「レベッカー!」  
階段の下に立って、彼女はドア―――首を延ばして辛うじて見える位置にある、  
その部屋のドア―――に向かって、気怠そうに叫んだ。  
「…レベッカー!もう10時だぞー!起きろー!」  
…部屋からは何の返事も無い。  
まあ、何時もの事だ。  
 
休日の朝。  
2月上旬―――真冬にしては暖かく、オマケに空は雲一つ無い良い天気である。  
そんな絶好の休日日和(?)の一日の半分を、惰眠を貪るだけで無為に過ごすのは如何なものか。  
それが自分の妹で、しかも11歳の小学生であるというのなら、尚更それを放っておく手は無い。  
 
妹―――レベッカは11歳だが、高校教師という身分である。  
だから肉体的にも精神的にも、疲労は普通の小学5年生の比では無いだろう。  
体力が人並以下である妹なら、尚更だ。  
 
そういう訳で、疲れた身体をゆっくり休ませてあげたいのは山々なのだけれど。  
何せ今日は真冬にしては以下略でこんな絶好の以下略である。  
 
妹の生活スタイルを全否定する気は無いが、姉としては、そこの所くらいは小学生らしく在って欲しい。  
せめて休日の間だけでも、「小学生」であって欲しい。  
―――「普通」の子供で、在って欲しい。  
 
良く良く考えれば、それほど問題視するような事でも無いのだろうけれど。  
それでもふと、考えてしまう。  
あの頃―――2年前までの、あの頃を思うと。  
アンドロイドと呼ばれていた、あの頃の妹の事を思うと―――  
 
「………しょうがないなあ」  
はぁ、と溜息を一つ吐いて、彼女は階段を上り始めた。  
一歩、また一歩と階段を踏み締めて行く彼女の表情はしかし、何処か愉しそうでもあった。  
 
休日の朝。  
それを妹と過ごせる、姉の愉しみ。  
…2年前までは考えられなかった事だ。  
 
ドアの前に立つ。  
「ノックしろ」と可愛気無く書いてある札が掛けられた、妹の部屋のドア。  
 
妹を変えてくれたあの教授に、  
そして、桃月学園の生徒達に。  
 
―――ありがとう。  
 
そう、口の中で小さく呟きながら、  
彼女はドアのノブに手を掛けた。  
 
 
       *  
 
 
ノブを回し、静かにドアを押し開ける。  
どうせ起こすのだから別にそろそろと入る必要は無いのだが、何と無く気を使ってしまう。  
それにほら、ノーノックだし。  
 
「………あー」  
部屋の中には、まあ予想通りと言えば予想通りの光景が広がっていた。  
ベッドの上。  
大の字に投げ出された四肢。  
コノ上無キ至福カナ、という表情を満面に張り付けて爆睡している我が妹。  
 
部屋の隅にあるテレビは点けっ放しになっている。  
―――こいつ、また夜遅くまで通販番組見てたな。  
「…全く」  
腰に手を当て、彼女はベッドの横に立つ。  
「おいレベッカ!いい加減起きろ!」  
ここでブツブツと文句を言いながらも素直に起きるならまだ可愛気もあるのだろうが、  
そこは天下のチビッコ教師、そう簡単に白旗を上げるような真似などする筈も無く。  
レベッカは彼女を一瞥する事すらせずに、ベッドから落ちかけていた布団を頭まですっぽりと被ると、  
「んもー…ノックくらいしてよー…」  
という不機嫌を絵に描いた様な一言と共に、くるりと彼女に背中を向けてしまった。  
 
