「…………」  
トントントントン。  
「…………」  
トントントントントントントントン。  
「…(ああああ、もう!)」  
トントントントン、とせわしなく指で机を叩いていた南条は、少しだけ不機嫌な顔をして、  
心の中でだけ毒づいた。   
今は昼休み前、4時間目の授業中。教室の中はまあいつもと比べれば静かなほうだ。  
ジジイ(先生をこう呼ぶのはどうかと南条は思っている)がプリントに書かれた用語の意味とか  
由来とかを気の抜ける声で説明している中で、居眠りと格闘しているのが大半。残りは  
マジメに、もしくはやる気なさげにノートをとっている。  
南条も傍目にはまじめにプリントを見ながらノートをとっているように見えるが、心中は結構な  
ご立腹モードだ。  
(まったく…つるぎさんたら…)  
そんな中でちら、と目線だけで右のほうを見てみる。  
壁際の列の真ん中で、頭にカニカマ(もとは彼女の家で飼われていたネコだ)を乗せた  
犬神が眠そうな顔でシャーペンを遊ばせていた。  
もっと顔が見やすいように心もち自分の顔を右にそらす。  
一応授業中なので横を向いているのはマズいと思うが、この際そんなことはいってられない。  
その端正な顔を見ると、不機嫌なはずだった気分が一転、なんというか「はふっ」という  
感じになってしまう。  
自分を見つめる視線に気づいたのか、犬神が目線をかえしてきた。そのまま少しだけ笑って  
みせる。頭のカニカマが『にゃー』と鳴いた。  
そんな反応にうれしさと恥ずかしさを感じた南条は真っ赤な顔をしてばっと目を  
そらした。  
 
…二ヶ月ほど前、南条家で大事件といっていいほどの出来事があった。  
細かいことはここでは省くが、南条家にお邪魔した犬神が、自分は南条のことが好きだと  
自覚してしまい、勢いで告白してしまったのだ。  
もとより犬神に懸想していた南条はまさか『あの』犬神に告白されるとは思っていなかった  
らしく、涙を流しながら喜んで二つ返事でOKし、晴れて恋人同士になったのだ。  
今まで素直とは言いがたかった南条が大きく変わったのもこのころで、今ではところかまわず  
犬神に抱きつくわ、犬神に親しげに話しかける女子を必死で追い払ったりしている。  
まあいい傾向じゃない?とはC組の橘玲の弁。(なんでニヤニヤ笑ってるのか知りたかったが)  
とりあえず『これまでは』なんの不満もなく、ラブラブ高校生ライフを満喫して『いた』。  
(えへへへ……)  
どうも頬がゆるむのをおさえられない。  
家族と疎遠だった彼女にとって、恋人ができたということは甘えられる人間ができたということ。  
現に、今でも犬神を見ているだけですべてをまかせていいような気になってしまう。  
(…っとと、いけませんわ。私、今怒ってるんですのよ!)  
ピンク色な妄想を振り払い、気持ちを切り替えると、無理やり表情をこわばらせる。  
口元に手をあて、ふうむ、と考える。  
 
彼女が怒っていること…それは、要するに犬神が自分に手を出してこない、ということであった。  
交際を始めてはや二ヶ月。昼食は一緒に食べるし、帰り道も途中まで一緒。  
学校ではいつもベタベタさせてくれるし、誰も見ていないところでならキスもさせてくれる。  
…しかし、しかしである。これらはすべて南条からアプローチをかけた結果であって、  
『犬神から』ということはまだ数えるほどしかなかった。  
それに、いままで何回か『そういう雰囲気』になったこともあったが、犬神は絶対南条に  
手出ししてこなかった。…勝負下着だったのに。  
(…まるで、私に魅力が無いって言ってるみたいじゃなくて?)  
そう考えると、またイライラしてきた。  
(…どうしたものかしら)。  
その真剣なオーラを感じ取ったのか。  
「そうじゃのう…南城、これ、答えてみい」  
 
「…… へ?」  
「『へ』じゃないわ!ほれ、問4じゃ。答えてみんかい」  
突然ジジイに指名され、半ば呆然状態な南条がプリントを見てみると。  
『非暴力不服従を説いたインド独立の父といえば□□□□』  
 
「…… ペ、北京原人?」  
 
 
スコーン、というかわいた音が教室に響いた  
 
 
授業が終わり、昼休み。  
結局、南条の出した結論はとある人物に相談することだった。  
ので、今日は一緒にお昼ごはん食べられませんの、と犬神に伝え(ものすごく驚いた顔を  
されて少しショックだった)、なんとかその『彼女』を見つけると、食堂に誘った。  
 
「…で、なんなんだよ、一体?」  
『彼女』…秋山乙女はなんとなく釈然としない様子で割り箸を割った。  
「ええ、ちょっと…ね?」  
ふうん?といった感じに乙女はラーメンをすすりはじめた。目線は南条からはずさない。  
南条と乙女は、それほど親しい、というわけではない。  
クラスが違うのもあって、あまり話したこともない。最近ではベッキーがいないときに  
新聞部が主催した主役争奪大会で若干話をした程度だ。  
なので、乙女にとっては南条が食堂にランチのお誘いをしてくる時点で『なんだそりゃ?』  
といった感じなのである。  
まあ、振る舞いこそ粗暴でも頼まれるとイヤといえないアネゴ肌なところがある乙女は、  
無下に断るのもなんだな、という結論に達してしまったのだけれど。  
ずるずるー。  
「…ああ、なんだ。気になるからさっさと言って欲しいんだけど?」  
「え、えーっと… …その、ですわね…」  
どうも歯切れが悪い。真剣な相談かな、と乙女が少しだけ目を細めると、  
南条は乙女だけに聞こえる小声で言った。  
「そ、その…お、オトコの人を誘惑するのって、どうやればいいんですの?」  
 
