自室のベッドの上で、秋山乙女は顔を真っ赤にして唸っていた。  
「う、うー… うーん…」  
レースのカーテンがかけられた窓から秋の昼間独特の柔らかい光が差込み、頬に暖かい。  
女の子らしからぬ服だとか雑誌だとかが散乱する部屋でこち、こち、という時計の  
音だけが妙に耳に響く。  
大きくため息をついたつもりが、ついあくびになってしまう。  
「… ふ、ああああー…あ、あいたたたぁ …」  
…頭が痛い。ガンガンする。  
それだけならまだ我慢もできるが、おなかの調子も一向によくならない。  
昨日は腹痛だけだったのだが、今日になって運悪く風邪までひいてしまったらしく、  
ダブルの痛みでさっぱり眠れない状態だった。女の子にはなかなか辛い状況だ。  
おでこに乗せた氷袋も、中の氷がほとんど溶けてしまってぬるくなっている。  
「… ………」  
そう気づいても動くことすらかなりしんどい。  
家に誰もいないこの状況、自分から氷をとりかえに行くなんてできそうもなかった。  
ちらり、と時計を見やる。午後2時。  
6時くらいになれば、親も帰ってくるだろう。そしたら、少しは楽になるはずだ。  
「あ、いたたた!」  
ぎゅー、とおなかが嫌な音をたてる。痛い。  
うー、と唸っておなかをおさえてしばらくすると、痛みはすぐにひいた。  
情けねえ。  
「…うー」  
腹痛の原因を思い出すだけで、情けなさと恥ずかしさで顔が赤くなる。  
我ながらバカやったもんだ。いやマジで。  
 
 
…またむなしくなってきたので気分を切り替えることにした。  
「ん… 手帳… 」  
かたかた、と危なっかしい手つきで枕元に置いた学生手帳に手を伸ばすと、ゆっくりと  
最後のページを開く。  
「… ふふ…」  
自然と顔がほころぶ。  
彼女の担任、早乙女と二人で写っているプリクラが、一枚だけ貼ってあった。  
そう、早乙女。  
私の、大事な…… …  
 
大事な、恋人。  
顔を真っ赤にして俯き気味だけどはにかんだ笑顔の乙女。  
同じく顔が赤いけど乙女の肩に手をまわして嬉しそうな早乙女。  
付き合い始めのカップル丸出しで、ちょっと恥ずかしい。  
ぱたん、と手帳を閉じてぎゅっと胸元に押し付ける。その上から布団をかぶると、なんとなく  
頭痛と腹痛が和らいだ気がした。  
 
これは確か初めてのデートのときに撮ったヤツだ。  
なんとなく一緒に撮るのが恥ずかしいから、乙女は恋人との写真と呼べるものを  
この1枚しか持っていなかった。  
残りは早乙女が1枚持っているのと、乙女の机の引き出しの中だ。  
この1枚を見てから寝るのが乙女の日課だった。  
だって、1日でも会えないとすごく寂しいから。ずっと一緒にいたいから。  
こんなことを考えてしまうあたり、要するに乙女は早乙女にべた惚れなのだった。  
「ん …」  
ちゅ、とプリクラの中の早乙女にキスをする。  
本人がいないからこそできることだ。…恥ずかしいけど、しょうがない。  
大好きなんだもん。  
「… ……んー…」  
しかし、なんとなく乙女は不満だった。  
彼女が今、こんな辛い状況におかれているのは、まあ確かに自分のせいなのだが、  
ある意味早乙女のせいでもあったからだ。  
…明日、学校行けたらちょっとイジワルしてやろう。  
そう思うと楽しくて、くくっと小さく笑った。  
少し頭痛がひいてきた。やっと少し眠れそうだ。  
ぽふ、と頭を枕に乗せてゆっくり目を閉じる。  
「は、ふわ… 」  
大きくもういちどあくびをすると、急に眠気が押し寄せてきた。  
手帳をしっかりと胸に抱きしめて、ここにはいない早乙女に小さくお休みを言った。  
時計の針が時を刻む音を聴きながら、すぐに意識は夢に落ちていった。  
 
