水も緑もすっかり枯れてしまった荒れ地で、彼等は御使いの長ヴィティスと対峙した。  
ベラトル系のしもべ四体を従える彼とは大変な戦闘になったが辛くも退けることに成功し、  
三人はさらに奥へ、テオロギアへと向かって行った。  
 
「わっ……!」  
「おい、大丈夫か?」  
「う……うん……」  
神殿だったという廃墟の入口でフィールはとたた、と脚をもつれさせた。  
 
手にしていた武器の感触が薄れ、手の中から消える。  
「あ……え、トト?」  
フィールは姿の見えない飼い猫を探して周囲に視線を巡らせたが、あっと思った時には彼の  
頭の上にそれはいた。  
背中に後脚を置き、前脚をフィールの後ろ頭にかけてのしかかっている。  
「ここまで一息に来たのだ。一度休んでもよかろう」  
「トト……」  
提案にアルミラとレオンは頷いた。  
「そうだな。敵が現れるとその後は歩くこともできないし、一休みするか」  
「いいぜ」  
彼等にしてもいい加減走りづめで疲れを感じ始めていたのだ。  
 
三人は暫く冷たい壁に背を持たれさせ休んでいたが、フィールが用を足してくる、とその場を  
離れた。  
それを待っていたようにアルミラが口を開く。  
「レオン」  
「あん?」  
「一体どういうつもりだと思う?」  
主語の抜けた曖昧な質問に男はあぁ、と面白くなさそうな顔になる。  
「野郎のことか?ふざけんなだよな。現OZが何様だってんだ」  
何と言わなくても通じたのは珍しい。それくらいレオンもヴィティスの様子が気になって  
いたのだろう。  
誰にも厳しい彼のわざと手加減したような、いや、二人とも明らかに手加減されたと感じて  
いたからだろう。ヴィティスの態度に違和感を持ったのは。  
親しかったからと言って反逆者に手を緩めるような男でないのは分かっている。前例がある。  
「本気で来たって負けやしねーよ。なぁ」  
「いや、無理だろうな。こっちは装甲化なしの上、フィールはまだまだ初心者だ」  
同意を求める彼にもアルミラは冷静だ。  
たとえ冗談でも可能性のないことに賛同したりはしない。  
「お前、装甲化しようとしてフィールに助けられただろう?ヴィティスはそれを見てまさか、  
と言っていた」  
「うっ!」  
知らなかったからとはいえ下手を打った時の話は聞きづらい。  
レオンは顔をしかめた。  
「あれを見て、まず間違いなくフィールが神々の子だろうと判断したぞ」  
「俺達への攻撃はますます厳しくなる……か。望むところだぜ」  
レクスの左腕を強く握りしめる。  
戦いは彼を昂ぶらせるものでしかないのだ。  
「フィールは何故自分が狙われるのか、訳が分からないだろうな」  
「俺達だって分からねえんだ。進んで行くうちにちったあ事情もはっきりしてくんだろ」  
「最悪、フィールの妹だけでも何とかしてやりたいんだが……」  
「あー……妹な……そうだな」  
「何だ。何か引っかかるのか?」  
 
あぐらをかき腕組みしている彼の言葉はあまりにも状況にそぐわないものだった。  
「ボウズの妹があと五つ六つ上だったら良かったのになぁ、と」  
「こんな時に何を言っているんだ、お前は」  
呟きを聞き咎め嘆息する。  
     
「だけどボウズが15だろ。その妹じゃお子様もいいとこだ。妹じゃなくて姉ちゃんならなぁ」  
「それ、フィールの前で言うなよ?……殴られるだけじゃ済まないぞ?」  
レオンは分かってると言いたげに肩をすくめた。  
妹のことになるとあの少年は常の大人しさからは想像もつかないような底力を発揮するのだ。  
「まだ死にたかねぇよ。ま、ほっぺにちゅ、くらいは期待してもいいのかね」  
「まったく……神を許せないなんて言っておきながら、ご褒美が無いと頑張れないのか?」  
「そういうわけじゃねえけどよ、妙齢の美女を助けるっつー方がその後の展開に期待が  
持てるし、ますますやる気も出るってもんだ。……男は単純なんだよ」  
「……」  
「ん?……何だよ、睨むなよ」  
「レオン、お前……」  
 
「あー、もー!そんな目で見るんじゃねえ!」  
沈黙に非難が込められていると思ったのだろう。続く言葉を待つことが出来ず、責められる  
前に降参した。  
顔の前で手を大きく振って今のは無かったことにしてくれと態度で表した。  
「悪かったよ!こんな時に言うことじゃなかった。馬鹿なこと言った!」  
確かに今の状況を考えると口に出すべきではない内容だった。彼は迂闊な発言を後悔した。  
しかし眉をよせた後の彼女の言葉は以外にもレオンを責めるものではなかった。  
「お前の言う妙齢っていうのは幾つぐらいだ?」  
純粋に不思議そうな顔で首を傾げている。  
うっと詰まり追及されているのかいないのか、半々の気持ちで窺いながら慎重に答えた。  
「ん〜……そうだな。やっぱり俺と同じか……少し下、くらいか?」  
「私くらいか」  
ふむ、と顎に手をあて考えている。  
「そうなるな」  
混ぜそんなことを聞くのだろうか。  
アルミラが何を考えているのか分からず落ち着かない。きょろきょろとあたりを見ると  
向こうの方で戻ってきたフィールとトトが神殿の内部を指差し何やら話をしているのが見えた。  
 
