「フィール、こんな時に他の女の名を呼ぶのは感心しないな」  
「だめだ、アルミラ……これ以上はっ……!」  
「お前の体はそうは言っていないようだぞ、ほら」  
「――っ!」  
慣れた手つきで少年の下半身を慰めながら、彼女は真面目な顔で提案した。  
「折角だ、この際男女の性愛についてお前にレクチャーしてやろう」  
「えっ!?」  
「女の扱い方は覚えておいて損はないぞ」  
「ええっ!?」  
「いざと言うときのために……ジュジュが好きなのだろう?」  
「そう、僕……そうみたいだけど、アルミラの言うことは間違ってるよ」  
「いいや、間違ってない。こういうことは年上の異性に教わるものだ。どんなふうに触れれば  
効果的に相手の抵抗を削ぐことができるか、私の言う通りにやってみろ」  
「で、でも、合意の上なら抵抗されないんじゃ……?」  
フィールは青い顔をして首を横に振った。  
それに対してアルミラはうんうんと頷いている。  
「合意であっても抵抗するのが女と言う生き物だ。さ、まず私を優しく抱きしめてみろ」  
「アルミラ、その前に、手を……し、下から手を離して……!」  
 
今にも泣き出しそうなフィールの声に、アルミラはようやく彼の下半身から手を離した。  
彼の足元に跪いていたのを、椅子に両手をついて立ち上がる。  
「ほら……寝台にいこうか」  
彼はわずかな躊躇いの後、差し出された手をとった。  
 
 
 
廊下に足音が聞こえノックの音に返事をすると、顔をのぞかせたのはまだ若いこの家の  
主だった。  
「アルミラ、今いいかい?」  
「ああ、なんだ?」  
「あのね……あれ?レオンは?」  
二人の部屋の入口に立ったまま、彼は室内を見回す。  
「ヴィティスのところだ」  
「またかい?ちょっと飲みすぎなんじゃないの?」  
非難するような声に彼女は肩をすくめた。  
その様子からすでにアルミラもレオンに同じような注意をしたことがうかがえる。  
「もしかしたら酒を飲みに行ってるんじゃなくて『接客業をするヴィティス』を見物に行って  
いるのかも知れんぞ」  
ありえる話にフィールは小さく吹き出した。  
それほど長く一緒の時間を過ごしたわけではないが、確かにヴィティスがにこやかに笑う  
ところは想像がつかない。  
しかし昔からの知り合いがそんなところを毎晩のように見に来ていたら、彼としては煩わしい  
のではないだろうか。  
 
「お酒なら家で飲めばいいのに……用意してあるんだよ。二人とも好きみたいだから」  
「何?」  
アルミラが珍しくそそられたような表情をする。  
そんな彼女を微笑ましく思いながら彼は自分の用事を思い出した。  
「良かったら持ってこようか?飲みながら僕の話を聞いてよ」  
「……ああ、ではそうさせてもらおうかな」  
ちょっと待っててね、と断ると、アルミラがまだかと思う頃に戻ってきた。  
 
「お待たせ、肴の用意してたら時間がかかっちゃって」  
盆を部屋のテーブルに置くと、彼は遠慮なく一対の椅子の片方に腰かけた。  
アルミラも続いて腰を下ろす。  
「肴まで」  
感心したような声に、フィールは頭をかいた。  
「そんな大したものではないんだけどね。……買った時に教えてもらったんだよ。ほら、僕は  
まだお酒飲めないし、実際飲む人が食べてみないと……どうかなぁ。味見てくれる?」  
「教わるって誰に」  
「ヴィティス」  
答えながら彼女の持つ酒杯へと酒を注いでやる。  
「すまない」  
アルミラは頂きます、と一度味を確かめるように舐めると、ひと息に杯を空にしてしまった。  
口をあけて眺めている少年に気付き、言い訳をする。  
「いや、のどが渇いていたから」  
「アルミラ、強いんだね……」  
『レオンが飲むのなら強めのほうがいいだろうな』というヴィティスの言葉を思い出し、  
フィールは感心した。  
「そうでもない。甘口だから飲みやすいんだ。レオンにはかなわん」  
「ふぅん……そういうものなのかな?」  
自分には分からない感覚に首を傾げながら、彼はもう一杯と注いでやった。  
「お前も飲んでみたらどうだ。早すぎるという事はないと思うぞ?」  
なみなみそそがれた酒をフィールの前に掲げて見せる。  
「んー……そうだね。でもいいよ。もっと大人になって本当に飲みたくなったら二人の仲間に  
入れてくれるかい?」  
差し出された酒杯に首を振ると少年は一緒に用意してきたお茶に口をつけた。  
 