「あ、おっとめー!」  
「うお!?す、鈴音!」  
4時間目が終わった直後のお昼休み、トイレを済ませて出てきた乙女に、突然  
鈴音ががばっちゅと抱きついてきた。  
鈴音特有の柔らかい抱擁感といい匂いは、同じ女の子でも少しドキドキする。  
しかしさすがに驚いたものの、乙女もまわりの生徒ももう見慣れたものだからか、あまり  
大きなリアクションはとらなかった。  
「だー、もう!いきなり抱きつくのやめろっていっつも言ってんだろ!」  
「だってー、乙女がちっこくてかわいいんだもーん」  
「ちっこい言うなー!!」  
乙女がじたばた暴れて、鈴音がそれを面白がってますます強く抱きしめる。  
これもまたいつもと同じ光景だったが、毎度毎度多くの男子がうらやましそうな視線を  
自分に向けてくるのにはいつまでたっても慣れるのは無理そうだった。  
つーかムカつく。なんとなく。  
「お、二人とも。仲いいな」  
とたん、乙女は自分の脳がふにゃりととろけたような気がした。  
声だけで顔がほころぶのが、赤くなるのがわかる。そう、もちろん。  
「早乙女先生!こんにっちわー♪」  
「さ、早乙女!見てないで助けろよ!」  
早乙女だ。  
二人が学校公認のカップルで、特に乙女が早乙女に超ラブラブなのは校内で知らない  
人間はいないくらいだったが、それでもなんとなくな恥ずかしさから、大きな声を出して誤魔化した。  
「もー、乙女ったら…あ、もしかして私、お邪魔かな?」  
「そ、そんなことねぇって!妙に遠慮してんじゃねえよ!」  
イタズラっぽく笑った鈴音にわたわたする乙女。鈴音と早乙女は目を見合わせて  
小さく笑った。  
 
「あ、そうだ乙女。こないだのテスト、よくできてたじゃないか」  
「え?」  
突然の早乙女の言葉に、思わず気の抜けた返事を返してしまう。  
鈴音の腕の中でそんな顔をしている恋人にはかまわずに、早乙女は脇に抱えたファイルから  
ごそごそと成績表を取り出した。  
「ほら、ここだ。最近がんばってるみたいだな」  
「あ… ホントだ。上がってる」  
「ん、どれどれー?」  
早乙女が指差したところを見てみると、確かに最近の成績はなかなか好調なようだ。  
…まあ、あくまで『乙女にとっては』であったが。再テストは余裕で逃れられそうなくらいではある。  
「…ふ、ふん!ま、私だって本気だしゃこんなもんだ!」  
「はは。そだな…これからもがんばれよ。…で、だ」  
ぽん、と優しく乙女の頭に手を置いた。  
どきっとして顔を赤らめる乙女に、少しだけ笑いかけて。  
「ま、ちょっとしたご褒美だな。今日は昼メシおごるよ」  
「…… あ、ああ。うん、サンキュー」  
「? どうかしたか?」  
「い、いやあ、なんでもないよ。ほんと嬉しいって」  
 
本当はちょっとだけ期待はずれだった。  
もうちょっと…こう、さ。  
…………き、キスしてくれたり、とかさあ……  
さ、早乙女の家で… ……とか…  
 
あー!!言わなくてもわかんだろ!?  
 
…まあ、そんなこと期待してたんだけど。  
まあ、学校じゃそうもいかないのはわかっている。  
自分をうまく納得させて、この申し出をありがたく受けることにした。  
「よっし、それじゃさっさと食堂…」  
「ずーるーいー!乙女だけー!?」  
突然、鈴音が不満げな声をあげた。  
あいかわらず腕の中に乙女を包んでいるかたちなので、少し耳に響いた。  
「ずるいですよぉ、先生!教師が生徒を贔屓していいんですかー!?」  
「あ、あー…」  
「ちょ、ちょっと鈴音!耳元で大きい声出すんじゃねえよ!」  
…忘れていた。  
鈴音は食に関しては異様なほどエネルギッシュだ。子供っぽいほど。  
そんな子供っぽい鈴音が、乙女だけ担任に昼食をおごってもらえるなんて  
看過できるはずがないのも、まあ当然といえば当然だった。  
「…… あー、もう!わかったわかった!今日だけだからな!」  
若干財布の中身を気にしながら(鈴音が食べる量は半端じゃない)早乙女が半ばヤケ気味に  
声をあげる。  
これから起こるだろう光景を想像すると、早乙女が少し気の毒になった。  
「わ、やったー!今日は先生のおっごりー♪」  
その言葉を聞くや、手のひらを返したように嬉しそうな顔になった。  
ここまできてようやく乙女から腕を離すと、バンザイして飛び跳ね、全身で喜びを表現する。  
乙女と早乙女は顔を見合わせ、苦笑した。  
 
「それにしても…」  
「ん?」  
飽きないのか、鈴音はまだぴょんぴょんと飛び跳ねている。  
そんな中、早乙女が小さな声で乙女に話しかけた。  
ゆっくりともう一度、ぽん、と乙女の頭に手を置いた。  
「ほんとにがんばったな、テスト…偉いぞ」  
「…ふん。そんな子供に言うみたいに言ったって嬉しくねえよ」  
ぶー、とちょっとだけふくれて言うと、早乙女は本当に楽しそうに笑う。  
「まあまあ。結構心配してるんだぞ、これでも」  
「それは…悪いと思ってるけどさ」  
 
