どれだけそうしていただろうか。ドロシーはようやく泣き止むと、ガルムから体を離した。  
泣き顔を見られたくないのか、目元を拭うも顔を上げようとしない。  
「……すみませんでした…」  
彼への気持ちに気付いてからこんなに接近したのは初めてだ。先程の自分の行動も含め、急に  
恥ずかしくなって彼の膝から降りようとする。  
「顔を洗って来てもいいですか…沢山泣いたから、きっとひどい顔…」  
しかし彼の手はドロシーの背に回されたまま動かなかった。  
「……?あの、ガルムさん?」  
「すまなかったな」  
「え…?」  
「俺がぐだぐだ悩まなければすんだのだ。辛い思いをさせた」  
ガルムの真剣な声に彼女は僅かに目を伏せた。微笑み、首を横に振って彼の言葉を否定する。  
「そんなこといいんです」  
背に回された腕が彼女の頭を撫でた。  
「お前の泣き顔を見るのは初めて会った時以来だ…そんな顔はさせたくなかったのに」  
「家では結構泣くことあるんですよ。お兄ちゃんと喧嘩して」  
ふふ、とドロシーは彼の後悔を軽くするように冗談めかした。  
 
「こっちを向け」  
「…でも……」  
好いた男に瞼の腫れた顔を見られるのに抵抗があって、彼女はすぐにはきかなかった。  
完璧な自分ではないけれど、それでも出来るだけ状態の整った姿を見て欲しい。そう思うのは  
恋する人がいる者なら誰でも一緒だ。  
ガルムの指が彼女の顎に触れ、さらに顔をあげるよう促す。  
ドロシーが躊躇いがちに視線を送れば、自分を見つめるガルムと目があった。  
「目が真っ赤だ……」  
太い指が目じりに触れる。  
「もう二度と泣かせるような真似はしない」  
「やだ、そんな…」  
ガルムの大げさな言い方に、少女は深刻さを打ち消すように笑顔を作ろうとした。  
「約束する」  
彼の本気が伝わってドロシーの表情から硬い笑みが消える。  
嬉しいはずなのに閉じた目が再び潤んできて、彼の手がその滴を拭った。その手を捕まえて、  
しかし俯いたまま彼女は動かない。  
「……」  
「どうした?」  
 
逡巡の後、もう少しの勇気を出して彼女は顔をあげた。  
「あの」  
「なんだ」  
「…あ…私……あの…」  
「?」  
「では、その……約束の証を…頂いても……」  
「―――!」  
顔を赤らめ、再び俯く少女にガルムは目を見開いた。  
彼女の求めるものが何か、ちゃんと伝わったらしい。  
 
彼の指を頬に感じ、ドロシーは緊張から思わず目を閉じる。  
ガルムは指を顎の下に回して彼女の顔をつい、とすくいあげるとその額に、前髪の上から  
そっと口付けた。  
それを受けたドロシーは物言いたげな表情になる。  
彼女が望んでいるものはもっと確かなものだったからだ。  
しかし、彼は開きかけた唇が動かぬよう人差し指で抑えると、そこにもふわりと唇を落とした。  
 
目を閉じたままでも彼の手にドロシーの顔がじわ、と燃えるように熱くなったのが伝わって  
くる。唇を離すと彼女は耳まで赤くなった顔をガルムの胸に押しつけてきた。  
「ふ…どうした?」  
胸元をギュッと握りしめるのは恥ずかしさのためらしい。  
「嬉しいんです……」  
いじらしい台詞に、ガルムは膝の上にいる彼女を一層強く抱きしめた。  
涙の跡の残る彼女の頬や、額に口付ける。  
ドロシーは目を閉じ、されるままになっていた。  
 
 
秋は夕暮れが早く、夜は長い。  
日が完全に沈んでも室内の人影は寄り添い合いっていた。  
 
「……んっ……ちゅっ…」  
二人の口付けはやさしく触れるだけのものから、互いを求め合うものへと変わっていた。  
ガルムはこれまでの時間を取り戻すかのように彼女の唇を求めた。  
はじめは舌が入ってくるのに驚いたようだったが、ドロシーは抵抗せずに彼を受け入れ、その  
力強さから背中へ回された腕にすっかりと体を預けてしまっている。  
少女は口中で自分を求めてくるガルムにおそるおそる舌を差し出したが、やさしく、時に  
激しく絡ませてきてその温かさとうっとりとするような心地よさに、気が遠くなる思いだった。  
彼の唇はさらに顎から首筋へと及ぶ。  
体がゆっくりと後ろに倒されたのを感じたが、少女はどう反応したらいいのか分からず睫毛を  
震わせて彼にしがみついた。  
下に敷かれた状態で、ただガルムの求めるままに唇を重ね合う。  
「ドロシー」  
髪を、頬を撫でながら時折自分の名を呼ぶ声に胸が締め付けられるようで、彼女は目を開く  
ことも出来ない。  
 