「お前くらいの年頃だと、多少悪いことでも何でも試してみたくなるものだと思っていたん  
だがな……冒険するのは嫌いか?」  
自分の少女時代を懐かしむような顔に、フィールは頷いた。  
「実はね、以前舐めてみたことがあるんだけど、あんまり美味しくないなぁって。もう少し  
大人になったら味が分かるようになるかな?」  
「ああ、それはあるかもしれんな。成長すれば味覚も変わる。煙草が好きになったり――」  
彼女の例え話にフィールは苦虫を噛み潰したような顔になった。  
「僕煙草は嫌いなんだ。あんな煙を口から吸ったり吐いたりすることの何が楽しいんだろって  
思うよ」  
「楽しいんじゃなくて美味しいのさ。……吸ったことが?」  
「ううん、無いけど。周りの人の煙が嫌いなんだ」  
 
 
とりとめのない話をしてるうちに大分経った。酒瓶の中身はそろそろ空に近くなっている。  
アルミラは二人掛けの椅子に半分寝そべるような形で座り、ひじ掛けの一方に頭をのせると  
もう一方に組んだ足を行儀悪く投げ出していた。  
「ふふふふふ」  
「アルミラ?」  
辛口の干し肉の作り方について語っていたフィールは思わず彼女の名を呼んだ。  
あまりにもらしくない笑い方だったからだ。  
嬉しそうに目を閉じてなおも酒を口元に持ってゆく。  
「ふふ……久し振りだ。こんな晴れ晴れした気分で酒を飲むのは。お前の作ってくれた肴も  
美味しいし。幸せとはこういうことを言うんだろう……いい気分だ」  
 
うっとりと言ってまたあおる。  
あまりのペースの速さにフィールが思わず注意した。  
「アルミラ、飲むのが速すぎるよ。もっとゆっくり飲んだら?」  
「フィール」  
「なに?」  
「お前のおかげだ、みんな。我々が神の支配から脱することが出来たのも、こうやって  
とりあえずの居場所を得て美味しく酒を飲めるのも……」  
「なんだい?いきなり」  
彼女のしみじみとした謝辞にフィールは恥ずかしそうに俯いた。  
「別に、そんなの……僕に出来ることをしただけだし、僕だって皆の協力がなかったら  
テオロギアにたどり着くことさえ出来たかどうか分からないんだ。そんな風に褒められると  
困るよ」  
「照れることはないさ、みんな本当のことだ。感謝してる……。お前には何でもしてやりたい  
気分だ」  
「気持ちだけ受け取っておくよ」  
「どうだ、歌でも歌ってやろうか?」  
 
あー、と喉に手をあてて発声練習を始める彼女にフィールは目を疑った。  
こんな真夜中に歌を歌おうとは。気分がいいにもほどがある。  
「アルミラ、酔ってるのかい?」  
「酔ってなどいないさ」  
よどみなく答えるが、言っていることが酔っ払いの決め台詞では説得力が無い。  
「酔ってるよ、びっくりするなあ。……もう寝よう。これ、片付けるね」  
散らかったテーブルの上を手早く盆の上にのせはじめた。  
「まて、一口だけ残してもしょうがないだろう。責任もって私が始末する」  
フィールの手から瓶を取り返すとすべて自身の持つ酒杯にあけてしまった。  
「これでお終いか……」  
ぽつりと聞こえた呟きにフィールは微笑んだ。  
心底残念そうな言い方が珍しくも可愛かったのだ。  
実際彼女がそんなに酒が好きだとは思っていなかった。  
こんなアルミラが見られるのなら、またレオンのいない時にでも(彼がいるとアルミラが酔う  
前に瓶を空にしてしまうから)お酒の用意をしようか、などと考えていると、不意に名を  
呼ばれた。  
 
