そっとジュジュの上着に手をかける。  
今日はそんなに寒くないせいか、こんな夜中に出歩いていたというのに薄手のシャツをさっと  
羽織っただけの姿だった。  
前も止めないでいたから左右の合わせの部分を持って後ろへと脱がせ足元に落とした。  
腰に手を回しぐいと抱きよせて首の後ろに手を添える。  
噛みつくように唇を重ねると彼の舌は先程とは別人のように激しく彼女の口腔を蹂躙した。  
 
ジュジュもフィールの首に腕を絡める。  
唇も身体も接していて、なお近づきたいという気持ちがそうさせるのかもしれない。  
彼の指が一つ一つ背中の釦を外していくのが分かったが、自分で言ったとおり抵抗する気は  
なかった。  
今度は前へと袖を抜かれるのに従っい素直に腕を下ろす。  
ひとつながりの服がわずかな衣擦れの音とともにジュジュの体から落ちた。  
 
ひらりと手に触れるのは柔らかな布地。  
下着姿になったのを知るとフィールはジュジュの手を引いた。数歩も離れていない寝台に  
隣どうしに腰掛ける。  
だが座ったと思う間もなく彼の手が少女を寝台に押し倒した。  
「……!」  
いきなりすぎる恋人の動作にジュジュの肩が緊張で硬くなる。  
顔中に口付けをされてもどういう反応をすればいいのか分からずなすがままだ。  
空いている自分の両手のやり場にも困った。彼の背に回していいのかどうか。服を脱ぐなら  
邪魔になるだろうと余計な気をまわし、結局体の脇に投げ出している。  
下着を残すのみの格好でも予め灯りを消していたおかげでそれほど恥ずかしくはなかった。  
ただ薄い布一枚隔てただけで体を触られるのにはさすがに無心ではいられない。くすぐったい  
ような、気持ちいいような。  
眉をひそめながら笑みをこらえる自分に、初めての行為とはもっとおごそかで神聖なものでは  
なかったかしらと内心首を傾げた。  
そんな気持ちになるのも彼女の照れの表れだろう。  
 
体ごと壁の方に移動させられて慌ててジュジュは声を上げた。  
「待って……靴……」  
脱がなきゃと続く彼女の台詞を聞くより早くフィールが少女の脚をとった。靴を脱がせると  
これも寝台の下に落とす。  
顔はジュジュに向けたまま、彼は脚にある手を滑らせた。肌の感触を楽しむように往復させる。  
自分の方に持ってくると足の甲にそっと口付けた。  
「可愛い」  
「や……ばか……見えないくせに」  
脚を持ち上げられてつい内股になる。  
「褒めれば何でも喜ぶと思ってるんでしょ。あたしだってそんなに単純じゃないんだからね」  
「どうして?可愛いのに。夏に靴を履いてなかったことがあったよね?」  
「ああ……」  
言われて少女は思い出した。  
ドロシーが草履の編み方習ったんですよ、と皆に編んであげていたのを。  
端切れを使って作るのだが、彼女から桃色系で統一した女の子らしいのを一足もらったのだ。  
とても気に入ってこの夏はしょっちゅうそれを履いていた。  
 
「あの時から可愛い甲だなあって思ってたんだよね」  
「ほ、ほんとに?」  
可愛い足の甲なんて表現を聞いたのは初めてだったから思わず聞き返した。  
「うん。ずっとキスしたいなって思ってた」  
「な……!」  
「白くて、小さくて……爪だって花が咲いてるみたいだもの。自分じゃ分からないのかも  
知れないけど、凄く色っぽいよ」  
ジュジュは返事が出来なかった。  
女を主張しつつも自分は色気方面にはどうも強くないと思っていた。だが彼にはそれでも  
感じるものがあるらしい。  
     
改めて自分が好きな男を不思議に思った。  
一体どんな顔でそんな台詞を言うのだろう。  
フィールに褒められるのは慣れているが、こんな色めいたことを言われたことはなかったので  
少しだけ灯りを消したことを後悔した。  
 
彼は押し黙った少女の足元に再び顔を落とした。  
食むような口付けに交じって時々舌が肌を撫でる。その度に脚がぴくんと動いてジュジュの  
体から力が抜けていった。  
 
