――いつかちゃんと出来たらいいね。  
 
初めてちゃんと向き合って体を重ねた時にフィールの言った台詞だった。  
そしてその『いつか』は案外すぐに来た。  
 
 
白い体を小さな灯に照らされ、それだけではない理由で少女の体は桃色に染まっていた。  
細い脚を折り曲げて恋人の背中にしがみつく。  
男の方はというとやはり下に敷いている彼女の腰を抱え、急く自分を抑えながら彼女の奥へ  
たどり着いた。  
フィールは最奥であると確認するようにさらにぐっと腰を押しつける。  
そうなってしまえばもうとりでの役目は終わりだ。  
蜜で充分潤った場所は彼を心地よい温もりでもって圧迫してきて、つい自身をさらなる高み  
へと押し上げたくなる。だが未だ痛みに眉をひそめているジュジュを見ると強引に動こうと  
いう気にならなかった。  
「ジュジュ」  
「なに……いった……!」  
破瓜の痛みに、目尻に涙を滲ませながら応える。  
フィールは塩気のある水を吸い取ると気を紛らわせるように少女の顔中に唇を落とした。  
 
「は、ぁ……」  
肩で息をつくジュジュにフィールは囁いた。  
「分かる?奥まで……入ったの」  
 
   ***  
 
 
 
大きなテーブルを囲んでの食事風景はもうお馴染みのものだ。  
レオンとガルムの喧嘩のような言い合いやそれに口を挟むヴィティス。  
アルミラはドロシーとお菓子の話をしている。  
そして彼は隣に座っている少女と料理についての感想を言いあっていた。  
 
「あたしもう少し辛めがいいなあ」  
「ジュジュは辛いのが好きだから……でもこのくらいで丁度いいと思うよ。君の好みに合わせ  
たら、きっと皆食べられない」  
「そう?それほどでもないと思うけど……それじゃ今度から香辛料別に用意してもらおっかな」  
「それは止めた方が……」  
なんでも辛くすればいいというものではない。  
折角味付けの細かい所まで気を配って作られた料理なのに、やたらと香辛料をかけて食べたら  
きっと作った方も気分が悪いだろう。  
そう思ってフィールはやんわりとジュジュの希望をおしとどめた。  
 
互いになんでもない風を装って話してはいるが、内心は緊張していた。  
この間フィールの家であったこと、その続きを今日することになると知っているからだ。  
しかし少女は何も言わないし、彼もまだジュジュに家に来るよう誘ってもいない。それでも  
そうなるんだろうな、そうするんだと二人は今晩二度目の機会を得るだろうことに、何の  
疑問も持たなかった。  
 
 
帰りはやはりこの間のようにガルムと一緒に皆を見送るドロシー。  
フィールとジュジュも前回と同じようにガルム達に礼を言うと手を振って別れた。  
途中分かれ道に差しかかったがフィールは何を言うでもなく、まっすぐ前を向いたまま繋いだ  
手をぎゅっと握り締めた。  
頬がわずかに上気している。  
彼の意思表示に微笑むと、ジュジュはお返しと言わんばかりに彼の腕に自分の腕を絡ませ、  
迷いなくフィールの家への道を進んだ。  
 
居間で外套を脱ぐとフィールは少女を振り返った。彼女の外套もついでに掛けてやる。季節は  
すっかり冬になっており、上着もこの間来ていたものより厚く重たかった。  
 
「え……っと……ちょっと待ってて、お茶入れるね」  
「うん、ありがと」  
暖炉に火を入れてからのいつものやりとり。  
いつもと違うのはこの後の台詞だった。  
台所に向かいながら顔だけを彼女に向ける。  
「それと……お風呂、使うよね……?」  
さりげなくと思っているのだろうが意識しているのが丸見えだ。表情を隠すのはあまり得意  
ではないらしい。  
「あ……うん」  
ジュジュは長椅子に腰かけながら答えた。  
彼女もフィールと同じ心境のようで、髪を撫でつけながら染まった頬を隠している。  
 