「そういえば話があったんだろう?」  
フィールも既に忘れていたというのに、よく憶えている。やはり本人の主張通り酔っては  
いないのだろうか。  
しかし今から話を始めるには時間が遅すぎた。  
「いいよ、また今度で。もう今日は寝よう」  
「フィール」  
「何?」  
まだ彼女は酒杯を傾けている。名残惜しそうに飲む様子はやはり酔っているようにしか見え  
なかった。  
手招きされたのに立ち上がって彼女の横へと屈みこむ。  
さらなる手招きに何だい、と顔を寄せるとアルミラは彼の肩に手を回してきた。  
「え?」  
不思議に思う間もなく唇を押しあてられる。  
温かな感触の隙間から流れてきたのは頭がくらくらするような酒精分だった。  
 
「――!」  
反射的に彼女を押し飛ばすようにして離れたが、アルミラの声は彼の反応を楽しんでいるよう  
だった。  
「ふふ、美味いだろう?」  
「アルミラ!」  
「そう怖い顔をするな」  
 
ふざけるにもほどがある。  
酔っ払い相手に怒ってもしょうがないと思いながらついフィールは顔をしかめた。  
腹が立つのはあんまり驚かされたからだ。  
「だから……美味いとか不味いとか、僕にはまだ分からないんだってば」  
「そうか?残念だな」  
彼女はくっくっとまだ笑っている。  
ひじ掛けにのせていた脚を下ろし奥へ寄ると空いた座面を叩いた。  
「フィール、隣に座れ」  
「え?」  
今度は何だと思いながらも指示通りにするあたり、彼はやはり素直だ。  
「何だい?」  
「いいことをしてやろう」  
「……?」  
眉をひそめ疑問いっぱいのフィールに何の断りもなく下ばきに手を伸ばしてきた。  
「わ、――ア、アルミラ!?何する……!!」  
当然その手を押さえ抵抗する少年に、彼女は逆に驚いた顔になった。  
「なんだ?手を離せ」  
「こっちの台詞だよ!何するのさ!!」  
「フィール、落ち着け」  
「僕は落ち着いてるよ!」  
動揺して大きな声になるのをアルミラが諌める。  
フィールは首をぶんぶんと横に振って、それどころではないという状態だ。  
「声が大きいぞ」  
「だって、アルミラが変なことするから……手を放してよ!」  
彼の抗議にも相変わらず冷静に返してくる。その冷静さがかえって怖いとフィールは感じて  
いた。  
「気分がいいんだ」  
「そうみたいだね。そりゃ、あんなに飲んだんだしそれは分かるけど、でも」  
「嫌味をいうな――だからさ」  
「だから!?」  
理由にならない理由にフィールはまたも大声をあげた。  
 
酒は人をおかしくする。  
あのアルミラが何というざまだとさすがに彼も呆れた表情を隠せなかった。  
酔っ払いはどうしようもないのだと再確認する。  
自分はお酒を飲めない方がいいかもしれないとも。  
 
「そういうことは、その……だから、そう、レオンにしてあげなよ!僕は遠慮します!」  
「お前は生娘か――っと。これではまるで男の台詞だな」  
彼の態度に嘆息し、次いで思わずもれた自身の言葉に苦笑する。  
ずい、と横にいる彼に上半身を寄せ逃げ道を断つとその額に小さく口付けた。  
肩を縮めるようにしている少年を見下ろし前髪を梳くと、そこにも唇を落とす。  
「こういうことに興味ないのか?」  
「きょ、興味、興味ってそんな」  
こういうときにも適当な答えを返せない性格だ。  
酔っている(ように見える)、明日覚えていないかも知れない相手にも真面目に答える。  
「そりゃ……興味はあるよ。男だし。でも、恋人以外の人とそういうことするっていうのは  
僕は」  
「そうか。私はあまりこだわらない方でな。恋愛感情のありなしでこうした行為を割り  
切れるか、と言うなら私は割り切れる方なのだろう――経験は?」  
彼は顔を真っ赤にしたまま答えない。  
「フィール」  
重ねて問われ、少年はやけっぱちのように答えた。  
「な、ないよっ」  
「そうか」  
満足そうに笑うとアルミラはいっそうフィールへと体を密着させた。  
彼は間に腕を置いて拒否しようとしたが、柔らかな胸が押し付けられる感触に耐えられず、  
その手をどけてしまう。  
 
