その夜、クイーン・フィーリアはいたくご機嫌斜めであらせられた。  
サンミリオンから送った荷が届く頃を見計らって  
ここ、ロザーンジュへと空間を越えてやってきたロドヴィックだったが、  
彼がわざわざ異国から彼女のために取り寄せた、  
湯を注ぐと香り高く花がほころび開く茶や  
口に入れただけでとろけてしまうらしいメレンゲ菓子、  
朝露に濡れる薔薇の花を今摘んできたかのような飴細工にも全く手を付けず  
薔薇色の頬をぷぅと膨らませてこちらを睨んでいらっしゃるのだった。  
 
「お気に召しませんでしたか、陛下」  
これらの品々を勧めてきた商人は出入り禁止にするか、などと  
剣呑なことを考えながらロドヴィックは女王陛下のご機嫌を窺った。  
「そろそろ寒くなってくる季節でしょうから、暖かいパイやタルト、  
 ホットチョコレートなどのほうがよろしかったですか」  
亡霊である彼は暑さ寒さとは無縁なので、  
どうしても季節を考慮に入れた心配りにはやや疎くなってしまう。  
商売において致命的な彼の弱点だったが、  
彼自身にはどうしようもない弱点だったが故に  
余計に呼び寄せた商人の配慮の無さが疎ましかった。  
末代まで祟って呪い殺してやる勢いで恨めしかった。  
 
彼は、フィーリアが何かを食べているところを見ているのが好きだった。  
元々、他人を招いて食事を振る舞い、その様を眺めるのが好きだったのだが、  
自分がじっと見つめる中、一人食事を口に運ぶのがいたたまれないのか  
一度招いた客が二度と招待に応じることはなかった。  
しかしフィーリアは違った。  
王族として生まれついた彼女は常に一挙一動に注目されることに慣れているのか、  
ロドヴィックの視線にも動じずに、実に優雅に食事を楽しむのだ。  
 
あの日、五年の間は職務に没頭しようと約束したのに、  
クイーン・フィーリアは時折ふらりとサンミリオンを訪れては  
ロドヴィックの執務室で気ままに茶と菓子を楽しんでいた。  
約束が違うと咎めてみても、  
嬉しい癖にとからかってみたり、これは視察だと屁理屈をこねたり  
じゃあもう帰ると拗ねてみせては仕事と恋を両立させてみせろと挑発するのだ。  
 
彼女を邪険に出来なかったのは、  
剣を捧げた王だったからという事実もあるが  
彼女の来訪にはまた利点も多かったからだ。  
異国の品を買い付けるにあたって、  
媚びることなく消費者の立場で感想を聞ける機会は貴重だったし、  
彼とは違う淑女の視点がサンミリオンにより一層の活性をもたらしたのも事実だった。  
 
女王陛下のお気に入りだと評判になれば何でも飛ぶように売れたから、  
ロドヴィックは珍しい菓子や茶をあれこれと取り寄せてはフィーリアに供したが、  
結局それらも全部言い訳にすぎず、  
自分が心を砕いて用意した品々に目を輝かせ、  
口に運んでは心底幸せそうに笑うフィーリアがただ見たかったのだと気づいたときに  
ようやくロドヴィックは白旗を揚げたのだった。  
 
それからは、移動に金も手間も時間もかからぬロドヴィックの方が  
ロザーンジュへと赴くのが常となっていた。  
エクレールは、やっと姫様の思いが通じたのですわねだって姫様はあんなにお可愛らしいんですものむしろ姫様の魅力に気がつくのが遅いくらいですわよこの仕事バカ、と  
喜んだり怒ったり忙しそうだったが  
彼にしてみれば、より効率の良い手段を選択したにすぎない。  
 
女王との逢瀬は、彼に予想以上の利益をもたらした。  
夕食後のプライベートの時間に設けた逢瀬の時は、  
漫然と流れていたロドヴィックの時間にメリハリを与え  
ひたすら仕事に明け暮れていた時よりもかえって仕事の能率を上げた。  
サンミリオンの発展を、と曖昧なイメージのみを描いていた今までよりも  
五年後の幸福と、彼女に逢える宵の口の一時を目指す今のほうが  
明確なビジョンを持って仕事に臨むことが出来る。  
 
そして何より、政務で疲れて自室に帰ってくる彼女が自分を見て、笑って。  
彼が運ばせた菓子を嬉しそうに口に運ぶ、その愛らしさといったら!  
これ以上の報酬が、この世に存在するだろうか?  
 
