晴天に恵まれたある休日のこと。  
イシュメール城の中庭を一人散策していたフィーリアは、背後に人の気配を感じていた。  
先程からつかず離れず尾けて来ている。  
刺客か狼藉者か? と警戒したが、相手からは殺気や敵意を感じない。  
かわりに、ねっとりとした熱い視線を送られている気がする。  
独特の足運びから察するに、どうやら武芸の心得を持つ者らしい。  
自らも嗜みのあるフィーリアはそう推し量った。  
「誰かいるの? 出て来て」  
いい加減居心地が悪くなり、歩みを止めて振り返ると呼びかけた。  
すると、植木の影から飄々とした声が返ってくる。  
「気付いていたんだね。私だよ、お人形さん」  
よく見覚えのある金の巻き毛と長身痩躯が現れた。  
なりを見ると簡素な旅装に身を包んでいる。  
その姿を見た途端、花がほころぶようにフィーリアは破顔する。  
素っ頓狂な喜びの声を上げた。  
「オベルジーヌ! 来てくれたの!?」  
「そうだよ! さぁ、私の胸に飛び込んでおいで!!」  
スカートをたくし上げると、フィーリアは一目散に走り出す。  
両手を大きく広げた恋人の胸へ嬉しそうに飛び込んだ。  
彼女を受け止めたオベルジーヌは小さな体を軽々と抱き上げ、そのままクルクル回り出す。  
風をはらみスカートの裾がふわりと膨らんだ。  
啄ばむような接吻を交わしながら二人は抱擁し合う。  
「会いたかったわ! オベルジーヌ! オベルジーヌ!」  
「おーおー、言わなくても分かっているとも。ららら〜♪」  
回転をやめ彼女を草の上に降ろすと二人は手を取り合い、キャッキャと楽しそうに飛び跳ねた。  
思いがけない再会にフィーリアは幸せな気持ちでいっぱいだった。  
ロザーンジュへの道中ずっと推敲を重ねていた愛の詩を、オベルジーヌは歌って聞かせた。  
彼から捧げられた最高傑作に感激し、フィーリアは涙ぐんで聞き惚れる。  
若い二人は愛し合っていた。  
 
「あなたはいつも突然来るのね?」  
東屋の長椅子に腰を下ろしながら悪戯っぽく笑う。  
オベルジーヌは熱中すると周りが見えなくなる性質だ。  
度々、何の前触れもなく王都に現れる。  
「君に会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて仕方がなかったからだよ。  
なぜ私達は離れ離れに暮らさなければいけないのだろう……こんなに愛し合っているのに」  
いつも自信満々な態度をとる彼に似合わず、今日は妙にしおらしい。  
哀れを誘う情けない声で続ける。  
「いったい私達はいつ結婚出来るのだろうね?」  
フィーリアの表情がわずかに曇る。  
もちろん彼と一緒になりたい気持ちはあるが、女王に即位したばかりで今は結婚どころではない。  
新政府が落ち着くまでは到底無理な話だ。  
意気消沈した様子のオベルジーヌは芝居がかった仕草で更に続ける。  
「君のことを考えると私は夜も眠れない。ああっ、これ以上不安にさせないでくれ……私は、私は」  
「オベルジーヌ! 私、軟弱な男は嫌いよ」  
言葉を遮ってフィーリアはぴしゃりと言い放った。  
制止されたオベルジーヌは面食らう。  
「はっきりさせましょう。あなたの騎士の矜持を私に示して」  
『騎士の矜持』という言葉を出されオベルジーヌは気色ばむ。  
「……構わないが、どうやって?」  
「決まっているでしょう、決闘よ! 私と戦って勝ってみせて」  
 
唐突な提案に一瞬戸惑うが、すぐにオベルジーヌの目つきが変わる。  
気分が乗ってきたらしい。  
悲しげに伏せられていた瞳に生気が戻り、活き活きと輝きだす。  
口の端を愉快そうに吊り上げた。  
「いいだろう、面白い! そう私達は騎士だ。剣を交えて語り合おうじゃないか。いざ始めん愛の決闘を!」  
 