ぶはっ  
 
「げほッ、げほッ、げほッ!?げぇっほッ!」  
「だ、大丈夫!?と、とりあえずお水…」  
「さ、さんきゅ…(ぐびぐびぐび)…っぷは、し、死ぬかと思った… じゃなくてッ!!  
なんなんだよその質問はッ!?」  
乙女が顔を真っ赤にして反論する。  
まあ、あまり交流がない友人にいきなり異性の誘惑の仕方なんて聞かれれば当然なのだが。  
「え、えっと、言葉どおりの意味、ですわよ?」  
「なんだよ!?アタシがそんなに遊んでる女に見えんのかよ!?」  
「え…だ、だって…」  
あまりの剣幕にしどろもどろになりながら、決定的な一言を言い放つ。  
「秋山さん、早乙女先生とお付き合いしてるんでしょう?」  
「……      な……………ッッ」  
さっきの勢いはどこへやら。時間が止まったように乙女の動きは完全に停止した  
 
しばらくしてようやく動き始めると、か細い声でうつむきながらたずね返してきた。  
「…な、何で知ってるんだよぅ……」  
「え、と…割と皆さん、知ってるみたいだけど…」  
「…マジか…?」  
…どうやら乙女にとっては早乙女と付き合っているらしい事実は周りには極力  
隠しておきたかったようだ。  
が、早乙女を見るたびに文字通り恋する乙女の顔になってしまい、また帰る時間を  
遅らせてまで早乙女と一緒に(腕まで組んで)帰るようではバレバレで、南条と  
犬神が付き合っているのと同じくらい学校では認知されていた。  
まあしかし、知られている以上は隠してもしょうがない。  
妙な腹の括り方をした乙女は、若干気を楽にした様子で言った。  
「…なるほどな。アタシに聞くわけだ。ウチのガッコのヤツら、色恋沙汰にゃあんま  
興味ねぇみたいだしな」  
「ええ…こんなこと、殿方とお付き合いしてる方にしか聞けないし…」  
「うーん…つってもなあ。誘惑って、何の…」  
そこまでいうと、二人の後ろにひとつの人影が立った。  
「おーとーめ!」  
「うひゃ!?す、鈴音!?」  
「白鳥さん!?」  
乙女のクラスメイトで親友(?)の鈴音だった。  
後ろからがばっと乙女に抱きつくと、彼女いわく『背が伸びなくなるツボ』を刺激しまくる。  
「あいかわらずちっこいねーおとめー」  
「う、うるせぇ!南条、見てないで助けろ!!」  
「あ、え、えっと…」  
鈴音が満足するまでこの相談はひとまず休止となった。  
 
とりあえず鈴音が加わり、南条の相談に乗ってくれることになった。  
「オトコのヒトの誘惑の仕方?そんなの聞いてどうするの?」  
「お前わかっててきいてねぇか?犬神だろ、南条?」  
「…うー」  
顔を赤くしてうつむきつつもコクリとうなずく。  
「あれ。でも南条さんと犬神君、すごいラブラブだったのに。何かあったの?」  
「ああ、そうそう。わざわざ誘惑なんてしなくてもいいんじゃねぇの?」  
「でも乙女と早乙女先生もすっごい甘甘なラブコメしてるよねー♪」  
「う、うっせぇ!!」  
「う…」  
そこで突然じわっと目じりに涙をためて。  
「…『何もない』んですのよー…」  
ぽろぽろ泣き出してしまった南条を見て、思わず顔を見合わせる乙女と鈴音。  
とりあえず、あることないこといってなだめながら話をきいた。  
 
「はー…要するに犬神君がエッチしてくれないと」  
 
ぶはっ  
 
「げほっげほっ!お、お前ぶっちゃけすぎだろ!!」  
「けほっけほっ!な、何を…!」  
鈴音のストレートすぎる表現に思わず二人そろって咳き込んでしまった。  
相変わらずまわりくどい言い方をしない彼女に、聞いてるほうが恥ずかしくなってしまう。  
「えー?だって、そういうことでしょ?」  
「…そ、そうですけど…」  
まあ確かに間違ったことは何も言ってないが、これじゃちょっと答えにくいじゃないか。  
「うーん…乙女は、早乙女先生とエッチするときどうしてる?」  
「バ、バカヤロ!!そ、そんなこと…」  
「してないの?」  
「…………………してるけど」  
指をもじもじさせながら認めた。  
そういうと、今までオロオロしていた南条が乙女の手をガシッとつかむと、まだ赤くはれぼったい  
目とうわずった大きな声で叫んだ。  
「お願い!秋山さん、後学のために(?)色々教えてくださいッ!」  
一瞬驚いた顔をした乙女と鈴音だったが、あまりにも熱心に頼むので(まわりの視線が  
痛すぎたというのが直接的な原因であるとは思うが)とりあえず『あんまり突っ込んだこと  
でないなら』という条件でアドバイスをあげることにした。  
…なんで食事時に男性をソノ気にさせるアドバイスなんてしなきゃいけないんだろうと  
乙女はちょっと悲しくなった。  
さらにいえばよりによって鈴音がいるところで暴露しなければならないところにもすっごい  
不満がある…が、言わないと帰してくれそうもないのでもうあきらめた  
 