「熱いから気をつけて」  
「ん、ありがと」  
お茶を受け取り並んで座っても、雨の夜を思い出して彼を怖いと思うことはなかった。  
ジュジュを押し倒した時の彼は嫌がる彼女の言葉が耳には入っても、頭にまで入っていない  
感じでそれが知らない男のようで恐ろしかった。  
だがもうそんなことはないのだ。  
互いが何を求め、何を拒否していたのか知っているから彼も少女を怯えさせるようなことは  
しないし、彼女ももう心細く思うこともなかった。  
「ふふっ」  
「……?なんだい?」  
「なんでもないわ」  
ただ目があっただけで笑顔になれることの素晴らしさ。  
不思議そうな顔をする彼にジュジュは内緒、と片目をつぶって見せた。  
 
 
「ジュジュ?」  
汗を流し居間に戻ると少女の姿はなかった。  
室内を動くのは暖炉の火が揺れて作る影だけで、辺りを見回してもやはり気配はない。  
となれば彼女のいる場所は一つだ。見れば部屋の入口に置いてある個室用の燭台が一つ消えて  
いる。  
フィールは火の始末をすると自室へと足を向けた。  
 
 
ぱらぱらと頁をめくる手が止まった。  
「懐かしいなあ」  
フィールの部屋には小さなテーブルと椅子が置いてある。  
本棚の前で一冊を選ぶとジュジュはそこに腰かけもう一度頁を送り始めた。  
懐かしい本だと少女は微笑みを浮かべながらその時のことを思い出していた。大分前に一度  
借りたことがあった。  
 
いつものように山で木を切っている彼のもとに行くと、フィールが居るはずの場所に斧だけが  
立て掛けてあって肝心の本人の姿がなかった。呼ばわってみると藪の中から草を山盛り抱えて  
出てきたのだが、驚いて尋ねると山菜だと言った。  
そう、季節は春だった。  
沢山採れたから今日は家で晩ご飯食べて行きなよ、なんてあんまり嬉しそうに言うから自分も  
一緒に探したいと伝えたら数日後。何と鈍いことか山菜についての本を貸してくれたのだ。  
もちろんその時は礼を言って受け取ったが字を見て種類を覚えられるはずもなく、元々それ  
自体に興味があったわけでもないので結局読んだふりをして返したのだった。  
もう少し素直だったらあの場で『フィールに教えてほしい』と言えただろう。  
自分のいざという時の勇気のなさに笑いがこみ上げてくる。  
 
くすくすと笑っていると、突然テーブルに置いた手に大きな手が重なった。  
驚いて振り返る。  
「フィール!」  
 
「向こうにいないからびっくりしたよ……何読んでるの?」  
上から覆いかぶさるように覗き込んでくる。  
「これ」  
ぱたんと閉じて表紙を見せてやると彼はああ、と頷いた。  
「……?面白いかい?それ」  
肩の揺れで笑っていたのが分かったのだろう。不思議そうな顔をしている。  
「前に貸してくれたでしょ?懐かしくって。ね、春になったら皆で山菜摘みに行かない?」  
「いいね。ドロシーが喜ぶよ」  
「でしょ?いつもみたいに二人に料理してもらってさー」  
本で口を隠すようにして笑う。  
「その時また読ませて。今見たら書いてあることあんまり覚えてなかったから」  
ジュジュは立ち上がると本棚に本を戻した。  
全体を眺めてしみじみともらす。  
「ここにある本も一通り読んじゃったなあ。途中までしか読んでないのもあるけど」  
「そうだね」  
それだけこの家に通ったということだろう。  
 
棚にかけた手をフィールが後ろからさらった。  
指先に、甲に唇を落とす。  
くすぐったい感触に笑みをこぼすとジュジュは彼へ向き直った。自分の目線よりまだ上にある  
フィールの首へ手を伸ばす。自分の方へ引き寄せて頬にちゅっと口付けると照れくさそうに  
目を伏せた。  
 
「ジュジュ、お願いがあるんだけど」  
「なぁに?」  
「灯り、点けててもいいかな」  
「えっ……」  
「駄目、かな」  
フィールの困るのはこういうところだ。こう控え目に伺いを立てられると、断固として拒否、  
というのがし辛くなる。  
現にジュジュはえー、とかでも……と彼の意見をすぐに却下出来ず迷いを見せている。  
女心として痛みに顔をゆがめる所なんて見せたくはない。  
だがじっと見つめられ、ついには了承してしまうのだった。  
「でも……あたし、多分しかめっ面してるわよ?そんなの見たくないでしょ……?」  
言い訳がましく一言添える。  
それじゃ止めようという気になってくれればありがたかったが、やはりそうはならなかった。  
「僕はその……君の表情を見ていたいんだ」  
フィールがはは、と頬を赤く染め恥ずかしそうに頭をかくに至っては、願いを無視することは  
出来ないと諦めた。  
「……いいけど……あんまり見ないでね」  
気乗り薄だと分かる承諾の言葉。  
彼女の頭には恥ずかしいから嫌だなという気持ちしかない。  
だがフィールはそれに気付かない振りをしたのかにっこりと笑って頷いた。  
「分かったよ」  
 