ひょっこり現れたオベルジーヌにエクレールは呆れ果てていた。  
毎度のことなのでもう驚きはしなかったが、流石に良い顔はしない。  
その上、これから彼と決闘をするつもりだと告げると、予想通り憤慨した。  
しかし『ちょっとした戯れだから』と二人がかりで説得し、渋々だが協力を了承してくれた。  
二人は決闘するに十分な広さのある場所へ移動する。  
そして決闘用の刀剣を用意して貰うと、人払いを済ませた。  
二人きりになりたかったので、食い下がるエクレールも追い返してしまう。  
人目につかぬように慎重に準備を終わらせた。  
しかし雌雄を決するには長い時間を要さなかった。  
少女ながらにフィーリアも相当の使い手だが、結果はやる前から明らかだった。  
オベルジーヌは領主諸侯の中でも屈指の武闘派。  
彼の繰り出す剣戟は場違いなほど優雅であり、まるで舞でも踊っているようだ。  
それでいて一撃一撃が鋭く、重い。  
「ほらほら、どうしたの? それでは私は倒せないよ」  
彼は余裕たっぷりに挑発する。  
オベルジーヌが手加減をしているのは明白なので、フィーリアは尚更悔しい。  
軽やかな剣さばき、野生の獣じみた鋭敏な動きに翻弄されてしまう。  
(でも……素敵だわオベルジーヌ。こんなあなたを見たかったの)  
フィーリアは半ば彼の姿に見とれていた。  
そんな場合でないのは承知の上だが、戦う彼はひどく魅力的だったからだ。  
跳躍に合わせ肩の上で弾む金糸、額に光る汗、躍動する筋肉、全てが美しい。  
「ほら!!」  
いつしかオベルジーヌの端正な顔には嗜虐的な笑みが浮かんでいた。  
じりじりと獲物を追いつめる。  
彼が鞭のように体をしならせると、隙を突かれ下から掬うように剣を弾き飛ばされる。  
柄を握っていたフィーリアの手に痺れが走った。  
「きゃぁっ!」  
高い悲鳴が上がる。  
強い衝撃を受けたフィーリアは、バランスを崩し尻餅をついてしまう。  
「私の勝ちだ」  
オベルジーヌは目を細めて怪しく笑った。  
荒く息をつくフィーリアとは対照的に、彼の息はほとんど乱れていない。  
「大丈夫かい? 痛かっただろうフィーリア」  
決闘の興奮も冷めやらぬ中、オベルジーヌは恋人に駆け寄った。  
倒れた彼女を優しく抱き起こしてやる。  
「いいのよオベルジーヌ。だって、さっきのあなた凄く格好良かったんだもの」  
濡れて潤んだ瞳がオベルジーヌを見つめた。  
紅潮した頬も艶めかしい。  
「お人形さん……」  
気分の高揚している二人は、熱く互いの視線を絡ませあった。  
しばらく無言で見つめ合う。  
 
「さて。この世で最も強く美しい男はこのオベルジーヌだってことを、分かって貰えたかな?」  
華麗な美技を披露したオベルジーヌは自信に満ち溢れていた。  
彼は自尊心が強く自己陶酔型の人間だが、実力が伴っている。  
この謙遜しない態度がフィーリアには小気味よく映り、そんなところにも心惹かれていた。  
「ええ、惚れ直したわ。さすが武力7名誉7の男ね」  
彼女の賞賛に満足げに頷いたあと、オベルジーヌはわざとらしく思案する素振りを見せた。  
「ふむ。そうだなぁ……」  
それから息がかかるほど顔を近付け、フィーリアの耳元で囁く。  
香水と整髪料の混ざった仄かな匂いが漂った。  
「次は私の雄としての矜持を示してあげようか。剣の誓約の儀のように……今度は下の剣を捧げてあげる」  
「し、下の剣……?」  
いくら初心なフィーリアでも、彼の比喩と言わんとしていることが分かる。  
少女が耳まで真っ赤にして俯くと、オベルジーヌは好色そうにニヤつきながら誘惑を続けた。  
「私の下の剣というのは要するに」  
「説明しなくていいわ!!」  
慌てて彼の口を塞ぐフィーリア。  
それから蚊の鳴くような小さな声で躊躇いがちに呟いた。  
圧倒的な強さをもって打ち負かされ、彼の魅力にほだされていたのかも知れない。  
「そう、そうね……捧げてくれるというのなら……そうして……」  
許しを得たオベルジーヌは破顔一笑する。  
フィーリアを引き寄せて力いっぱい抱き締めると、額に幾度も接吻を落とした。  
「……お人形さん。私はね、ずっとこの日を夢見ていたんだよ」  
 