ほとんど裸の肩を、指先でかすかになぞりながら下着を脱がせてゆく。胸には触らず背中の  
方から引きずる様に臀部を通って足元に抜いた。返す手で腰のあたりを撫でつつ最後の一枚に  
指をかける。それも彼女が反応を返す前に奪ってしまった。  
ジュジュの体に手を伸ばせばもう感じるのはきめ細かい素肌しかない。自分と彼女とを隔てる  
ものが何もなくなるとフィールは改めて少女の首筋に顔をよせた。  
「いい匂いがする……」  
肩口に顔をうずめて気持ち良さそうに言う。  
腰から脇の線を暗闇に描きそのまま胸へ手をすべらせる。やわらかく盛り上がっている方へ  
動かすと少女が肩を縮こまらせ、声を出すのをこらえるためか唇を噛んだ。  
中心へ向かって何度もやさしく揉み上げる。  
少女の口元は彼の手の動きにだんだんと開いていったが、硬くなった部分を舌で愛撫されるに  
至ってはついに嬌声をもらした。  
「あ……っん、あぁ……やぁっ……」  
嫌と言われてもこんな気持ちのいいところをそうやすやすと解放するわけもなく、ジュジュの  
反応に手応えを感じながらフィールは周囲にも舌を這わせていった。  
 
晩秋というより初冬という表現の方がぴったりくるこの時期、暖房のない部屋で裸同然の姿を  
晒すのはさすがに無理があったようだ。  
ジュジュはフィールから与えられるむずむずした感触と空気の冷たさに身震いした。  
「フィール、ねえ……寒い」  
頭の上の声にやっと彼は室内の温度に思いをいたした。彼自身は寒さに気付いていなかった  
らしい。  
上体を起こして上に着ていたものを脱ぐと自分ごと彼女を掛け布で包み込んだ。  
ジュジュの腕を取って自分の首へ絡ませる。  
「これならちょっとは暖かいかな?」  
「うん」  
フィールの体温が心地よくて少女はほっと返事をした。  
 
ジュジュは上にいる男の首を引き寄せ唇を押しつけた。今度は積極的に彼女の舌がフィールの  
唇を割って入ってゆく。  
彼はジュジュの舌が動くに任せ、自身は手を下の方へと伸ばした。  
細い腿を撫で外側から内側へ、そして徐々にきわどい部分へと近づいてゆく。  
「ぁ……」  
それを察してかジュジュが唇を離した。  
ふわと顎に髪が触れ、少女の顔が俯いた。  
往復する掌は冷えた脚を温めるようにやさしく大きくて確実な力があった。無意識に閉じよう  
とするのをそれと分からぬさり気なさで押しとどめている。  
秘裂に指を忍ばせるとまずさわさわと手に触れるものがあった。手を少し動かせばそれ自体  
うっすらと湿りを帯びているのが分かる。そこをさらに分け入ってまだ誰も迎えたことのない  
部分へ指を沈める。  
「……」  
閉じた処は周囲のそれより大分潤んでいたが、女性の反応としてこれで十分なのかフィール  
には見当もつかなかった。  
少女の脚が折れたのが分かった。そこを深く深くと撫でるたびに彼女の呼吸がだんだんと荒く、  
早くなってゆく。  
「痛い……?」  
「ん……ううん……大丈、夫」  
手を止め問いかけるが少女はさらに続けるように言ってフィールの背をとんと叩いた。  
     
なんとか痛みから彼女の気を逸らそうと、胸に顔をよせ尖った部分を柔らかく噛んだ。  
甘やかな感覚が背を走りジュジュは腰をくねらせる。  
フィールは空いている手で細い腰をしっかり掴まえると、頂を唇でやわやわと挟み刺激した。  
「っ……あぁっ……やだ、やだ……」  
つんと上を向いたところを舌で弾いては辺りの白いふくらみにもそっと歯を立てる。  
ちゅ、と吸いついてあたりにも赤く跡を残した。  
 
ジュジュが自分の愛撫に敏感に反応しているのを感じると、局部にやっていた手を今度はつ、  
と上の方にずらした。  
襞の始まりの部分にある小さな芽を指の腹でくすぐる。  
「……!」  
途端に小さな手が彼の頭にすがりついた。他に力の持って行き場がないのかフィールの指が  
突起を内側からそっと押し上げ、捏ねるたびにジュジュは切れ切れの声を唇からもらし銀糸の  
髪を細い指に絡ませた。  
「あっ、ぁ……あ……やぁっ……ん」  
フィールの息もだんだんあがってきている。  
やはり昂っているのだろう。  
すでに彼女を欲しがっている自身に落ち着けと言い聞かせながら、フィールは秘密の場所に  
再び手を這わせた。  
差し込んだ指先には先程よりも蜜が溢れて来ているのが分かる。だが焦れる思いをぶつける  
にはまだ痛むだろう。  
さらにじりじりと中をほぐすように分け入っていった。  
「ひゃぁ……っ」  
受け流そうという無意識の動きで少女の腰がぐんと逸れる。大腿が彼の腰を締め付けた。  
「あ、ぁあ……っ……待って、待って……」  
胸を差し出すような姿勢に先端を強く吸うと、彼女は頭を振ってフィールの行為に手加減を  
求めた。  
 
