二人使いの大きな寝台へと少年の手を引くとその重みに拒否する気配を感じ、アルミラは彼を  
振り返った。  
「どうした、寝台でするのが嫌なのか?」  
「ち、ちが……」  
彼女のあけすけな言葉を否定しつつもフィールは突っ立ったまま動こうとしない。  
怖気づいたのだろうか。  
「あの、レオンが……」  
「――ああ!」  
 
すでに真夜中を過ぎている。いくらなんでもそろそろ帰ってくだろう。  
すっかりそのことを失念していた彼女は顔を赤らめてもじもじしている少年に、顔をよせ  
囁いた。  
耳朶に触れる熱い吐息に思わず彼は目をつぶる。  
「じゃあお前の部屋に行こう」  
「え……」  
「いいだろう?」  
秘密の共有を楽しく思っているような悪戯っぽい微笑み。彼女は断られることなどないと  
確信しているようだ。  
彼女の判断は大抵正しく、そして今回も正しかった。  
 
 
フィールの寝室は家の主の部屋にしては少し狭い。  
狭いと言っても先の部屋に比べればの話で、子供が使うには十分な広さだ。  
 
アルミラとレオンが一室を借りるという話になった時に一揉めあって、それは主寝室を誰が  
使うか、というものだった。  
二人は自分たちは居候だしそんな広い部屋などとんでもない、フィールの使っている部屋でも、  
寝られれば居間だって文句はないと遠慮したのだが、二人一室で良いというアルミラの言葉に  
(フィールは二人の関係に納得しつつも驚いた顔をしていた)無理やり支度したのだ。  
余っているのが主寝室と書斎だけでは他に選択肢がなかったとも言える。  
自分が主寝室に移って元の部屋を空けても二人で使うにはさすがに狭いし、まさか居間に  
寝起きさせるわけにはいかないからと、遠慮する彼らに強引に寝間着や部屋履きを与えて  
押し込めた。  
 
子供部屋と言ってもあつらえてある家具は大人になってからも十分使えるような物ばかりで、  
それは寝台も例外ではなかった。  
15歳の割に身長の高いフィールが横になってもきつさを感じることはない。  
アルミラは先にその寝台へ座るとやはり隣に腰掛けるようフィールに促した。  
ぎこちない動作で少年が言われた通りにすると彼女が口を開く。  
「さて」  
隣の肩がびくんと揺れ、膝の上で握っている手に力が入るのが分かった。  
彼のあまりの緊張ぶりに上からやさしく手を包み込み、頬に口付ける。  
「力を抜け……そうだ」  
フィールはどうしたらいいのか分からないらしく正面を向いたまま動かない。  
目は開いていても物を映していなかったのか、彼女が顔を覗き込むとわっと言ってのけ反った。  
可愛らしい反応に思わず微笑む。  
「ふふ……いいか、手が触れたらそっと握り返せ」  
「あ……――う、うん」  
「そうそう。相手が嫌がっていれば触れた瞬間にさりげなく離されるからな。まあお前の場合、  
こういう状況になる相手は恋人に違いないからそう仮定しようか。こうして」  
彼の手を持ち上げその指先に唇を落とす。  
「キスをしてもいい」  
「……」  
「緊張してるな」  
「うん……凄く、ドキドキしてる」  
少年の視線が自分の口元にきているのが分かり、彼女はわずかな興奮に唇を舐めた。  
手を下げると両手で愛おしそうに指の一本ずつに触れてゆく。  
 
まだ少年でも男だからだろう。やわらかさの残る彼の手はアルミラのものより一回り大き  
かった。  
「触れ合う、と言うのは大事だ。頭を撫でられるだけでも悲しい時には慰められるし、痛い  
ところにあててもらえば痛みが軽くなる。心の問題だな。特に女性は精神的な部分を重視する  
から、ことに及ぶ前にはじっくりと相手に触れてやるのがいい」  
そこまで言って顔を横に向けるとフィールの真剣な視線にぶつかった。  
彼はたちまち頬を染める。  
アルミラはそんな彼に内心ほのぼのしながら撫でていた手を本人へと押し返した。  
「実践だ」  
喉を鳴らすのが聞こえた。  
 