決着をつけた二人を待ち構えていたのは仏頂面の侍女だった。  
仁王立ちになって行く手を塞いだエクレールは、仇敵にでも対峙するように、きつくオベルジーヌを睨みつける。  
それは相手を射殺しそうな勢いだった。  
次に大切なフィーリアに飛び付き、どこか怪我をさせられていないか念入りに確かめる。  
怒り狂う侍女をフィーリアは穏やかに宥めすかした。  
自分を鎮めようと言葉をかけてくるフィーリアの妙なぎこちなさに、エクレールは気付く。  
どこかそわそわとした様子で、時折オベルジーヌと目配せしあっている。  
何か、間に割って入れない雰囲気がある。  
オベルジーヌが馴れ馴れしくフィーリアの腰に手を回しているのも気に入らない。  
一方オベルジーヌは不気味なまでの上機嫌だった。  
口元をだらしなく緩ませ楽しそうに鼻歌を歌っている。  
(この二人は……)  
二人の間を流れる異様な空気に、エクレールの勘が働いた。  
フィーリアは身を清める為の湯を用意して欲しいと侍女に告げる。  
また、しばらくは私室でオベルジーヌと二人きりにして欲しい旨も伝えた。  
彼が王都を訪問したことは執政官には黙っておいて、とも。  
エクレールは全てを察した。  
やっぱりか……という思いと同時に、言い知れぬ圧迫感が胸を襲う。  
「畏まりました、姫様。すぐ湯浴みのご用意を致しますわね」  
表面上は平静を装うが、内心彼女は気が気でなかった。  
フィーリアとオベルジーヌは一応すでに婚約を済ませている仲だ。  
しかし女王の姉代わりの存在であるエクレールには、これから二人が行おうとしている行為を考えると、心配でならない。  
ヴィンフリートもどうせすぐ嗅ぎ付けるだろう。  
この件が彼の耳に入れば非常に面倒臭いことになる。  
(この変態野郎、少しでも私の姫様を傷つける真似をしたら……絶対に許さない)  
フィーリアに気遣わしげな眼差しを送りながら、オベルジーヌには殺意を抱くエクレールだった。  
 
彫刻を思わせる芸術的な肉体に、目を奪われる。  
彼はまるで宗教絵画から抜け出した男神のようだ。  
衣服を脱ぐオベルジーヌを眺めながら、寝台に腰掛けるフィーリアはそんな感想を持つ。  
聖騎士ウラジミール直系子孫の名は伊達ではない。  
そこに立っているだけで色香の匂い立つ姿態である。  
「私に見惚れているのかな?」  
フィーリアの心を見透かしたのか、彼はからかうように笑った。  
図星を突かれたフィーリアは赤面し恥じらって長い睫毛を伏せる。  
未だかつて異性を招き入れたことのなかった女王の寝室に、二人は今いた。  
「脱いで。君の裸が見たい」  
筋肉質な上半身を外気に晒したオベルジーヌは、じっと動かないフィーリアに催促する。  
単刀直入な物言いに彼女は更に頬を染める。  
今更もう後戻りは出来ないと覚悟を決め、すっと立ち上がるフィーリア。  
複雑にかみ合う衣裳の釦を黙々と外し始める。  
涼やかな衣擦れの音が、しばらく薄暗い室内を支配した。  
自身の体に向けられる劣情を含んだ男の視線が痛い。  
身に付けていたものが全て絨毯の上に落ちた時、オベルジーヌが生唾を飲み込む気配があった。  
軽く舌舐めずりしたのも分かった。  
まだ未完成である成長途中のしなやかな体が、この上もなく男を欲情させる。  
「おお……、神よご照覧あれ。かの女王の麗しさを。これぞ地上の美……!」  
フィーリアの全裸に感極まったオベルジーヌは、大仰な賛辞を送った。  
彼女の抜けるように白い肌はほんのりと赤みを帯び、耐え難い羞恥に震える。  
女性らしい流曲線を男の目から隠すように自らを掻き抱く。  
「君は本当に綺麗だ。……このまま剥製にして私の寝室に飾っておきたいほどにね」  
フィーリアはぞっとする。  
嫌な脂汗が背にじっとりと滲んだ。  
オベルジーヌが『フィーリアを剥製にしたい』と本気で考えていることを知っているからだ。  
彼の狂気の片鱗を垣間見た気がした。  
ふいにオベルジーヌが一歩前に進み、フィーリアとの距離を縮める。  
極度の緊張によって彼女の心臓は跳ね上がる。  
「私のお人形、私の宝石、私の妖精、私の天使、私の女王、私の太陽、私の女神……  
フィーリア、我が妻となる人よ。夫婦の契りを交わそうか」  
情熱的でくどい彼らしい台詞に、フィーリアは弾かれたように顔を上げる。  
そして目を見張った。  
いつもおどけているオベルジーヌがひどく真剣な面差しをしていたからだ。  
「……抱いて……オベルジーヌ……」  
勇気を振り絞ってそれだけ言う。  
刹那、オベルジーヌの力強い腕がフィーリアの体を奪った。  
気が付くと温かな胸の中にすっぽり収められている。  
「あ……」  
密着した途端、フィーリアの腹部に固いものが当たる。  
思わず見下ろすと、彼の下肢を覆う布を内側から窮屈そうに押し上げ、存在を主張する熱い膨らみがあった。  
オベルジーヌはおもむろに前を解く。  
すでに起き上っている男根がぶるん、と躍り出し、勢い余って上下に弾む。  
恐らく大勢の女性を喜ばせてきたのであろうそれは、垂直に屹立し割れた腹筋に張り付いている。  
フィーリアは息を飲んだ。  
「お、大きいわ」  
感嘆の言葉が口を突いて出てしまう。  
しかし淑女にあるまじき慎みない発言だったと知って、すぐに顔を両手で覆う。  
指の隙間からオベルジーヌの逸物をチラ見しながら。  
「そう? ありがとう」  
フィーリアの感想に気をよくしたらしく、オベルジーヌは嬉しそうに笑った。  
彼の無骨な手がフィーリアのたおやかな手を握り、ゆっくりと自身の昂りへと導く。  
「私に触って」  
フィーリアの震える指先が、恐る恐る雄の怒張へと触れる。  
(これがオベルジーヌの……)  
「これから“これ”で君をシジェルの野へ誘うよ」  
 