なんとか指が奥まで入るとさらにやさしくかき回す。ぬるぬるしたものが指に纏わりつくのに  
心強さを覚え、そっと指を増やした。  
見えなくて幸いだったかもしれない。  
闇の中に少女の裸身を思い描いただけでこんなにも体の中心が熱を持つ。  
フィールは手早く下ばきを脱いだ。  
吐息が聞こえ、力を抜いたような様子にフィールは問いかけた。  
「痛む……?」  
「う、ん……でも……さっきよりは、平気だから……や、うんっ……」  
少年の手が中で動くのにぴくんと体が反応する。  
襞を広げられ羞恥と秘所を弄られる感覚に自然と脚を閉じたくなる。  
それをようやく我慢していると指よりも熱く大きなものがそこに押しあてられるのを感じた。  
「いい、かな」  
「うん……」  
緊張で胸がさっきよりも大きく上下する。  
「怖い?」  
「ん……」  
フィールの手がジュジュの頬を撫でた。  
少女はそれに自分の手を重ねるといとおしむように頬ずりする。  
「でも、大丈夫……きて」  
相手を力づけるような彼女の言葉に胸が熱くなった。  
唇をそっとついばむ。  
「好きだよ」  
ジュジュはその言葉にただ微笑んだだけだったがそれは確かにフィールに伝わっていた。  
 
しっとりと濡れそぼった場所。先端が触れただけでもその先に待っているのが楽園だと分かる。  
何より彼女が受け入れてくれたのを全身で感じたくて、フィールは彼女の腰をしっかり抱える  
と硬くなったものを出来る限りの慎重さで進めていった。  
「――っ!」  
痛みのせいか少女の脚に力が入る。  
彼が身動きするたびに腰をぎゅうと締め付けてくるのだ。初めて男を迎え入れるというのは  
ガルムが言っていたように余程辛いものらしい。  
     
だがそれはフィールにとっても同じだった。  
同じく経験のない彼はこれほど女性の部分がきついとは思っていなかったのだ。  
彼の愛撫に反応してはいても、他者の侵入をなお拒む頑なな合わせ目。指でほぐし探った時は  
これほど狭いとは感じなかった。ただまだ閉じた部分だからと思っただけだ。  
力を抜いてくれれば少しは楽になるかといったん動きを止めて少女の体をやさしく撫でてやる。  
「ひゃ……!」  
背中に指を這わせるとびくんと大袈裟なまでにジュジュの上体が横を向いた。  
「や、ぁん……そこ、くすぐった……やだ……」  
彼女は半ば笑いをこらえるような声でフィールを制止しようとしたが彼の手は止まらない。  
目の前にきた肩に、腕に今度は舌を這わせながら胸を揉み上げた。  
横になった柔肉を上へ持ち上げるように、こりこりと先端を指で扱きながら揉みしだく。  
耐えられないのか再び寝台に仰向けになったのにもう一度自身を推し進めた。  
途端に返ってきていた反応がなくなり、再び闇に聞こえるのは互いのつく息だけになった。  
腰をジュジュのそれに近づける度に細い腰に、脚に、そして呼吸にまで力が入っているのを  
感じる。  
「う、んん……」  
「ジュジュ……」  
自身はもっと先へ、先へと行きたがっている。女の奥を求めている。  
そろりともう一度少女の腰を引き寄せるようにする。  
「……っ!」  
ふと少女の唇に舌を這わせると硬く引き結んでやはり力が入っている。  
だがそれは声を上げるのを我慢するためではないのだ。  
 
