ベルジュロネット領主邸に夜の帳が下りる。
城館の主であるオベルジーヌの寝室からは、灯火具の淡い光が漏れ出ていた。
その内装は大変豪奢で、洗練された調度品ばかりが揃えられている。
室内に響くのは甘やかな男の喘ぎ声。
寝台にあられもない姿で横たわる美青年から発せられていた。
完璧な男性美を兼ね備えた裸体を惜しげもなく晒している。
「はぁんっ……あっ、はぁ……ぼくのお人形さん……」
彼の周りには女王からの贈り物、手紙、彼女を象った人形など、フィーリアにまつわる物が散乱していた。
愛しい恋人に会えぬ寂しさを自分自身で慰めているのだ。
片手で陰嚢を揉みながら、天を仰ぐ男根をごつごつした大きな手で包み上下に激しく往復させる。
根元から赤黒くなった亀頭にかけて、裏筋も刺激されるように摩擦する。
そうしていると腰が甘く疼き、奥から切ない衝動が込み上げてくる。
(こんないい男が夜な夜な自慰に耽っているなんて……世も末だな、まったく)
どこか冷静に考えながら扱く手の速度を速める。
ふわふわした蜂蜜色の髪を持つ、青いドレスの可憐な少女を思い浮かべながら。
射精感が強くなり雁首が膨らんだ。
「フィーリアぁ……あぁっ……!」
頭の中が真っ白になった。
割れた腹筋の上にドクドクと精液をぶちまける。
「はぁ、はぁ……」
快感の余韻に浸る虚ろな目つきのまま、壁に掛けてある絵画に目をやった。
絵の中で自分に寄り添い、こちらに微笑みかける少女。
同じ絵を領内の各家庭にも強制的に飾らせ、毎日二回拝ませるようにしている。
彼女のことを思って何度協会製のベッドを汚したことだろう。
「むなしい……もう耐えられないよ、ぼくのお人形さん。君に会いたい……」
そう呟くと意を決したように起き上がり、手早く身支度を整える。
オベルジーヌは侍従を呼びつけ、言った。
「早馬を用意しろ。ロザーンジュへ発つ」
(えぇ〜? またかよ)
……と言いたいのを我慢し、侍従は「承知致しました」と恭しく答える。
政務を放り出して女王のもとへ飛んでいくのは、これが初めてではない。
「ぼくのお人形さん、今行くからね!!」
騎馬したオベルジーヌは夜陰にまぎれて駆け出した。
愛する女王を目指して――。
終わり。