「では私では?」  
 
「……は?」  
一瞬で顔をアルミラに戻す。  
レオンの目が丸くなった。  
彼女の言葉の意味が理解できなかったのだろう。  
「美人とは言えないが、少なくとも条件の一つは満たしている。それとも私ではお前を励ます  
ものとしては弱いか?」  
レオンは魚のようにぱくぱくと口を開閉させるだけだった。  
それもそうだろう。OZのメンバーとして出会ってからどれほどの時が過ぎたか。彼女はその  
極めて女性的な体をして、これまで性を感じさせるような発言、行動はしたことが無かったと  
いうのに。  
「どういうつもり……ってかどうしたんだよ、いきなり。何か悪いもんでも食ったのか?」  
正気を疑ったがそういうわけでもないようだし、一体何のつもりかと尋ねると彼女は平然と  
答えた。  
「なに、それでお前のモチベーションが上がってくれるならいいかと思ってな。本音を言えば  
ふざけたことを言ってないで全力でいけ、というところだが。お前の気持ちも分からないでも  
ない」  
「ば……何言ってやがる。冗談も休み休み言えよ!」  
「冗談に聞こえたか?」  
 
「――本気かよ」  
あくまで真顔の彼女に彼は絶句した。  
アルミラを睨みつけるように(彼にしては)熟考し、確認するように問いかける。  
「後であれは無しだ、なんて言わねぇな?」  
「しつこいぞ、お前」  
アルミラが呆れたように嘆息すると、彼はフィールへと大股で近づいて行った。  
 
「っしゃあぁぁっ!!おいボウズ、行くぞ!」  
     
  ***  
 
「父さんと母さんが使ってた部屋なんだ」  
 
窓を大きく開け放ち、寝台の掛布を剥ぐと陽光に照らされふわふわと埃の舞うのが見えた。  
新鮮な空気がやはり開けたままにしてある部屋の扉へと一直線に流れていくのが分かる。  
「留守にしていたからちょっと埃っぽいけど結構マメに掃除してたから大丈夫、使えるよ」  
「わりいな」  
「そんなの気にしないで、でも床を掃くくらいはしたいから居間でちょっと待ってて欲しいん  
だけど」  
気を使うフィールの言葉にレオンが顔の前で手を振った。  
「いい、いい。それくらい自分たちでやらあ」  
アルミラもそれに頷く。  
「レオンの言う通り、我々は客ではなく居候になるのだからそれくらいは自分達でやらせて  
欲しい。それにお前は他にやることがあるんだろう?」  
「う、うん」  
申し訳なさそうな顔になる。  
「いいからお前はお前のやるべきことをやれ。――ドロシーに聞けばいいのか?」  
「じゃ悪いけどそうしてくれる?僕、ちょっと村の方に行かないといけないから」  
そう言って二人に簡単に家の中の説明をするとフィールは慌ただしく出て行った。  
 
「アルミラ」  
彼女は窓から顔を出して辺りを眺めている。  
振り返らずに返事をしてきた。  
「なんだ?」  
「本当にいいのかよ」  
「だから何が」  
要点の分からない質問に、アルミラは背後を振り返った。  
ばっちり目が合い何故かレオンが目を逸らす。  
「その……一緒の部屋でよ」  
鼻の頭をかきながら気まずそうに尋ねる様子は自信なさげで、いつもの彼らしくなかった。  
そしてアルミラも意味が分からなかったわけでもないだろうに、何故か明後日なことを答えた。  
「我々は少しばかり大きいからな。居間の長椅子には背が収まらないだろうし、フィール達  
二人の寝台に入れてもらうには狭すぎる。他に寝台のあるのはここだけだ。ならこの部屋を  
借りるのが手っ取り早いさ。そうだろう」  
レオンにとっては答えになっていない。しかしズバリ聞くべきかどうか、この時の彼には  
判断がつかなかった。  
 
 
「開いてるぜ」  
扉をたたく音に返事をするとアルミラが入ってきた。  
風呂上がりでも眼帯はしたまま。髪を洗うときは外すのだろうか。  
「先にお風呂借りたぞ。次はお前だ」  
「おい……なんだ、それ」  
レオンは彼女の服装に目を丸くして、返事もせずに問いかけた。  
 