フィールは動くのをやめ下にいる少女の髪を撫でた。  
唇を噛んで痛みをこらえる少女の姿に、フィールはもう自分がそんなに急いでいないことに  
気付いた。  
汗の浮かぶ額に口付けるとそっと繋がりを解く。  
「フィール……?んっ、なに……?」  
離れた彼を不審に思ったジュジュが目をうっすらと開くと、閉ざすようにと彼は瞼にも唇を  
押しつけた。  
やさしい声が響く。  
「止そう」  
意味が分からなかった。  
「え……なにそれ……どういう意味?」  
「少しずつ慣れていければそのうち何とかなると思うから」  
「止めるの……?あたしが痛がるから?べ、別にそんなの少しくらい平気――」  
あくまで強がりを言う口を直接自分のそれで塞ぐとフィールは満足そうに微笑んだ。  
ぎゅっと抱きしめどこか不安がっている様子の彼女に囁きかける。  
「ごめんね。無理言って」  
「違うわ。あんたは悪くない。だって……!」  
続く声には元気がなかった。  
相当責任を感じているのだろうか。だが彼女には初めてのしかも体内を裂かれるような痛み、  
我慢するのもあれが精いっぱいだった。  
「ずっと待たせてたのはあたしだもの……」  
「それを言ったら許してくれるまで待ってたのは僕自身の判断だよ。――なんて、強引なこと  
した時もあったからあんまり偉そうなことは言えないけど」  
「遠慮しなくてもいいって言ってるじゃない」  
「遠慮じゃないんだ。ただ、きみが僕を受け入れるつもりがあるって分かったら、なんだか  
安心しちゃって。気が済んだっていうか、それならゆっくりでもいいなって思ったんだ。自分  
勝手だろう?」  
「途中で止めないよっていったくせに……」  
フィールの自分を思うやさしさを知りながらつい責めてしまう。  
彼は意気地なし、ともとれる少女の台詞を気にすることなく笑って答えた。  
「ごめんね、嘘付いて」  
「……あと四年かかってもいいの?」  
ジュジュは痛みに耐える気満々だったのか、途中で彼が止めたのに拗ねたらしくこんなことを  
言う。  
     
さすがにフィールもうっと詰まった。まさかこの上四年も待てるわけがない。  
「そ、それはちょっと……でも、痛がるのを無理やりするのもね」  
「本当に?ちょっとずつでもいいの?」  
「うん、ちょっとずつ。いつかちゃんと出来たらいいね」  
今度はジュジュの方から彼の背に腕を回してきた。  
厚い胸に顔を押しつけるように強く、強く抱きしめる。  
「フィール……」  
「なに?」  
 
「好き」  
 
少女の唇からフィールの胸に直接甘い響きが沁み込んできた。  
たった二文字の言葉がどんなに彼を喜ばせるのか、この少女は知らないのだ。  
ジュジュの頭を抱える手に力が入る。  
 
誰よりも純粋な少女。  
可愛い彼女。  
四年をかけてついに不安の何もかもを打ち明けてくれた。  
嬉しさと切なさがないまぜになったこの気持ちをそのまま解放したら、きっと泣いてしまう  
だろう。  
それに気付かれたくなくて彼は少女が上を向かないように、顔を見られないようにといよいよ  
抱きよせた。  
 
「フィール」  
しばらくして下から声が上がった。  
「うん?」  
「ね、ちょっと離して」  
彼の腕をぽんぽんと叩く。  
「――ああ。ごめんよ」  
寝台の上、フィールが上から退いて隣どうしになるとジュジュはすぐそこにある手を取った。  
両手で握り締めて自分の顔へ持ってゆくと大きな手の甲に頬ずりをする。昔より硬く大きく  
なった手に男らしさを感じた。  
 
「フィール。あのね、お願いがあるんだけど……」  
「なんだい?」  
「いいよって言って?」  
「えっ?」  
彼は眉を上げた。  
「先にいいよって言って」  
「でも話を聞かないことには……」  
無茶な内容だっら困ると思ったのだが暗闇の中で待っていても説明はなく、彼女の予想どおり  
フィールはすぐに降参した。  
「分かった。いいよ――でお願いって?」  
「あのね、あたし本当に悪かったと思ってるのよ。ずっと、その……あんたを待たせてたこと。  
やっと、ってなっても痛がってこの通りだし。だからね」  
そこでわずかに言い淀む。  
「あの……だから……」  
「うん」  
「だから……その……」  
「うん」  
「き、キスしてもいい?」  
今さら尋ねることでもないだろう。  
フィールも首を傾げたがただうん、とだけ返事をした。  
彼の手を離すとしっかり筋肉の付いた肩に手をまわす。そこを支えにして自分の体を彼の上に  
持っていった。脚で彼の腰を挟むように中腰の体勢を維持する。  
「んしょ……ね、黙っててね?」  
「分かった」  
     
「嫌がらないでね?」  
「……?うん」  
口付けを嫌がるわけがない。  
フィールには彼女の言うことがやはりよく理解出来なかった。ただ、黙っていること、嫌がら  
ないこと。それだけをとにかく守ればいいかと判断し、意味が分からないながらも再度頷く。  
 