だのに今日の彼女はむくれたままで、茶にも菓子にも手を付けようとしない。  
暖かな菓子の名を挙げて見ても彼女の眉間の皺は、増すばかり。  
ロドヴィックは焦った。彼の姿が僅かに揺らいでいる。  
彼は肉体を持たないためなのか、精神の不調が覿面に堪えるのだ。  
自分の死に様が思い出せず悩んでいたときも、  
自身の意志とは関係なしにこの城を彷徨って、仕事に著しく支障が出た。  
 
彼女を失えば文字通り自分は消滅してしまうかも、  
いや、失う?  
自分はまた愛しい人を失ってしまうのか?  
焦りは迷走して絶望的な結末ばかりを描かせる。  
 
「…たの」  
「はい?」  
不機嫌なフィーリアが、ようやくその花の唇を開いてくれたので  
この解決の手がかりを逃すまいとロドヴィックは必死だった…  
傍目には、全くそんな風には見えないのだろうが。  
フィーリアは恨めしげにロドヴィックを睨みながら声を張り上げた。  
「太ったのよ、わたし!  
 全部ロドヴィックのせいなんだから、ばか!」  
 
手近にあったクッションを腹いせに投げつけながらフィーリアはもう涙目だった。  
そのクッションが自分を通り抜けて壁に当たったぽすん、という音を聞きながら  
ロドヴィックは困惑するばかりだった。  
目の前の少女は華奢という表現が相応しいくらいで、  
彼の目には『太った』なんてとても見えない。  
「…陛下の体格が、特に変わったようには見えませんが…」  
「当たり前でしょう、何とか元のサイズに戻そうと思って  
 一生懸命コルセットを締め上げてるんだもの!」  
フィーリアはもう一度、ロドヴィックのせいだわ、と恨みがましく呟いた。  
「…失礼ですが、私にどのような落ち度があったのでしょうか、  
 クイーン・フィーリア」  
「…夜に食べると、余計に太るのですって。肌にも良くないのだそうよ」  
フィーリアはため息をつきながら、  
テーブルの上に広がった色とりどりの菓子を眺めた。  
ああなんて悩ましく、フィーリアを誘うお菓子達。  
「そういうものなのですか。知らなかったとはいえ、失礼致しました。  
 女性は美容に気を使うものですからね。  
 どうかお許しください、陛下。  
 以後、この時間に菓子を用意させるのは止めましょう」  
 
慇懃に詫びるロドヴィックに、  
逆にフィーリアの方が居たたまれない気持ちになった。  
「…勘違いしないでね、ロドヴィック。  
 こうしてあなたと一緒にいられることは、とても嬉しいの。  
 あなたが、わたしを喜ばせるためにいろいろしてくれるのも嬉しいし、  
 お菓子を頂くわたしを見て、  
 ロドヴィックが嬉しそうにしているのを見るのも大好きなの」  
ロドヴィックは多少戸惑って聞き返した。  
「私は、嬉しそうに見えましたか、陛下」  
嬉しいのは事実だったが、そこまで解りやすかっただろうか。  
むしろ自分は不器用で、いつも大事なことを上手く伝えられないまま  
後悔ばかりを積み重ねてきたというのに。  
「ええ、とっても嬉しそう」  
フィーリアは、やっと笑顔になって言った。  
「ねえロドヴィック。  
 わたしね、あなたがわたしを愛してくれていること、ちゃんと解っているつもりよ。  
 だからロドヴィックも覚えておいてね。  
 わたしもロドヴィックを愛してるということを」  
ロドヴィックの中から失う恐怖は消え去り、代わりに幸福感が満ちた。  
優しく微笑むフィーリアに肯きしか返せぬ自分を忌々しく思いながら、  
彼女の示してくれる理解に甘えぬよう言葉を探す。  
もう、同じ過ちを繰り返したくなかったから。  
 