大きな手が首筋を撫でると、そのまま鎖骨のくぼみを伝って胸へと動いてゆく。  
「――っ!」  
他人の手が自分の体に伸びてくる感触に、ドロシーの体がすくんだ。  
「…すまん」  
察して手を引けば彼女は首を横に振って気にしない、との意を示した。  
ガルムは耳元で囁くとまた顔を近づける。  
「いかんな。つい性急に進めたくなってしまう」  
「…ん……っはぁ……」  
合わせる唇からため息が漏れた。  
「でも…私は望まれるのが嬉しいんです。こうして…触れ合っているだけのことがどれだけ  
幸せなことか…」  
ガルムの手を取り頬へと抱きとると、その指先はやさしく彼女の耳から顎にかけての線を  
辿っていった。  
 
暗がりでガルムが困ったように笑う。  
「参った…自分はもう少し抑えがきくと思っていたんだが」  
自嘲するように言ったのは、自分に呆れながらもこれ以上我慢することを放棄したからかも  
知れない。  
「何のためにお前を俺から引き離そうとしたのか……どうしようもないだろう?一度好きだと  
告げてしまったら、こうして欲望のままにお前を望んでしまう」  
言った端から自身の言葉を覆すように指の後を舌が這い、耳朶を甘噛みする。  
「…ぁっ…ん」  
「俺の自制心などあって無いようなものだ」  
耳元での呟きにぴくんと揺れる肩。  
耳朶からさらに耳の裏へ、中へと彼女の反応を楽しんだ。  
「この先を…欲しいと言えば許してくれるか」  
「あの、わ…私……」  
率直な言い方が彼らしかった。  
 
顔の横で囁かれた低い声は誘惑的で、普段ならとても口に出せないような言葉を彼女から  
引き出した。  
「私……知らないことはみんな…ガルムさんに、教えて…欲しいと……」  
「そうか…」  
彼は少しだけ口の端をあげると、その体の下に手を差し入れ彼女を抱え上げた。  
「きゃっ!」  
急な事に目を大きくした彼女の頬に小さく口付ける。  
「ここは狭すぎる。俺の部屋に行こう」  
その言葉に、しがみつくドロシーの心臓はいっそう大きく鳴った。  
 
 
ガルムは居間を出ると廊下を進み、彼女を抱いたまま器用に自室への扉を開けた。  
窓の位置からか、彼の寝室は居間よりも夜に近い色に染まっている。気にする間もなく暗闇に  
沈んでしまうだろう。  
「灯りは…無い方がいいか」  
彼女が恥ずかしがるだろうと思っての呟きだったが、胸元から思いがけず否、の答えが返って  
きた。意外に思いながら少女をそっと寝台に横たえる。部屋を出て行くとガルムは小さな  
燭台を持って戻ってきた。  
 
 
既に火は灯されて、あたりを暖かい色に染めている。  
小さい灯りでもドロシーが一瞬目を細めるほど眩しく、それですっかり暗がりに目が慣れて  
いたことを知った。  
 
彼は部屋の入口に燭台を置くと、いつも自分が休む場所へと腰をおろした。  
寝台に体を起こした少女と目が合う。  
「ガルムさん?」  
灯りに映る彼の顔が何か考え込んでいるように見えてたのだ。  
ドロシーが声をかけると伸ばしたその手を不意に掴まれる。指先に口付けされ、これから  
始まるであろう出来事に彼女は頬を染めた。  
 
先程より体を固くしている少女に緊張をみたガルムは、落ち着かせるように頭をそっと撫でて  
やった。  
後頭部で結いあげられた薄金色の髪が、彼の目には背後の闇に透けて白く輝いているように  
見えた。髪留めに指をかければ音をたてて外れ、豊かな髪がドロシーの背中を覆いつくす。  
大きな手がさらさらと髪を梳くと、細い肩にかかった。滑らかな手触りのそれは上質の絹糸の  
ようだ。  
彼女を飾る金のふちどりのせいかいつもより随分大人びて見え、髪型が変わっただけで  
これほど印象が変わるものかと、ガルムは息を呑んだ。  
いつもおさげにしているか一つに纏めて結い上げているかで、そろそろ片手で足りなくなる  
程の付き合いになるが彼女が髪を下ろしている姿を見るのはこれが初めてだった。  
 
「こんなに長かったのだな」  
「これでも伸びるたびに少しずつ切ってるんです」  
「あの絵と、同じくらいか?」  
「――!……ええ、そうです。…母とそっくりになったって、お兄ちゃんが言うので」  
彼の手はドロシーの髪を弄んでいる。  
「似てると…似てるのが……なんて言うか、家族の証明みたいな気がして。だって私、本当は  
違うから。血が…繋がってない……きゃ…!」  
寂しそうに俯く彼女の頬を大きな手がやさしく叩いた。  
「ガ、ガルムさん?」  
「つまらんを言うな」  
そのまま耳の両側からドロシーの頭を捕まえて互いの額をくっつける。  
「そんなこと誰も気にしていないだろう。アルミラも、レオンも、俺も。それにお前が一番  
気にしてる小僧…フィールとて、そんな事に構わずお前に愛情を注いでいる。その位見て  
いれば分かる。なのに生まれがどうだこうだと――そんな事を奴が聞いたら泣くぞ。妹に信頼  
されてないのかとな」  
彼女の目を見てゆっくりと言い聞かせる言葉には、若者を諭す重みがあった。  
 