うそつき。  
 
ジュジュは心の中で呟いた。  
 
 
寝台の上で二人は見つめあう。  
「うー……やっぱり緊張する」  
「僕だって」  
服に手をかけられ丁寧に脱がされながらジュジュは小声でもらした。それにフィールも同意  
する。  
風呂を上がったばかりの彼の指先は温かかった。すでに時間が経って冷め始めている少女には  
それがとても心地良い。  
 
すっかり脱がせてしまうと彼の視線が胸元を隠すジュジュの体の上をなぞる。  
「本当にきれいな体……」  
「やだ、そういうこと言わないで。恥ずかしくっていらんないわ」  
裸のまま抱きあうのにも少しは慣れた。だが相手にすべてが見えてしまうというのはやはり  
落ち着かない。  
アルミラ達に比べて凹凸のない体に臆面なく褒め言葉を口にされるのも面映ゆかった。  
 
照れをごまかして怒る少女に彼は口元をゆるめる。  
そっと腰のあたりに触れると少し冷たいのが分かった。  
「お風呂出るの遅かったかな。ごめんよ。体、大分冷えちゃったみたいだ」  
「平気。その分あんたが温かくて気持ちいいもの」  
ジュジュの言葉に裸の体をぎゅっと抱きしめた。  
「温かい?」  
「あったかいあったかい。すごーく、気持ち良いわ」  
少女は彼の胸元に顔をよせ、薄い布地越しに伝わってくる温もりに喜色を表した。  
「僕は自分がまだ火照ってるせいか逆に君の冷たさが気持ち良いよ」  
「そう?でも……」  
「うん?」  
「あたし、きっとすぐ熱くなっちゃうわ」  
今の気持ちを表す正直な言葉にフィールは指の背で彼女の頬を撫でた。  
確かに、熱い。  
少女の頬に手を添えて上を向かせる。  
視線を肩のあたりに向けると胸を隠す腕の隙間から可愛らしいふくらみが見え、ただでさえ  
いつもより早くなっている鼓動はいっそうせわしなくなった。  
ジュジュの体をそっと向こうに押し倒す。  
唇を重ねながらフィールは自身も身に着けているものを脱ぎ、すっかり裸になった。  
後で脱ぐのが煩わしかったのかもしれない。  
この間のように掛け布を引っ張り互いの腰まで見えないようにする。  
少女への思いやりであり自分のあからさまな部分を見えないようにしたかった。  
 
脇から手を忍ばせると彼女はあっさりと胸から腕をよけた。  
耳にやさしく噛みついては唇で揉む。舌が中を舐めると少女が笑い声を上げた。  
「……っ、ふふっ……そんなとこ、や、くすぐった……」  
同時に両手で胸を揉まれ、もじもじと腰をくねらせた。  
「やだ、やだ、や……」  
つんと上を向いた部分を避けて周囲を丹念にほぐしてゆく。  
フィールは首筋を伝って徐々に顔を手の方へと持っていった。  
小さな灯りに照らされた体に少しずつ跡をつけてゆく。首筋から肩へ、硬い鎖骨の上へも。  
彼はふわりと鼻腔をくすぐる甘い香りにうっとりしながら胸元へとたどり着いた。  
舌でもそこを揉むように、口付けを繰り返しながら頂上へ向かう。  
「あっ……」  
先端を啄ばむと、極めてささやかな動きだったにもかかわらず彼女の体が小さく跳ねた。  
そっとそこを口に含み舌先で捏ね、唾液を絡ませては唇でやさしく扱いた。  
もう片方は指先で摘まんだり弾いたり。  
すると鼻を抜けるような吐息が聞こえるようになって、フィールはそれが徐々に大きなものへ  
変わるまで左右の胸を愛撫した。  
 