しかしロドヴィックが言葉の海を彷徨っている間に  
フィーリアの表情は再び曇り、テーブルを見てまたため息をつく。  
「ああ、でも本当に、なんて美味しそうなのかしら…。  
 ロドヴィックが勧めてくれるお菓子は見た目も綺麗で美味しくて、  
 絶対外れがないんだもの」  
フィーリアの憂い顔とは裏腹に、ロドヴィックは誇らしさをくすぐられる。  
需要を読むのは商売において最も大切なことのうちの一つだ。  
自分はフィーリアを理解し、彼女の望む物を提供できているということが  
この上なく彼を幸せな気持ちにさせる。  
 
だが自分だけ幸福感に酔っている場合ではない、  
何か彼女の憂いを払えるような言葉をかけなければ。  
何をどう言えばよいのかさっぱり見当がつかなかったが、  
とりあえず思ったことをもう一度、素直に言ってみた。  
「陛下、私にはやはり貴方の体型が変わったようには思えませんが」  
「だから言ったでしょう、コルセットを今までよりもきつく締めているからよ。  
 コルセットを外したらもう、悲惨なの」  
フィーリアはがっくりとうなだれている。  
「エクレールはそんなことないって言ってくれたけど、  
 エクレールはわたしが傷つくようなことは絶対、言わないもの。  
 気を使ってくれているだけだわ」  
 
「では陛下、実際に外して見せていただけませんか。  
 私は事実しか述べないということは、良くご存知でしょう」  
フィーリアは押し黙った。  
ロドヴィックはこの奇妙な沈黙に首を傾げたが、  
やがてフィーリアが意を決したように立ち上がって  
ブラウスのボタンを順々に外しはじめた時に、  
とんでもないことを口走ってしまったことにようやく気づいた。  
「いえ陛下、その」  
自分はただ、効率の良い解決法を提示したつもりだったのだ。  
疚しい気持ちなどどこにもなかったし、そもそも自分には性欲すらない。  
「…申し訳ございません、配慮が足りませんでしたね。  
 お嫌でしょう、どうぞお召し物を直してください。  
 今エクレール様を呼んで参ります」  
「待って、」  
ロドヴィックに背を向けていたフィーリアの足下にコルセットが落ちる。  
「…待って、ロドヴィック」  
自らを抱くようにして胸元を隠しながら、フィーリアが振り返った。  
「…わたしが不安になるのは、やっぱりあなたのことを思うときなの」  
フィーリアは絹のスリップを纏っただけの姿だった。  
「だから…、お願い、わたしを見て頂戴。  
 そして嫌なところがあったら言ってね、  
 わたしうんと頑張って綺麗になるから」  
 
月明かりに照らされたフィーリアはこの上もなく美しい。  
波打つ金の髪は柔らかな光を放ち、彼女の華奢な肩を守るように流れている。  
腕の隙間から覗く膨らみは何とも柔らかそうだ。  
その胸元とスリップの裾を縁取っているのは、  
以前彼が反のまま贈った最高級のレースだ。  
自分が見立てたレースがその膨らみに触れているのを見ると、  
まるで自分がその柔らかさに触れているかのような錯覚を覚える。  
「…お綺麗です」  
半ば独り言のようにロドヴィックは呟いた。  
「嘘」  
恥ずかしさからなのだろう、  
耳たぶまで真っ赤に染まったフィーリアは、ふいと斜め下を向いて拗ねた。  
そんな彼女は恐ろしく魅惑的だった。  
伏した睫が震える様が、どうしようもなく加虐心を刺激する。  
「嘘ではありませんよ」  
まずロドヴィックが与えたのは優しい、とろけるように甘い砂糖菓子だった。  
「ですが陛下、そのお姿では身体のラインを確かめることは出来ません。  
 目的にふさわしいお姿になっていただけませんか」  
次には、ほろ苦いチョコレートを。  
躊躇いがちに再び後ろを向いたフィーリアは、  
おずおずと靴を脱ぎ、ストッキングを脱いで  
その小さく白い素足を毛足の長い絨毯に埋めた。  
 