ドロシーにもそれは分かっている。でも、やはり時々不安になることがあった。  
神狩りにあう前の何も知らない頃に戻りたいとすら思ったが、それを口に出したことはない。  
ガルムが言ったように、兄からの愛情を疑うようことのような気がして出来なかったのだ。  
 
彼女の顔が僅かに歪む。  
「……っ」  
「泣くなよ。俺に早速誓いを破らせるつもりか?」  
ドロシーはその言葉に首を振る。  
勝手な言い分のようだが、彼の声はやさしかった。  
涙をこらえる彼女の額にちゅっと唇を押しつけ、睫毛に滲んだ涙を袖で拭ってやる。  
「気にかかることがあるなら何でも我慢せず俺に言えばいい。だから一人で悩んで、泣くな」  
「はい……ごめんなさ…んっ」  
彼の舌が彼女の唇を舐め、続く言葉を遮った。  
謝罪を拒否する為か、少女の濡れた唇の動きに誘われたのか。  
そのまま舌を差し込み深く口付ける。  
重なる唇から艶めかしい音が漏れ、それに後押しをされながら、ガルムの手が彼女の背中へと  
動いた。首から背の中ほどまで交差するように結ばれている紐をするりとほどくと、そこから  
手を滑り込ませ、うなじに触れた指をそっと下げてゆく。大きな手を届く範囲、薄い肩から  
肩甲骨の曲線をなぞって腰まで這わせていった。  
素肌の上を他人の手が動く初めての感覚に、ドロシーは彼の指先が動くたび肩を縮めた。  
 
「ん……っふ……ちゅ…」  
彼女の吐息はすべてガルムが飲み込んでしまう。  
ガルムは片手で彼女の体を支えながら寝台にそっと押し倒した。時折音を立てながら吸い、  
絡ませ、彼の舌は飽かずに彼女の口腔を探っている。  
唇を重ねながらガルムは自身の上半身を覆う衣服を後ろ手に引き抜いた。  
逞しい体が露になる。  
ついた筋肉の見事さは、彼が御使いであった時の名残だろうが、それとは別に今でも体を  
鍛えているのかもしれない。  
 
ガルムの頬に伸ばされた彼女の指先は冷えていて、熱くなった顔に心地良かった。  
顔を離せばまっすぐ自分へと向かってくる視線に気恥ずかしさを感じて、ごまかすように  
彼女の瞼へも口付ける。  
「そんなに見るものではない…」  
「見ていたいんです、ガルムさんを。それに、私を…私のことを全部、知って欲しい……」  
だからこその灯りだと、そういう意味らしかった。  
ガルムは彼女らしからぬ大胆な台詞に内心驚きながら、胸元の釦に手をかけた。  
鳩尾のあたりまであるそれをゆっくりと外してゆくと白いレースが目に入る。繊細な模様が  
鎖骨の下を飾っていた。その中心にも縦に小さなボタンが並び、下はどこまで続くのか、服に  
隠れて終りまでは見えない。  
前後を緩めた服は首筋から肩へ、下着の肩ひもごと引き下げそこを露出させた。明らかに  
なった白い肌に躊躇いなく舌を這わせ、赤く目印をつけてゆく。  
見える部分に行為の跡を残さないのは彼女と彼女の周囲の者達への思いやりだった。  
 
レースが隠す胸元へと顔を寄せながら手は彼女の足元へと伸びていた。  
ひらひらといつも膝の下まで隠している部分から撫で上げるように服をめくってゆく。そこ  
にも上と同じ白い透かし模様が見え、釦は腰の下あたりまで途切れなく並んでいるようだった。  
視線を彼女の顔に向けたまま、指先に神経を集中させる。  
 
彼女の脚は細く、滑らかだった。  
膝裏をもって腿を抱えるように足を折らせる。  
「んっ……ふふっ」  
「どうした」  
ドロシーの口から漏れた笑い声に、脚に置いた手を動かしながら顔をあげる。  
「あの…なんだかくすぐったくて……」  
「くっくっ……そのうち笑ってる余裕はなくなるぞ?」  
笑い含みで顔を戻すと彼女の喉を柔らかく挟むように噛んだ。胸の中心に跡を残しながら、  
両の手で彼女の衣服をさらに引き下げる。  
 
「余裕なんか、ぁ…っ……もう、とっくに…っ」  
胸を外気に晒され、彼女の肌が粟立った。形の良い胸の先端はすでに立ち上がっている。  
「着痩せするたちなんだな」  
「え?…っひゃ」  
大きな手が胸の輪郭を指でなぞってゆくのに、ドロシーは反射的に声をあげてしまった。  
腕や脚を触られるのとは違う感覚に、彼女はほんの少し怯えを見せる。  
「きれいな、形のいい胸だ」  
彼に褒められるのはとても嬉しいことなのだが、素直に喜びを見せるには躊躇われるところだ。  
そんな事を思ったのもつかの間、次の瞬間には彼女の頭はそれどころではなくなっていた。  
「ぅ…んんっ……」  
胸をやさしく揉まれ、眉をひそめる。  
つい、やだ、と拒否してしまいそうになるのをまとまらない意識の彼方で飲み込んだ。  
 