事件は、そこで起きた。  
 
「せんせー!おっとめー!早く行こうよー!」  
もうノリノリな鈴音が、性懲りもなくまたがばっと抱きついた。  
今度は、早乙女に。  
 
「!!!!」  
「!!!! お、おい、鈴音!」  
 
突然のことに、早乙女の声は妙にうわずっていた。  
しかし、背中からがっしりしがみついた鈴音は、腕に力をこめて全然離れてくれそうもなかった。  
が、慌てふためく早乙女より、むしろ顔を真っ赤にして硬直している乙女のほうが深刻そうな  
感じだ。  
「いいから、離れろって!いくらなんでも、恥ずかし…」  
「んーん!離れない!もー、先生大好きー♪」  
「!!!!!!!!」  
その言葉に、乙女は顔をますます赤くする。  
いや、ただ単に自分の恋人に抱きついて『大好き♪』なんて言ってる友人に腹が立っているだけ  
でも、それを無理やり振りほどこうとしない早乙女に対して憤慨しているだけでもない。  
… アレだ。鈴音の持つ、ハレモノ。  
「すーずーねー!もうホント…か、勘弁してくれって!」  
「あはははははははは」  
もにゅ、むにゅう。  
からからと心底楽しそうに笑う鈴音の…その、胸だ。  
恥ずかしがる早乙女の背中でむにゅむにゅと形を変え、まだ残っていたギャラリーの視線は  
釘付けだ。  
ただ、それでもいやらしさをあまり感じさせないのは鈴音だからなんだろうけど。  
そんなことよりも最大の問題は、早乙女の視線が妙に鈴音の胸に注がれている点だった。  
「あ、先生ったら。そんなに胸ばっかり見ちゃって、エッチですよ〜」  
「バ、バカ!そんなこと全然ない!ヘンなこと言うんじゃない!」  
ようやく少し落ち着いた乙女は、かける言葉すら見つからずに、怒ることすら忘れてその光景を見ながら  
自分の胸にそっと手を伸ばしてみた。  
すか。すかすか。  
握った手は、むなしく空気を握っただけだった。  
「… …………」  
神妙な面持ちで黙りこくってしまった乙女は、今度はやっと解放された早乙女が声をかけてくるまで、  
なぜか空を翔る大鷲をうらやましそうに見つめる鶏を思い浮かべていた。  
結局、そのあと3人で仲良くお昼ご飯、と相なったのだが、鈴音がやたら絡み付いてくるし、  
乙女は乙女でぼーっとしたり突然にらみつけてきたりで早乙女は散々だったとか。  
 
「…ふー」  
がちゃり、と自室のドアを開けるなり、乙女は大きくため息をついた。  
ベッドにどっかとカバンを放り投げ、制服のまま横になる。  
「… …」  
もういちど、自分の胸に手をあててみる。  
少しは、大きくなってるんだぞ。  
そうは思うも、やっぱりさっきの鈴音のインパクトは強烈すぎた。  
それに、真っ赤になっている早乙女の顔も。  
 
…やっぱり、おっきいほうがいいのかな。  
実際、いざエッチするとき、乙女は胸を見られるのをかなりいやがっていた。  
どうしても鈴音のが頭にちらついて、ある種トラウマなのだ。  
「…もうちょい、がんばってみるか…?」  
短絡的なのはわかっている。  
前にやったけど、効果がなかったことも。  
それでも、早乙女に少しでも…本当に少しでも、もっと自分を好きになってもらいたい。  
そう思った乙女は、迷わず台所に向かった。  
 
「…あ、ふあ?」  
目が覚めた乙女は、間抜けな声をあげた。  
ぼーっとした目で天井を見つめていても、何か変化があるわけでもなく、また時計の針の  
こち、こちという音が響くだけだった。  
「… …… 夢か」  
どうかしてる、と思った。なんでわざわざ昨日の出来事なんかを夢で見なきゃならんのだ。  
あらためて思い出すと、あんなバカなことをしたのが本当に恥ずかしくなってくる。  
「… ん、でも…」  
おなかに手を当てる。続いて、頭に。  
さっきよりだいぶ痛みが引いてきている。ちら、と時計を見ると3時。  
1時間しかたっていなかったが、それだけの時間でも意外と体にはいいらしい。新たな発見だ。  
「んー… よっと」  
体をベッドから起こす。  
一瞬、ずきりとした痛みが頭を襲ったが、耐えられないほどでもない。  
ふう、と大きくため息をついて大きく伸びをした。気持ちよかった。  
 
ぴんぽーん。  
 
「んー …あ?」  
平日のこんな時間に来客とは珍しい。  
まあ、どうせセールスとか新聞の勧誘あたりなんだろうけど。  
果てしなく面倒だったが、無視という行為がことさら苦手な乙女は、律儀に相手を  
してやることにした。  
 
ぴんぽーん。  
 
「はーいはい、今行ってやりますよっと…」  
痛みが引いてきたとはいえ、まだズキズキする頭をおさえてとんとん、と階段を下りる。  
うー…くっそー、最悪なタイミングできやがって。  
とりあえず怖い顔はしてやろう、なんて考えていると、すぐに玄関に降り立った。  
がちゃり。  
「へーい。あいにく勧誘は… あ…」  
「…勧誘?」  
そこにいたのは、新聞の勧誘でもセールスマンでもなかった。  
見覚えのある…いや、彼女にとって忘れてはいけない人物。  
いとおしい恋人だった。  
「さ… 早乙女?」  
 