「…で、何から話しゃいいんだ?」  
「ソノ気にさせる方法を!」  
「いきなりかよ…つってもなあ。うーん…流れでシちゃうこともあるし、アタシからしようかって  
言うこともあるし…」  
「わお。乙女も結構大胆だね」  
「お前は黙ってろ!」  
スパーン!!  
「あうち!」  
「…まったく、恥ずかしいんだからな…」  
「うーん…秋山さんから言うときはなんていうんですの?」  
「別に内容はそんな。こう、アイツも結構なボクネンジンだからな。後ろから抱き付いて押し倒して…  
まあ、力ずく…なのかな?』   
「力ずく?」  
「そ。ああいうタイプの男って、意外とビビリが多いからな。あんまり向こうから手出し  
してくるってことはないよ。強引にでもアプローチしないとな」  
「強引に…」  
なるほど、といった顔で考え込む南条。  
それをみて、もうちょい踏み込んだこと言ってもいいか、と思った乙女は言葉を続ける。  
「あとな、男ってフェチが多いんよ」  
「ふぇ、ふぇち?」  
「うん。早乙女な…その、体操着にブルマ着てるといつもより積極的に…その…」  
「ええええー!?早乙女先生、そんな趣味があったの!?」  
驚いた声を出しておきながらなぜ顔は満面の笑顔なのですか、鈴音さん。  
…しかし、自分で言い出しておきながら恥ずかしくなってきた。   
うう。情けない。  
「た、体操着?…着てると、喜ぶんですの?」  
「…ああああ、今のナシ!なかったことにして!」  
「?????」  
その後、5時間目が始まるまで乙女による男性誘惑講座は続くのだった。  
乙女いわく、『もう二度と南条と鈴音とは一緒にメシ食わねぇ』だそうな。  
 
 
一方そのころ、屋上。  
「…で、犬神。今日はワイフがいないみたいだけどケンカでもしたか?」  
「修…」  
「にゃー」  
ニヤニヤしながらきいてくる親友に軽く殺意をおぼえる。  
が、南条と付き合い始めてから3人で昼食をとるのが当たり前になっていたので、  
修は修でそれなりに疑問に思っているようだ。  
「別にたいしたことはない。今日は別の用事があるみたいだ」  
「ふーん。そっか」  
「にゃー」  
弁当箱を覗いていたカニカマがもの欲しそうにしているのがわかった修は弁当箱から  
かにかまをとりだし、ぴっと差し出した。  
「ほれ、カニカマ。かにかま好きだろ?」  
「にゃ!」  
かつかつかつかつ。  
修からそれをもらうと、すごい勢いでおいしそうに食べている。  
なんだかほほえましいな、と言う修に、まあな、とだけ返した。  
 
弁当をかっこみながら、しばらくとりとめのない話をしていた二人だったが、修がふと  
思い出したように言った。  
「ところで、さ。もう南条とはシちゃったのか?」  
「…!! ごほっごほっ! し、修!言っていいことと悪いことがあるぞ!!」  
「あーらら、その反応じゃまだっぽいな」  
「まったく…からかうのも大概にしろ!」  
「いやいや、ちょっと心配してんだよ、俺は」  
おちゃらけた様子のなかで、少しだけ真剣な目を見せる。  
「心配?」  
「ああ。…俺には女の子の気持ちはわかんねぇけど、もしかしたら、ほら、  
いつまでたっても手を出してこないお前に愛想つかしたりしてないかなってな?」  
「私に?」  
「そう。『もしかしたら』、だぜ?もしかしたら、今日の用事ってのも別の男のトコに」  
 
ベキッ  
 
「…犬神」  
「…なんだ?」  
「…ハシ、折れたぞ」  
「…ああ、ずいぶんボロボロだったからな」  
「…犬神」  
「…なんだ」  
「…『もしかしたら』の話だからな?」  
「…なんの話だ。別に気にしてないぞ」  
「…まったく、なんだかんだ言ってベタ惚れじゃねぇかよ…」  
「何か言ったか?」  
「いやなんでも?」  
なんとなく不機嫌な主人の気持ちを察したのか。  
いつもより少しだけ怖がっている感じでカニカマは『にゃー』と鳴いた。  
 
 
D組の5時間目は体育だ。  
男子は校庭でサッカー、女子は体育館でバレーということになっている。  
担当の教師にしたがい、スパイクをとる練習をしながら南条は昼休みのことを思い返していた。  
「(強引に…うーん…)」  
体育という至極健全な科目の真っ最中だが頭の中はピンク色である。  
確かに、あの犬神が積極的に自分を求めてくる、ということはないだろう(いざ行為をしよう、と  
いうときは別として)。  
となれば、自分からアプローチをかけなければならないのはまあ自明の理だ。  
「(…そうなると、あとはシチュエーションね。)」  
かなりロマンチックなところがある南条は、少女漫画的なシチュエーションを考えるのが結構好きだ。  
夕陽の見える教室で。つるぎさんの部屋で。お料理してるところにイタズラされたり?  
それか、お、お風呂とか…。きゃー!!  
授業中にもかかわらず、ゆるんでしょうがない頬をおさえながら、ぷるぷる震えている。  
傍から見ると何を考えているかバレバレである。  
…が、さすがに体育の授業中にそんなことをしてるのはなかなかに危険なわけで。  
「ああああ、な、南条、あぶなーーーーい!!」  
「え?」  
すぱーーーーん!!  
ペアを組んでいた芹沢(体育でもロボ子コス)の痛快なスパイクが見事顔面に命中する。  
「きゃうッ!?」  
そのまま、目をぐるぐるまわしたまま倒れてしまった。  
「あっちゃー…す、すまん南条。平気かー?」  
「…きゅう〜〜〜〜…」  
「…こりゃあ、ダメだな」  
「あーあ、南条さん、授業中なのにヘンなこと考えてるからだよ…」  
「しょうがないな。みんな、コイツ保健室につれてくから、肩かしてー」  
「あーい」  
…D組の授業は、今日もてんやわんやなのだった。  
 