フィーリアの肩に手を置き、オベルジーヌは身を屈めて顔を近付けた。  
彼の動作に応え、フィーリアは背丈のある相手に合わせて爪先立ちになる。  
ぽってりとした艶やかな唇がオベルジーヌのそれと重なる。  
互いの唇を緩く挟んで塞ぎながらゆっくり感触を探り合う。  
顎を傾けたオベルジーヌが下唇を吸い上げた。  
フィーリアの腰が甘い衝撃を覚え反動で足の力が抜けてしまう。  
口内に男の長い舌が侵入し、まるで生き物のように蠢く。  
オベルジーヌの腕がフィーリアの背に、フィーリアの腕がオベルジーヌの首にそれぞれ回り、互いを引き寄せて掻き抱く。  
裸の胸同士が密着し、擦れ、胸の突起が硬度を増したのをフィーリアは感じた。  
再会の挨拶とは違う長く濃厚な口づけに息が詰まる。  
「んっ、ちゅ……、くちゅ、んぅ、ちゅぷ……ふ」  
絶え間なく舌を絡めとるオベルジーヌは息つく暇も与えない。  
時折口の位置を変えながらねっとりと唾液を交換し合った。  
オベルジーヌは舌を吸いながら、清潔な石鹸の香りを放つフィーリアの髪に手を挿し入れ、興奮に任せて荒々しく掻き混ぜる。  
柔らかな女の唇を夢中で貪り、味わうことに没頭し、なかなか相手を離さない。  
フィーリアはそろそろ首と顎が疲れてきていた。  
酸欠状態に陥って視界が歪み、もう立っているのも辛い。  
強い眩暈に襲われてオベルジーヌを顔から引き離そうとしたが、彼はそれを許さなかった。  
大きな両手でフィーリアの顔を挟み、欲望の赴くまま口内をしつこく蹂躙する。  
オベルジーヌが飽きるまで唇を犯した頃、フィーリアは呼吸困難で卒倒しそうになっていた。  
脱力し崩れ落ちそうになるのを抱き留められる。  
「はぁ、はぁっ、オベル、ジーヌっ待って、お願い……、待って」  
自分をもてあそぶ男を涙目で見上げながら息も絶え絶えに訴える。  
間髪入れず押し寄せてくる刺激の波にフィーリアはうろたえていた。  
しかしフィーリアを映した紫水晶の双眸は、悪びれる様子もなく妖艶に細められただけだった。  
「愛している……フィーリア」  
そう言うと、オベルジーヌはフィーリアの両瞼に優しく唇を押し当てた。  
耳たぶを甘噛みしながら何度も何度も『愛しているよ』、『大好きだよ』と繰り返す。  
耳元で囁かれる重低音にフィーリアの臍の下がじゅん、と疼いた。  
全身に広がる甘美な痺れが体を蕩けさせるようだった。  
 