華奢な彼女にしては大きめの胸。  
ガルムはそこに置いた手を緊張を解くようにゆっくりと動かした。  
手に余ると言う程ではないが、彼の大きな手にしっくりとくる量感が心地よかった。  
表情を窺いながら指先を頂上へ近づけてゆく。徐々に固く閉じた目元が緩んで、自分の手に  
慣れてきたのを確認すると、その部分を転がすように、摘み、ひねるように刺激した。  
「あっ…や……!」  
思わず背けた彼女の横顔は艶めいていて、美しかった。  
 
下方から固くなった部分まで舌先でつ、となぞってやると彼女の体がひときわ大きく揺れた。  
そこを舌が弄っている間も胸は大きく上下し、小さく開いた唇からは短く息が漏れる。  
既に口へとその座を明け渡した手が再び大腿へと動いていた。そのまま上へ進み下着に  
触れるとその上から弾力のある丘陵を揉みしだく。  
彼女はそれに腿を引き付けるように身をよじった。  
この辺りが弱いのか、それとも胸への刺激が堪らないのだろうか。無意識にだろうが彼女の  
腰が逃げるよう浮いたのに機会を得て、そのまま下着を引き下ろした。  
これで彼女を隠すものは引き下げ、めくり上げた服が留まっている腰のあたりだけになった。  
 
全て脱がせるには、腰で結ばれた帯が邪魔になっている。飾りがついて面倒そうな結び目を、  
彼は器用にほどいていった。抵抗しない彼女の足元から取り去る。  
しかし服と一緒に剥ぐ予定だったの下着は腰のくびれに沿って細くなっていたため、足元から  
抜いた時に残ってしまった。  
白い布地からはうっすらと彼女の腰部の曲線が透けて見え、かろうじて引っかかった腰骨の  
あたりから肝心な部分へと僅かな範囲を隠していた。  
 
「細かいな」  
ガルムが一直線に並んだ沢山の釦に弱音を吐いた。  
「着替えるたびにこんなに釦をつけたり外したりするのか」  
嘆息する彼にドロシーはまたもくすりと笑い声をもらした。  
きちんと等間隔に並ぶ釦は、それだけで乙女心をくすぐる装飾になるということが分からない  
ようだ。彼は釦などその機能を果たせばよいとだけ考えているに違いない。必要以上に小さな  
理由も、やたらと間を詰めて並んでいる理由も言わなければ(あるいは言っても)理解  
できないだろう。  
「また笑ったな?」  
ガルムはやさしく睨むと彼女の立ちあがっている膝に口付けた。自身の体をずらし、手を  
ずらして彼女の足首を掴まえると目の前に持ち上げてその指先を口に含む。小さく奇麗な爪は、  
夜目にもつやつやと輝いて、桃色の貝殻を飾っているようだった。  
彼は丹念に指の一本一本を舐めると足裏から土踏まず、やわらかな踵と舌を這わせていった。  
くるぶしにも吸うように口付け、ちりっというわずかな痛みと共に跡を残す。  
徐々に上へと登ってくる彼の顔に不安を感じ、ドロシーは脚の付け根の影になっている部分を  
白い下着で隠すように手のひらで押さえた。  
 
ガルムの愛撫によって彼女の体の奥が熱を帯びてくる。  
手で隠している胸には寂しさを感じていたが、それを察したのかどうか。彼は太腿の中ほど  
まで来ると一旦顔を離し、彼女の上へと戻った。  
 
彼は桃色の愛らしい唇を何度もついばみながら最後の仕掛けへと指を伸ばし、片手でどんどん  
釦を外していく。下を押さえる彼女の腕をよけ一番下の釦に手をかけると、下着の合わせ目が  
悩ましい曲線を滑り落ち、へそから下の部分があきらかになった。  
前を完全にはだけさせると再び首筋を辿って舌を下方へと移動させてゆく。両手で胸を、腿を  
愛撫しながら腹部へたどり着くと、真ん中のくぼみを舌の先端でくすぐった。  
「きゃ…っ…」  
触られるたびにぴくんと反応するのを彼女はこらえたいようだった。跳ねる体に固さがみえる。  
彼としては恥じらいに伏せた目や染まった頬にいよいよそそられ、喜びを覚えるのだが。  
 
舌に先んじて彼の指が淡い草むらに到ると、そこは一筋一筋の細さからふかふかと心地よい  
手触りがした。根元を梳くように撫でたそこにはなだらかに中心へと向かう切れ込みがあり、  
彼の指は吸い込まれるように脚の間へと動いてゆく。  
秘所を覆う繊毛はしっとりと濡れていたが男を迎えるにはまだ早い様子だった。  
 