ジュジュはそっと彼に唇を落とした。  
小さな舌が入口を舐めて、入ってくる。  
舌を絡ませるのはもちろん初めてではない。だが何故かぎこちない動きにフィールの方が  
緊張した。  
彼女の頬に手をやれば恥ずかしがっているのか、見えないながらもその熱さでそこが真っ赤に  
なっていることが容易に想像できた。  
ジュジュの手は肩から下へと移動しすべすべと引き締まった体を撫でた。  
時々微妙な力加減で引っ掻くようにされるのがとてもくすぐったく、我慢しても肩が震えて  
しまう。  
さっきの彼女もそうだったのだろうかとフィールは眉をひそめながら少女の口付けを受けて  
いた。  
すると少女の指先が下半身に及んだ。  
股関節を回り込んで下から男の証をそっと撫で上げる。  
「ジュ……ッ」  
黙っているようにとの約束にも、彼女の行動に驚いて思わず名を呼びそうになった。だが  
それすら飲み込まれ、さっきよりも貪欲に求めるような口付けをされる。  
 
ややあって顔を離すと彼女はフィールを責めるように言った。  
「黙っててって……言ったでしょ……?」  
「でも……!」  
「駄目」  
ちゅっともう一度触れるだけの口付けをして再度フィールの口を塞ぐ。  
小さな舌が生き物のように口腔を撫でまわし、歯の付け根をそろそろとなぞって行くのは  
たまらなかった。うっとりと目をつぶる。  
ジュジュの手は変わらず彼の下半身に添えてある。  
嫌がるなと言われ発言は駄目と言われ、どうしていいか分からないままフィールは少女の肩に  
腕を回した。  
 
時間がたって落ち着いてきていた部分は彼女の手によってすぐに硬さを取り戻していた。  
ほんの少し撫でただけで立ち上がったものに彼女はため息をもらす。  
「なんか……こんなにすぐ硬くなるんだ」  
「き、君が触るからだよ」  
フィールにはジュジュが、ジュジュにはフィールが緊張しているのが分かった。  
 
「ジュジュ?」  
「黙っててってば!」  
上にいる少女が後ずさるのを感じてフィールは声をかけた。が、途端にまた怒られて手で口を  
覆う。  
「なんだろ、これ……不思議ね……」  
小声で感想をもらしながらジュジュの手が彼のものを撫でさすってくる。上を向いた先端を  
指先が挟むように刺激した。  
「――!」  
「上の方、の感触とか……」  
 
フィールは赤面した。  
暗闇で良かったとしみじみ思った。  
こんなことを言われて俯いて顔を両手で覆っている姿なんて、とても見せられない。  
下半身の状態を口にされるのがこんなに恥ずかしいものだとは思わなかった。  
ジュジュは珍しいのか(それはそうだろう)そんな風にしばらくそれを撫でたりつついたり  
いじっていたが、両手で竿の部分を持つと小声で何か言った。  
彼の耳にはどきどきする、と言ったように聞こえた。  
鼓動が彼女に聞こえないのにほっとしながら心の中でそれは僕の台詞だよと返した。  
     
ちゅっと先端に少女の唇を感じて、そんなところにまでとくすぐったい気持ちになる。  
さらに繰り返し触れるだけの口付けを受け、フィールは硬くなった部分がじわじわ熱を持つ  
のを感じた。  
さすがにこのままではまずいと、少女にもういいよと口を開きかけた瞬間、自身が熱い粘膜に  
覆われるのを感じて予定とは違う声が出た。  
「――っ!ジュジュッ!?」  
フィールは息をのんだ。  
あまりの快楽に一瞬頭を茫漠とさせたが少女の予想外の行為にそれは瞬く間に吹っ飛んだ。  
肩を掴み反射的に彼女の体を引き剥がした。  
 
「ぷぁ……しいっ!お、大声出さないでよ!聞こえちゃうじゃない」  
きょろきょろと暗くて見えもしないのに周囲に目を向ける。  
「だ、だって何、何す、ジュジュ……君……!」  
狼狽する恋人にジュジュは顔を寄せ責めるように囁いた。  
「黙っててって言ったでしょ?」  
フィールは耳元で聞こえる密やかな声に息をのむ。  
「でも、何……」  
「この状況でいちいち口に出さなきゃ分かんない?」  
「や、分かるけど、だから――」  
「分かってるんなら黙ってて。あんた今までずっと待っててくれてたでしょ?……だから、  
っていうんじゃないけど、その……お礼っていうか、お詫びっていうか……と、とにかく  
じっとしてて!」  
言い返す彼にジュジュは畳みかけるように言った。だがやはり最後の方はしどろもどろだ。  
「でも……」  
「大体あんたばっかり頑張るのっておかしいでしょ?不公平っていうか……あたしだって少し  
くらいあんたにしてあげたいの」  
「でも……」  
「でも、でも、ってうるさいのよ!」  
「ご、ごめ、んっ!」  
小声で怒鳴るとフィールの脇から枕を取り上げ顔に投げつけた。  
腕を取られるのもものともせず、両手でぐいぐいと枕ごとフィールの上体を寝台に押し倒す。  
「そんなに気にされるとこっちが恥ずかしいのよ!それに……さ、最初に言っとくけど、  
あたしだって初めてだし、上手に出来なくても……っていうか出来ないかも……っていうか  
だから、あの……気持ち良くしてあげられなかったら、その……ごめんね?」  
何しろ初めてなのだ。こんなに前置きが長くてあまり期待されても困る。  
ジュジュとしてはやはり彼が気持ち良くなるまで――いわゆる射精する状態まで持っていきた  
かったが経験も無ければ知識もほとんどない。  
なにもかも恋人の反応を見ながら手探りでするしかないのだ。  
しつこいくらいに念を押した。  
「うん……分かった。それじゃ……」  
枕の下で寝そべったままフィールが了承するのを聞いて、ジュジュは再びさっきの位置まで  
体を戻した。  
相変わらず上を向いたままのものに手を添えると、彼が喉を鳴らすのが聞こえた。だがそれも  
もう薄布の向こうのように曖昧だ。  
 