横抱きにした華奢な肢体を、そっと天蓋つきの寝台に降ろす。  
フィーリアの豊かな蜂蜜色の髪が扇の形になって枕に広がる。  
体重をかけないよう気を配りながら、オベルジーヌは少女の白い体に覆いかぶさった。  
彼の背からきっちり巻かれた縦ロールが流れ、垂れ幕のようにフィーリアのかんばせを囲む。  
体重の移動によって寝台の骨組みがギシ、と音を立てて軋んだ。  
フィーリアの額や頬に接吻しながら、オベルジーヌの指が彼女の乳房へと伸びる。  
発育の良い膨らみを下から掬い上げるように愛撫し、その頂をもてあそぶ。  
乳輪に沿って指で円を描きながらなぞり、勃起した薄桃色の乳首をコリコリと押し潰す。  
「あ、あ……んぅ」  
小さな愛らしい唇から押し殺した嬌声が零れた。  
滑らかなフィーリアの肌を撫でさする彼の掌は、皮膚が固くざらついていた。  
槍や剣を毎日握り厳しい訓練を重ね、肉刺を作っては潰しを繰り返してきた騎士らしい無骨な手だった。  
オベルジーヌの口が胸の突起をちゅ、と強く吸い上げる。  
左右を交互に粘膜に含まれ舌の上で転がされる。  
乳首を十分に堪能したあと乳房全体にしゃぶりつく。  
「ふぁ……、やぁん……っ!」  
何とも言えぬもどかしい刺激にフィーリアは思わず悲鳴を上げる。  
オベルジーヌはその初々しく素直な反応を楽しんだ。  
あどけない恋人をもっと乱れさせたくなって、彼は次々に舌を移動させる。  
耳の裏、首筋、鎖骨、腋の下、脇腹、臍、内腿……と、女の性感帯を的確に捉え執拗に攻め立てる。  
全身をねぶり回すぬるぬるした舌と、尖った鼻、肌に吹きかかる熱い呼吸、体の上を掃く金糸の束がくすぐったい。  
オベルジーヌの顔が徐々に降下しちょうど足の間に到達した時。  
絶え間なく悶えていたフィーリアははっとした。  
「オベルジーヌ……、あ、あのね」  
「ん?」  
肝心なところで制止された彼は気の抜けた声とともに目線を上げる。  
陶然とした紫の瞳に見つめられて、フィーリアは急に照れ臭くなった。  
すぐに視線を逸らし、目を泳がせながらあらぬ方向を見てボソボソと呟く。  
「……私も、あなたにしてあげたいの」  
意味を量りかね一瞬きょとんとするオベルジーヌ。  
しかし彼女が何を指して言っているのかすぐに把握し、その申し出を有り難く受けた。  
「嬉しいよ。君からそう言ってくれるなんて。それじゃあ――」  
初めての体験で右も左も分からないフィーリアは彼の指示に従った。  
言われるまま体の位置を入れ替え、仰向けになったオベルジーヌの顔に臀部を向けて跨る。  
この体勢によって、オベルジーヌの眼前に彼女の恥部が全て晒されてしまう。  
排泄器官を隅々まで観察されてしまう屈辱的な格好。  
16歳の女王は熟した林檎よりももっと真っ赤にのぼせ上がった。  
(な、なに……これ……? いやぁ……)  
フィーリアは羞恥で気が狂いそうだった。  
情事はまだ始まったばかりだというのに、今すぐにでもこの場から逃げ出したい。  
頭上に広がる壮観な光景に感動したオベルジーヌは、動揺する彼女に追い打ちをかけた。  
「ああ、これは素晴らしい……思った以上だよ。君の可愛らしいおま」  
「言わないで!! ……もう、見ないでぇ……」  
オベルジーヌは喉の奥でくっく、と愉快そうに笑った。  
性質の悪い意地悪にフィーリアは泣き出しそうになる。  
同時に、今彼女の目の前にも顔を背けたくなる眺めがあった。  
男の濃い繁みと、充血しきって血管のくっきり浮き出た太槍がそそり立っている。  
こんな至近距離では正視に堪えない。  
赤黒く変色したそれは物欲しそうにピクついている。  
むせ返るような青臭さにフィーリアは頭がくらくらした。  
彼女は淑女の嗜みとして閨房術の類を教育されている。  
一通りの知識は身に付けているものの、実際男性に口淫を施すのは初めてだ。  
ずっとこうして固まっている訳にもゆかず、フィーリアは意を決するとおずおず湿った鈴口に唇をつける。  
 