「え……っと」  
フィールは体をアルミラの方に向け、されていたように彼女の手を取った。  
まるきり同じことをして返すのかと思ったら上半身をさらに寄せて薄桃色の髪に口付けてくる。  
さらさらと髪を梳きながらこめかみや頬にも。  
なかなかに応用がきくと感心しながら、アルミラはそれでも一言付け加えた。  
「褒め言葉を口にしながらだと攻めやすい。そんなに大げさなことでなくていいんだ。そう、  
間違っても絶世の美女だなんて言ってはいけない。逆に馬鹿にされたと思われるかもしれない  
からな。……本当にそう思っていてもだぞ?」  
フィールは自分が感じた事は素直に言ってしまうタイプだったので一応の念を押した。  
「ささやかなものを連ねた方がいいと私は思う……が、どの辺までがささやかかは人それぞれ  
だな」  
途端に彼の手が止まり、視線が宙を泳いだ。  
「難しいね……」  
「それは私に褒めるべきところが一つもないということか?」  
面白そうな顔にフィールはぶんぶんと首を振った。  
「違うよ!そうじゃなくて……考えすぎちゃうんだ、多分」  
「こんな時に褒め言葉で悩む男はいないぞ。雰囲気がぶち壊しだ」  
まったくからかい甲斐がある。  
笑いをこらえるのに結構な努力をしながら、彼女は少年に寄りかかった。  
 
そろそろ沈黙が苦しくなってきたと思う頃、やっとフィールが口を開いた。  
「ア、アルミラはさ」  
「うん?」  
「女の人の割に背が高いけど、体重はすごく軽いよね」  
アルミラは天を仰いだ。  
本人は褒めているつもりなのだろうか。古来から女性の体重について言及するのは禁忌だと  
決まっているというのに。痩せていると褒める場合でもだ。  
呆れたを通り越して我慢できないほど可笑しくなってしまい、とうとう吹き出してしまった。  
彼女が肩を揺らして笑うのは本当に珍しい。  
いつもより感情表現が豊かなのはやはり酒のせいだろうか。  
 
「あぁ……まったく、お前には参るよ」  
目尻に浮かぶ涙を見て彼は頬を膨らませる。  
「笑わなくても」  
「ほらそんな……子供みたいな反応――」  
するな、と続けようとしたところ彼の顔が迫ってきた。  
最初からそういう話をしていたのというのに、いきなり積極的な少年に彼女はつい顎を引いて  
しまう。  
反射的に閉じた瞼に湿り気を、頬に手を感じた。  
瞼と言うよりまつ毛をなぞってゆくそれはちゅっと音をたて端に滲む涙まで吸い取っていく。  
眼帯の上へも少年の唇を感じ、目を開けばにっこりと笑っている彼を見てアルミラは思わず  
感嘆の声を上げた。  
「お前……その笑顔だけで女の子の一人や二人は簡単に脱がせられるぞ」  
「え?」  
邪気のない、何故か安心してしまうような。  
「なんでもない」  
 
彼女はそっけなく答えると了解も取らず少年の上に腰かけた。  
と言ってもまさか初心者に跨ったりはしない。足を揃えて横向きにだ。  
まだ細さの残るフィールの首へ両腕を回すと胸が目の前に来たのに耐えられないのか、彼は  
ふいとそっぽを向いてしまった。  
それでも彼女の腰に腕を回してのっている体に安定を求める。  
 