次いでスリップの下に履いていたドロワーズが落ちてきた。  
するとヒップの丸みが透けてよく見えるようになる。  
もう丸見えも同然の姿になったのに、  
そんなことには気づいていない彼女は最後の一枚を脱ぎ捨てるのを躊躇って、  
その桃尻がもじもじと揺れるいやらしい様を見せつけてくれる。  
ようやくスリップが滑り落ちてきた時には彼女の羞恥心ももう限界で、  
顔を覆ってその場にしゃがみこんでしまった。  
「陛下、立って、こちらを向いて下さい」  
少し辛めのミント飴。  
フィーリアはどうにかこうにか立ち上がってこちらを向いた。  
どうしても恥ずかしいのか、顔はしっかりと両手で覆ったままだ。  
その裸身をじっと見つめる。  
「…やはり、陛下はお綺麗です」  
最後は、彼女の乾きを癒やすようなお茶を。  
そして、自分らしく、事実を述べた言葉を。  
「陛下。陛下はご自分がふくよかになられたと仰いましたが  
 やはりそれは間違いだと私は思います。  
 陛下のお身体の変化は、むしろ成長と呼ぶべきものでしょう。事実」  
ロドヴィックはもう一度、フィーリアの裸身を見た。  
その目は最早冷静な観察者のそれではなく、  
舐めるような、犯すような視線だった。  
 
「柔らかそうで魅力的なお身体です」  
フィーリアは小さく、いや、と言ってより顔を俯かせた。  
「陛下のお身体が、大人の女性へと近づいているのでしょう。  
 …いえ、もしかしたら陛下はもう大人でいらっしゃるのでしょうか…  
 そんなに滴を垂らして」  
「いやっ」  
今度ははっきりとした声でフィーリアは言って、  
溢れる露できらめく腿を隠すように再びしゃがみこんでしまった。  
ロドヴィックがゆらりとその傍らへ寄った。  
「…陛下。どうか私に見せて下さい…  
 貴方がもう、大人でいらっしゃるのかどうか」  
気がつけば、熱に浮かされたようにそう口走っていた。  
 
椅子に裸のまま座って肘掛けに片足を乗せ、  
フィーリアははしたなく涎を垂らす己の秘所を晒している。  
手はロドヴィックに言われたとおりに両胸を揉みしだき、  
桜色の先端を摘んだり、親指の腹でこね回したりしている。  
「大変お上手です、陛下」  
「…ロドヴィック…」  
フィーリアが潤んだ瞳で彼を呼ぶ。  
 
すでに死んだ彼には生に纏わる欲求などもう無いはずだ。  
食欲も睡眠欲も性欲も、もう百年以上も感じたことはない。  
では今自分の内にある、このじりじりと焦げ付くような熱さは何なのだろう。  
記憶の最奥にある、まだ生きていた頃だって  
これほどの熱情に捕らわれたことが果たしてあっただろうか?  
 