ジュジュは意識を手の中のものに集中させた。  
改めていきり立ったものにちゅ、と唇を落としながら彼女は脳裏にアルミラとの会話を思い  
出した。  
何故か二人で食事の片づけをするはめになった時のことだ。  
あの時のアルミラはいつもより干渉的というか確かにいつもと違っていた。  
だがそのおかげでフィールに少しはしてやれることが出来たのだと思うと、あの時片付けを  
手伝っていて良かったとも思う。  
 
 
「く、口で!?」  
アルミラの台詞に二の句が告げなかった。混乱する頭で何故こんな話になったのだろうかと  
考えたが思い出せない。  
当のアルミラはジュジュの驚愕も意に介さず平然と頷いた。  
     
「体を重ねるほどの面倒もないし後始末も楽だ」  
「なんでそこまでしてやんなきゃなんないわけ?そんなの我慢させればいいじゃない」  
つい責める口調になるのは仕方がないだろう。  
今までが今までのせいか彼女には性欲というものにあまり理解があるとは言えなかった。  
もともと潔癖なところのある少女だ。レオンの言動からは男の自分勝手さ、いやらしさしか  
感じ取れず不快にしか思われないらしい。  
アルミラはそれに気付かないふりをして話を続けた。異性と体を重ねたことの無い相手にその  
幸福感を説いても無駄なのだ。性交とは互いの体温を与えあう愛情表現であり、同時に体を  
貫くような快感を得る行為でもある。だがまだそれをしたことのない少女にはどこか不潔な  
行為と捉えられているのだろう。  
知っていれば、レオンがアルミラを求めるのにも納得するはずだ。  
 
「それもそうなんだが……あんまり断るのもな。俺のこと好きじゃないのかなんて言われたり  
するし」  
躊躇するアルミラにジュジュはため息をついた。  
いい歳をしてなにを子供のようなことを気にしているのかと思ったらしい。  
「そうだって言っときゃいいじゃない」  
ジュジュの断じるような言い方にアルミラは片眉をあげ、片眉をさげるという微妙な表情に  
なった。  
「お前の言うことはどうも極端だな。そりゃああんまりしつこいと殴ったりはするが……」  
「でしょ?」  
ほらね、と横目でアルミラを見る。  
「まあな、鬱陶しいのは嫌いだ。だが相手がこっちの気持ちに不安を感じてるなら取り除いて  
やるべきだとは思わないか?」  
「でも……だってそんなこと、いちいち言わなくても分かるでしょ?昨日今日の付き合いじゃ  
ないんだから」  
「そうは言っても、お前だって時々は行動で示してもらわなきゃ不安になるだろう。これだけ  
好きなんだから口に出さなくても伝わってるはずだと思うのは、相手に対する甘えだぞ」  
「えー……」  
確かに自分でもそう思うかも知れない。  
もっともだとは思いつつ、素直でない彼女は言い聞かせるようなアルミラの言い方に不平  
たらたらという顔になった。  
「そして時には愛の言葉を百万言連ねられるよりもただ手を握られただけで愛されていると  
実感したりする」  
「ふぅん……?」  
 