「どうだ、こうしてみると結構重いだろう?」  
当たり障りのない話にフィールは目線だけちら、と彼女に向けた。  
「そうでもないよ。だって僕より背が高いのに」  
「それはまあ……なんだろう、筋肉の量が違うからかな?」  
彼女は首を傾げると改めて自分の腕を眺めた。  
背が高くても女の体だから肩幅も狭いし、厚みもない。フィールよりあると言えるのは身長と  
胸囲くらいなものだ。  
「そうかも知れないね。僕と違ってやわらかいし」  
回した手や腿に感じる感触について言っているのだろう。  
胸に顔をぶつけないようにか少し頭を引いて彼女を見上げる。  
「触ってもいい?」  
 
彼女は求めに応じてわずかに上半身を引いた。  
フィールは首に掛けられていた腕をとると目の前に持ってきて、しみじみと眺める。  
細い手首から肘へ向かって腕の内側に指先を往復させるとそこへ唇を落とした。  
「やわらかくて気持ちいい……それにとても色が白いよね」  
「ふふ。白いのはいいが跡が目立って困るんだ」  
「跡?」  
「そう、キスマークが。……つけてもいいぞ?」  
彼は困ると言いながら許可を出すアルミラに不思議を覚えながら、口では違うことを言った。  
「ん……つけ方知らないんだ」  
特に恥ずかしくもなさそうに首を振る。彼にはあまり見栄を張りたいという欲求がないの  
だろう。  
「では教えてやろうか?」  
「うん」  
「返事ははい、だ。……先生と呼べ」  
「はい、先生」  
素直な返事にまたも彼女は吹き出した。  
「くっくっ……どうしてそんなに素直なんだ」  
 
お手本だ、と言ってフィールの顎を指先でついと上向けると唇をわざと外して口付ける。  
そのまま耳の少し下へと吸いついた。  
「は……どうだ、これがキスマークだ」  
「アルミラ、でもここじゃ僕には見えないよ」  
何となくほどの感触はあったのだろうか。  
鏡で見てみようか、などと言いながら顔を反らして彼女の触れたあたりを指で探っている。  
「ふふふ。吸えばいいんだ。こうして――っ」  
人差し指をあて唇をわずかにすぼめたところに、フィールが隙ありと唇を塞いだ。  
これまで学んだことを試すように舌が薄い唇を舐めてゆく。下唇から上へと移ってゆくと  
中から伸びてきた彼女に絡めとられ、口中へといざなわれた。  
初めて感じる他者の口の中は温かく唾液でぬるついていて、酒の気配などとうに無くなって  
いるのにどうしてかまた頭がくらくらした。  
何度も離れては口付ける。  
アルミラの頬が上気しているのは酒のせいではないと彼にももう気が付いていた。  
 
すっきりとした背中に手を回すと、体を後ろへ回すようにして彼女を寝台に横たえる。  
わずかに朱の差した頬を指の背で撫でた。  
「えっと……あの、先生。こんな感じ……で?」  
「上出来だ」  
にっこりと笑う彼女に安心して額へとちゅ、と唇を押しあてる。  
「先に進めていい……」  
真上にたれる少年の前髪をかき上げ、アルミラは許しを出した。  
 
アルミラの着ている部屋着はゆったりとした長袖の長衣だ。  
飲んでいる最中に暑くなったらしく袖はまくりあげ、胸元の釦はいくつか外されている。  
 
横になっていても存在感のある胸に彼はそっと手を添えた。  
「やわらかい……」  
呟きつつ下から揉み上げる。  
掌にある感触を確かめるように何度も動かしていると、薄い布の下から中央がつんと尖るのが  
分かった。  
そっと指先で捏ねるようにすると小さな声をあげて肩を縮める。  
「ふふ……ほら、フィール。キスして……」  
乞われるままに口付ける。  
「あ……ん、ちゅっ……手は、休めないんだ。胸だけじゃなくて全身を撫でるくらいの勢いで  
いけ」  
彼の手は言われたことに忠実に動いた。  
何度も唇を重ねながら服の上から手を這わせてゆく。  
時折ぴくんと引きつるとそのたびにアルミラは声をもらした。  
「そう、そうだ。飲みこみが早い……女の服を脱がせる前置きみたいなものだから。それに  
こうされると緊張がほぐれる。いきなり剥いでは雰囲気がぶち壊しだし、抵抗される恐れも  
あるから外堀は丁寧に、……っ…埋めてゆく方がいい……」  
手が再び胸に戻ると彼女の声が途切れる。  
 
