鈴音は、まだ眠れない。  
 一日を終えてけだるい疲れを覚えた身体は、はやく眠りたいと訴えている。……と同時に、ちろちろと蝋燭の  
炎のように小さく燃える、しかし決して目をそむけることができない欲望を、はっきりと感じる。  
 身じろぎする。  
「ん……」  
 乳首が、パジャマの布に触れる。かすかな、それでいて鋭い、くすぐるような感覚が乳首にともり、乳房全体  
へとさざ波のように広がっていく。  
 目が、冴えていく。  
 思わず、指をやった。パジャマの裾から手を滑り込ませ、乳房を触り、乳首を探る。  
「あふっ……」  
 乳首は、立っている。  
 乳房が、張っている。  
「や……あ……」  
 昼間、クラスメートに聞いたことを思い出してしまった。痴漢の話だった。電車で通学しているその娘は、ほぼ  
毎日、車内で痴漢に身体をまさぐられる被害にあっているという。  
 ……大胆な奴になるとさ、制服の裾から手を入れてきて、胸をじかに触ってくるんだよ。  
 いやになっちゃう、と怒ってみせたその娘は、でも、なぜか鈴音には、その言葉ほどには嫌がっていないように  
見えた。  
 まるで、本当は、触られることを期待し、楽しんでいるかのように。  
 まさか……と、思った。すると、  
「鈴音は? 痴漢に、あったことある?」  
 そう聞かれて、返事に困った。  
 鈴音は背が高い方だし、バストもヒップも平均より豊かだ。利用客で混雑した車内で前後の人の身体が胸に当  
たったり、おしりに触れたりすることはしょちゅうだが、それが痴漢なのかどうかは、正直なところよくわからない。  
 でも。  
 もし、そうだったら。  
 本当は毎日、自分も痴漢にあっているのだとしたら。  
 ……自分で気づかなかっただけで、もうこの胸も、おしりも、男の人のものにされているのかも……  
 
「は……あっ……」  
 我慢できなかった。  
 胸をわしづかみにする。乳首を、指と指ではさみ、転がすようにいじった。  
 置き時計の時を刻む音がはっきりと聞こえるほど、真っ暗な寝室は静かだった。  
「う……あ……あっ……」  
 甘ったるい喘ぎ声を、抑えようとした。  
 家族の誰にも、聞こえないように。  
 深夜。家の中は静まりかえっていて、誰も寝室のドアの前に立っているはずはなかった。それでも。  
「あっ……ああっ……」  
 抑えきれなかった。枕の縁をきつく噛んで、喘ぎ声を殺そうとする。  
 痴漢に襲われることを、想像した。  
 想像の中で、鈴音は満員のバスの車内にいた。前後左右を男の人たちに囲まれ、ぎゅうぎゅうに挟み込まれて  
身動きがとれない、と。  
「あ……だめ……だめです……」  
 小声で哀願する。  
 痴漢が制服の上着の裾から大胆に手をさしこみ、ブラにつつまれた乳房に触れていた。乳房の丸みにそって指を  
這わせ、ブラの縁をなぞり、カップの上から乳首をまさぐる。  
「あ……や、やめて……ください……」  
 声が震える。臆病な娘と思われたに違いない。痴漢の指が遠慮なく動き、ブラを探って、信じられないことにフロン  
トホックを外してしまう。  
 ぷるん、と乳房があらわになる。制服の布地に、じかに乳首がこすれる。  
 あっ……と、甘い吐息が漏れる。痴漢にも聞こえたはずだ。  
 乳房を、わしづかみにされた。持ち上げられ、揉まれ、乳首を指で挟まれて刺激される。  
「あ……あ……だめ……だめえ……」  
 その声は、まわりの他の男たちにも聞こえた。関心を引き寄せてしまう。  
 またひとつ、手が、鈴音の乳房を襲った。激しい指づかいで乳房全体をつかみ、もみつぶす。  
 鈴音は、とろけかけた思考のなかで思った。  
 もし痴漢たちが鈴音を狙ったとしたら……おっぱいだけで済ますだろうか、と。  
 