「んぅっ……」  
すると後ろからくぐもった低い声が聞こえた。  
色っぽい呻きに驚いて身じろぎすると、すかさずオベルジーヌが促した。  
「続けてフィーリア……もっと」  
オベルジーヌは少し脚を広げ、求めるように軽く腰を突き出す。  
先端を赤い舌でチロチロと撫で始めると逸物が更に膨張し、分泌された液体でフィーリアの唇が濡れた。  
口内に苦味が広がる。  
恥ずかしくて堪らなかったが、フィーリアは自棄になって雁首をぱくりと咥え、ちゅぱちゅぱと吸い付く。  
――オベルジーヌの魂は歓喜に震えた。  
(ああっ、我が祖ウラジミールよ――! 有り難うございます――!   
お人形さんの小さなお口に……私の……ああっらめぇっ……)  
フィーリアの慣れない性技はたどたどしいものだったが、一生懸命奉仕してくれる彼女の姿に愛おしさが湧き上がる。  
こちらも負けじと、オベルジーヌは顔を覆う女の割れ目に舌を伸ばした。  
膣内はすでに十分に潤い愛液が滲んでいる。  
「ひぅっ!」  
フィーリアの脊椎に衝撃が駆け抜けた。  
オベルジーヌの巨根をしゃぶったまま裏返った悲鳴を漏らす。  
今度はフィーリアが身を跳ねさせる番だった。  
唐突な快感から逃げるように腰を引くが、張りのある小振りな尻をがっちり押さえつけられ身動きがとれない。  
オベルジーヌが指で襞を押し広げるととろりと蜜が流れ出した。  
「んっ、ちゅ、……じゅる、ん、お人形さんのお汁……ぴちゃ、甘い」  
次々に垂れ落ちてくる雫を舐め上げ、内腿から女の中心へと舌を往復させる。  
唾液を含んだ舌で膣内を突き、熟れて肥大化した陰核を緩急つけて吸い上げる。  
オベルジーヌの顎はすぐに水浸しになった。  
「いやぁ、あぁ、んっ……、ああぁあ、……あぁっ」  
もうフィーリアは嬌声を我慢することが出来なかった。  
オベルジーヌの巧みな舌遣いに翻弄されてしまう。  
「あれ? お口がお留守だよ、お人形さん。せっかく上手だったのに」  
舌の動きを緩めてからわざと残念そうに溜息をつく。  
官能の奔流に呑まれ、口元が疎かになっていたフィーリアははっとする。  
指摘され慌てて陰茎を頬張るが、途端に高い悲鳴を上げる。  
オベルジーヌが菊座に舌を這わせたからだ。  
陽動戦法で相手を引き付けておき、すかさず突撃を行う。  
決闘において彼が好んで使う手と同じだった。  
互いの生殖器を口で愛し合う筈だったのが、フィーリアはオベルジーヌの技術に負け、今や一方的に嬲られるだけとなってしまう。  
また、彼女の下腹部には尿意に似た疼きが這い上がってきていた。  
むずむずした未知の感覚に恐れおののきながら、フィーリアは初めての快楽を登りつめていく。  
次の瞬間フィーリアの背骨が弓なりに反ったかと思うと、ぶるりと全身を激しく震わせた。  
「だめぇ……! あっ、あん、だめだめぇっ……出ちゃうっあ、あっあっ――いやぁあ――!!」  
「うぷっ」  
足を痙攣させながら絶頂に達した彼女から、ぴゅ、ぴゅ、と潮が噴き出す。  
その淫水はオベルジーヌの顔面をまんべんなく汚した。  
粗相をしてしまったと勘違いしたフィーリアは、幼い子供のようにしゃくり上げる。  
「……オベル、ジーヌ私っ、ひくっ……ごめんなさっ、今のは、違うんだからね……ひくっ」  
「ふふ……謝らなくていいんだよ。泣かないで、可愛いフィーリア」  
ベタつく口元を拭い口に絡んだ陰毛を吐き出す。  
したたり落ちる水滴を舐め取りながら、恍惚の表情を浮かべオベルジーヌは微笑んだ。  
それは空恐ろしいほどの凄絶な美しい笑みだった。  
 
 

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