フィールは頬へ耳元へと顔をずらしながらゆっくりと釦を外していった。  
そこでしばし手が止まる。  
「どうした?」  
「あの……服は上に脱がせるの、かな」  
「ああ」  
アルミラは頷いた。  
上でも下でも適当にすればいいようなものだが、教えると言った以上は説明するべきだろう。  
彼女の服は足首まであるので、その長さゆえに迷ったのかもしれない。  
「そうだな、こういう型の服なら下へと落とすのが一般的だろう。相手にばんざいさせて  
脱がせるのが好きなら上からもありだが、やはり長すぎるし下へのほうが袖も脱がし易い。  
この服の場合も釦を外せば簡単に下へ引っ張ることができる、が」  
視界に斜めに映る彼の胸にとん、と手をつくとそのまま腰まで下げていった。  
細い指を服の裾にひっかける。  
「お前、先に脱がないか?私ばかり裸になるのは恥ずかしい」  
「――!ああ、そっか」  
恥ずかしさのかけらも感じていないような声だったが、フィールは一度体を起して上着を  
頭から抜き取った。  
成長途中でまだ細さの残る体。だが仕事柄筋肉は十分ついていて腹筋も引き締まっている。  
 
「下も……脱いだ方がいいかな?」  
「私はそれでも構わないが……いや、そうだな。止した方がいいかもしれない。特にやる気に  
なっているときは。……乙女は夢を見ていたいものさ」  
くすりと笑いをもらし、彼の下腹へと視線を送る。  
赤面する彼に顔を戻し声をかけた。  
「ほら、続き続き」  
自分の方へと手招きする。  
「……アルミラこそ雰囲気のかけらもないけど、わざとかい?」  
眉尻を下げながら、切れ長の目元に唇を落とした。  
公平に眼帯の上へもフィールはちゅっと口付ける。  
ふふ、と笑うのが聞こえた。  
 
少年の手が肩からそっと彼女の肌を露わにしてゆく。  
手がくびれた部分に至るとアルミラはかすかに腰を浮かせて脱がせやすいよう彼に協力した。  
服地が膝を越えて足元に落ち、彼女はそれをつま先で寝台の下へとすべり落とした。  
 
フィールはぼうっと彼女の裸体を眺めている。  
「どうした?」  
「いや、本当に胸が大きいなぁって……ううん、違う。すごく……アルミラ、すごくきれいだ」  
記憶にある限り初めて見る大人の女性の裸に、彼は感嘆の声を上げた。  
目に映る体は燭台の灯で温かみのある色に染まっている。  
下腹部に見える茂みがどれだけ官能的なことか。  
「男の人が触りたくなるの、分かるよ」  
なおも思ったままを口にする少年にアルミラはさすがに苦笑を浮かべた。  
「……確かにあまり褒められると照れるな」  
「茶化さないでよ。……でもなんだか……いいのかな」  
「ここまで来て止める気か?それはかえって失礼だぞ」  
互いに呆れたような困ったような顔をする。  
「だって僕なんかがさ、その……」  
「私が言い出したんだから気にすることはないさ」  
横に座り込んでいる彼の手を取ると、豊かな胸の上へと導いてやる。  
「――!」  
布越しとは違う感触にフィールは慌てて手を引くが、彼を掴む手がそれを許さない。さらに  
胸へと押しつける。  
「五文字以内で感想を述べよ」  
「えっ?え――……。や、やわらかい、です」  
「これでも欲しくはならないか?」  
否――などと、答えられるわけがなかった。  
 
彼女の上に覆いかぶさりついばむように口付ける。  
丸い球を二つのせたような胸に改めて手を置くと先端へ向かって揉みしだく。何度も繰り返し  
ながらだんだんと力を込めていった。  
大きさに関係あるのかは分からないが掌の動くままに形を変え、それでもやわらかく押し  
返してくる体に彼は夢中になった。  
 