「…ほら、おかゆできたぞ」  
「あー… ありがと」  
がちゃ、とドアを開けた早乙女は、お盆に温かそうな湯気をたたせたおかゆを乗せてきた。  
熱血体育教師という肩書きのイメージとは裏腹に、早乙女は料理がかなり得意だった。  
たかがおかゆ、されどおかゆ。  
ずずっと一口すすった乙女は、その優しい口当たりに驚いた。  
「おいしい…」  
「そうか、そりゃよかった」  
乙女の素直な感想に、早乙女は顔をほころばせた。  
朝から何も食べていなかったこともあって、乙女はスプーンを止めることなくおかゆを  
次々口に運ぶ。  
聞けば、早乙女は授業が終わるや否や、クラスのホームルームもすっとばして  
全力ダッシュで乙女の家まできてくれたらしい。  
しかも腹痛と風邪を併発という、なかなかきつい状態だと聞いて、朝から気が気で  
なかったとか。  
こわばった顔で走る早乙女を想像して、乙女はおかしいような、嬉しいような気分だった。  
 
その様子を満足げに見つめていた早乙女は、思い出したように乙女に切り出した。  
「それにしても、お前は体調管理はしっかりしてると思ったんだけどな。突然腹痛なんて  
どうしたんだ?」  
「う… …」  
ぴたっと、乙女のスプーンを口に運ぶ手が止まった。  
たらーり、と汗をたらして露骨に視線をはずすその様子に、早乙女は苦笑しながら  
声をかける。  
「…何かバカなことやったのか?」  
「バカなことなんて!… うー」  
反論の余地がない。実際、バカなことだったからだ。  
逃げ場がないことを悟った乙女は、ぽつりとした小さな声で告白した。  
「… …牛乳、だよ」  
「は?」  
「…   ……… …だから、牛乳」  
「え?牛乳?」  
「…牛乳、1リットル一気飲みした」  
「…… はああ!?」  
あまりといえばあまりな告白に、早乙女は一瞬わけがわからない、という顔をした。  
否や、少し攻めるような口調で問いただす。  
「何でそんなことしたんだ!?この寒い時期にそんなことしたら、おなか壊すに決まってるじゃないか!」  
「… だって… お、お前のせいだろ!!お前が鈴音にデレデレしてっから!!」  
「え…え?鈴音に?」  
一度言ってしまえば、勢いは衰えない。  
少し怒った様子で、乙女は続けざまに言葉を吐き出した。  
「そーじゃん!乙女が抱きついてきたからって、胸ばっかり見ちゃってさあ!そりゃ私は背はねぇし  
胸もぺったんこだし…だからじゃん!だから、早乙女が鈴音ばっかり見てっから…こんな  
バカしたんじゃねぇかよ!!」  
 
一気にまくしたてた。  
本当に早乙女が鈴音に傾いてしまうとは思わなかったけど、それでも自分の一番大事な男が  
他の女に抱きつかれてうろたえている様など、見ていて愉快なものではなかったのだ。  
しかも、自分にない『武器』をまざまざと見せ付けられれば尚更。  
ようやく昨日のことを思い出した早乙女は頭を殴られたような心地がした。  
 
しばらくの沈黙。  
耳鳴りがしそうなほど空気が重い。  
耐えかねた乙女が喉につかえる何かを無理矢理抑え、何かを言おうとすると、途端ふわりと乙女の  
体を早乙女の太い腕が包み込んだ。  
「!? お、おい…?」  
「ごめん」  
「え?」  
突然の謝罪の言葉。  
思いもよらないことに、乙女は体を硬直させた。  
「俺が悪かった。ごめん。ごめんな」  
「…さお」  
「俺が好きなのは、お前だけだから。本当に、お前だけなんだ。…お前が言うなら、これからは  
他の女子に話したりしないし、触ったりもしない」  
そこまで一気に話すと、体を少し離した。  
肩をがっしりつかみ、自分の顔を見据える早乙女の目に、はっきりと自分の姿があるのを  
乙女は見た。  
 