「……っ……ね、……フィール」  
「うん……?」  
真っ白な肌へしるしをつける合間に返事をする。  
「何か話して……?」  
無言で少女の体を愛撫しつづける彼に吐息交じりの声が言った。  
「何かって?」  
ようやく顔をあげてジュジュの目を見る。  
「なんでもいい……黙っていられると、どうしたらいいのか分からなくなるから」  
緊張で何も分からなかった前回とは違う。しんとしているとほんの少しの余裕から自分の  
様子にも敏くなっていて、それが彼女に身の置き所のなさを味わわせていた。  
 
彼の唇に、手の動きに、自分が女として反応しているのが分かる。  
指先に口付けられるだけで体の奥がきゅんと熱くなってくる。  
それをごまかしたいのだ。  
意識的に理解していなくても百と何十年も生きてきて未だ初めての感覚が存在するのだと、  
そしてそれが自分の中から溢れて来るものだというのが彼女は怖かった。  
 
フィールにそこまで分かるはずがない。  
少女の台詞にも内心首を傾げたが、ぐいと前にくると一瞬躊躇いの表情を見せてから少女に  
耳打ちした。  
「全身で君を感じていたいんだ。ほんのちょっとの動きも、小さな声にも気付きたい」  
フィールの告白にジュジュは目を見開いた。  
彼は頬を赤くして目を伏せているが少女もつられて顔を真っ赤に染める。  
そんな風に言われては強制も出来ないのだろう。黙りこんでしまった。  
 
大腿を抱えて膝を立てられると少女は顎を引いて目を閉じた。  
彼の掌が腰から真っ白な丘陵へ、そして腿から下へやさしく刺激しながら下りて行った。  
やはり少し冷たい脚に体温を与えながら下半身を這う。  
その間もあかずジュジュの体に口付けの跡を残した。  
両手が再び上にきて柔肉を揉み上げると、腰が浮くほどの力に、抱えられた少女の脚が掛布の  
下で宙を彷徨った。  
伸びてしまった脚のため、体の均衡を取るのに彼女はフィールの頭を抱えるように腕を回した。  
彼は引き寄せられるまま少女の頬を舐め、甘噛みする。  
「やだ……ふふ……――ッ!」  
くすぐったそうな笑い声にまぎれて彼の手が脚の付け根へ及んだ。  
途端に息を止めるのは自分でもあまり触れないところを弄られる、慣れない感覚のせいだろう。  
だがすぐにふう、と息をはいて体から力を抜くよう努めた。  
無意識に入る力は抜こうと思って抜けるものでもないのだが、それはフィールに伝わった  
らしい。  
「辛かったら言ってね」  
「大丈夫……この間よりは……」  
相変わらず不安もあるだろうに気丈に笑ってみせる。  
ぎこちなく口元をほころばせる少女があまりにけなげで、フィールはすぐにでも彼女を自分の  
ものにしたくなった。  
気の強い彼女の、いつもに比べて可憐な表情が彼の本能を刺激した。  
一度静かに息をするともどかしさを抑えて改めて彼女の花弁へと指先をしのばせた。  
 
「ぁ……」  
繊毛の間を通って中を目指すと少女の唇から小さく声がもれた。  
触れた感触もそれに伴う彼女の反応も、先日に比べるとやわらかくなっているようだ。  
奥へと進み指を増やすたびに少女は切なげに眉をひそめる。内壁に触れ蠢くものの存在に  
慣れないのだろう。  
頬を上気させ汗をにじませる彼女の表情はこれ以上ないほど女だった。  
 
そっと指を抜いて代わりのものをあてがう。  
それはぐっと上を向いてあるべき場所を求めていた。  
すでに蜜で満たされやわらかな部分に少年の一部がゆっくりと沈んでゆく。  
この場所をほぐすのは二度目だがじっくり慣らした筈のそこは、それでもやはり完全に開く  
というところまではいかなかったらしい。  
「ん……」  
フィールの肩に置かれた手、その指先が少しずつ食い込んでゆく。  
「大丈夫、かい?」  
ぬるりと先端に感じるもの。それは彼にとっては蕩けるように気持ちのいい感触だが、自分の  
欲望に流されるということはなく、ジュジュが辛くないようにひたすら気を遣っていた。  
「大丈夫……多分、だけど。頑張れると思う……」  
痛みに顔をしかめながらも笑いかけてくる少女に、フィールはさらに彼女の奥を目指した。  
 