アルミラの指先も少年の体を探っている。  
頬の輪郭をとりながら顎へ、喉仏へとすべらせ鎖骨を指先でくすぐりながら腹筋へとたどり  
着く。  
「お前もいい体をしてるよ。……樵をしていて良かったな」  
「どうして?」  
「体力がつくから。テオロギアに向かっているときレオンも感心していたぞ。『あいつ弱音を  
吐かねえな』ってな。調子に乗るからお前には言うなと言っていたが」  
「言われてもそれどころじゃなかったと思うな……あの時はドロシーを助けることで頭が一杯  
だったから」  
彼女の手がさわさわと腰を回って背中を撫でた。  
引き締まった体が掌に心地いい。  
「こっちも十分魅力的だ――やっぱり筋肉の差かな」  
「……さっきの体重の話?」  
「そうだ……いいか?言っておくが女に体重の話を持ち出してはいかん。どんなに痩せて  
いても自分の理想とか見栄とか、まあいろいろな要素が重なって口が重くなる場合が多い。  
相手の気分が盛り下がる」  
「アルミラも?嫌だった?」  
フィールの問いに彼女は横になったまま器用に肩をすくめた。  
「私はそのへんはあまり気にしないからな。ただ可笑しかっただけだ」  
さっきのことを思い出してまたふふ、と笑う。  
「フィール、ほら……もっとちゃんと抱きしめてくれ」  
アルミラは背にまわした腕を引き寄せながら注文を出した。  
立ち上がっている部分が彼女の体にあたり、気まずさに少年は再び顔を染める。  
「そうやってかわいい顔をする……その表情がそそるんだって、お前、分かってないだろう」  
彼女はフィールの腰から大腿を撫でながら彼の下ばきを脱がせていった。  
最後にはやはり足を使って邪魔な衣服を取り除く。  
普通なら行儀が悪いと思う仕草も不思議と色っぽく感じられ、身の内から湧き上がる衝動に  
彼はアルミラの胸へ噛みつくような口付けをした。  
 
心のままに両手で胸を掴み、しかし最初に言われたことを思い出して一方を腰の辺りへと回す。  
白い肌はどこまでもなめらかで、ほどよく張った部分から脚の先まで何度でも手を往復させ  
たくなった。  
掌に収まりきらない質量をそれでもまんべんなく揉み上げる。  
空いている方を舌先でちろちろと舐める。  
「ぅん……あ、ぁっ……」  
すぐに反応が返ってくるのが嬉しくて、花のように色づいた山の頂からその麓まで、あます  
ところなく舌を這わせ、吸いついた。  
 
「ん……ふ……悪いがもう少しかかるぞ」  
少年の口と手が左右の胸を同じほどに可愛がった頃だろうか、フィールの屹立したものを  
左手でもてあそびながら彼女が断りを入れてきた。  
右手が彼を招き寄せ、耳元に囁く唇がかすかな風を送る。  
その間も彼の手は彼女の体から離れることがなく、少年がいちいちアルミラの話をきちんと  
聞いていることがうかがえた。  
「いいか。唇が触れて駄目な所なんてないんだ。全身を撫でたようにキスを沢山して欲しい。  
だが……あんまりきわどい所は避けるんだぞ?」  
片目を閉じて見せる彼女に、フィールは返事の代わりに頬にちゅっと唇を押しあてた。  
指示の通りに肩や腕、胸元から腰に至るまで、届く範囲へと顔を寄せてゆく。  
 