何より初めての彼女に無理をさせたくないガルムは、指の腹でそっと彼女の中を探ってみる。  
「……んっ…」  
彼女は秘密の場所を暴かれる恐怖と、恥ずかしさ、彼の指がもたらす言いようのない感覚に  
膝を立て、僅かに開いていた太腿をこすり合わせるように閉じてしまった。  
そのせいで彼の掌はすっぽりと彼女の局部に締め付けられてしまう。  
指を入口にいくらか沈めたまま、溝に沿って往復するように動かすとドロシーは背を反らす  
ように腰を浮かせた。  
 
「んん……は、ぁ…」  
ドロシーの表情が痛みを耐えるものになった。ぎゅっと眉をよせ、目を閉じる。  
そんな彼女の唇をついばみ、吸ってと痛みから気を逸らすようにしながら、ガルムの指は  
少しずつ奥を目指した。  
蜜が内部を満たしている。  
僅かに沈めては、ぬるりとしたそこを指でかきだすようにしながら中を広げてゆく。  
そのたびに彼の腕をつかむ少女の手に力が入り、痛みを流そうとしているのが分かった。  
片手は相変わらず彼女の肢体を這っているが、そんなものでは体の中心を裂いてゆく痛みを  
かき消すことは出来ないらしい。  
 
手を止め彼女に口付けると、柔らかい唇がガルムのそれを挟むように迎える。そっと触れ合う  
だけのものだったが、彼女はとても嬉しそうに笑った。  
そのかわいらしい表情、上気した肌に彼の本能はいよいよ強くドロシーを求めた。指が再び  
動き、彼女の中をほぐしてゆく。  
途中指を増やせば彼女の呼吸は乱れ、短くついている息をぐっと止めたりと、男には分から  
ないが相当な痛みがあるのだと感じられた。  
 
「あまり硬くなるな…と言っても無理か」  
理性ではどうにもならない事もある。こんな時ではなおさらだ。どうしても体に力が入って  
しまうのだろう。  
ガルムは一旦彼女の秘所から手を離すと、脚を開くように引きよせ太腿に唇を落とした。  
音を立てながら膝の方へ移っていくも、彼の手は腿の内側を撫でている。  
少女がゆったりした感触に慣れ体から力が抜けるのを見ると、膝のあたりを持ち上げるように  
して、彼は横に置いていた自分の体をその脚の間に移動させた。  
先程の続きとばかりに細い腰に手を這わせては唇の跡を残してゆく。  
「……っん…ふふっ…」  
そのあたりが弱いのか、彼女はまたもくすぐったそうな笑い声をこぼした。  
 
太腿から桃のような尻を撫で上げる。股関節の部分を彼の舌がちろちろと舐め、あるいは  
ほんの少しの痛みを連れて下りていった。  
彼女の体に緊張を与えながら。  
彼女の体をほぐしながら。  
 
ドロシーは太腿の上を動く彼の手の上に、自分の掌を重ねる。大人と子供程に大きさの違う  
手だったが、爪で引っ掻くようにしてガルムの注意を引いた。  
「ぁ……っふ…、ガルムさん…っ」  
それ以上下がったら見られるだけでも恥ずかしい、指で弄られるのが限界の所に、彼の舌が  
届いてしまう。  
彼女はガルムに戸惑いの目をむけた。  
男女の性愛とそれに伴う行為について、基本的な知識しかないのだ。  
「あのっ、それ以上、は…」  
不安そうな声にもガルムはちらりと彼女を見上げただけで、そのまま茂みの中へと舌を沈めて  
いった。  
「や……!」  
あたたかい、湿ったものが彼女の敏感な突起を刺激する。  
「……っ、や、やだ…んんッ……だめ…っ!」  
なんとか聞いてもらおうと声をあげるが彼の与える刺激に途切れ途切れになってしまう。脚の  
間にあるガルムの頭をどけようと手をやるがあっさり捕えられ、脇に追いやられてしまった。  
「…やぁ…っ…ガルムさ……」  
嫌がる彼女の声を聞いてもなお彼の舌は彼女の蕾を苛んだ。唇と舌で柔らかく圧迫し、彼女の  
官能を呼び覚ます。ひだの上を這い、重なった部分を丹念に愛撫し、いよいよ潤ってくる  
通路の奥へと差し込む。たまらずくねる腰をしっかりと押さえながら、ぬるつく内部を舐め  
あげる。  
「…ん、…ふぁ……」  
ガルムが口をつけた部分から時折蜜を吸う音が聞こえ、それもまた彼女を追い詰めた。  
室内に満ちる色めいた空気に頭がぼうっとするのに、彼が触れる部分だけはどんどん敏感に  
なっていった。  
 
舌に少女の花弁がひくひくと震えたのを感じ、ガルムはやっとそこから顔を離した。  
来た道を戻るように下腹部から胸へ、首筋へと舌の感触を覚えさせるように愛撫する。  
熱をもった頬に唇を落としながら、彼は下ばきを寛げ脱ぎ捨てた。  
 
