布地からでもはっきりと判るほどレオン自身が硬くなっていた。  
 髪を梳かされただけでここまで感じていたのか。普段受けない行為からか、最近ご無沙汰だったからか、それとも目の前のアルミラが生み出す違和感が快感を増幅していったのか。  
「い、いい加減にしろっ!」  
 レオンが怒声を放つもアルミラは止めようとしない。下着毎衣服を脱がし、狭い場所から解放されたレオン自身に指を添える。  
「どうして?寝癖だけじゃなくてこっちも直して欲しいんでしょ?」  
 驚いた表情から今度は悪戯めいたそれへ、普段のアルミラではありえない劇的な表情の変化だ。  
 
「それとも、私じゃなくてフィールを襲いたいの?」  
「んなわけ……っ」  
 反論はアルミラの指の動きで抑えられた。輪を作った指で軽く扱かれるだけでくすぐったさと痺れが全身に広がる。冷たい指が切なく脈打つ自身をなぞり扱く毎に、レオンの息も荒くなっていった。  
 目の前のアルミラはありえない、おかしいとなけなしの理性を総動員して必死に抵抗を試みるが、肉体はあっさりと快楽に翻弄される。それがレオンには歯がゆくも悔しくもあった。  
「本当にやめて欲しい?」  
 先端から滲み出す先走りを指に絡めながらアルミラが首を傾げる。悪戯を思いついた子供のような表情だ。  
「ぐっ……」  
 レオンは何も言えず、歯を食いしばるしかなかった。たとえここで口を開いても、否定ではなく快感による嬌声にしかならない。  
 耐えるレオンの様子が面白いのか、アルミラはくすくすと笑った。何所か馬鹿にしたような笑みも、普段の彼女ならありえないものだ。  
 アルミラが先走りに濡れた指で己の唇をなぞる。ただでさえ赤い唇が、更に真紅に近くなったよう、レオンの眼には映った。  
 そして、濡れた唇を左右に広げ、一言。  
「レオンってばえっちなんだから」  
 
 桃色の舌が先端を捉える。  
「ひぁっ」  
 触れられただけだと言うのに、先までよりも強い快感がレオンの全身を駆け抜けた。喉から洩れたのは、その反動による喘ぎ。  
「ん……ぅ、ちゅ……」  
 舌と唇で全体を刺激する。輪の形のまま根元を扱き続ける指に、舌から洩れた唾液が流れ、動きを滑らかなものにしていく。  
 先端から陰嚢までゆっくりと丹念に舌が舐め上げ、間に触れるだけのキスを繰り返す。  
 気持ちよくて、しかしじれったく、もどかしい。  
「ぅぁ、やめ……っ、ん……は……ぁ」  
 必死に拒否の言葉を紡ごうとするがまともな声にすらならない。じわじわと広がっていく快感が、かき集めた理性すらはぎ落とそうとしてくる。  
 ふと、アルミラが唇をレオン自身から離した。唾液に濡れ、血管が浮き上がる根元を軽く扱き、軽く微笑む。  
「レオンってば女の子みたい」  
 それが、自分が女性のような嬌声を上げていることなのだと気付く余裕は、今のレオンにはない。  
 
「もっと気持ちよくしてあげるわね」  
 レオンが抵抗する間もなく、アルミラはレオン自身を咥え込んだ。低い体温の割に、アルミラの口内は暖かい。  
「ぅふ、ん……くちゅ……ん」  
 アルミラは唇で竿を往復しながら、柔らかく少しざらついた舌をねっとりと雁首に絡ませる。  
 湿った口内に敏感な性器を包み込まれる。膣内とはまた違う快楽に、レオンは溺れ始めた。  
「ひぃ……ぅ……あるみらぁ……」  
 彼女を引きかがそうとしていた右腕も、何時の間にか柔らかな髪を撫で始めていた。  
「ん、ふぅ……んむ……ちゅ、る」  
 右眼にかかる前髪をかきあげながら、アルミラは奉仕を続ける。息遣いが根元にかかり、レオンの性欲を更に煽る。  
 アルミラの口からぐちゅぐちゅと卑猥な水音が立つ。わざと音を大きく出しているのだろうか。  
 上下していたアルミラの頭の動きが次第に速くなっていく。  
 