 
体育を終えたD組の面々は、今日最後の6時間目の授業の用意のために急いでいた。  
休み時間は10分しかないのに、手早く着替えて教室まで戻らなければならないのだ。  
正直、あと5分は欲しいなあとは皆が思っているところだ。  
なんとか時間ギリギリにほぼ全員が教室にそろう。  
昼休みに修に言われたことで頭がいっぱいで色々な考えがぐるぐると頭をかけめぐっていた  
犬神は珍しく本当に時間ギリギリに教室に入ってきた。  
(…私らしくもない…)  
ものごとは何事もスマートにこなすのが信条だった犬神は、最近の自分の変化に苦笑した。  
何よりも南条のことを優先してしまう。  
実際、南条から見れば無表情でつまらなそうに見えても犬神本人は内心心臓バクバクで  
その幸せを噛み締めていたりするのだ。  
だが、それゆえに修の言葉はこたえた。かなりこたえた。  
そりゃあ、その、体の関係は結びたいと思う。  
でも、妙に古風なところがある犬神は『結婚までは』と思っていた。  
実際、もし私より好きな男ができたら、そのことはきっと南条にとって足かせになってしまうだろう。  
だからこそ、押し倒したい衝動を無理やり理性で押し殺してきたのだ。  
…でも、南条が私以外の男と…  
想像しただけで胸がムカムカする。  
もし本当にそうだとしたら、とても我慢できそうもない。  
南条の幸せを優先したい…といいたいが、私のそばにいてほしい。独占したい。  
(…まったく、自分がこんなにワガママだったとはな)  
「にゃー?」  
「…いや、なんでもないぞ」  
頭の上のカニカマが不安そうな声をあげたので、とりあえずのフォロー。  
…こいつは、たまに本当に自分の心を読んでいるのではないかと思う。  
 
ふと、南条の席に目をやる。  
が、そこにいるべき人物はおらず、机と椅子だけが所在なさげにぽつんと置いてあった。  
(…?)  
あまり不自然にならないように教室を見渡すが、南条の姿は見えない。  
まだ戻ってきてないのか?  
「ロボ子、ちょっといいか?」  
「ん?おお、なんだ犬神?」  
チャイムが鳴ると同時に入ってきた芹沢(いつでもロボ子)に声をかける。  
確か、こいつは南条とバレーのペアだったはずだ。  
「南条がいないみたいだが、何かあったのか?」  
「う…あー、あの、な?」  
「?」  
「今ちょっと保健室に…」  
保健室、といった瞬間だった。  
ガタン、と椅子を蹴倒す勢いで立ち上がり、芹沢の胸倉をつかみ、揺さぶりながら  
言葉をぶつける。  
「保健室!?ケガしたのか!?大丈夫か!?大丈夫なんだろうな!!」  
「ああああああああ、だ、だああいじょおおぶ、だっての!」  
なんとか犬神の手を振りほどいた芹沢は息をきらせながら二の句を継いだ。  
犬神が取り乱すなんていうきわめて珍しい事象を眼にしたクラスメイトたちは、驚いた目を  
しながらも事の顛末を見守っている。  
「ごほごほっ… あー、ちょっと顔にボールが当たったから少し休んでるだけだよ」  
「そ…そうか… その、すまなかった」  
「いやいや、南条もいいカレシをもって幸せだな」  
シシシ、という感じの笑い声を上げる芹沢。  
ムッとしてにらみつけると『あー怖い怖い』とかいって席に戻っていった。  
…とりあえず、心配はないみたいだ。  
ふう、と全身から力が抜けていくのを感じながら、犬神は席についた。  
 
 
コツコツ、という足音を響かせて、夕日の射す4階の廊下を犬神が歩く。  
結局、6時間目が終わっても、帰りのホームルームが終わっても南条は帰ってこなかった。  
表面上は関心なさげにしていたが心中穏やかでなく、非常に心配していた。  
解散の号令といっしょにまっすぐに上り階段を上り、今に至る。  
…教室から出るときに『南条さん、うらやましいなあ』とか『ラブラブだねぇ』とか聞こえてきたのは  
多分気のせいだ。きっとそうだ。  
「…まったく、お前の元ご主人は何をしてるんだかな」  
「にゃー」  
頭の上の相棒に声をかける。少し間抜けな声が、犬神にはおかしかった。  
 
「失礼します」  
簡潔に述べて、からから、と保健室のドアを開ける。  
どうやら保険の先生はいないようだ。  
窓から射す夕陽と風にゆれるカーテン、それに保健室独特の薬品のにおいがなんとも  
いえない不思議な空間をつくっていた。  
そこにわずかにそよめく風の音だけが聞こえる。  
不思議な情緒を感じさせた。  
「…南条?南条?」  
そう呼びかけながら、ベッドを覗いてみる。  
「…… すー」  
南条はふとんをかぶらず、ふとんの上で丸くなって気持ちよさそうに眠っていた。  
いままでずっと寝ていたのだろうか。ずいぶんと深く眠っているようだ。  
…にしても。  
(…これは…目のやり場に困るな…)  
体育の授業からそのまま保健室に来たので、南条は体操着にブルマという格好だった。  
そんな扇情的な格好で少し顔を赤らめ、それこそまるで眠り姫のように眠っている。  
(…こう、なんだ。ヘンな気分になってくるな…)  
いけないいけない。はやいトコこのネボスケを起こして帰らないと。  
「…南条、起きろ。帰るぞ」  
ゆさゆさ。  
ゆすってみるものの起きる気配はない。  
「まったく…私の迷惑も考えろ」  
ため息をひとつ。ベッドの脇においてある椅子に腰掛け、うーんと一回、伸び。  
カニカマをとなりのベッドに寝かせ(なんか眠そうだなと思ったら昼寝の時間らしい)、  
そのままいとしい恋人の寝顔を眺めていると、なんともいえず幸せな気分になってくる。  
その綺麗なブロンドにそっと優しく触れる。  
 