コレには彼女も流石にムッと来た。  
途端に、無意識的に声のトーンが上がる。  
「そーゆー問題じゃないだろ!起きろと言ってるんだ!」  
「いーやーだー」  
「もう朝だぞ朝!つーか昼だぞ!」  
「知ってるよそんな事ぅ…」  
「そーゆー問題じゃないっつーの!起きろって言ってるだろ!」  
「いやー眠いのー」  
「だったら夜遅くまで通販なんか見てないで早く寝たらいいだろ!」  
「仕方無いでしょー面白いんだから…ヒトの趣味に文句付けないでよぉ…お母さんみたいな事言ってさー」  
最早、二人とも意地である。  
意地になると意思を曲げない頑固な性格は姉妹揃って同じだ。  
妹―――レベッカの方など、恐らくとうに目が醒めているだろうと言うのに。  
 
「……そーか。なら仕方無いな」  
その言葉を最後に、数秒ほど彼女の声が途絶えた。  
「……?」  
その、妙に落ち着いた声に一抹の不安を覚えたレベッカは、  
姉の様子を伺おうと、頭まで被っていた布団をずらし―――かけた、その瞬間。  
「!」  
その布団をいきなり剥ぎ取られ、両の手を押さえ付けられ、オマケにどすん、と身体の上にのしかかられた。  
 
「な、なっ…!?」  
レベッカは目を白黒させて、自分の腹部に全体重を預けている姉の顔を見上げた。  
口元を吊り上げ、意地悪く笑う彼女の表情は、何か善からぬ事を考えている時の何時ものそれである。  
「―――奥の手だ」  
つまり、実力行使という事だろう。  
彼女は言うなり、身動きの取れない妹の口を塞いだ―――自分の唇で。  
「んむッ!?」  
レベッカは驚きはしたものの、それを拒む事も、抗う事もしなかった。  
彼女の行動は口を塞ぐに留まらず、やがて唇と歯を押し退け、舌をレベッカの口内へ侵入させていく。  
舌を絡め、歯茎を舐め、歯を撫で、口の中を目茶苦茶に掻き回す。  
理性を融かし蝕む、攻撃的なキス。  
「んむ…ん、ふ……んぅ…」  
息遣いが荒くなる。  
顔に朱が差していく。  
頭の中が真っ白になり、全ての思考が働く事を拒否する。  
「んっ……は」  
口を放すと、レベッカは一瞬名残惜しそうに、トロンとした目で姉の顔を見た。  
「…ま、だ…朝……こんな…事…」  
と、微かに言葉で抗ってみるものの、その声には最早蚊程の力も感じられない。  
「もう昼だ、って言ったでしょ?」  
ふふ、と彼女は小悪魔のように微笑む。  
「それに―――カラダの方は嫌がってはいないみたいだけど?」  
脇腹を軽く撫でると、レベッカはそれだけでびくりと身体を跳ね上がらせた。  
 
「……………」  
レベッカは息を荒げて暫く黙ると、  
「………や、優しく…」  
目に薄らと涙を浮かべて、  
「…優しく、してよね」  
懇願するように、言った。  
 
「―――玲お姉ちゃん」  
 
 
       *  
 
 
「………………………」  
午前8時41分。  
橘玲、起床。  
 
彼女は無言で上半身を起こすと、そのまま溜息と共に再びベッドに倒れ込んだ。  
「………何て夢見てんだ私は…」  
 
 ―――でも。  
 
玲はぼんやりと、たった今、脳内で繰り広げられた光景を反芻する。  
 
 ―――あの時のベッキー、可愛かったな…  
 
涙を浮かべた蒼い瞳。  
柔らかな唇。  
歳不相応の、敏感過ぎる身体―――  
 
「……………………………って」  
数分後、それから漸く我に帰った玲は、  
「ナニ考えてんだ私はーッ!?」  
がば、と頭を抱えて、ベッドの上でゴロゴロとのたうち回り始めた。  
「これじゃ姫子と変わらないじゃないかぁぁぁーッ!!」  
随分と失礼な事を言っている様な気がするが、事実なので仕方が無いだろう。  
 
そんなこんなで、橘玲の休日は布団の中での自己嫌悪から始まったのであった。  
 
外は快晴。  
真冬にしては暖かく―――  
 
 
 
 

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