 もう片方の手を、パジャマのズボンの下に滑り込ませる。パンティの縁に指を差し込み、少しずつ、ゆっくりとなか  
へ侵入させる。  
 ……鈴音の手じゃない。男の人の、痴漢のやらしい手……  
 制服のスカートをたくし上げられ、パンティを触られる。両脚をきつく閉じてもだめだ。指が、下着の縁から、じわじわ  
と入ってくる。  
「あっ……うああっ……!」  
 指が、女の中心を探り当てる。  
 濡れている。  
 痴漢に触られて、濡れている。痴漢の指に、感じている。  
 なんていやらしい女の子だろう。  
「ああっ……ち、ちがう……ッ……」  
 指が、入ってくる。じくじくと溢れてきた熱い蜜のなかをかきわけて。  
 音が、聞こえる。  
 淫らな音が。  
 鈴音が、本当はふしだらな女の子だと、聞く者にわからさせてしまう淫らな音が。  
 くちゅ。  
 ぴちゅ。  
 ぬちゅっ……  
「あふっ……ああっ……うあっ……」  
 指が、とまらない。激しくのたうち、熱く濡れた割れ目を押し開き、ひくつく肉の芽に罪深い刺激を加えて  
やまない指が、もう自分のものとは思えない淫らな指が、鈴音をなぶりつづけている。  
「ああっ、あああっ、うああああっ……!!」  
 もう声を抑えることなんてできない。鈴音は痴漢されて、感じている。気持ちよくなっている。バスの車内にいる人  
全員にばれてしまった。この女子高生は痴漢に犯されて喜ぶ変態なんだって……  
「ひいっ、やだっ、やだあっ、ああっ、やだようっ、あああっ!」  
 やめようと思ったのに。  
 こんなえっちなこと、もうやめようと思ったのに。  
 
 毎朝、目覚めたとき、とても後悔する。前の夜、眠りにつく前に、自分の身体をなぶったことを。まだ誰にも  
触れさせたことのない、女の密やかなところを指で責めさいなんで、声をあげ、めちゃくちゃな妄想に浸って、  
身体の奥からねっとりとした快楽を引き出さずにはいられなかったことを。  
 何度も、もうやめようと思った。こんなえっちなイタズラにふけるなんて、悪いことだ、と。  
 でも、だめだった。  
 我慢なんて、できなかった。  
 夜。夜が、鈴音を狂わせる。夜の暗闇が。夜の静けさが。鈴音の感覚を研ぎ澄まさせ、鈴音の関心を自分  
自身の身体に向けさせ、鈴音の記憶を淫靡な狂乱の宴に立ち帰らせる。  
 毎夜。  
 毎夜、鈴音は、まだ男を知らない娼婦になる。  
「はあっ……ああっ……ああああっ……」  
 パジャマの前をかきむしった。ボタンがはじけ、部屋の床に転がる。むっちりとした丸い乳房が弾み、ぷるん  
と揺れて露わになった。ひんやりとした夜気に、乳首がツンと立つのを鈴音は感じる。  
 ……制服を剥かれて、おっぱいを丸見えにされたら、こんなふうになるかな、と思う。  
 けだるい熱を、必死に抑え込む。  
 パジャマのズボンを脱ぎ捨てた。  
 パンティを剥ぎ取る。  
 荒い息をついて鈴音は身をおこし、ベッドから降りる。暗闇に慣れた目には、室内に置いた品物の陰影が  
はっきりと見えた。  
 机の上から、明日使おうと用意していた二枚のハンカチを手に取る。  
 それから、束ねたまま床に放置してあった縄跳びの縄を拾う。中学生くらいまではよく体力作りに使っていた  
が、高校生になってからは違う用途にばかり用いている、麻の細い縄。  
 それらを持って鈴音はベッドに戻る。  
 まず、縄をベッドの下にくぐらせた。  
 そして縄の端についている握りの根本と、自分の片方の足首とをハンカチでしっかりと結わえ付けた。  
 両脚を、思いっきり左右に開く。ちょうど体育の授業でやらされる柔軟体操の要領だ。  
 その姿勢のまま、もう一方の縄の端を、同じようにハンカチでもう片方の足首に結びつける。  
 これで、鈴音は両脚を閉じることは出来なくなった。裸の下半身を覆うものはなにもない。  
 ごろん、とベッドの上に仰向けになる。  
 
 もう、痴漢だけじゃ足りない。  
   
 鈴音は、みずからが犯される場面を思い描く。  
 
 たとえば、クラスの男子生徒に、輪姦されること。  
 場所は、放課後の教室。何人もの男の子に、鈴音は犯される。  
 両手と両脚を押さえつけられ、スカートをめくり上げられる。タイを剥ぎ取られ、襟のところからビリビリと制服  
を破かれる。ブラを下にずらされ、乳房を持ち上げるようなかたちにされてしまう。そんな姿をさらす鈴音に、男  
の子たちはどす黒い欲望を容赦なくぶつけてくるのだ。舌なめずりし、好き勝手に乳房をいじり、乳首をつまみ、  
痛みにうめく鈴音を嘲笑って、白い肌にむしゃぶりつく……  
 
たとえば、学校からの帰り道に、変質者にさらわれてレイプされること。  
 場所は、誰も近寄らない廃屋。ゴミの散らばる汚れた床に突き倒され、鈴音は男のおもちゃにされる。  
 口をハンカチでふさがれ、両手を後ろに縛られる。平手打ちされて、抵抗する気力を奪われる。それからスカー  
トのなかに手を入れられ、パンティを引きずりおろされる。変質者は、鈴音の体温の残るパンティの匂いをかぎ、  
舌を伸ばして味を確かめる。それから、怯えて震える鈴音の両脚を開かせ、性器を凝視するのだ。血走った、  
ぎらつく目で。鈴音を、欲望のはけ口としか見ない目で。鈴音は恥ずかしさのあまり死にたくなる。でも、本当に  
恥ずかしいことをされるのはこれからだ……  
 