彼女は自分の姿を見下ろす。  
腰の部分をつまんで見せるが腰回りが大分余っていた。  
「これか?カインの服だそうだ。フィールの母親の物もフィールの物も私にはきつくてな」  
アルミラの格好は全体的にゆったりとした、大腿あたりまでを覆うだけの大きな部屋着だった。  
きついというのは胸のことだろう。  
「ドロシーが出してくれたんだ。寝るときはゆったりめの方がいいだろうって」  
「下は?」  
「あるにはあるが……必要ないだろう?」  
何故そんなことを聞くのかと不思議そうな顔だ。  
どういう意味か分かって言っているのだろうか。いや、彼女のことだ、分かって言っているに  
違いない。  
レオンは一度口を開いたもののあえて突っ込まず、入れ替わりに部屋を出て行った。  
     
元々はっきりくっきりさばさば、の彼女に恥じらいを求めるのが無理な相談なのだろうか。  
だがこんな時くらいはいつもと違う面を見せるかとレオンは思っていた。期待していたと  
言ってもいい。  
居間のフィールに風呂の場所を聞きながら、俺の発想の方が余程乙女だぜ、と彼は少し落ち  
込んだ。  
 
暫くしてその部屋の扉が再び叩かれた。  
「上くらい羽織って来い」  
「お前が言うか?」  
濡れた頭を布でがしがしと拭きながら寝台に座る彼女の元へとよっていく。  
言われたとおり、彼はアルミラと正反対に部屋着の下だけ穿いた格好だった。  
「これもか?」  
「ああ、カインのだってよ。風呂上がりに上なんか暑くて着てらんねぇ」  
顔を手で仰ぐ。  
「我々だけではないんだぞ。ドロシーがいる」  
「そりゃもうボウズにも怒られて来た……あいつ気にし過ぎなんだよな。過保護」  
「目に毒だと思ったんだろう」  
「どういう意味だ、そりゃ」  
「だって。私は怒られなかったぞ?注意で済んだ」  
服の上だけ羽織って風呂を出たら、彼女もやはりフィールと廊下ですれ違ったことを話した。  
『下もちゃんとはいて欲しいんだけど……』と真っ赤な顔でやんわり注意されたと言う。  
レオンがそりゃあそうだと頷いた。  
「その格好、ボウズにゃちいとばかり刺激が強いだろうよ」  
「それは無いと思うが。フィールは戦闘服の時は全然気にしていなかっただろう?あれに  
比べれば大人しい。露出も控えめだ。腿から下が見えるだけだし」  
その見えてる腿が絶妙な位置であるところに問題があるのだが、彼女にはそれがどれだけ  
重要な違いか判断がつかないようだった。  
「その辺が男のロマンってやつだ。俺はその格好を推奨するがね」  
顔を反らし改めて彼女の全身を眺めるレオンに彼女は肩をすくめた。  
 
寝台に腰掛けるアルミラの傍にいてもがっつくつもりはないらしく、彼は窓際まで行くと棚の  
上に置いてある水差しから水を一杯注いだ。  
「今夜は満月だったな……」  
壁に寄り掛かり外を見てレオンが呟いた。  
らしくない台詞に彼女も窓辺へゆき外へ目をやる。  
「ああ、いい夜だ。祝杯をあげたいくらいだが……それは無理だろうな」  
我々の勝利と美しい月に。  
レオンが水を飲んでいる姿を見てつい口に出してしまい、彼女は苦笑した。  
この村を半壊にしたのは彼らだった。そんな所に住むフィールの家に世話になった挙句、  
未成年者二人暮らしの家で酒を望むのは、いくらなんでも不謹慎にすぎるだろう。  
「喜ぶ気持ちはボウズにだってあるに決まってるさ。ただ、な。村の連中のことを考えたら  
お祝いしようとは言えないんじゃないか?」  
「当然だろうな……」  
 
神の支配から逃れたおかげで、はっきりと自分の犯してきた罪を自覚した。  
フィールは仕方がないと言ってくれるが、彼女はやはりそれで済ますわけにはいかないと  
思っていた。  
どうやって償えばよいのか。  
月の光を浴びながら、アルミラは静かに目を閉じた。  
 
「一日位忘れてもいいだろ」  
声が後ろから聞こえて、アルミラが室内を振り返った。  
いつの間にか灯りが消えている。  
口に出す前に彼が先回りをして答えた。  
「窓からの明かりで充分だろ?ほれ」  
「何だ?」  
水の入った器を手渡され、当然の如く聞き返す。  
     
喉が渇いたとは言っていない。  
だがレオンも器をもつとアルミラの手を強引に顔の高さに持ち上げて、乾杯、と言って彼女の  
持っているそれに当てた。  
軽く澄んだ音が響く。  
「ようは気分さ。中身なんて、そりゃまあ酒であることに越したことはねえが、祝う仲間が  
いるってことが大事なんだ……そうだろ?」  
一気に空けてもう一杯と水を注ぐ。  
風呂上がりで喉が渇いているだけじゃないのかと言いたくなったが、アルミラの口はかわりに  
違う言葉を紡いだ。  
「私も一口もらおうかな」  
 