話が飛んだ気がしてジュジュは洗い物をする手を止めた。  
頭の中で会話の流れを思いだす。が、やはり話の展開が不自然でアルミラの言うことがよく  
分からない。  
少女は顔をしかめてはっきり言うよう要請した。  
「周りくどい言い方するわね。つまり何が言いたいわけ?」  
「言葉で表すのは容易いということさ。何とでも言えるからな。真実気持ちを伝わるかは  
態度で示してこそだと思う。それに……そうだな。なんでいちいち相手をするのかというと  
多分……私はその時のレオンの顔が好きなんだと思う」  
「どういうこと?」  
アルミラは悪戯っぽい顔になった。目を細めて口の端を上げる。  
嬉しそうともとれる表情にジュジュは驚きを隠せなかった。アルミラの女らしい(気がする)  
笑顔を見たのは初めてだったからだろう。  
「凄く気持ち良さそうな顔になるんだ。普段馬鹿ばっかりいってるのとは違って息を詰めて、  
切なそうに眉をひそめる。女の子みたいに頬を染めるのもいい」  
うっとりと語るアルミラにジュジュはうへえと舌を出した。  
「ほ、頬を染める!?なにそれ。それって聞いてて気持ち悪いんだけど……」  
「他人が聞いたらそうだろうが、自分の恋人だったらどうだ。よくしてやりたいと思うだろう?」  
「……」  
「沈黙は肯定と受け止めるぞ?」  
「そ、いうわけじゃ……」  
慌てて弁解しようとする少女にアルミラが笑いかけた。  
口腔性交の何がいいのか。  
分からないだろうことをほんの少しだけ具体的に、興味を持つように話して聞かせた。  
     
「ふふっ。まあ聞け。口でしてやってるとな、相手の顔を見ながら口や舌の動きを加減出来て  
それがいい。先端を強く吸ったり、舐めたり――普通女は抱かれるというが、そうしている  
時は自分がレオンを抱いてると実感する。あいつの快感を支配するのはこっちだとな。焦らす  
のも追い詰めるのもこちらの思うがままなんだ。楽しいとは思わないか?」  
「……全然……」  
あまりにあけすけな話に頬を染めて否定した。  
だがジュジュも年頃、多少は興味あるのか声には言い切る強さがない。  
アルミラは内心にやりと笑みを浮かべ、それでも表面上は思い出すレオンの様子にうっとりと  
話しを続けた。  
「焦れったそうな顔でもったいぶるなと急かされるのが好きだ。抱き合う時は大抵あいつの  
好きなようにされるからな、たまに仕返しの意味も込めて口でしてやることにしてる」  
「でもあんなの口にするの気持ち悪くない?」  
「そういう意見が多いのも分かってる。だからこそ男は恋人にされると嬉しいものだし……ま、  
お前の場合はフィールと喧嘩した時にでもしてやるんだな。好きな女が口で奉仕してくれたら  
どれだけお前が悪くても怒りを忘れて陶然とするぞ」  
「しないわよ!」  
「しないのか?」  
少女が勢い込んで否定するのに対し、アルミラが意外そうに眉を上げた。  
「ち、違う!喧嘩をしないって言いたかったの。あたし達、仲が良いって言ったでしょ?」  
 
 
喧嘩をしたわけではないが結局アルミラの言った通りの展開になってしまったと、ジュジュは  
少し自己嫌悪に陥った。  
だがそれならそれであとは自分が頑張るのみ。  
顔を傾け張った部分から下へちろちろと舌を移動させながら、絶対に気持ち良くしてやるん  
だからと乙女のものとは言い難い決意で手の中の見えないものに視線を集中させた。  
 
柔らかいと言えば柔らかいし、硬いと言えば硬い。そんな不思議なものに少女は懸命に舌で  
愛撫を施した。  
本人はこれでいいのだろうかと半信半疑、聞きかじった程度の知識で唇を使っている。  
それでも付け根の方から舐め上げたり、唇をすぼめ先端を唾液を絡ませて扱くようにすると  
彼の体が動き、頭の上から息をつくのが聞こえてきて自分の行為に感じるものがあるんだと  
窺わせた。  
 
不思議と言えばこれも不思議なものだが、アルミラの話を聞いた時に思ったよりも、気持ち  
悪いとかそういう感想はなかった。それどころか自分の動きに敏く反応するフィールを感じて  
可愛いものとさえ思えた。  
だからだろうか、一度下まで口をすべらせた時、そこにあるものの扱いに迷い、判断を下す  
までもあっという間だった。  
屹立したものの両脇にあるもの、中心に立ちあがったものに比べてやわらかいそれも構って  
やるべきかなのかとジュジュは一瞬躊躇した。  
だが変に前向きな少女はそれを口で愛撫するのに大分抵抗が無くなっていたのも手伝って、  
しておけば問題ないかとそこへも舌を這わせた。  
そしてその感触に一瞬目を見開いた。  
手で触れたのよりも舌には硬く感じる。  
唇でそっと圧力をかけると堪らないのかフィールの口からため息がもれた。  
手で口で慰めながらそこを覆う繊毛を煩わしく感じたが、気持ち良さそうな反応が返って  
くるとそれも些細なことに思われた。  
 