「ん…」  
くすぐったそうに寝返りをうつ。その様子もまたかわいくて、ついつい頬がゆるんでしまう。  
…そこで、突然修の言葉を思い出す。  
こんな無防備な顔を、私以外の男にも見せているのか?  
…私に、愛想をつかしてしまったのか?  
胸の奥底に急に強い独占欲が湧き出してくる。  
「…南条…」  
あれはいつだったか。寝ている(ふりをしていた)私に南条がキスしてきたことがあった。  
…これは、お返しだ。  
その綺麗な薄ピンクの唇に、そっと自分の顔を近づける。  
その唇と唇が今まさに触れようとした瞬間。  
 
「…ひきょうもの」  
 
目は、さっきから覚めていた。入ってきたのが犬神だと気づいたから、しばらく寝たふりをしていた  
だけで。  
自分が無防備な姿をさらしたら、何かしてくるかな、という若干の期待からとった行動だった。  
事実、普段はあまり自分に触れようとしない彼が、 自慢の髪を優しくなでてくれたし、  
キスもしようとしてくれた。  
しかし、突然不満が出てきたのだ。  
(したい、と思ってくれてるなら、起きてるときにしてくれたっていいじゃない?)  
そう思ったときには、もう口から言葉が出てきてしまっていた。  
 
「…ひきょうもの」  
 
わざと薄目を開けて彼を見る。珍しい。本当に驚いてるみたい。…というか、しまった、っていう  
顔。ふふん。私の唇はそう安くなくてよ。  
「…卑怯ですわよ、つるぎさん」  
「え、あ、そ、その、だな、南条。こ、これには深いわけが…」  
「問答無用!」  
そういうとがばっと起き上がり、犬神を力任せに引っ張る。  
そう、さっき秋山さんに言われたじゃない。  
『ちょっと強引に』って。もう、手加減なんてしないんだから。  
「うわわ!?」  
無理やりベッドに犬神を寝かせ、その上に覆いかぶさる。  
吐息がかかる距離まで顔を近づけて。有無を言わさない口調で問い詰める。  
 
「ね、つるぎさん。私のこと、好き?」  
「え…」  
「答えなさい。私のこと、好き?」  
「…ああ。…好きだ」  
『好き』。そういわれたのは告白されたとき以来だ。内心かなりうれしい南条だが、ここは  
顔にだしちゃいけない。そう思い、無理やり無表情を貫く。  
「…そう。…それじゃ、次の質問」  
「…あ、ああ。」  
「…私って、魅力ない?」  
「え?」  
意外だった。というより、そんなことは考えたことが無かった。南条に魅力がないなんて。  
そんなわけはない。誰よりも魅力的だと思っている。  
「そ、そんなことはない!」  
「!」  
突然語気を強めた犬神に、南条は驚いた。  
「あ、その…私は、お前は十分…すごく、魅力的だと思う」  
「…そう」  
しばしの沈黙。表情を変えない南条に、犬神は不安を覚えた。  
…怒ってるのか?  
「…じゃあ、なんで襲ってくれませんの?」  
「…は?」  
そういった南条は、突然顔を赤らめた。ちょっと涙ぐんでいるみたいだった。  
犬神は、大いにとまどう。  
なんだ?  
どういう意味だ?  
「え…と、その。襲うって」  
「ああああーもう!!なんで、エッチしてくれないのって言ってますの!!」  
「…なッ…」  
「んんんんん…もう!」  
 
そこが我慢の限界だった。顔の両側をがっちり掴み、無理やり唇を奪う。  
「!!…んん!」  
舌をすべりこませ、唾液を交換する。  
ちゅ、ちゅく、ちゅく、という淫猥な水音。  
夢中で犬神の舌を蹂躙する。唾液があふれ、二人の口のまわりをべたべたにぬらした。  
「ん…ん…ぷあ…ん…ちゅっ…」  
「ん…んむ…」  
ちゅく、ちゅく。ちゅ。  
口の中を、異物が這い回る感覚。言葉にできない快感。  
体をこわばらせていた犬神も、しかし抵抗はしなかった。  
どこかで、こうしたかったから。  
いままで、超えようと思っても超えなかった一線。  
その一線を、彼女のほうから越えてきた。  
強い欲情の炎が、犬神の中で激しく燃え上がった。  
「ん…ちゅ…ちゅ…」  
やがて満足したのか、南条がゆっくりと唇を離す。  
銀の橋が二人の唇をいまだつないでいた。  
とろんとした目と真っ赤な頬、唾液で濡れる唇が蟲惑的だった。  
「な …南条…」  
呼びかけるが、彼女は首を横に振って。  
「二人っきりのときは、『操』って呼んでって言ったでしょう?」  
「…操」  
「うん。よろしい」  
そう呼ぶと、『えへへ』とちょっと恥ずかしそうに笑った。  
「…操。その、な。…いいのか?」  
「え?」  
「…本当に、私でいいのか?」  
その言葉の意味を理解した南条はうれしそうに微笑んで。  
犬神の体にゆっくりとのしかかり、耳元でぽつりとつぶやいた。  
「私の、全部…あなたにあげる」  
 