口元に持って行った器を下げて、レオンは軽く目を見開いた。  
自分も手にしていてその台詞。意味は一つだ。  
言ってから後悔したのか再び外を向いてしまった彼女の顔に手をやって、自分の方を向かせる。  
「何だよお前……照れてんのか?」  
僅かに染まった頬に彼が嬉しそうな表情になった。  
「うるさい」  
確かに照れているらしい。  
彼女らしからぬ態度にレオンの目元が緩む。なかなか見れない可愛らしい一面に胸が躍った。  
水を口に含むとアルミラの顎を指先でなぞるように持ち上げ、薄く開いた唇に自身のそれを  
重ねる。  
「……ん…」  
こくんと喉が鳴るのが分かった。  
口の端からこぼれた水を舌で舐めとってやる。  
そのままレオンはもう一度確かな口付けを交わそうとしたが、近づける顔を掌で阻まれた。  
「おい……」  
「散歩に行かないか?」  
「あぁ?」  
 
 
二人はそのまま部屋の窓から抜け出すという大変行儀の悪いことをした。  
レオンを待たせて彼女は窓に向ってごそごそやっている。  
「そんな恰好で風邪ひくなよ……って何してんだ?」  
「うん……よし」  
納得した声と共に振りかえる。  
「鍵をかけておかないと不用心だろう?」  
「外からか?」  
中からしか動かせない型の鍵だったが、彼女の知識はそれを障害にしなかったらしい。  
 
「ああ。外からは外せないが朝になったら玄関から入れば問題ない」  
げぇ、とレオンが思わず漏らしたのは、さすがに一晩中歩き回るぞというような彼女の言葉に  
気だるさを感じたからかもしれない。  
あるいはもう一つの思惑が外れたせいか。  
 
「どこに行くんだよ」  
「うん。さすがに村のど真ん中へ行くわけにはいかないからな」  
そう説明しながらアルミラは森の中へ迷いのない足取りで進んで行った。その後をレオンは  
大人しくついてゆく。  
手燭がなくても不自由を感じないほどあたりは明るかった。  
「あの時……」  
「ん?」  
「この村に来た時さ。お前、暇だっただろう?」  
「あぁ!……暇も何も、ボウズが通るまでだーれも来なかったんだぜ?」  
その時の絶望的な気持ちを思い出したのかレオンは眉をしかめた。  
彼の性格でただ通る人間を待つだけというのは相当な苦痛だったに違いない。  
「あの時な、私もそれは落ち込んで……」  
「分かる分かる」  
彼はうんうんと頷いた。  
     
「目ぇ覚めたと同時に今までしてきたことを全部思い出して、それがてめえにとっちゃ許せねえ  
事だって気がついて、ものすごく腹が立ったわけだ」  
「簡単にいえばそういうことだが――正さなくては、と思った」  
「ふんふん」  
「で、フィールの力を……御使いを解放する力を借りようと思った。幸運なことにあいつは  
理性的で、我々御使いの立場を理解してくれたよ。話が通じるのはありがたいと思った。  
分かっていてもやられたことには仕返しを、という考えの者だっている。それはそれで正しい  
とは思うし、こちらとしては責められ殺されても文句は言えないのに」  
「お人好しっちゃお人好しだ」  
「茶化すな。それで――ほらここだ」  
 
アルミラが見ているのは何もない、周りを木々に囲まれた丸い広場だ。  
何があるというのだろうか。  
「最初から最後まであんな少年に甘えていたのだと思う」  
「カインの忘れ形見にな。わざとじゃないんだろうが、自分が死んだ後のことまでフォロー  
してくあたり、あいつらしいぜ」  
「村を出てこの辺りからか。ヴォロが――我々が連れて来たのだが――出てきた。フィールに  
レクスの使い方を教えながら進んでいった」  
「あのクソネコなぁ。初めて見たときゃ驚いたもんだが……」  
「私も驚いた。レクスが自律行動するなんてな。まぁ彼の作り出す様々な道具に助けられた  
部分も多い」  
「喋る猫なんざ周りの人間もさぞかし驚いただろうな」  
「村では普通の猫を装っていたらしいぞ。そのせいというか、必要がなかったのだろう。  
レクスとしての本性を初めてフィールに示したのは、私との戦いの場面だったようだ。  
あんなに驚いたことは記憶にない」  
その時の気持ちを思い出したのか、アルミラはうっすらと唇をあげた。  
「ほんっと初心者だったんだなー。よくそれでお前と戦う気になってたじゃねえか」  
「最初は斧を武器にしていたからな。御使いについてあまり知らなかったとはいえ、あんな  
物で挑んでくるとは度胸があると思ったよ」  
「確かに」  
度胸うんぬんでは済まない話だけにレオンはしみじみと頷いた。  
 