左右両方に同じようにやさしくしながら彼女の口は再び中心のものへ移動した。  
頂点から脇から舌を絡ませては唇全体を使って包むように上下させる。その度塗り広げられる  
唾液が潤滑を助けフィールの受ける悦びを増幅させた。  
唇をすぼめたり形に添って舌をなぞらせるとフィールはその都度ぴく、と脚を揺らす。  
反射的な動きはジュジュの愛撫に我慢が出来ないからだろうが、アルミラの言っていた通り  
灯りが点いていたら、きっと彼の気持ち良さそうな表情が見えただろう。  
真っ暗にしたのをほんの少し後悔しながら掌は両脇のものをそっと撫でさすり、舌はますます  
懸命に彼の剛直に絡ませた。  
すでに唾液でとろとろになったそれは、ジュジュが頭を上下に動かすたびに力強さを増した。  
時折声をもらすだけだったフィールが少女の肩を掴む。  
     
いつの間に上体を起こしていたのか、彼は快感の淵に沈みそうになりながら声を絞り出した。  
「ジュジュ……もう……も、いい……っ!」  
「……?」  
もういいと言われても口中に感じるものはまだまだ硬くなりそうな気配がして、見えない彼に  
目線を向けてもジュジュは動きを止めずに次の台詞を待った。  
だが続く言葉はなく、ただフィールの少女の肩を掴む手に力が入った。  
引き離そうとしたのか、それとも。  
 
口に含んでいた怒張が一気に硬さを増し、ジュジュは突然の変化に目を見開き固まった。  
「――っ!」  
フィールが息を詰めたのが分かった。  
ジュジュはアルミラが言ってたのってこれかあ、などと半ば麻痺した頭でぼんやりと思い出す。  
そして次の瞬間、口中に熱いものが迸った。  
途端に正気に返り、どくどくと脈打つように自分の中を満たされて少女は思わずぎゅっと目を  
つぶる。  
 
「ン……んんっ……」  
フィールから少し顔を離すと少女は胸元に手をあてて彼の欲望を飲み下した。  
感想を言いようのない味だと眉をしかめながら、もう一度彼のものに口付ける。  
すこし柔らかくなった先端に唇を押しあて残りまでさらうようにちゅっとそこを吸った。  
 
それからジュジュはようやく顔を上げた。ふう、と息をはいて寝台の上に座り込む。  
「ね、どうだった?……気持ち良く、出来た……?」  
首を傾げ見えない相手を直視した。暗くなければこれほど大胆ではいられないだろう。  
力強い腕が回ってジュジュを抱きしめた。  
「頭……真っ白になったよ。僕のために頑張ってるのが伝わって来たし、だから余計に気持ち  
良かった。こんなの感覚初めて……ごめんね」  
「……?何が?」  
「その……出したの飲んでくれたから。無理しなくても良かったのに」  
申し訳なさそうな声にもジュジュはあっけらかんと答えた。  
「そんなの、あたし言ったじゃない。『全部が』欲しいって。だから、いいの」  
欲張りだって言ったでしょ、と微笑んでフィールの頬に口付けると彼の体に寄りかかった。  
 
ふあぁと欠伸をするのが聞こえてフィールは横を向いた。  
「ジュジュ?」  
ジュジュは彼の隣に横になった。もそもそと掛布を引き上げもぐり込む。  
「何だか疲れちゃった……あたし寝るね。ね、このままここで寝てもいいんでしょ?」  
「もちろん」  
「朝、起こしてね。多分あんたの方が早起きだから」  
「分かったよ」  
「ドロシーが起きるより先に帰るからよろしくね」  
「そんなに早くかい?」  
フィールは眉を上げた。  
彼女は普段から朝が遅い方だったから無理だと思ったのかもしれない。自分で寝起きが悪い  
とも言っていたはずだ。  
「だっていきなりあたしが泊ってたらびっくりするでしょ?それにやっぱり……どうしてとか  
思われたら恥ずかしいし……」  
その気持ちは分かる。  
「ああ……わかったよ。じゃ早く寝て、早く起きよう」  
「なんだかすごく疲れちゃったわ。慣れないことしたからかしら。ふあぁっ……もーだめ。  
あたし寝るね。おやすみ」  
「うん、おやすみ」  
言うだけ言って目を閉じた少女にフィールはそっと微笑む。  
間もなくやわらかな寝息が聞こえてきた。  
 
すうすうと眠る少女の手は掛布の下で彼の手を握っていた。  
 
 
  〜おしまい〜  
 

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