「んー…」  
「ん…」  
体を起こして、もういちど唇を重ねる。舌をからませない、軽いフレンチキス。  
少し緊張していた様子の南条だが、それで『はふっ』と体の力が抜けたようだ。  
南条の唇のやわらかさを感じながら、犬神は体操着の下に手をしのばせる。  
「やあ…くすぐったい…」  
そういいながら、南条も犬神の背中に両手をまわした。犬神の暖かさを確かめるように。  
「ん…」  
ぎこちなく南条の首に口付け、舌を這わせながら、体操着の下のブラジャーに手をかける。  
無理やりブラジャーをずり下ろすと、豊かな南条の胸を好き勝手に蹂躙する。  
「ん、あ… ああ…つるぎさん…」  
ぴくぴくっと南条の体が震える。これまでに経験したことのない快感が、電流のように  
全身を走る。  
負けじと、犬神の耳を甘噛みする。犬神も思わずぞくっとしてしまった。  
「操…」  
名前を呼びながら、乳房の頂突起を指でこりこりと刺激する。  
「ひゃうっ!? あ、あああああ!?」  
とたんに強い刺激を与えられ、強烈な感覚が南条をおそう。  
体を大きくのけぞらせて、言葉にならない大きな声をあげた。  
「あ…す、すまん!だ、大丈夫か?」  
「ああ…あ…だ、大丈夫ですわ…」  
呆けた顔で言う。今のは…快感?  
確かに、これまでに感じたことのなかった感覚だったけど…  
「え、えっと…」  
急にもじもじしだす。何かマズいことをしたか、と思った犬神だったが。  
「…いまの、きもちよかった…かも」  
「え?」  
「んー…」  
そう言うと、体操着に手をかけ、意を決したように一気に脱ぎ捨てる。  
突然のことに、犬神は驚いて固まってしまった。  
 
「な… 」  
「ん…と、これも」  
ブラジャーを投げ捨て、ブルマ一枚というきわめてエロティックな格好になった南条を  
見て、犬神は思わず見とれてしまった。  
覚悟を決めた表情の南条だが、しかしその表情とその格好のギャップがまた  
欲情をそそる。  
形のよい、豊かな二つのふくらみ。絶妙なバランスでくびれた腰。  
そして、女を感じさせる色気と、雪のように真っ白な肌…  
「や、やだ…そ、そんなにマジマジ見ないでくださる?」  
「う、あ、す、すまん」  
「うー…」  
自分から脱いでおきながら本当に恥ずかしそうにしている南条。  
こんなときにもそれがまたかわいい、と思ってしまう自分は重症だな、と頭の中の  
いまだ冷静な部分で犬神は考えていた。  
「じゃ、じゃあ、その…」  
体をもじもじさせながら、遠慮がちに南条は胸を突き出す。  
意図を察した犬神は、恥ずかしさから少しだけ目をそらしながら、さっきよりも優しく  
その豊かなふくらみを揉みしだいた。  
むにむにむに… むにゅ。  
さっきと違い、南条の肌が丸見えだ。視覚的な要素が加わって、ずっといやらしい。  
「あ、あ、ああ…つ、るぎ、さぁん…」  
「きもち…いいの、か?」  
核心をついた問いに、南条は少し照れながらも答える。  
「う、うん…き、きもち、いい…」  
目を閉じて、犬神にされるがままになっている南条。じわりと汗が噴出すのがわかる。  
肌は徐々にピンクに染まり、 悩ましげな吐息がとめどなく溢れる。  
犬神は、その弄んでいる胸から彼女の鼓動を感じ、自分もまた高まっていくのを感じていた。  
 
たまらなくなった犬神は、さっきとは逆に今度は南条を押し倒す。  
「きゃ…!?」  
突然のことに思わず驚いた声をあげる。  
少しだけ恐怖をにじませた顔を見て、犬神は罪悪感を感じながらも、彼女の耳元でささやく。  
「操…やさしくするから、な?」  
それだけ言って、髪をやさしくなでる。  
「あ…」  
きもちよさそうに目を細め、なすがままにされる。  
もう大丈夫かな、と思った犬神は、そのふくらみに顔を近づけると、きゅうっと吸い上げた。  
あまった方はまた手でもみしだき、その形を好き勝手に変えていく。  
「あ、あああああ!?」  
さっきとはまた違った快感に体をよじらせ、また大きな媚声をあげてしまう。  
「や、やあ… つるぎ、さぁん… あ、あん…」  
ちゅ、ちゅ。ちゅう。  
赤ん坊のように乳房に吸い付く犬神の髪をいとおしげに撫でる。  
「ん…つるぎさん…好き…  好きなの… 大好き、なの…あ、あん…」  
いとおしげに自分の名前を呼んでくれる。  
犬神も、もうおさまりがつかない。  
遊んでいるほうの手でそっと彼女の腹、下腹部をなぞり、ちょうど彼女の秘部にあたるところを  
ブルマごしにコシコシと軽くこする。  
「!! ひっ…や、やあああ… だ、だめぇ…そこ、だめ…」  
びくびくっと体をふるわせ、また新たな快感に体をよじる。  
わずかな時間、触れただけにもかかわらず、南条のブルマは急に湿り気を帯び始めた。  
 