すうっと大きく息をついて、ゆっくりと言葉を吐き出した。  
「胸のことだって。…あれは…言い訳にしかならないけど、本当にびっくりしただけなんだ。  
俺は大きいのが好きってわけじゃなくてお前が」  
「す、ストップストップ!わ、わかった、わかったから!それからそこまでしなくてもいい!」  
「そ、そうか?」  
静かに、しかしあまりに必死な様子の早乙女に、あわてて乙女はその口を塞いだ。  
このまま放っておいたら、ますます恥ずかしいことを言われてしまうのが目に見えていたから。  
はー。  
…なんだ。  
乙女は、改めて確認した。  
全然、心配することなんかなかった。  
今の早乙女の言葉は、すごく恥ずかしかったけど自分を大事に想っていてくれているのが  
イヤというほどわかった。  
私はコイツにべた惚れで… こいつも、私にべた惚れなんだ。  
自分の一番好きな人が、自分を一番好きだと言ってくれる。  
こんなに嬉しいことは、地球上のどこを探したってないような気がした。  
「…もう、できればこんなことはしないでくれ、な?」  
小さな声で語りかけてくる早乙女。  
胸にじわっという気持ちいい感覚が広がった。  
「…ったりめぇだろ。バァカ…そう言ってもらえりゃ、さ」  
「………  乙女」  
おずおずと自分からも腕をまわす。  
ぎゅっと抱きしめた早乙女の体は、一瞬震えたがすぐに自分をより強く抱きしめ返してくれた。  
「ありがとう」  
静かな謝礼の言葉。  
それがなんとなく嬉しくて、ついついイタズラ心が顔をだした。  
「じゃあ…じゃあ、さ。…ついでに、私のお願い、きいてくれる…?」  
「あ…ああ。なんでも言ってくれていいぞ?」  
ぱああっと乙女の顔が晴れる。  
早乙女の耳に口を近づけ、ぽつりと『お願い』すると、早乙女の顔が一気にぼっと赤くなった。  
 
「…こ、これでいいか?」  
「…う、うん。…気持ちいいよ」  
食事を終え、布団に戻った乙女は、消え入りそうな声で答えた。  
おなかが暖かい。  
乙女のいった『お願い』…乙女のおなかに手をあてて暖めてあげる、ということだった。  
パジャマ越しではなく、肌に直接触れて。  
ごつごつして硬いけど、彼の熱をイヤというほど感じる。  
ふとんの脇から腕をさしこんだ早乙女の腕が見えた。  
「あのー…かなり恥ずかしいんだが」  
「…ぶー。なんでも言ってくれって言ったじゃん。まだおなか痛いんだぞ?」  
「そりゃ…そうだけど」  
早乙女の手に、乙女のおなかの柔らかい感触が伝わる。  
エッチのときにだってあまりさわらない箇所。  
いつか赤ん坊を宿す、ある意味聖域ともいえそうな場所に触れている。  
軽くさすってみると、乙女は甘い声をにじませた。  
「うひゃ!?… バ、バカ…いきなりさするなよ…」  
「あ…ごめん。あんまり気持ちよかったから、つい…」  
かけ布団で顔の下半分だけを隠し、涙目でにらみつけてくる。  
「… …うー」  
「… !」  
その様子は普段の勝気な乙女からは想像もできないほどいじらしく、胸に何かつかえる  
感じがした。  
どうしようもなくドキドキするが、なんとか理性総動員で本能をおさえこんだ。  
「…はー、はー…」  
「? なーに息荒くしてんだよ?」  
「い、いや。なんでもない…と、ところでさ」  
右手に感じる確かな感触を噛み締め、妙な気分になりかけたが、なんとか  
話題を切り替える。  
げふげふ、と顔を真っ赤にしてわざとらしく咳き込む早乙女の姿は、乙女には  
自分を意識してくれているというのが十二分に伝わり、おかしくもあり、嬉しくもあった。  
 
「…熱下がったみたいだな」  
「…うん」  
そろそろ夕方に入ろうという時間。  
窓から入る光はオレンジに染まり、外を飛ぶカラスのカァ、カァという低い鳴き声が時計の音を掻き消した。  
体温計を覗くと36度8分。まだ微熱はあるようだが、ほぼ完治した、といえそうだった。  
ぴっぴっと体温計を振る早乙女を見つめながら、乙女はくすくす笑った。  
「へへ…お前がおなかにずっと手をあててくれたのが効いたのかもな?」  
「…そうだと嬉しいけどな」  
さきほどからさらに1時間。  
おなかに感じる早乙女の熱のせいか、眠くなってしまった乙女はまた眠ってしまったのだが、  
その間ずっと手をあてていてくれたらしい。  
寝顔を見られるのは恥ずかしかったが、悪い気分はしなかった。  
「さ、てと…それじゃあ、俺はそろそろ帰ろ…」  
「だめ」  
「へ?」  
腕を抜こうとした早乙女のうでをがっしりつかみ、いきなり拒絶の言葉。  
驚いた早乙女にかまわず、はっきりと言葉を紡ぐ。  
「まだ…だめ。…お願い」  
「… ………わかったよ」  
立とうとしたところで座りなおし。  
満足げに笑った乙女の顔が、夕焼けのオレンジに染まって綺麗に見えた。  
 