俯く顎に細い指がかかれば、やはり口ではどうこう言っていても好奇心が勝ったのだろう。  
それ以上逃げることなくただ視線を横にずらすだけなのに、アルミラは易々と彼の唇を奪った。  
「……っん……は……」  
軽く舌を侵入させただけだがゆっくりと離した唇からは唾液がこぼれ、フィールの濡れた  
口元に彼女はもう一度舌を這わせた。  
「ん」  
そのまま頬にも口付ける。  
「どうかな?」  
「き、気持ちいい……けど」  
なかなかに葛藤があるのだろう。  
少年の潔癖さと年相応の好奇心の強さに微笑みながら、アルミラは再び彼の下ばきに手を  
伸ばした。  
すると途端に彼の手がそれを阻む。  
彼女は首をかしげた。今の様子から彼は自分を受け入れたと思ったからだ。  
「どうして嫌がるんだ?」  
やはり答えは返ってこない。  
アルミラはため息をつくともう一度顔をよせ唇を重ねた。  
彼もそれには抵抗ないのか、少し顔を引いた他はとくに逃げる様子もなく彼女の舌を受け  
入れる。  
 
フィールにゆっくり圧し掛かってゆくと、力の緩んだ手を強引にどけて彼の下半身を露わに  
した。  
「――ッ!」  
その体勢から彼がアルミラを振りほどけないうちに、少年のむきだしになったところに手を  
伸ばす。  
密着する女の体にも口付けにも案外鈍いのか、それとも意志の力だとでも言うのか。  
フィールのそこが意外なほど反応が薄かったのにアルミラは驚いた。経験がなければこうした  
刺激には弱いものだと思っていたのだ。  
それでも手を触れればたちまち屹立し、ある程度の敏感さを彼女に主張する。  
彼の口を塞いだまま撫でるようにその先端を擦った。  
「ん……っ」  
堪らないのだろう。重ねた唇から吐息をもらし体が大きく揺れたのに、アルミラは満足した。  
「ふふ」  
首筋へと顔をずらしちゅっと吸いつくように唇を押しつけながら、手は根元から竿の部分へと  
休むことなく動く。  
始めのうちは掌全体を使って少年のものを扱いていたが、すいと彼から離れ床に膝をつくと  
躊躇いなくそれを口に含んだ。  
 
「な……ア、アルミラっ!」  
驚いたのも束の間、フィールは先程とはまた違う、しかも強烈な刺激に息をのんだ。  
「あ、っ……あ……!」  
眉をひそめるさまから性の悦びに流されまいと抵抗する意志が見える。  
「や……だ、アルミ、ラ……っ」  
それでも足元に膝をついている女は手を引くということをしなかった。  
ねっとりと絡みつき舌先でなぞっては輪郭に沿って舐めあげる。口全体を使い吸いつくように  
して彼をさらなる高みへと追い詰めた。  
間断なく襲ってくる快感の波は本心に反して彼の体を悦ばせ、声をこらえるのに唇を噛まなく  
てはいけないほどだった。  
くちゅくちゅと淫らな音に紛れて椅子のきしむ音がする。  
直後、慣れない粘膜の感触と巧みな舌使いによって達した証が、微かな声と共にアルミラの  
口へと吐き出された。  
 
「……ュジュ……!」  
 
彼の口から出た言葉にアルミラは一瞬動きを止めるが、白濁したものを飲み込むとさらに  
先端を絞りあげるように吸った。  
「ん、んっ……もう……アルミラ…ッ!」  
自身から引きはがそうとするフィールの手に彼女は意外にも素直に従った。  
しかし口元を拭うと体を起こし、彼の額をぴん、と指先で弾く。  
 
 
「フィール、こんな時に他の女の名を呼ぶのは感心しないな」  
 
 

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