下に敷いて引っ張らないように彼女の長い髪を脇へと避けてやる。  
彼女の額に唇を落としながら、彼は立ちあがった自身をドロシーの花弁へと寄り添わせた。  
先端に彼女から溢れる蜜を纏わせるように動かす。  
入り口を押し込められるような感覚に、彼女は小さく肩を震わせた。  
「……っ、あ……」  
ガルムの肩に置かれた手が爪を立てる。きちんと摘まれた爪でも力を入れればそれなりに  
食い込むし、痛いものだ。しかし彼はそれには構わず指で十分慣らしたはずの場所を少しずつ  
進んでいった。  
温かな体内は彼を迎えるのに不足ない状態だったが、未通の通路はやはりきつく、気を抜けば  
ガルムの方が挫けてしまそうだった。  
開かれた脚は彼が動くたび、痛みで反射的に閉じようとしてくる。  
自分の腰を締め付けるようにしてくる太腿を、彼はやさしく撫で、さすってやった。  
その意味が通じたのか彼女は脚を広げるように伸ばしたが、やはり脚の先までのかたさは  
とれない。  
 
「は…ぁっ、ごめんなさ……」  
豊かな胸を上下させながら潤んだ瞳を上にいる男に向ける。自分が爪を立てていたことにも  
その時気付いたようで慌てて逞しい肩からする、と手を離した。  
だがガルムはその腕を捕まえると自身の背中へと回す。  
「しがみついていろ。爪だっていくら立ててもいい。その位なんでもないからな」  
ガルムは微笑むと、汗で濡れた額に口付けた。  
「だから、すまん…もう少し耐えてくれ」  
背中に置かれた少女の腕が自分を引き寄せるのを感じた。  
「ん…っ…大丈夫、です…このまま……」  
痛みに耐えるドロシーのけなげな言葉に励まされ、ガルムは唇を重ねながらさらにじわじわと  
彼女の中へ身を沈めていった。  
 
最奥まで挿入すると彼は小さく息をついた。  
「大丈夫か?」  
「ん…っ……はい…」  
涙をたたえた瞳で笑いかけてくる彼女にすぐにも衝動をぶつけたくなる、さすがにそれは  
思いとどまった。  
繋がったまま動かずに、少女の桃色に染まった顔中に口付ける。  
「ごめんなさい」  
「ん?」  
「唇…切れちゃった……」  
彼女の手が下唇に触れた。  
言われて彼女の指ごと舐めれば確か金臭い味がする。喪失の痛みに耐えかねて歯を立てられた  
らしい。  
ガルムは小さく笑って鼻の頭に噛みついた。  
「お前の印だと思えばいい」  
目元をほんのりと染めて恥ずかしそうに男を見ると、ドロシーはにじむ血を舌で丁寧に  
舐めとった。  
 
ガルムの頬に置かれた手が顎を撫でるとそのまま下におりていき、厚い胸板の上で止まった。  
「背中、痛くないですか?…ガルムさん、背が…高いから……」  
彼の背を丸めるような姿勢が気になったのだろう。  
「ふむ……このまま少し動いても平気か?」  
彼女の体がまだ慣れていないかと気遣ったが、ドロシーはもう一度微笑み、頷いた。  
ほっそりとした腰を抱くと、繋がったまま起き上がる。寝台に腰掛け、向かい合うような  
形になった。  
 
「ふぅ…」  
さらに引き寄せ自分へもたせかけると、動いた時に密着した部分が擦れあい、彼女の口から  
かすかな喘ぎ声がもれる。  
「あっ、ん…」  
ドロシーは彼の太腿へ跨るような姿勢に恥じらい下を向くことが出来なかった。せめて上半身  
はと少女は横を向き彼の胸を遠ざけ距離をとろうとする。  
しかしうなじから下方へと背の中心を辿ってゆく指に、たちまち体の自由を奪われてしまった。  
体を反らし上を向く彼女の唇にガルムのそれが重ねられる。  
「…ちゅっ……はぁ……」  
何度も角度を変えてついばんでは、彼の体温がドロシーの歯の根、口蓋を撫でた。  
 
彼女は体の奥がまた熱をもつのを感じて、無意識に身をよじらせた。  
やわらかな胸が押しつけられる感触に、ガルムの、彼女の中に入ったままの部分が一層昂る。  
ちょうどいい位置にある豊かなふくらみに手をかけると、両手で外縁から頂の寸前まで、  
焦らすように揉みあげた。  
彼が自在に形を変えるその手触りを楽しんでいると、細い指がその手首を掴まえる。もちろん  
力ではかなわないことを知っているだろう。  
「あの…ガルムさ、あ……っ!」  
ひたすらに避けていた先端を指先でひねられ、言葉が途切れた。  
つまみ、捏ねるように刺激しながらも、彼の大きな手は周囲も抜かりなく愛撫している。  
「何だ…」  
低い声が彼女の耳元をくすぐった。  
「ん…ふ……や、あっ……恥ずか、しい……っ」  
眉をひそめ、頬を紅潮させて喘ぐドロシーの視界に、彼が口角をあげるのが見えた。  
「俺も、恥ずかしい」  
聞き違えたかと、耳を舐めているガルムの顔を振り返る。  
驚いた顔で自分を見る少女に彼は苦笑し、ちゅっと音をたてて彼女の頬に唇を押しつけると  
素直な気持ちを告白した。  
「少年に戻ったみたいだ。こんなに……欲しいと思うなんてな。今はただ、この欲求に正直で  
いたい」  
もう一度笑うと彼女の体を抱えなおした。  
「――動くぞ」  
 