「…あのさ」  
「ん?」  
しばらくお互いに口を開かず、心地いい沈黙に身をゆだねていたが、不意に乙女が  
それを破った。  
ついっと早乙女のほうを向くと、枕と頭のこすれる音が小さく響いた。  
「…さっきの話だけどさ」  
「さっきの?」  
「うん。…胸の話」  
「…俺は、大きいのがいいってわけじゃなくて…」  
まだ不安を感じているのだろうと思った早乙女は、やんわりと乙女に語りかける。  
しかしその言葉を遮ってふるふる、と首を横に振った乙女は静かに言葉を続けた。  
「うん。わかってる。それはすっげぇ嬉しい。… ……でもさ」  
「うん?」  
布団の下で自分の胸をふにふにしてみる。  
大きさなんて関係ない、と早乙女は言ってくれたが、それでもやはり思う。  
「大きいに越したことないと思う」  
「う…そ、そりゃ、まあ…なあ」  
鈴音のを思い出しているのだろう。  
顔を赤らめ、なんとなくぼんやりとした返事を返した早乙女を見て、やっぱり、なんて  
思った。  
…まあ、しょうがない。オトコというものは、すべからくきょにゅーが好きなんだとどっかで  
聞いた気がする。  
小さいほうがいいという人間もいるらしいが、まあそれはおいといて。  
実際、大きいほうがないよりはいいと思う。  
『挟んだり』とかできるし。  
「うん。そう思うだろ?…だ、だからな?」  
 
顔をますます赤くし、少し迷ったような乙女だったが、うん、と一度うなづいた。  
おなかに当てられている早乙女の手をつかみ、胸のほうにスライドさせる。  
「…!!お…乙女!?」  
ふに。  
ふにふに。  
右の手のひらに、小さな、しかし確かにやわらかい感触。  
「はぅ… あ、う…好きな人に…ん、揉んでもらうと、おっきくなるって…言うだろ?…あ」  
「だ、だからっていきなり…」  
うろたえてはいるものの、無理に手を振り払って引き抜こうとはしない。  
実は、乙女の胸にここまでべったりと触るのは、早乙女は初めてだった。  
乙女が嫌がるからだ。  
小さい胸にコンプレックスを持つ彼女に、早乙女は決めたのだった。  
乙女の嫌がることは、絶対にしない。傷つけることも、絶対にしない。  
何よりも乙女を優先する早乙女にとってはそれが一番大事なことだった。  
ふにふに。  
むにむに。  
「あふ…今日の、お礼だって…思っとけって… は、はあ… なんか…ん… 胸さわられるのも  
悪くないな… はふ…」  
「… …乙女」  
くにゅくにゅ、と早乙女の指をもてあそび、荒い息をつきながらくすくす、と笑う乙女。  
イタズラが成功した子供のようなその顔が、すごくかわいく見えた。  
「んー… ほら、ここも…つまんで…」  
消え入りそうな声で、早乙女の指を小さな突起に這わせた。  
つつ、と指がこすれると、足から頭にかけて強い電気が走ったような感覚に襲われる。  
くりくり。  
きゅっ。  
「はああああ…はうぅぅ… きも、気持ちいい、よぅ…」  
「… ……」  
 
乙女になすがままにされていた早乙女が、ここで始めて自分から指を動かした。  
親指と人差し指で突起をつまみ、くりくりと捻るようにいじると、乙女の体が  
びくびくっと震えた。  
「ひあっ…!? さお…」  
「…乙女。…俺、乙女の胸、もっと触りたい…かも。…  ……いいか?」  
ためらいがちなその声と裏腹に指は小刻みに動き、乙女を刺激し続けている。  
突起を指でぴん、とはじき、手のひらでこねるようにいじくると、彼女の小さな胸が  
ぐにぐにと形を変えた。  
「はぁう…い、いいに決まってんだろ…ん、く…だって…」  
息も切らしながら突然がば、と起き上がる。  
乙女の小さく、細い体に見とれる間もなく、勢いよく早乙女に抱きついた。  
「は、はあ…私は…」  
「え… え?乙女?」  
いまだ手に乙女の熱を感じる。…いきなりのことだったのに手を離さなかった自分の  
スケベ心にちょっとだけ感心しながら乙女の言葉に耳を傾けた。  
「わ…わたしは…」  
「… …… …」  
「…お、お前の…お前だけのものなんだから… 好きにしていいに決まってるだろぉ…」  
顔を伏せて、蚊の鳴くような声で。  
乙女は、自分の気もちのすべてをさらけ出した。  
 
告白。  
自分は、早乙女だけのもの。  
その言葉は、麻薬。  
早乙女の心と理性を一瞬で奪い去った。  
「っ …乙女!!」  
「へっ …んぷ…!?」  
抱きしめ返したと思うや否や、乱暴に唇を奪った。乙女の頭に手を回し、がっちり、しっかりと。  
呼吸も難しいほど顔を密着させて、唇をむさぼった。  
「… …っ ぷ…はぷ… ん、ちゅ、ちゃ、ん、ぷ…」  
「ん、んぐ… ちゅ、ちゅ…」  
夢中で乙女の舌を犯していると頭がぽーっとしてきた。  
乙女も同じらしく、ようやく顔を離すと、焦点の定まらない瞳で早乙女を見つめ返してくる。  
口からだら、とたらした涎がたまらなくいやらしかった。  
「さお、とめぇ… 好き、だよぉ… 大好き…」  
「俺も… 好きだ、乙女」  
やんわりと肩に手をかけ、優しくベッドに寝かせた。  
乙女に覆いかぶさる形になり、胸を揉みしだくと、今のキスで興奮したのかさきほどより  
大きく反応した。  
「あ、はああああああああ!!も …っと、もっと触ってぇ…!」  
「ああ、言われなくても …!」  
おもむろに左の胸に口付け、舌を這わせる。  
右の乳房を手で弄びながら、ちゅうっと突起を吸い上げ、さらに左手の指をわき腹に  
走らせると、言葉にならないほどの刺激が乙女を襲った。  
 