しばらくしてアルミラは少年の手を自らの秘所に導いた。  
茂みへと置かれればしっとりと言うのが控えめなほどの蜜の滲み具合に、フィールは胸がすう、  
と大きく息をするのを感じた。  
初めて触れる女の花園に緊張するのだろう。  
顔を彼女に向けたままで神経を指先に集中させている。  
「濡れてる……」  
思わずもれた少年の呟きに、彼女は何度目か分からない注意をした。  
「だからそう言うことは口に出すものじゃない。責めたいなら別だが」  
「責める?」  
「いや、なんでもない。もっとちゃんと触って……入口を、ゆっくり……」  
言葉のままに温かく濡れた割れ目を指でなぞってみると途中繊毛の流れが切れ、ぬるついた  
感触に変わった。そこがすでに彼女の体内であると気が付き、ほんの少し手を引く。それは  
この行為が自分の中の彼女を、聖域を侵すような気がしての躊躇からだった。  
しかし、さすがにフィールもここまで来て止めることなど出来ない。  
ただ彼女に対する憧れや尊敬と、抑えられない欲望への後ろめたさに今さら揺れる自分の  
弱さを内心笑うしかなかった。  
 
「ぅん……そう、それでもう少し、上の……そうだ」  
小さな突起に気付いてそっとつまむと途端にアルミラの口から嬌声がもれた。  
今まで聞いていたのとは全く違った――男を悦ばせる声。  
「あぁん……や……!」  
溢れる蜜で指先を濡らしたまま、捏ねるように、あるいは扱くようにとさらに刺激を与える。  
半ば伏せるようにしていた瞳が潤みをもって少年を見た。  
「なか……中も」  
物足りないのか、早く先へと進みたいのかアルミラは自身の襞を指先で開くようにして彼に  
催促した。  
言われるままに蜜で満たされた部分へと指を進める。  
迷う心に蓋をして彼女の求めるまま、中を探るように動かした。  
そこはぴっちりと閉じているが、内部を潤す液に助けられて少年の指の動きを容易にした。  
どうすれば彼女は喜ぶのか。  
きめ細かい肌のあちこちに口付けをしながら、フィールは彼女の声や体のわずかな動きで  
それを知ろうとした。  
「ん、ふっ、駄目……もっと……深く、あ……!」  
短く吐息をもらすのを唇で塞ぐ。  
彼女の舌がフィールを求めてくる。応えるように絡ませると、やわらかく噛みついてきた。  
何故か甘い彼女との口付けは何度しても飽きるということがなかった。  
 
フィールの指が中をかき回すたび、触れ合う大腿から彼女の脚がぴくんと揺れるのが伝わって  
きて、彼の昂りを抑えきれないところまで追い詰めた。  
「アルミラ、僕、もう……!」  
切羽詰まったような少年の声にアルミラの手が彼の顔を撫でた。  
指先が頬から顎にきてフィールの唇を求める。  
触れただけで離れると彼女はそれとわかるよう膝を立てた。  
 
彼はゆっくりと腰を進める。  
口でしてもらった時とは違うが、やはりとろとろになっている部分と密着し動く感触は  
堪らなく気持ちが良かった。  
「そうだ……少年……」  
フィールは思わず顔を上げる。  
「ふふ、懐かしいだろう?」  
「久し振りに……聞いた……っ」  
「……もっと、あぁ……ん……突いて」  
彼女の求めに応じて、といきたい所だったがフィールにはあまり余裕がなかった。  
アルミラの体があまりに気持ち良かったからだ。  
 
「あっ、あ……ぁ……ん、フィ…ル……もっと、っ!」  
抗えない感触。口も、その茂みの奥も、男のものを慰め、あるいは抵抗を削ぐのにこれ以上の  
ものはないとさえ感じられた。  
恥ずかしさも後ろめたさも、とうに頭から消えている。  
下に敷いている女の喘ぎと自分が短く息をついているのだけが聞こえ、暗闇にぽつんと見える  
光を目指すように、ただそこだけを求めて彼は腰を打ちつけた。  
「―――ッ!」  
体の中心を駆け抜けるような快感に、彼は身を震わせた。  
 