 
   ***  
 
 
少女を抱きしめると全身しっとりと汗をかいている。  
「奥まで?うん、分かる……だってフィールの顔がこんなに近いんだもん」  
「そうだね……ジュジュの中、すごく温かいよ」  
「そう……?」  
嬉しそうに目を細める恋人に、ジュジュは恥ずかしくなって目を逸らした。  
「君は?まだ大分痛む?」  
「う……ん、動かなければ大丈夫みたい。それよりもなんかね」  
「うん?」  
「なんか……中にいる!って感じがする……」  
「え?……あ……」  
少女の言葉に彼は赤面した。  
自分の発言に気付いたジュジュが焦って問いかける。  
「あ、はは……なに言ってんだろ、あたし……。ごめんね、フィールは?どんな感じ?」  
「すごく気持ちいいよ。こうしてるだけでね、堪らなくなる。でもこれって好きな子とする  
からなんだろうなあ」  
しみじみと呟く。後半は独り言のようだ。  
無意識の告白にジュジュは耳まで真っ赤になった。  
 
そのまましばらくして、フィールが遠慮がちに言った。  
「えっと……もう、動いてもいいかな?」  
「あ……ん……うん。でもゆっくり、ね?」  
挿入時の痛みに対する恐怖のためかフィールの乞いに彼女はぎこちなく頷いた。  
ジュジュの気持ちを察して少年はそっと体を引いた。そしてまた腰を寄せる。  
何度かそれを繰り返し、もう一度恋人に問いかけた。  
「痛む?」  
彼の問いに少女は目をぱちくりさせた。拍子抜けしたような表情で首を振る。  
「ううん、全然……なんか最初だけだったみたい。なんでだろ……今は全然平気。だから……  
あの、もっと動いてもいいよ」  
辛いようならここまでにしようと思っていたが、ジュジュは無理をしている様ではなかった。  
再び抽迭を開始する。  
蜜で満たされた内部は初めて故のきつさか、より彼のものを締め付けた。だがそれは快感に  
導く為のものでしかなく、徐々に彼は生き物の本能に従う一匹の雄になっていった。  
 
「……ぁあ……っ……」  
痛みはなくても体内を出入りする感覚に緊張するのか、フィールが腰を打ちつけるたびに細い  
体がしなった。ジュジュの手が彼の首の後ろへと回り二人の体はますます密着した。  
そのせいで身動きするたびに少女の胸が彼の体をかすめた。  
「ん……やぁっ……」  
つんと尖った所がこすれてジュジュは顔を赤らめる。  
フィールと違って挿入にまだ違和感しかない彼女には、何度も愛撫されてきた胸への刺激の  
方が余程気持ち良く、敏感になっていた。  
 
「――っ、ごめん、ジュジュ……!」  
切羽詰まったような声と共に少年が体を引いた。昂りを抑えきれなくなったのだろう。  
だが少女は首を振るとフィールの動きに逆らって彼を引き寄せようとした。  
「駄目だ……」  
「大丈夫……大丈夫だから、そのまま……しても」  
「え――で、でも」  
「あたしは駄目だったらそう言うわ。だから」  
息を弾ませての囁きに彼は迷いを捨て、もう一度奥まで彼女を貫く。  
両脇にある細い脚に力が入るのが分かった。  
「……ッ!」  
突き上げる先端からジュジュの中へ熱の塊を注ぎ込んだ。  
 
フィールは少女の肩口に顔を埋め体全体で息をしていた。とんとんと叩かれ横を向くと恋人が  
嬉しそうに微笑んでいる。  
フィールも照れくさそうに笑い返した。  
桃色の頬にちゅっと唇を押しつける。  
「ジュジュ、この間も言ったけど……すごく……気持ち良かった」  
「……やっと、あたし……」  
弱く頭を振る少女。残りは言葉にならなかった。  
少年を受け入れられたのが余程嬉しかったのだろうが、それは彼にとっても同じ気持ちだった。  
数年越しの思いが叶ったのだから。  
体の繋がりが全てではないと頭では理解していても、やはり性欲は生き物の本能、その根源に  
あるものだ。特定の相手がいるのに我慢するのは辛いし、我慢させるのは相手に対して申し訳  
ないことだった。  
 