フィーリアの白磁の肌はほんのりと薄紅色に染まり  
本来感じられないはずのその熱ささえこの身に薫るようだった。  
「貴方の髪に触れて下さい…私の代わりに」  
フィーリアがその白い指先で黄金の髪を梳くと、  
月の光を含んだ彼女の髪がさらさらと瞬く。  
彼女の指はロドヴィックが告げた望みのままに彼女の身体を滑る。  
薔薇の頬に。華奢な顎に。艶めかしいうなじに、なめらかな鎖骨に。  
細い肩から健やかな二の腕、両手を重ね指を絡ませ。  
瑞々しい双丘を寄せ、揉み、頂点を擦る。  
「貴方は本当に、可愛い」  
食い入るようにフィーリアの痴態を見つめるロドヴィックの熱っぽい囁きに、  
フィーリアは小さくいやいやをする。  
「手をそのまま下へ…なんて細い腰なんでしょうね、折れそうで心配になりますよ。  
 確かめるように、撫でてみて下さい」  
言われたままに、腰のラインをなぞるフィーリア。  
「…やっぱり太った気がするわ…」  
「またそんな事を。女性らしい体つきに変わっていっているだけです。  
 私は貴方のその身体が好きですよ」  
フィーリアは目を見開いてロドヴィックを見て、  
合わさった視線に恥じらってまた目を伏せた。  
 
「…あなたが好きだと思ってくれているなら…  
 それで、いいわ」  
率直なフィーリアの言葉にロドヴィックも多少気恥ずかしさを覚える。  
しかしさっきの言い方ではまるでフィーリアの身体だけを好いているようだ。  
ロドヴィックは訂正した。  
「…貴方の全てを愛しています、フィーリア」  
伝えようと意識して紡いだ言葉は、  
冷えきったこの身が熱く燃えたような錯覚さえ、与えた。  
 
肘掛けにもう片方の素足も乗せて大きく開き、  
秘めておくべき場所をロドヴィックにもっと見せつけるような格好で  
フィーリアは羞恥と、それすら快感になってしまう自分のはしたなさに震えている。  
唾液を絡ませた少女の指は自身の真珠を慰めながら、  
彼に乞われるままに秘裂を広げて見せる。  
「貴方は身体の内側まで綺麗なのですね」  
「…そんなことっ…言わないで」  
ロドヴィックの視線になぶられて、フィーリアの内側はヒクヒク戦慄く。  
淫らな露が際限無く滲み出て座面は粗相をしたかのようにびしょ濡れだ。  
「ロドヴィック…」  
潤む瞳とは裏腹に、真珠をいじくる指先はあさましく動いたままだ。  
「わたしのこと…嫌いにならないで…」  
フィーリアの瞳から、ついに涙がこぼれ落ちる。  
 
ロドヴィックは慌てた。  
「何故そんなことを…」  
「だって…」  
ひっく、ひっくとすすり泣くフィーリア。  
「だってわたし、はしたないわ、こんな…あぁ」  
愛液にまみれた女芯は卑猥な紅色に充血して、はっきりとその存在を主張している。  
「すごく恥ずかしいのよ、でもだめなの、わたし…っ、  
 …気持ちいいの、気持ちいいの、止められないの、  
 わたしどうしたらいいのロドヴィック、お願い教えてぇ」  
涙声でよがるフィーリア。女の身体が覚えてしまった肉欲と、  
少女らしい無垢さと潔癖さが彼女を翻弄する。  
「…嫌いになど、なる筈がありません」  
彼女の涙を拭えない、  
彼女を抱きしめられない我が身を、これほど悔しく思ったことはない。  
「指は、入りそうですか。痛むなら、無理せずとも構いません」  
言われるままにフィーリアは指を内側に入れてみた。  
熱くぬめる自分の中は妙な心地がした。  
外側の花芽をいじった時のような鋭い快感ではなく、  
じわりとなにかが沸き上がってくるようなもどかしさがある。  
「外側と内側を、親指と人差し指で挟むように擦ってみて下さい」  
「…っ、こう…?」  
「そうです」  
両指を擦り合わせるように動かすと、何かがちりちりと灼けるような感覚がした。  
 