「もう少し」  
「……え?」  
肩で息をしている少年に声をかけるとアルミラはいきなり彼の腰に脚を絡めた。了解もとらず、  
器用に互いの位置を交換する。  
一瞬で視界が反転し、フィールは目をしばたたかせた。  
アルミラは少年を見下ろし目を細める。  
「もう少し、だ……私も満足させてもらうぞ」  
紅い唇が微笑みの形をつくると下にいる少年に密着して何度も口付けを交わした。  
彼の舌に吸いつきやわやわと噛みつけば、繋がったままの部分で彼がまた元気になったのを  
感じ、その素直な反応に鼻の頭へも唇を落とした。  
「若さというのは何物にも代えがたいものだ」  
彼には冷やかされたとしか思えない台詞をはくと、二人分の体液でとろとろになった部分を  
ゆっくりと動かし始めた。  
彼女の手を付いているところ――フィールの胸も腹も――筋肉がしっかりついているせいか  
頼りなさは全くない。  
 
少年は自分に跨って上下、あるいは前後にゆったりと動く女を、波のように強弱をつけて  
よせてくる快感に眉をひそめながら見上げていた。  
眼前で豊満な胸がゆらゆらと揺れている。  
手を伸ばし、つんと尖った所を指先で思うままに弄りまわすと、交わっている部分とは別の  
刺激にアルミラは胸を突き出すように腰をくねらせた。  
「うふ……ん……んっ」  
少年の手が与える快感に負けないよう、中をかき回すように彼女の腰が動く。  
自分の快感のみを追求するそれは、だがフィールにも同じように抽迭の悦びを与え、たまらず  
彼は声をもらした。  
「っ……」  
彼の手が動きを止めるように大腿を抑えるがそんなことで止まりはしない。  
またも自分を置いてゆきそうな少年に気付き、アルミラは手加減しないまま注文を出した。  
「少年……ぁあ……っ、駄目、ダ、メだっ……まだ……」  
フィールを牽制しながら確実に自分を求めるところへと押し上げる。  
「あっ……や……あぁあ――!」  
 
彼を包み込んでいる部分がいっそう締まり、支えを得ようとする手が少年の胸に爪を立てる。  
アルミラの体に引きずられるように彼も再び頂点へと達し、知ったばかりの女の体に再び精を  
放った。  
脈打つように吐き出したそれは蜜と混じり合いわずかに接合部から溢れる。  
 
「――っ……ふぅ……」  
彼女は体を震わせた後倒れこむようにフィールの胸に伏せ、息が整うのを待った。  
見れば彼の胸も大きく上下している。  
ぎゅうと抱きしめてくる腕に顔をあげ、そっと唇を重ねた。  
「フィール……良かった……」  
「本当?僕ばっかり良くしてもらった気がするけど……」  
「そんなことはないさ。私も十分気持ち良かった」  
ふ、といつものように短く微笑んで少年の額に口付ける。  
そのまま上にずれるように動いて繋がりを解いた。  
「このまま……ここで眠っても?」  
「いいよ、もちろん」  
彼はこの家で誰より早く起きるから、一緒に眠っているところを見られる心配もない。  
彼女が自分の寝台で寝てると知られたら、酔っ払って入ってきた、と答えればいいと思って  
いた。  
「ふふっ……おやすみフィール」  
「うん、おやすみ」  
アルミラがもぞもぞと腰に手を回してくる。  
甘えるような態度は彼女らしくなく、だがそれゆえ余計に可愛かった。  
フィールはもう一度おやすみ、と言って彼女の頬に唇を落とした。  
 
 
 