「話を戻すが――最初の頃は力がないというかコツがわからなかったのかな?なかなかうまく  
パスを出してくれなくてな、やきもきした」  
「そりゃしょうがねえだろ。文句言うほうが無茶だ」  
「お前にそういう理解ある台詞を言われるとなんだか落ち込むな」  
「どういう意味だよ」  
レオンが口をとがらせる。  
「ふふ……。ほら、橋があるだろう?」  
進むにつれて橋が見えてきた。  
橋としては短いものだが手すりがないのが恐ろしい。  
レオンもそれに気づいたようだ。そっと下を覗き込む。  
「危ねえな、これ。下まで結構高さがあるぞ……このまんまにしておくなんて村の連中、  
何考えてんだ?」  
「さてな。あまり人が通らないのだろう。ここでは、フィールがせっかくのヴォロをぽんぽん  
谷底に落とすものだから参った。一度テンションを上げれば必殺技を使うのは狙いも正確だし  
上手かったんだが」  
「狙いが正確なのに?落とすのか?」  
「二、三匹一遍に攻撃するものだから一匹しか私のもとに来なかった……多分自分のレクスの  
大きさが掴めていなかったのだな」  
 
レオンはアルミラの意図にやっと気がついた。  
自分がレオンと合流するまでのフィールとのやり取り、彼の印象を実際の道を進みながら  
説明したいらしい。  
だからといってそれにどんな意味があるのかは分からないが。  
それでも当時アルミラが何を考えて自分のところまで来たのかが分かって彼には面白かった。  
     
「この辺でテセラが出たかな。お前がいたらな、と思ったよ」  
再び丸く広がる場所に出て、当時、彼女は内心弱音をはいていたことを明かした。  
「へぇ?」  
レオンは急に自分の名前を出され、からかうように言った。  
「やっぱり俺がいないとダメってか」  
「ああ。いたら助かるのに、と思った。空中の敵を落とすのに私では手数がかかるし、  
フィールは力が足りないしで大変な手間だったから……そう、この村を小さな集落と思って  
ベラトル系を連れてこなかったのが勝因かもしれん。最初からあれがいたらお前の所にたどり  
つくのも大変だっただろう」  
こきおろされると思っていたのを予想外にも肯定されて、レオンは一瞬言葉を詰まらせた。  
後ろ頭をかいて『そうか?』などと言っている。照れているのだ。  
本人は嫌がるだろうが、こんなところがこの男のかわいいところだと彼女の口はうっすらと  
笑みの形を作った。  
 
「途中で雨も降ってきたし、足を取られたりしてフィールも私も難儀した」  
「あー……そういや降ってたっけな。俺は木の上にいたからあんまり気にならなかったけどよ」  
半分はずれた柵を過ぎ、二人はまだ先へと足を進める。  
「おい、寒くねぇか?」  
「大丈夫だと言ったろう。まだ風邪を引くような季節じゃない」  
「気温じゃなくて格好のことを言ってるんだがよ……って、手ぇ冷てえじゃねえか!」  
アルミラの手をとり呆れたように言う。  
「強がりじゃないのか?」  
「お前じゃあるまいし……冷え性なんだ。普段からこうだから、別に」  
「ふぅん。まあ、そんならいいけどよ」  
納得しながらも彼女の手を握り締める。  
「そうか……いつも素手ってことがなかったから、気付かなかったんだな」  
付き合い長いのによ、と笑うレオンの顔は何となく寂しげで、指と指とを絡めるようにして  
くる彼の手から離さないぞという意思がうかがえた。  
実際寒さなど感じていなかったのだが、大きな手からは確かな温かさが伝わってきてそれに  
安心をおぼえたことは、しかしアルミラは言わなかった。  
 
「俺もな、あん時はそりゃあ驚いた。途中まで一緒にきて任務に励んでいたはずの仲間が、  
いきなり知らねえボウズの味方について俺を倒す、と来たんだからな」  
回想しながらの彼の言葉があまりにおかしくて、アルミラは小さく吹き出した。  
「んだよ、笑うな。……だって、びっくりするだろ?」  
「すまん……が、確かに。逆の立場だったら私もそう思っていただろうな」  
「ボウズを倒してお前の目を覚ましてやらねえと、って思ったが結果はほら、あれだ」  
負けた、と言うのがどうにも気に入らなくて彼は言葉をぼかした。  
 
「だが結果としては負けて良かっただろう?そうでなければ……」  
言われなくてもその場合のことは分かっている。  
二人に勝っていたら、いまだに神々の支配に気づかずに日々を送っていたことだろう。  
共にその時のことを考えているに違いない。  
手を繋ぎ押し黙ったまま二人はさらに先へと足を進めた。  
 
 
「さ、終点だぜ」  
レオンがアルミラ、フィール二人を相手に戦闘を繰り広げた場所へ出て、隣を見た。  
この先は荒野だ。朝には村へ戻るのだからこれ以上先へ行ってもしょうがない。  
彼はあいた手を広げるようにしてアルミラへ笑いかけた。  
「――が、ここが始まりとも言えるな」  
「ふ……珍しく気の利いたことを言う」  
 
「始まり、か……」  
アルミラは空を見上げた。  
「一体いつを始まりと言うのだろうな。私たち三人が揃った時か、この村を襲撃するよう  
神命が下された時か。それともカインが――」  
 