 
「ぁ…っああ…ッ」  
再び押し倒すと、今度は衝動のままに腰を動かした。  
彼女の声が貫かれる痛みから来るものか、それとも快感から来るものか、彼には判断が  
つきかねていた。  
しばらく繋がったままだったので大分慣れただろうと思ったが、やはり動かれるときついの  
だろうか。  
自分を煽る甘やかな喘ぎ声にガルムは一層強く彼女を突き上げた。彼の勢いを削ぐためか、  
細い腰がしなる。抽迭を繰り返せば彼を捕まえて離さないと思えるほどに締め付けた。  
ドロシーの秘所からあふれる蜜が彼の律動に合わせて淫らな音を立てる。  
淫靡な空気から目を背けるように、彼女は横を向くが彼はそれを許さなかった。強引に上を  
向かせて唇を貪る。舌を絡ませあい、吸って、互いの口中が互いの味で満たされる。  
少女の潤んだ瞳は切なさに揺れて、大本にある感情が彼への愛であることが垣間見えた。  
 
限界が訪れる。  
体内にあるものの変化にそれを悟ったのか、彼女の腰が一瞬震えた。  
 
細く折れそうな腰をさらに強く引き寄せると、ガルムは彼女の奥に昂りと感情を吐き出した。  
 
 
「ん……」  
体がわずかに揺れてドロシーは目を開いた。  
「!」  
自分が裸のままガルムに寄り掛かっているのに気付き、首筋まで朱に染める。ほんの少しの間、  
眠ってしまったらしい。彼が身動きしたので目を覚ましたのだろう。  
 
彼女は体が見えるのを嫌って掛布を手繰りながら彼から身を起こした。  
ガルムは彼女を追うように上半身を寝台から離すと、細い肩を抱き寄せ頬に口付ける。  
「もう少し休んでいけばいい…それとも帰るなら、送っていくが」  
初めての経験に疲れただろう彼女の体を思いやって勧めるが、あまり帰りが遅くなっても  
家族が心配する。  
「か、帰ります……もう遅いですし、お兄ちゃんが心配しますから」  
「そうか」  
「………」  
「………?」  
ところが帰ると言う割に一向に服を着けようとしない。  
どうしたのだろう、と思っていると胸元で掛布を握ったまま、彼女は言いにくそうに申し出た。  
「あの…むこうを向いて頂いても、いいですか?恥ずかしいので……」  
「ん?ああ。そうか、すまん」  
乙女の純情に気がつかなかった彼は即座に反対へ体を向けた。  
さっきは見てほしいと言っていたのに、今は見られたくないと言う。いったいどういう事で  
あろうか、と内心首をひねりながら。  
 
 
「ドロシー!!心配したじゃないか!」  
家に帰るとフィールは珍しく本気で怒っているようだった。  
ガルムに送ってもらい、玄関を開けようとしたところで、後方から声をかけられた。  
彼女を探して外にいたらしい。  
「ご、ごめんなさい…」  
「こんな夜遅くに……!ガルムと一緒ならそう言っておくように、以前注意しただろう?トトに  
聞いてもそっぽを向いて答えてくれないし……」  
「ふん、何も言う事はないわい」  
トトは約束通りドロシーを迎えに行ったものの、二人の雰囲気を察して邪魔をしないように  
帰ってしまったのだ。そういう意味では主人思いの猫である。  
それについて何も語りたがらないのは、二人の中にまだ納得がいっていないからだろうか。  
 
「でも、ガルムさんの所に行くって話はしてあったでしょう?」  
「こんなに遅くなるとは言ってなかっただろう?」  
言い訳する妹の言葉にも聞く耳なし、といった態度だ。  
「もう子供じゃないんだから、そこまで厳しくしなくてもいいじゃない!」  
「ばか!子供じゃないから心配するんだろう」  
こんな夜更けに外を歩いて彼女の身に何かあったら後悔では済まない。妹があうかもしれない  
どんな悪い可能性も彼は排除しておきたかったのだ。なのに本人がこれでは周りがどれだけ  
気を遣っても何にもならないではないか。  
 
そういうフィールの気持ちが手に取るように分かったが、あえてガルムはドロシーをかばった。  
かばう義務があった、と言ってもいい。  
「待て」  
叱られる彼女を背に隠すようにして立つ。  
「これは俺が怒られるべきだろう。俺が引きとめたのだ」  
「ガルムはいいんだよ」  
「いや、よくない。彼女の帰りが遅くなったのは俺が悪かった。謝ろう。しかし彼女のことは  
これから俺が責任を持つ。彼女の兄として、保護者として知っておいてもらいたい」  
 
「え…責任……?」  
その台詞から察するに、どうやら二人は上手く纏まってくれたらしい。しかし責任とは。  
責任を取らなければならないようなことをしたと言うのだろうか。  
知りたいけど知りたくない。  
フィールの頭は急に回転が鈍くなったようで、ぽかんと口を開けたまま二人を交互に見た。  
「え…?」  
「自分のしたことは理解している。安心するがいい」  
「し、したこと!?」  
「やだ……!ガ、ガルムさん…!!」  
ドロシーは顔から火が出るかという思いだった。  
彼の服を握りしめた手まで赤い。  
兄と目を合わせられないのかガルムの背に隠れたままだ。  
 