「やべ、も……っ!」  
 思わず限界を告げると、アルミラの動きが変わった。頬が窄まり、レオン自身を頬の裏肉が圧迫する。同時に前髪をかきあげていた方の手が硬くしこる陰嚢にのび、優しく揉んでいく。  
「ち、待て……っ!」  
 叫ぶレオンとアルミラの視線が重なった。いとおしい男に向ける優しいものではない、獲物を捕らえた獣のような眼。  
 それは一瞬のことで、次の瞬間には激しく吸引される。  
 耐えられない。  
「!く……っ……あぁっ!」  
 全身を震わせ、アルミラの口内に精液を吐き出しながら、レオンは自分の意識が真っ白な闇に堕ちていくのを感じた−  
 
 
 
「……オン。レオン!」  
 優しいけれど荒々しい、そんな声で揺り起こされる。しかし、レオンの喉から飛び出たのはそれに見合う生温いものではなかった。  
「ぬわっ!!」  
「は?」  
 がばりと起き上がり奇声−としか表現し様がない−をあげるレオンに、フィールが眼を丸くする。それに構わず、レオンはフィールの肩にしがみつき立て続けに叫んだ。  
「ぼぼぼボウズ!?こここここは!?ってかあああアルミラは!?」  
「僕の家だよ。アルミラなら今さっきドロシーとお風呂に入ったけど」  
 淡々とした口調で返され、レオンの脳がゆっくりと冷やされていく。  
 
「えーと……?」  
 フィールの肩から手を離し、ゆっくりと周囲を見渡す。  
 レオンとアルミラが使っている部屋だ。アルミラが使う本棚と敷布の乱れた寝台が視界に入るが、別に普段と変わりはない。良く言えば片付けられた、悪く言えば殺風景な部屋だ。  
 つい先程まで居座っていた部屋とのあまりの差異にレオンの目が点になる。しかし、呼吸を繰り返す内に先までの内容が何なのか、頭が良いとは言えないレオンでもひとつ思い当たる節があった。  
 
「そ、そっか……じゃあ夢……」  
 と言うより、夢以外の何で納得しろと言うのか。  
 フィールの家に転がり込んで数ヶ月。アルミラとは同じ部屋で生活しているものの肉体関係は全く無い。人間ほど強くは無いがカテナなりに積もっていく性欲を持て余す内にこんな夢を見てしまったのか。  
 いや、だからといって何故あそこまで違和感全開なアルミラに抜いてもらわなければならないのか。  
 無い知恵絞って夢の解釈を行おうとするレオンを止める形で、フィールが大きく咳払いをした。  
「それよりレオン。何で僕のマフラーを首に掛けてるんだい?」  
「へ?」  
 
 言われて、初めて肩に視線を降ろす。  
 お気に入りの黄色い寝着の上、首にかける形で長い布が巻き付いている。手に取ると「9」と施されている刺繍が目に入った。フィールが愛用しているマフラーだ。  
 そういえばテオロギアへの旅をしている間、フィールが「これをつけてるとすっごく爽快な夢を見るんだ!」とずっと身に付けていた……ような気がする。  
「あ、本当だ。タオルと間違えちまった」  
 多分レオンが風呂から上がる時、バスタオルと傍にあったこのマフラーを間違えてしまったのだろう。  
 レオンからマフラーを受け取ったフィールは「また洗わなきゃな」と小さく呟く。  
「ならいいけど。あ、レオン」  
「んだよ?」  
 まだ何か用があんのか、と首をかしげるレオンに対し、フィールは生温い視線を彼に投げかけたまま溜息をついた。  
「アルミラがお風呂あがる前に、下着もパジャマも全部変えといた方がいいよ」  
 

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