ぽっかりと木々の広場を囲むような形に添って切り抜かれた空だ。  
あまりに月が明るくて、夜空に散らばる星々がかすんで見える。  
絡む指に力を感じ、レオンは大人しく次の言葉を待った。  
「なあレオン、ヴィティスのことだが……やはり神々の支配に気づいていたんじゃないか?」  
「まっさか!だったらあいつのことだ、とっくに何かしら手を打ってただろ?」  
レオンは内心またその話か、と思った。  
すべてが終わったというのに、何故まだそんなことを気にするのかが彼には理解できなかった。  
そういえば道中も彼女は度々その話を口にしていた。  
疑問を疑問のまま置いておけない性格なのは知っている。だがこんな時にまでそんな話を  
されるのはさすがに面白くなかった。  
自然と興味なさそうな返事になる。  
 
「手の打ちようがなかったとも思える」  
「なんでだよ」  
アルミラは大げさにため息をついた。  
考えることを拒否しているとしか思えない相槌の速さだ。  
「少しは考えろ。彼が自由意思を取り戻していたとして、だ。味方がいないだろう。いくら  
彼でも一人で出来ることには限界がある」  
「――ああ!そうか。確かにガルムやあのガキに言っても協力してはくれねえよな。『気でも  
狂ったか』とか『あんたおかしいんじゃないの』って言われるのが関の山だ」  
「最後にカインに会ったのはヴィティスだし、正気を取り戻す機会があったかもしれない」  
それから15年も経っているのだが、間に横たわる時間の長さは問題ではないらしかった。  
正面をみて呟く彼女の横顔は根拠があるのかというほど自信に満ちている。  
だが本人に自覚はないらしく、次の台詞で己の考えを中断させた。  
「……いや、止そう。かもしれない、かもしれないでは何も答えは出ないし」  
確かに迷いのあるままでの発言は彼女らしくなかった。  
 
それでも考えることを止めたわけではなく顎に指を当て黙り込んでいると、不意に視界が暗く  
なった。  
月光を遮るほど近くにレオンがいる。  
何も言わない彼を不審に思い顔をあげるといきなり唇を塞がれた。  
「……ん……ン、っ…なんだ。いきなり」  
月を背に立ち影になっていても、男がつまらなそうな表情をしているのがアルミラにはすぐに  
分かった。  
「いきなりじゃねえだろ……どうして横に俺がいるのにほかの男のことを考えるかね?」  
「そういう内容ではなかっただろう?以前していた話の続きだ」  
「お前なあ……そういう問題じゃねえんだよ」  
「フィールの話はいいのにか?」  
「まあ、我ながらその辺が複雑な男心ってやつだ。ボウズは弟みてえなもんだからな、気に  
ならないんだろ」  
年が近い分、ヴィティスの話題を出されるとやきもちを焼くのだろうか。  
彼は眉をよせアルミラの本心を疑うように問いかけた。  
「わざとか?わざとじゃないよな?」  
「何故そんなことを気にするのか分からない。ヴィティスは私をそんな風に見てないだろう?」  
「ばっか、向こうがどうとかじゃなくて、お前の口からこんな時に聞きたくないって話だ」  
指をからめたままの腕を彼女の後ろにやって、身動きを取れないようにしながらまた唇を  
重ねる。  
さっきと違って触れるだけの口付けだ。  
 
「ありていに言えば嫉妬するね」  
顔をあげ、レオンは自分を見つめる女に正直に告げた。  
「まさか」  
「まさかってなんだよ。どういう感想だ、そりゃ」  
彼もまさかアルミラが当り前の女性のようにやきもちを焼かれて喜ぶとは思っていないが、  
それにしてもあんまりな返事だ。  
つい責めるような顔になる。  
「お前の口からそういう言葉を聞くとは……弱みを見せるような発言は嫌がるだろう?それに、  
いや……そうじゃない。ただ――ただ、びっくりしたんだ。あんまり――」  
アルミラは困ったような表情で顔を背けてしまった。  
     
「あまりにも意外で」  
「何がだよ」  
「うん……ええと、難しいな……。何と言えばいいのか……」  
彼女はもう一度男を見上げたが珍しく口ごもった。そしてまた顔を下げる。  
レオンも急かさずに再度彼女が口を開くのを待った。  
身動きしたので絡めた指を離してやる。  
アルミラは彼の背後の森へと目をやった。暫くそのまま視線を固定させていたが不意に彼へ  
向き直るとさらに珍しく、うろたえているような声を出す。  
「私は……こういうことを言葉にするのは苦手なんだ、知っているだろう?」  
手を握り締めると八つ当たりのようにとん、と彼の胸を叩いた。どんな表情をすればいいのか  
分からないのか、レオンの胸元を睨みつけている。上手く言葉に出来ないもどかしさもあるの  
だろう。何度も口を開きかけては閉じるを繰り返す。  
 