恐る恐る自分の中を指で探ってゆくと内側にも固い突起のような箇所があって、  
そこを撫でた瞬間、フィーリアに電流が走った。  
「ああっ!」  
「見つかりましたか」  
後はロドヴィックがもうどうこう言わずとも、  
フィーリアは自分の指で快楽の頂点を求め始めた。  
「ロドヴィック…、…こわい…!」  
制御の効かない自分自身に怯えてフィーリアは泣き濡れる。  
「怯えないで下さい、フィーリア」  
半ば椅子からずり落ちているフィーリアに合わせてロドヴィックも身を屈める。  
「そうしている貴方も可愛い。  
 貴方の可愛いところを、もっと見せて下さい。  
 少し爪先に力を入れて」  
「…んっ…」  
フィーリアは素直に従った。  
何か大きな波が、自分をさらってゆこうとしているのを感じる。  
「大丈夫だから、そのまま身を任せて…フィーリア」  
ロドヴィックがそっと近づいて、二人は触れあえないキスをした。  
それでも瞳を閉じて感覚を研ぎ澄ませれば、  
彼の冷たい揺らぎを感じることができた。  
「…愛しているよ」  
「ふ、ぁ、や、あぁああ…!」  
ぷしゃ、と淫らな噴水を吹き上げながら、  
フィーリアは生まれて初めての絶頂に身を任せた。  
 
 
脱ぎ捨てたスリップをのろのろと身に纏ってから、  
フィーリアは気だるげにソファに身を横たえて  
飴細工の薔薇の花弁を舐っていた。  
「…美味しい…」  
「それは良かった」  
何とも艶めかしい光景だった。  
ロドヴィックは確かに情欲の炎らしきものを自分の内に見出しながら、  
肉体のないこの身に肉欲があるという滑稽さに自嘲してしまう。  
「茶を淹れ直しましょう」  
「ううん、今は冷めているほうがいいわ」  
火照った身体に冷めた茶が心地よい。  
舌でとろけたメレンゲの余韻を愉しみながらも  
フィーリアは難しい顔で宣言した。  
「ああ駄目だわ、こんなことをしてるから太るのよ」  
「…まだそんなことを…」  
「いいえ、油断していたらすぐよ、きっと」  
その言葉とは裏腹に、フィーリアはソファに横たわったままもう一つメレンゲを摘む。  
「…今笑ったでしょう」  
「いいえ」  
「嘘、笑ったわ」  
フィーリアはぷいとロドヴィックに背を向けて宣言した。  
「とにかく!わたし、もう絶対、夜お菓子を食べないわ!」  
「解りました」  
あっさりとロドヴィックがそう答えたので、  
急に不安が募ったフィーリアは慌てて振り返る。  
「どうしました?」  
「…来なくなったり、しないわよね?」  
 
「しませんよ」  
こんなささいなやり取りからも、彼女の慕情が感じられて幸せな気持ちになる。  
「早く昼下がりのお茶を毎日一緒に頂けるように、  
 頑張りましょうね、ロドヴィック」  
「はい」  
早く、そんな日々が来ればいい。  
いや、自分の手腕で来させてみせる。ロドヴィックは強く肯いた。  
 
 
しかし次の機会にも、ロドヴィックはサンミリオンからの荷物と共にやって来た。  
「お菓子は絶対、食べないわよ」  
「ええ、菓子ではありませんから安心して下さい。  
 この時間帯に相応しいものです」  
フィーリアはホッとした様子で薄紅色の包みを開けた。  
そしてそのままフリーズする。  
「お気に召していただけましたか、陛下」  
「…色恋にうつつを抜かしている場合じゃないって言ったのは、あなたじゃない」  
ロドヴィックは涼しい顔で答えた。  
「恋と仕事を両立させよと私を挑発したのは貴方ですよ、クイーン・フィーリア」  
怒りと羞恥で真っ赤になったフィーリアが叫ぶ。  
「…ロドヴィックのばかぁ!!」  
手あたり次第に投げつけられた箱の中身―――  
総レースのビスチェやスケスケのネグリジェ、  
紐と大差ない下着に張型、何かの瓶、そもそも何なのか解らない怪しげなもの。  
それらのものが次々とロドヴィックの透明な身体をすり抜けた。  
 
―――夜はまだ、始まったばかり。  
 

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