「いやあああああああッ……!」  
 クラスの男の子たちも、変質者も、鈴音を犯すやり方は同じだろう。  
 鈴音の両脚を開かせる。  
 まず、鈴音の秘所を指でまさぐる。指で、割れ目を開かされる。じっくりといじられ、見られ、匂いを嗅がれ、耐え  
難い刺激を与えられて蜜を分泌させられる。そして……クリトリスを、剥き出しにされる。指で、あるいは……男の  
唇で、じかに剥かれ、ピンク色の肉芽を露わにされるのだ。  
 そこは、鈴音の身体で、いちばん感じやすいところだ。  
 指でいじられたら、それがどんなに嫌いで殺してやりたいほど憎い相手であっても、鈴音はイかされてしまう。  
 だから。  
 唇で吸われ、舌で舐め尽くされたら、どんなふうに狂うだろうか。  
 
 男たちは、鈴音のクリトリスを、吸った。  
「い、いやあっ! いやあああっ! ああっ、あああああああッッ!!」  
 吸った。唇で愛撫した。舌で舐めまわし、くすぐるように刺激を与え、歯でかるく噛んで痛みを与えた。  
 そのすべてが激しい快楽の衝撃となって鈴音の身体を蹂躙した。  
 鈴音は、嬌声をあげて絶頂に達する。  
 白い裸体を弓なりに反らして痙攣し、やがてぐったりと力尽きる。  
 秘所をなぶっていた指が、溢れ出した蜜に粘ついた。  
 荒い息をついた。何時間も走り続けた後のような、激しい息づかい。  
 
 足りない。  
 
 まだ、満たされない。  
 
 熱く濡れた花弁を、指でなぞる。しびれるように狂おしい快感が、なかば麻痺した身体をつらぬく。  
 ……ここを奪われるのは、どんな感覚なんだろう。  
 鈴音は、まだ処女だ。  
 知識は、ある。いろいろな本を読んだし、保健の授業でも習った。  
 女が、男にされるいろいろなこと。  
 でも、それが実際にはどういうことなのか。想像するほかはなかった。  
 だから、鈴音は、満たされなかった。  
 体験したい。  
 奪われたい。  
 抱かれてみたい。  
 犯されてみたい。  
   
 切なさと罪の意識、身体の熱と快楽の余韻を覚えながら、鈴音はようやく眠りへと誘われる。  
 
 翌朝、明け方近くに目が覚めた。  
 
 「……はにゃー……?」  
 両脚の足首を、縛り付けたまま眠ってしまっていた。  
 どうりで下半身がすうすうすると思った。パジャマのズボンとパンティは床に脱ぎ捨てたままになっている。  
 家族の誰かが部屋に入ってくるとは思えなかったが、万が一こんな姿を見られたら、大事な娘が夜中にレイプ  
されたとでも勘違いして大騒動になるのは間違いなかった。  
 鈴音は、ふと考え込む。  
「……レイプ……」  
   
 想像してしまった。  
 激しくオナニーに耽っていたところを、誰かに見られていたとしたら。  
 こうして両脚を開いて縛り付けているところに、窓から男が侵入してきたら。  
「……や、やだっ……」  
 鈴音は、男の格好の餌食になる。犯され、嬲られ、全身のあらゆるところに男の跡をつけられてしまうだろう。  
 それだけでは終わらない。陵辱されたことをネタに脅される。ただ一度の陵辱では終わらず、男の命じるが  
ままに身体を要求される。裸体を写真に撮られる。犯されるさまをビデオに撮られる。ありとあらゆる変態的な  
行為を強いられる。やがて鈴音はそんな異常な快楽の虜に成り果て、男の性欲を処理するための肉人形に、  
どんな命令でもきく奴隷になってしまう……  
「いや……いやあ……」  
 手を、火照りだした下半身にやる。指を、熱く濡れ始めた秘所に這わせる。  
 鈴音にはわかっている。  
 その手、その指は、もう自分のではない。鈴音を犯そうとする男のものだ。  
「あ……やだ……やめて……っ」  
 鈴音はあえぎ、うめき声をあげ、身体をくねらせて悶える。  
 もう抑えられない。  
「ああっ……うっ……あっ、あっ、ああっ、ひっ、いや、いやあ、いやあっああああっ……!!」  
 
 
 こうして疲れ果てた鈴音はまた一眠りしてしまい、朝寝坊となっていつも慌てているのです。これでは遅刻  
の常習犯になってしまうのも無理はありませんねえ、というお話でした。  
                                                           おしまい  
 

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