いつも落ち着いた態度の彼女にこんな挙動をされては、彼も気になって仕方がない。  
大丈夫かと言いたくなってくる。  
「こういうことって何だよ。分かんねえな」  
「違うんだ。お前……私と初めて会った時のことを憶えているか?」  
「ああ。もちろん」  
いきなり話が飛ぶ。  
彼女は理路整然とした話し方をするのが普通なのだが、このところこういうことが多い。  
それでも最後は話が繋がっていくのだが、聞いているほうは面食らう。  
「その時、どう思った?」  
「どうって何を」  
「私の印象だ」  
ああ、と頷きながらレオンは当時を回想する。  
「そりゃまぁ……そうだな、胸のでけぇ女だなーと思ったよ」  
自分で言って直接的に過ぎると思ったのだろう、彼は鼻の頭をかき横を向いてしまった。  
「そうじゃない」  
「へそが見えてるぞ?」  
「叩かれたいのか」  
握りこぶしを見せる彼女にレオンは肩をすくめた。  
もう叩いたじゃねえか、とぼやく。  
殴られてもたいして痛くはないが、アルミラが何を言いたいのか、自分に何を言わせたいのか  
皆目見当がつかなかった。  
腕組みをして頭をひねる。  
「わかんねぇな。後は……強いんだろうな、とは思ったぜ。OZになるくらいだしな」  
 
「女のくせに、とは?」  
「思わねえよ。カインが認めてた。それで十分だろ?実際アルミラはそれだけの働きをしてた」  
レオンは問われるまま答えたが、アルミラはその言葉にほんの少し唇をあげた。  
表面の動きは些細でも、どれだけ彼女が喜んでいるのかは分かる。  
「そう、お前とカインはそういうところで差別をするという事が無かったな。分かっていた、  
私にも。だから嬉しかったぞ」  
「じゃあ何なんだよ。――言っとくけどよ、俺、わかりやすく説明してくれねえと分かんねえ  
からな?」  
「うん……つまりな」  
改めて聞き返され、彼女は言いにくそうに再び下を向いてしまった。  
 
「お前、私のことを異性として見ていなかっただろう?だから、その……ヴィティスの話を  
するなとか、嫉妬するとか言われたのがあんまり意外で」  
レオンが自分に対して特別な感情を持っているとはまさか今でも思ってはいない。  
アルミラはただ彼と約束したことを果たそうと――それは大人として割り切った関係、行為を  
するのだと思っていた。  
だから嫉妬するなんて思いもよらない言葉を聞いてらしくなく動揺してしまったのだ。  
自分の恋人でもないのに他の男に嫉妬するのは彼個人の特性だろうか、それとも男は誰でも  
そうなのか。  
そんなことが表情に出ていたのか、出ていたとしてもまさかレオンには分からないと思ったの  
だが。  
アルミラの考えを察したのだろう、彼はそれを否定した。  
     
異性として見てないだって?と呆れたように口の中で繰り返すと、軽く睨むような顔で正面に  
立つ女に目をやった。  
「あのなあ……一緒に仕事してんだぜ?うおー乳でけぇ、とかいい尻だぜ、とか言ってられる  
かよ。オヤジじゃねぇんだから。そういう事はあえて頭から締め出してんだ。でなきゃお互い  
やりにくいだろうが」  
「……」  
「何だよ、その顔」  
彼は顔を後ろに反らすと少しむっとした様子でアルミラに尋ねた。  
「いや、そんなに大人だとは思ってなかったんで、驚いた」  
彼女は真面目だ。  
馬鹿にするなと怒ってもいいところだが、レオンは小さく吹き出しただけだった。  
楽しそうに肩を揺らして笑っている。  
「ったくよ、十六、七のガキじゃねぇんだ。仕事に色恋は持ちこまねえ。任務のたびに盛って  
らんねえだろ?……まぁでも、もうそんなことを気にする必要もなくなったしな」  
にやりと口の端を上げる。腕を回すと彼女の腰を引き寄せた。  
 
「お前はいい仲間だった。それ以外考えないようにしなきゃいけなかったんだ。分かるか?  
ヴィティスんとこのガキみたいだったらそんな努力は必要ねえが、アルミラは」  
そこでいったん切って彼女の額に口付ける。  
「いい女だ。そんな誤解を……って誤解でもねぇか。俺がそういう態度をとってたんだからな。  
ま、俺にしちゃよく頑張ったと褒めてもらいたいところだぜ」  
なかなか演技派だろ、と悪戯っぽく笑うと今度は頬に唇を落とす。  
彼女は抵抗するでもなくレオンのするに任せていたが、短くため息をつくと寂しそうな表情に  
なった。  
「何だよ、元気ねえじゃねえか」  
「あんなに長いこと一緒にいたのに、どうやら私はお前のことを見損なっていたようだ」  
「あぁ、そうみてえだな。でもそんなことどうでも……。いや、せっかくだ。たっぷり償って  
もらうとしようか」  
野性味のある笑いを浮かべアルミラの肩に腕を伸ばした。  
「――そろそろ戻ろうぜ」  
体はすでに来た道へと向いている。が、抱いた肩は動かなかった。  
「入れないと言ったろう?」  
「そうだった……マジかよ」  
首を横に振る彼女にレオンはぴしゃりと額を叩いた。  
せっかくいい雰囲気なのにこの機会を逃すのはもったいないと思ったのだろう。  
だが細い腕がレオンの首を引き寄せ、接近する顔が彼の嘆きを封じ込めた。  
湿ったものが彼の唇を撫でる。さらに歯を割って入るとそれは中の彼を抱きしめるように  
やさしく絡みついた。  
しかしレオンが応えて動こうとすると、さっと避けて出て行ってしまう。  
 