「おはよう……」  
 
朝食の支度をしていると背後から声をかけられた。  
声の主はアルミラで、しかし壁に寄りかかる様子はただ事ではない。  
フィールはどんな風に顔を合わせればいいのかと悶々としていたが、そんなことは気にする  
までもなかったようだ。  
青い顔に慌てて彼女のそばへと駆け寄る。  
「具合が悪いのかい?」  
「フィール……昨夜はすまなかった……反省、してる」  
「お、覚えてる?」  
「当たり前だ、とも言えないか。あのざまでは」  
「そんなこといいよ……大丈夫かい?何か飲む?」  
気遣う彼の言葉にアルミラは首を横に振った。  
頭を押さえてうなり声をあげる  
「駄目だ……完璧に、二日酔いだ。もう少し寝る……。お前のせいにするつもりはないが、  
肴が美味かったからつい酒がすすんで……すすんで……ああ、駄目だ…。こんなことを言える  
義理ではないが、昨夜のこと、レオンには黙っていてくれ」  
「そ、それは勿論」  
考える間もなく頭を縦に振る。  
そんな話をしたら、ただでは済まないことくらいフィールにも分かっている。  
一人の女性を共有してしまったことに、レオンに対しての罪悪感は消せそうもなかったが  
もちろんありのままを話す事など論外だった。  
 
「一人で酒を飲んでいたとばれたらしつこく言われるからな。あれはな、それは酒が好きで」  
「そっち!?」  
 
 
 
  〜おしまい〜  
 
 
 
それから数日後。  
 
 
「フィール」  
一日の仕事を終えフィールが晩御飯の支度をしているとまた声をかけられた。  
「やあ、アルミラ。ご飯がもうすぐ出来るからレオンとドロシーを呼んできてくれる?」  
「何を作ってるんだ?」  
鍋を覗き込んでくる彼女に、フィールは鍋の中身を小皿にとって差し出す。  
「普通のスープだよ。味を見てくれるかな」  
「見ろと言われても私達の中ではお前がいちばん料理上手だからなあ……ん、美味しい」  
「そう?なら良かった」  
素直な感想に満足そうな笑みを浮かべると、彼は目の前に差し出された紙に首を傾げた。  
「なんだい、これ?」  
「メモだ」  
「……何の?」  
「読めば分かる」  
「ふうん……?分かった」  
アルミラの目が鋭さをもった。ぎゅ、と少年の手にメモを握らせる。  
「読んだらすぐに燃やすこと」  
「燃やす?どうして?」  
「もし第三者に見られたら困ったことになるからさ。……分かったか?」  
「う、うん……」  
フィールは何度も頷いた。  
一体何が書いてあるのだろうか。  
「先に読んでおけ。もう少し経ってから二人を呼んでくるから」  
 
かさかさと紙片を広げながらもう一口、とスープを口に含んだ彼は、しかし次の瞬間盛大に  
吹いてしまった。  
「あちっ、あ、あっつ!熱い!水!」  
その内容に気を取られさらには驚かされて、それでも水を飲みながら最後まで目を通す。  
飲み物を口に入れたのとは別の理由でごくりと喉を鳴らした。  
 
 
|この間はすぐに眠ってしまったが、本当は行為の後にすぐ寝てしまうのは勧められない。  
|前戯、後戯と言うように本当は済んだ後も言葉を交わしたり触れ合ったりするものなのだ。  
|することをしたら用は無いという風に受け取られることもままある。  
|酔っていたせいとは言え、最後まできちんとできなかったことが悔やまれる。次の機会が  
|あったら今度は最後まで『素面で』教えてやろう。  
|穴だらけの教え方、悪い見本をして悪かった。  
 
 
反射的に紙切れを小さく小さく畳んではっとする。  
「あ……そうだ、違う、燃やさなきゃ」  
鍋の下にほんの少し差し入れただけで瞬く間に燃え上がった。  
 
直後、賑やかな声が聞こえてきた。  
「おう、今日のおかずなんだ?肉か?」  
「肉、肉とうるさいな……お前は干し肉でもかじっていろ」  
「お兄ちゃん、お皿並べるねー」  
「ああ、うん。頼むよ」  
妹の声に振り返ると、アルミラと目が合った。  
彼女はいつものようにうっすらと微笑むだけだったが、その笑みの奥に二人の秘密が見えて  
フィールにどっと冷や汗をかかせた。  
 
 
  〜おしまい〜  
 
 
 

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