「うぅー……」  
少女がごしごしと手の甲で涙を拭う。  
その手を除けるとフィールの舌がぺろ、と目尻を舐めた。  
「ジュジュ」  
「ん、んぅ……ちゅっ……」  
舌を絡め合い上も下も繋がって、二人は今までにない一体感を得た。  
体だけではなく、心だけでもない。両方が同じだけ満たされている。  
感慨深げにフィールが口を開いた。  
「ジュジュの中にいると本当に気持ちいい」  
「あんただって。中にいるのが良く分かるわ。でも、なんか変な感じがする」  
「変?嫌?」  
心配そうな顔になる。  
「ばかね!あんたってすぐそっちに考えるんだから――って……そっか。それ、あたしに気を  
遣ってるからだよね」  
呟いて少年の頬にそっと口付けると、両手でフィールの顔を包み込んだ。  
額と額をくっつけて至近距離にいる相手を見つめる。  
「……ごめんね」  
「その話はもうお終いだってば、この状況でいまさらどうこう言う気はないよ。それより」  
「なに?」  
「もう一度動いても……平気?」  
あくまで伺いを立てることをやめない。  
気を使ってくれるのは嬉しいが、もう少し勝手を言ってもいいのにとジュジュはおかしく  
なった。  
「いいよ」  
不安そうな顔で自分を見るフィールに改めて少女は頷いた。  
「痛くないって言ったでしょ?それは本当だから。フィールの好きにしていいから……」  
「でも変な感じがするんでしょ?」  
「それは仕方ないわ。だって、はっ、はじめて、したんだから……って何言わせるのよ!  
あんたのペースにはまると変なこと口走っちゃうから嫌なのよ!」  
大体さ、と困り顔の恋人をやさしく睨む。  
「いいわよね、男って。痛くないんでしょ?」  
口をもごもごさせ何と答えれば良いのか分からない彼にジュジュは片目をつぶって見せた。  
「でもね。こうして抱きあってるだけですっごく気持ちいいんだから。だからあたしはそれで  
いいの」  
ジュジュにとっては彼が自分で気持ち良くなってくれたと、それだけで十分幸せだった。  
 
「あたしが動こうか?」  
痛みがなければ恐れるものはないらしい。  
一方的にされても相手が気持いいと確認済みだったジュジュの提案に、だがフィールは頷かな  
かった。  
曰くまだ慣れてないし、自分でしてみたい。  
 
「……っ、ん、……あ」  
喉のあたりにそっと噛みつきながら胸を揉みしだく。  
掌でさまざまにもてあそべるというほど大きくはないのに、そこはフィールを魅了して止まな  
かった。  
 
さっきと同じように正面から抱きあったままほっそりした体に手を這わせる。  
それに敏に反応し喘ぐ少女に彼は囁いた。  
「なんで……そんなに色っぽいの……?」  
口が胸に吸いつくと手は背中に回る。  
「――!ばかっ、なに変な、こと……やぁっ、ふ……ぁあん」  
背筋をまっすぐ辿ればそのぞくぞくと上ってくる感触にジュジュは切なげに啼いた。  
そこからすっと下へ続く割れ目へ指の先を伸ばす。  
「ん、……そこ、そ……な」  
菊門の上を通るとたまらず少女の腰が浮いた。  
遠慮のない手が一度は繋がった場所へ再び侵入する。その上の肉芽を中と一緒に刺激すると  
入口が小さく震えた。  
弱々しく指を締め付けるのに高揚し、それでも少しの間その感触を楽しんでから彼は硬く  
滾ったものを彼女の秘所に押しあてた。  
「……っ……!」  
ジュジュはやはり小さく声を上げたものの、今度はすんなりと奥まで入った。  
痛みもだんだんなくなっている様子に安堵しながら、フィールは今度こそ断りを入れずに腰を  
動かした。  
「ん……フィー、ル……ッ!」  
快感に頭を支配されそうになる。  
頬を染めた少女が眉をひそめるのを下の景色に見ながら、これはたしかに皆に同情されるわけ  
だなあ、などとぼんやり考えた。  
まるで脳が働いていないようだが、それほど気持ちが良かったのだ。  
 