「ン……っふ、戻る必要はない」  
大胆な言葉にレオンが目を見開いた。  
「え……まさか、ここでか?」  
「いいだろう、別に。人が来るような所ではないし」  
「別に無理にでもってわけじゃない……日を改めてでもいいんだぜ?」  
約束をした手前自分に気を遣っていると思ったのか、レオンは一応の断りを入れた。  
「そういうわけじゃない。お前さえ良ければ本当に構わないんだ……嫌か?」  
「や、……嫌ってか、俺だって構わねえけどよ」  
「はっきりしない奴だな。さっきは惜しそうにしていたくせに。こういうことはタイミングが  
ものを言うんだぞ?女がいいと言っているならどんどん押したらどうなんだ。押すべき時に  
引いたら手に入るものも逃してしまうぞ」  
「どうなんだって言われても、だってお前……外でなんてとんでもないってタイプだと思って  
たからよ……面食らったんだよ。悪かったよ」  
いきなり男女の駆け引きにまで言及され、レオンはへどもどと言い訳をした。  
「いい月夜だし」  
「あん?」  
「外でするのも一興かと思ったんだが」  
「おま――……最初っからそのつもりで!?」  
     
そのためにこんな所まで連れ出したのかと彼女を指さす。  
その手を払うとアルミラはさすがに恥ずかしそうに彼を睨みつけた。  
「よせ、そう大袈裟に反応されるとどういう態度をとったらいいのか分からなくなる」  
いちいち口に出されるのが嫌で部屋での続きのように彼の口を掌で塞いだ。しかしその手を  
さらに掴まれる。  
レオンは彼女の手を脇へよけるとこっちで黙らせてくれとばかりに口付けた。  
 
今度は逃がさない。  
彼女をしっかりと抱きしめて、心ゆくまでやわらかな感触を求めた。  
ちゅ、と音をたてて唇を離せばアルミラのほうから舌を差し込んでくる。  
腕を彼の首に回し顔を引き寄せて、普段の彼女からは想像もつかないような情熱的な口付けだ。  
唇に感じる冷たさとは裏腹に口中を蹂躙する舌は熱く、ねっとりと彼を絡めとる。深く、  
深くと舌の根を探るように動くそれは、途中で口蓋を撫でながら戻ってきて、歯にぶつかれば  
歯茎をやんわりと舐めていった。  
時折離れては重なるその瞬間すら惜しいのか、彼女を受け止めたままレオンの手は頬から  
滑るように下りていった。  
大きな服に隠された曲線をなぞって彼女を抱きあげると思いのほか軽い。  
一秒でも長く触れ合っていたいと思うのは、口付けの気持ちよさによるものではなくレオンの  
心が彼女を求めていたからだろう。  
 
顔を離すとレオンの影から月がのぞいていた。  
「同じ色だな」  
アルミラの手が彼の髪を梳く。  
意味がわかったのだろう。レオンもやさしい目で彼女を見ると、人差し指の背でそっと彼女の  
頬を撫でた。  
「それを言うならお前は月の光だな。しんとした、静かな青だ」  
「柄にもないことを言うな」  
「どっちが――でもお前にはぴったりだと思うぜ」  
 
広場の真ん中で続けるのはさすがに落ち着かなかったのか、隅に生えている大きな木の下  
まで行くとそこで彼女を下ろしてやった。  
アルミラの向こうに片手をつき、もう一方の手は再び頬へと添える。  
そこに一回り小さな手が重なった。  
「ん……っ……こんなことになるって分かってりゃ、上着かついで来たのによ」  
さすがにアルミラにもそこまでは言えなかったのだろう。  
地面の上に彼女を押し倒すのは少々気が引けるようで、レオンは何かないかと辺りを見回した。  
「いい、これを敷けば」  
細い指が羽織っている服をつまむ。  
ひらひらと風に揺れてきわどいところまで見えそうになったが、それも月明かりの下では  
何故かいやらしくはなく、神秘的でさえあった。  
 
「立ってしてもいいし」  
「落ち着かねえなぁ」  
レオンは笑いながら両手で彼女の頬を挟んだ。熱をもってわずかに上気しているのが分かる。  
くすぐったそうにするアルミラの顔中へついばむように口付けをした。  
 
左手が下へと動く。  
おもむろに服の上から大きな胸の上へ手をのせるとその感触に彼は思わず口笛を吹いた。  
「なんだ?」  
「いや、想像以上の手ごたえだったもんでつい、な」  
「想像してたのか?いやらしい奴だな」  
「そりゃあな……ってか、言っとくけどこれが普通の男の反応だぞ」  
「で?」  
「あん?」  
彼はさらに手を移動させていった。  
そのまま下から包み込むように揉み上げる。掌に反発するような力を感じたが、それでいて  
とてもやわらかい。  
 
 

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