「!!… …! あ…!」  
「…ん、…ちゅ、 …気持ちいいか?」  
「あ…! い、い… よぅ… なんか、ぞくぞくってくるのぉ…っ」  
言う乙女の目は完全にとろけ、早乙女になすがままにされている。  
普段、さすがに学校でするわけにもいかないので随分『ご無沙汰』だった。  
その反動もあるのだろう、全身で快楽を貪っているようだった。  
「ん、む…」  
「はぷぁ… ちゅ、ちゅう…」  
再び口付け、今度は首筋にまで舌を這わせた。  
汗の味と混じって、香水のような甘い香りがした。  
「はぁぁぁ…そ、そんなトコ…やめろよぅ…」  
「ん…やめない。…乙女の体、おいしいよ」  
「やあぁ…この、ヘンタイ…」  
れる、れると乙女の首、鎖骨にまで舌を伸ばし、味わいながら、左手をズボンにかける。  
親指を腰のあたりにひっかけ、一気にずり下ろすと、下着はもうびちゃびちゃに濡れていた。  
あふれ出す汁が太ももにまで飛びちり、まるで洪水だ。  
「ん、ずず…ぷは。ふふ、なーに期待してるんだ?」  
「あ、あああ…わかってるくせにー… は、あう…」  
羞恥と期待に顔を真っ赤にして身をよじらせる乙女。  
 
あー、くそ…かわいいなあ、もう…  
乙女のこんな顔を知っているのは自分だけ、という優越感。  
それと、乙女が可愛くて仕方ない愛しさを感じていると、受身だった乙女がおねだりしてきた。  
「は、はあ、はあ、はあ…お願い、パンツ、脱がせて…直接さわってぇ…」  
「ん… ぷは…まったく、乙女はエッチだな…」  
「う、うん!私、エッチだから…だから、は、はやく…!お、おかしくなっちゃうよぉ!!」  
自ら体を押し付け、より強い快感を求める乙女。  
だらしなくゆるみきったその顔は、とても扇情的だった。  
「はは… こう、かな?」  
「はぁぁぁぁぁぁうううううう!!」  
少しだけパンツをずらし、秘部にいきなり指を突っ込んだ。  
胸への愛撫もやめず、ダブルの刺激で乙女を攻め立てる。  
ぐちゅ、ぐちゅ、ちゅ、ぐちゅ…  
静かな部屋に、卑猥な水音と乙女のあえぎだけが響く。  
夕方のオレンジにまぎれてわからなかったが、もう乙女は全身がピンクに染まっていた。  
「んぶ…はあ、乙女の胸…汗が噴出してきて…ん、しょっぱい」  
「ば、ばっかやろ…いちいち、い、言うな…は、うううううううう…さ、早乙女ぇ…も、もう…」  
身をよじらせた乙女は、器用にすっかり大きくなった早乙女自身に手を伸ばす。  
トランクスの中のソレは、ギチギチに硬くなってやけどをしそうなくらい熱かった。  
「んー…ぷあ。…もう、挿入たいのか?」  
「う…うん、うん!も、我慢できない… は、はやくぅ…」  
せがむ乙女にちゅっと軽く口づけると、落ち着いたのかはふっと力が抜けたみたいだった。  
パンツを完全に脱がせると、秘部はぬらぬらと光って愛しい恋人を誘っているように見えた。  
「乙女… いれ、ちゃうぞ?」  
「うん、うん… お願い、メチャメチャにして…ぇ…」  
ず。  
ずぷずぷずぷ!  
 
「は、ああああああああああああ!!は、入って…入ってきた…ああああ…」  
「んく…乙女のナカ、きつい…」  
じゅ、ぷ、じゅぷ。  
乙女の中は、早乙女を離すまいと意思を持っているかのように収縮し、きつく締め上げる。  
温かい。  
ぱんぱん、と腰を動かすと、そのたびに乙女は甘い声を漏らした。  
「は、は、は、はう…あ、あふ、さ、さお、さお、とめぇ…」  
「く、乙女…!」  
ずぷ、ずぷ、ずぷ、ずぷ。  
じゅ、じゅぷ、じゅぷ、ずぷぷ!  
つながっているところが早乙女からは丸見えだ。  
それが彼をより興奮させ、腰の動きを早めさせた。  
「さおとめ…ぇえ… は、はやすぎ…も少し、ゆっくりぃ…」  
「く…ごめん、無理だ…!乙女のナカ、気持ちよすぎて…」  
ますますはやく腰を打ち付ける早乙女の顔は本当に快感に溢れているようだった。  
息が切れる乙女だったが、その顔を見たらもっと気持ちよくなってもらいたい、と思った。  
自分で気持ちよくなってくれるのが、乙女にはたまらなく嬉しかった。  
「…っ うん、じゃ、好きにして…いつでも、好きなときに…好きなトコに、出していい、から…!」  
「え、ちょ、ちょっと…」  
その言葉と同時に、乙女の締め付けがますますキツくなる。  
少しでも気を抜いたら、今すぐにでも射精してしまいそうだった。  
 