「ちゅ…ちゅ… ん… なんか、ぬれて、きたぞ…」  
「やあ… 言わない、でぇ… きゃうう…」  
両手を頬にあて、イヤイヤというように顔を横に振る。  
しかし、ここまできたらもう言葉は意味をなさない。『いや』、といっても、彼女の部分は  
より強い刺激をもとめ、さらに愛液をしたたらせている。  
みるみるうちに南条のブルマはびしょびしょになってしまい、もはや衣服としての  
意味をなくしていた。  
「やあ…いやっていってる、のにぃ…」  
言葉とは裏腹に、よだれをたらし、異性を求めるメスそのもの、といった顔をする。  
雪のような白い肌は、全身をピンク色に染めて感度を強めていた。  
 
「脱がす、ぞ…?」  
「…ううー…」  
承諾はしないが、拒否もしない。  
イエスととった犬神はゆっくりとブルマとパンティをずらしていく。  
「操…」  
「え…! ん、んむ… あ…ふ…  ちゅ…」  
恥ずかしがって何もしゃべらなくなってしまった南条に、またゆっくりとキスをする。  
深く舌をからませ、体の力を抜かせる。  
「ちゅ… ぷふ…  …や… はずかしい…」  
唇を離すと同時に、ブルマが足から完全に引き抜かれる。  
生まれたままの姿になった南条は、これ以上ないくらいにはずかしがっているが、  
どこかうれしそうにも見えた。  
もはや押さえがきかない自分自身を感じた犬神は、ズボンのベルトに手をかける。  
が、そこで。  
「…私が、やりますわ…」  
「え?」  
言うや否や、南条が犬神の手をはらい、ベルトに手を伸ばした。  
「お、おい…!」  
「…ううん。いいの。私が、やりたいの。… お願い、やらせて?」  
意中の女性に真っ赤な顔、とろんとした目(しかも涙ぐんでいる)、何かを期待した声でここまで  
頼まれて、断れる男がどれだけいるだろう。くらっとしてしまった犬神は。  
「あ、ああ…」  
としかいえなかった。  
 
かちゃ、かちゃ、かちゃ。  
「あは… はずれ、ましたわよ…  きゃうん!」  
ベルトをはずし、ズボンとトランクスを少しずり下げたところで、犬神の分身が顔をのぞかせた。  
同年代の男子高校生と比べても大きなソレはビクビクっとふるえ、快感をもとめているのが  
一目でわかった。  
「う… むむ…」  
心なしか、はずかしそうに顔をそらす犬神。  
それをみて、南条はくすくす笑う。  
「ふふ… かわいい…」  
それは犬神のことなのか、それとも彼のソレのことなのか。  
そっと手を伸ばし、いきなり強く握った。  
「!! …お、おい、みさ… くっ!」  
「んふふ… きもちいいの…?」  
「み、さお…」  
妖しい笑みを浮かべ、犬神の反応を楽しんでいるらしい南条。  
もうこれだけで達してしまいそうな自分を必死で律し、呼吸を荒くさせながら犬神は  
南条を見た。  
「でも、ここから、ですわよ?」  
に、と笑い、ソレにそっと顔を近づけると、つつっと舌をすべらせた。  
 
「ぐ…! あ、ああ…!!」  
「んー… ちゅ… ん、ん、ん…」  
しばらくソレを舐めまわしていた南条だったが、すぐに口いっぱいにくわえこみ、  
激しく攻め立てる。  
「み、操…! も、もう…!」  
「ん…ちゅ、ぷあ… ん、いい、ですわよ…いつ、でも、出して…!」  
ちゅ、ちゅぷ、ちゅぷ、ちゅぱ。  
だんだんとペースがはやまっていく。  
もはや限界の犬神は、真っ白になった頭の中で、ただ快感を放出することしか  
考えていなかった。  
「み、さお…! く、あああ…!」  
びゅく!びゅく! びゅ!びゅく!  
「…!! ん… ちゅう…ん、んく、んく、んく…」  
南条の口中で欲望をぶちまけた。  
ソレはとどまるところを知らないように放出を続ける…が、南条は口を離すことなく、  
犬神の放出した液を口に含む。。  
「ん… ぷあ… 」  
犬神の味を確かめるように。犬神の心を確かめるように。  
舌でころころと転がし、こくん、と喉を鳴らした。  
「えへへ… のん、じゃいましたわ…」  
イタズラが成功した子供のような無邪気な笑顔で、また誇らしげな声で。  
しかしさすがに恥ずかしいのか、南条は少し目線をはずしつつも犬神を見つめる。  
その犬神はといえばもう呆然自失だ。  
そういう本で知識くらいはあったが、まさか南条が本当に飲んでくれるとは  
思ってもみなかった。  
その事実を認識すると、急に体の奥底から情欲が沸き起こってくる。  
 
「きゃ…!?」  
また南条を押し倒す。今度は少し力任せだ。  
「操…もう、我慢できない」  
「つるぎさん…」  
我慢できない。その言葉の意味するところは、いくら世間知らずなお嬢様でも  
わかる。  
「うん…私も…つるぎさんが、欲しい…」  
「操…」  
もう何度目かもわからないキス。  
すっと唇を離し、ソレを南条の秘裂にあてがう。  
「…いく、ぞ…?」  
「…… う、ん… きて…」  
「…あともどり、できなくなるぞ?」  
「いいの。私…あなたに、全部あげるって言ったでしょう?…南条操は、言ったことに  
ウソはないんですのよ?」  
「…ありがとう」  
短く礼を言って。一息に貫いた。  
ずぷっ ずずずずっ  
「…!! あ…あああああ… い…たあい…!」  
「操!?」  
結合した部分から一筋、血が流れ出した。純潔を失った証だ。  
犬神はかなりの快感を感じていたが、それよりも南条が傷みを感じていることに  
対する罪悪感のほうをより強く感じた。  
 