「――!」  
ほどなく彼は二度目の絶頂を迎えた。  
 
「ふぅ……」  
「大丈夫?」  
額に汗を滲ませ大きく息をつく彼にジュジュが声を掛けた。  
「ああ……うん。ありがとう。全然大丈夫だよ。ただ、気持ちがいいんだ。気持ち良すぎて  
疲れるっていうか……はは」  
乾いた笑いは性欲を解放させた自分への照れから来るものだろう。  
息を切らしながらも彼は少女の頬に触れた。  
それは愛おしそうに何度も頬を撫でるとふっくりとした唇に及んだ。  
「……?フィール?」  
紅く濡れて艶やかな、普段は色気のいの字も出てこないような場所だ。それが今はこんなにも  
自分を誘惑してやまない。  
不思議に思って輪郭をなぞると中から舌が伸びてきた。  
ジュジュとしては口元をうろうろしているのでつい舐めてしまったのだろう。ついでという  
ように噛みついてくる。  
人差し指の根元まで咥えて始めは舌先でちろちろと、次いで舌全体を使って彼を包み込む  
ように動かした。  
「ん……んんっ……」  
唾液を絡ませ唇と舌を使って押し出してはまた引き込んで、器用にしゃぶっている。  
奥の方にあたって苦しいのか、もらした吐息が濡れた指にあたってくすぐったかった。  
 
「……」  
フィールは指を抜くと今度は中指を差し出した。舐めて欲しいわけではなく、単純に彼女が  
どうするのかが見たかった。  
すると苦しそうにしていたにも関わらず再び目の前の指を口に入れる。  
薬指、小指と最後まで、指の股まで愛撫してから少女ははあ、と体を起こした。  
唇を尖らせて彼を見やる。  
何故かご機嫌が悪くなったようだ。  
上目づかいにフィールを睨みつける。  
「どうして?」  
「え?」  
 
彼は意味が分からず聞き返した。  
「指……」  
どうやら好きで舐めたわけではなかったらしい。  
フィールが舐めてと言わんばかりに出すからしたのだとそう言いたかったのだろう。  
確かに苦しげにしていたが、彼の目には今の行為がそれほど嫌そうには映らなかった。  
それよりなにより。  
大きな手が彼女の頭を撫でた。さらさらと髪を梳く。  
「ごめん。舐めてるジュジュがあんまり色っぽかったからつい……」  
だからどうしてこういうことをさらっと言うのだろう。  
ジュジュは口を尖らせて言い返した。  
「あたしに言わせればあんたの方がよっぽど色っぽいわ。何よ、ほっぺたバラ色にしちゃって  
さ!」  
「そんなことないと思うけど……」  
首を傾げながら口元は弧を描いている。  
フィールは自分の付けた口付けの跡を嬉しそうに指先でなぞった。  
「こんなにいっぱいキスしたのに、まだ足りないよ」  
耳の下あたりに手が行くと少女が眉を寄せた。  
「そんなとこにも?えー……見えちゃうかなぁ」  
「ごめん……」  
隠せるかと心配する少女にフィールは申し訳なさそうな顔になった。ジュジュが指先でなぞる  
のに彼も手を添える。  
「ずっとこんな風に、自分ものみたいにしたかったんだ」  
「――!」  
「あんまり嬉しくって……配慮が足りなかったよ。ごめんね」  
「ばか!」  
険しい顔になった少女に思わず目をつぶる。  
やっぱり怒られた。  
そう思ったが彼女の言いたいことはフィールの予想とは違っていた。  
 
「そんなこと言われたら怒れるわけないでしょ?」  
ぷいと横を向いてそれから視線だけを彼に送る。  
「いいのよ、別に。……だってあたし、あんたのものだもの。少しくらい目印つけたって……」  
「ジュジュ……」  
およそ自分は自分、という考え方の恋人がそんな風に言ってくれるとは思わず、フィールは  
感動で名を口にすることしか出来なかった。  
それだけ自分を好いてくれているというのが分かったからだ。  
「僕、君の――」  
「止めて!余計なこと言わないで!あんたいちいち大袈裟なのよ。その代り、あんただって  
あたしのものなんだからね。それはちゃんと覚えておいてよ?忘れたら許さないんだから!」  
大層な剣幕にフィールはたじたじとなった。  
こんな風に言われては出かかっていた言葉も飲み込むしかない。  
代わりに違うことを言ってみた。  
 
「ジュジュ」  
「ん……?」  
二回もしてさすがに疲れただろうと思っているとはたして、フィールの言葉は少女を驚かせた。  
「もう一回、してもいい?」  
「あ……えっ?……ええっと」  
 
今度はジュジュの方がたじろいだ。  
痛くないからとは言ったものの、彼女が一瞬悩んだのは彼の台詞が愛から来るものか、治まり  
のつかぬ性欲からくるものか判断が付きかねたからだった。  
 
 
  〜おしまい〜  
 
 

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