「は、は、は、は、はあ、は、はあう…!」  
「う、うう… く、ああ…」  
お互いの顔をキスするかと見まがうほどに近づけ、見つめあう。  
お互いの真っ赤な顔が、二人をより昂ぶらせた。  
「あ、あ、ああ… さ、早乙女…ナカ、にぃ…今日は、だいじょぶだから、ナカに出して…!」  
「ん、え、ええ!?そ、れは…」  
「ん、い、いいのぉ…もし、赤ちゃんできちゃっても…う、ううん。お前の赤ちゃん、ほしい…よぉ…!!」  
その言葉が、早乙女の最後の理性を奪い去る。  
自分のすべてを受け入れてくれると言ってくれた。  
それが、どうしようもなく嬉しくて。  
「ん、く、ふう…だ、出すぞ、乙女…!」  
「う、うん…あ、あひ、ひゃ…ああああああああああ!!」  
びくびくびく!!  
びゅ、びゅるるる、びゅる…  
限界を迎えた早乙女は、ためらうことなく、乙女の中に自分の欲望のすべてを吐き出した。  
「…! …! …!!」  
弓なりにそった乙女の体はびくびくと震え、言葉にもならなかった。  
ふっと力が抜け、とさっという音とともにベッドに落ちる。  
お互い息を荒げていたが、見つめあうと小さく笑った。  
 
「… ううううー…」  
「…まったく、またおなか痛くするなんてな…」  
コトを終え、しばらく余韻を楽しんでいた二人だったが、突然乙女が腹痛を訴えた。  
すぐさま寝かせ、熱を測ったところ38度ジャスト。  
…どう考えてもアレが原因なのでお互い気まずかった。  
また乙女のおなかに手をあてながら、早乙女は苦笑した。  
さす。さすさす。  
今度は、さすっても何も言われなった。  
「… なあ、早乙女」  
「ん?」  
不意に乙女が言葉を切り出した。  
もう眠そうな顔だったが、恥ずかしがっているのはわかった。  
「…こうやって、おなか撫でてくれてるとさ…」  
「うん」  
「その…なんか…お、おなかにいる赤ちゃん、撫でてるみたい、だよな?」  
「…ぶっ…ごほ、ごほ!!」  
突然の乙女の発言に思わず咳き込む。  
「ば、な、いきなり何言って…!」  
「私さ」  
咎めるようにすら見えた早乙女の言葉をさえぎり、珍しく真剣な顔を覗かせる。  
その有無を言わさない迫力に、思わず押し黙った。  
 
咎めるようにすら見えた早乙女の言葉をさえぎり、珍しく真剣な顔を覗かせる。  
その有無を言わさない迫力に、思わず押し黙った。  
「さっき言ったこと、本気なんだ。…お前の、赤ちゃんほしいって」  
「… おと…」  
「… いつか、…本当にいつか。お前のお嫁さんにしてくれ、な…?」  
静かに、しかししっかりと一音一音を発音する。  
「え…そ、れ。ぷ、プロポ…」  
「…うん。…だめ、か?」  
懇願とすら思えるその言葉には、全力で応えなければならないと思った。  
すっと、やさしく、触れるだけのキスをした。  
「ん… …」  
「… …ぷ、は。乙女」  
「…ん?」  
「俺からも頼む。…俺を、お前のお婿さんにしてくれ」  
真剣な顔。  
でも、なんとなくピントのズレたそのことばに、思わず笑ってしまった。  
「…ぷ、ははは。あはははは!お、お婿さんにしてくれ、だぁ?そんなプロポーズ、  
聞いたことねぇよ!!」  
「わ、笑うこたないだろ!」  
なおもあははは、と笑い続ける乙女に、早乙女はスネた様な顔になった。  
そうだ。こんなおかしなプロポーズなんて、聞いたことがない。  
 
でも。  
こんなに嬉しいプロポーズも、ない気がした。  
嬉しい。本当に、嬉しい。笑いながら、乙女はぽろぽろ涙をこぼした。  
「!?お、乙女、泣いて…?」  
「…んーん。嬉しい、んだ。嬉しくってさ、本当に」  
ばっと起き上がった。  
これから何があるかはわからない。  
結婚だって、思っているより楽ではないだろう。  
…でも、いけるさ。私と、お前なら。  
辛いことより、絶対楽しいことのほうが多い。  
お前がいてくれるなら、どこまでだって行ける。  
 
ちゅっと口づける。  
驚く早乙女にかまわず、言葉を続けた。  
「これからもよろしくな」  
誰よりも大切なお前に。  
 
「…あなた♪」  
 
 
おしまい  
 

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