「…ッ だい… じょうぶ… だいじょうぶ、だから…ッ」  
「だが、操…」  
「いいの… つるぎさんを感じるの… 私、私… すごく、幸せ、ですのよ…」  
涙を浮かべながらも、決してそれを流そうとはしない。  
それが、たまらなくいとおしい。  
「操…動いていいか…?」  
「うん…つるぎさんの、好きにして…」  
無意識のうちに二人で呼吸を合わせて。  
ゆっくり、ゆっくり。腰を動かす。  
「ん、ん、ん、ん… あ、ああん!」  
「ん、く… みさ、お…!」  
じゅ、じゅ、じゅ、じゅ、じゅぷ!  
互いに息を荒げ、獣のように交わる。結合部から卑猥な音が響く。  
徐々にペースがあがる中で、南条はだんだんと痛みが引いていくのを感じていた。  
それどころか、明らかな快感が強まってきている。  
「つ、る、ぎ、さん…あ、ああ… もっと…!」  
「う、うむ… …っく…!」  
ずっ ずっ ずっ ずっ  
互いに、もう限界が近いことをわかっていた。  
ぼうっとしている目で、しかし南条は犬神を思いっきり正面から抱きしめた。  
 
「つるぎ、さん… おねがい、ナカに… ナカに、頂戴…!」  
「み、さお…操、みさお…!」  
互いに名前を呼ぶ。何度も。何度も。  
愛しているヒトとひとつになっている。  
その事実が互いに高めあい、そして、心を引き合わせる。  
犬神は、南条の暖かさを感じながら限界を迎えた。  
「操…!」  
びゅくびゅく! びゅ!  
「あ、あああああああああ!?」  
びくびく!とふるえ、二人はそろって達した。  
「あ… ああ…」  
ずるっと、力をなくしたソレが抜ける。  
南条の秘裂から二人の液が流れ出す。  
ひどい疲労感だったが、不思議とイヤではなかった。  
…自然に互いに手をとりあって。  
目を見つめて。  
小さく、でもこれ以上なく幸せに笑って。  
「…つるぎさん… 大好き…」  
「操…その、私も。好き、だぞ」  
そう言って、もういちどだけ、口付けた。  
「…にゃー」  
いつの間に目を覚ましたのか。  
カニカマだけが二人を見つめていた。  
 
 
「もう、すっかり遅くなっちゃいましたわね…」  
南条がぶーたれながら、腕時計を見る。  
時刻はすでに6時をまわり、そろそろ太陽も沈もうとしている時間だ。  
「…しょうがないだろう。あのあと、二人そろって寝てしまったんだからな」  
「うー。でもでも、これじゃあ30分からの番組に間に合いませんわ!」  
「にゃー」  
 
あのあと、なんとか服を着てシーツの始末をしたまではよかったのだが、  
なにぶん二人ともはじめての経験だったので非常に疲れ、そのままベッドで  
寝てしまったのだった。  
二人で同じベッドに寝ていたので帰ってきた保険の先生にさんざんからかわれながら  
(実際にはからかわれるだけじゃすまないことをしたんだけど)、逃げるように  
出てきたのだった。  
…にしても。  
 
「…でも、な。その…操。お前が、別の男のところに行ったりしないみたいで、本当によかった」  
そういうと、心底驚いたような、怒ったような顔をして。  
「…もう!わかってるでしょう!?…私には、つるぎさんしかいないです!」  
そういいながら、ぎゅっと腕にからみついてくる。  
ちょっとだけ上目遣いになって、今度は一言だけ、はっきりといった。  
「…つるぎさん」  
「ん?」  
「…愛してる」  
「…私もだ」  
「…えへへ」  
季節は秋。時は夜。  
一組の恋人たちは、いま間違いなく世界で一番幸せだった。  
 
 
 
おまけ  
 
「…う、あー…」  
ぷるぷるぷるぷる。  
「…ま、マジかよー…」  
ぷるぷるぷるぷる。  
秋山乙女は階段を下りながら大きなショックを受けていた。  
実は南条と犬神が行為に没頭しているとき、部活ですりむいた足にテープでも貼るかと、  
保健室に来ていたのだ。  
「…まさか、その日のうちに…しちゃうなんてなあ…」  
ぷるぷるぷるぷる。  
二人のせいで今日は集中できなくて散々だった。  
…でも、ちょっとだけ…うらやましい、かな。  
「おう、乙女。どうした?」  
「うひゃあ!?」  
ずざざざざっ  
思わず力いっぱい後ずさりしてしまう。  
 
「…な、なんだ。早乙女かよ」  
「…おいおい、一応の恋人に向かってそりゃないだろ」  
「あー…悪い」  
「まあ、いいけどな。…で、どうする?一緒に帰るか?」  
「んー…そうだな。帰ろっか」  
いつもみたいに、すっと自然に腕を組んで。  
今日はちょっと、胸を押し付けたりなんかして。  
「お、おい…」  
「ん?なんだよ?」  
ニカっと笑ってみせる。  
「…い、いや、なんでも」  
「なんだよ、ヘンなヤツぅ」  
ニヒヒ、と笑う。  
道すがら、ひとつの決心をした乙女は早乙女に声をかけた。  
「なあ、早乙女」  
「ん?なんだ?」  
「その…今度は、保健室でシないか?」  
 
おしまい  
 
 

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