こんな風に言われたら二人の間に何があったのか、察しがついて当然だろう。  
応援していたとはいえ余りの展開の早さに、フィールは視界が傾いたように感じた。  
もう少し段階的な進め方は無かったのだろうか。いや、二人が仲良くなってからの年月を  
考えれば、これでちょうどいい位なのかもしれない。そう気を取り直して再び妹に目を向ける。  
彼の妹はガルムの後ろで恥ずかしそうにこちらを窺っていた。  
「そっか…そっかぁ……。うん、でも、良かった…良かったよ。ガルム、ドロシーをよろしく」  
はは、とフィールは力なく笑い、頭を掻く。  
ガルムにきちんと向き直って挨拶をすると彼も頷いた。  
「任せておけ」  
「あの、ありがとね、お兄ちゃん」  
彼女は大きな背から顔を半分だけのぞかせて、以前受けた助言に改めて礼を言った。  
 
「そうそう」  
フィールは一瞬家を振り返り思い出したように言った。  
「アルミラが来たんだよ」  
「アルミラさんが?どうして?何か用事でもあったの?」  
まだ照れが残っていたが、話題がそれたので彼女もあえて気にしていない風に聞き返した。  
その理由に全く心当たりが無かった為、兄に用があったのだと早合点したが、フィールの  
口から出た言葉は彼女を驚かせた。  
「何かって…アルミラ、ドロシーと約束してたんだって言ってたぞ。でもお前は家にいないし、  
いつ帰ってくるかもわからないしで……忘れてたのかい?」  
「えっ?えっ?」  
彼女は困惑している。いったいいつそんな約束をしたのか記憶にないらしい。  
「本当…?何だろう…私、全然憶えてない……。ど、どうしようお兄ちゃん。なんの約束を  
したのかアルミラさん言ってた?」  
おろおろと手を彷徨わせながら兄に尋ねる。  
「この間ガルムの家で集まっただろ?」  
「うん」  
「その時に、アルミラにあのお菓子の作り方を習うって話をしたらしいんだけど」  
「そういえばそんな事を言っていたな…」  
ガルムが頷きながら呟いた。  
あの時彼も一緒にいたから思い出したのだろう。  
「僕が片付けをしてた時だって言ってた。今日の夜に来るって約束だったからって。ドロシー、  
お前……あの時やっぱり酔っ払ってたんだね」  
「そのようだな。道理でなかなか目覚めなかったはずだ」  
くすりと笑うその声にドロシーは頬をほんのりと染めた。  
「ドロシー、あの時アルミラが何を作ってきたかは憶えてるかい?」  
「もう、お兄ちゃんってば!いくらなんでもそれくらい憶えてます!」  
「ごめんごめん。…それでね、ドロシーがあんまり帰ってこないものだから、『帰ってこない  
ものはしょうがない。せっかく持ってきた材料をまた持って帰るのも面倒だし』って言って、  
作っていってくれたんだよ。アルミラ、また改めて日を決めようって言ってたよ」  
「そっかぁ…良かった」  
それほど怒ってないようなアルミラの様子に、ドロシーはほっと胸を撫でおろした。  
 
「ガルム、わざわざドロシーを送ってきてくれたんだし、こんな夜中だけど、良かったら家で  
お茶でも飲んでいかないかい?アルミラの作ってくれたお菓子を一緒に食べようよ」  
「いや、遠慮する。出がけに軽くつまんで来たからな」  
「そうかい?…じゃあお土産に持って帰って。二人じゃ食べきれないし」  
フィールはそう言うとガルムの返事を待たずに家へ入って行った。  
 
ドロシーが傍らにいる男を見上げて改めて声をかける。  
「また今度だって…ガルムさんも一緒につくりませんか?」  
彼と一緒に料理するのが大好きな少女は以前と同じ誘いをかけたが、それに対する答えも  
やはり以前と一緒だった。  
「いや、遠慮する」  
「そうですか…」  
やっぱり、と少し期待していた彼女は肩を落とした。  
「作ったら俺に食べさせてくれるのだろう?」  
「は、はい!」  
それを楽しみにしているような言い方に、彼女は勢い込んで答えた。  
こういうところは昔と変わらない。ガルムをほのぼのとした気分にさせる。しかし。  
 
「それに」  
ガルムの顔が接近し、二人の唇が重なる。  
「ん…」  
一瞬だけ触れ、離れたそこをガルムの指が愛おしそうになぞった。  
「いまは甘いものはこれで十分」  
 
今の彼女は立派な乙女だ。  
触れた部分からうっとりと彼をとかしてゆく砂糖菓子のような娘。  
 
 
再び玄関の扉を開く音がする。  
顔を真っ赤に染め俯く彼女の背後で、その従者が毛という毛を逆立ててガルムを睨みつけて  
いた。  
 
 
   
〜おしまい〜  
 

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