窓に映る木の葉が風に合わせて揺れている。  
 
 ゆらゆら。  
 ざわざわ。  
 ゆらゆら。  
 ざわざわ  
 
 私は一人、教室に残って自分らしくもなくボーッとしていた。肘をついて窓を眺めながら。  
 
 ゆらゆら。  
 ざわざわ。  
 
 窓の風景は紅く染まっていく。  
 教室にある時計を見れば、もう長針は5時を指している。そろそろ帰らなければ。  
 はぁ、と息を吐いて立ち上がり、机にかけた鞄を掴む。  
 
 と――――  
 
 ガラッと扉の開く音がした。思わず体が反応して音のする方向へと向く。  
 そこには、  
 ロボットがいた。  
 芹沢か。いや、芹沢でなければ他に誰がいる。  
「あ、犬神!」  
 独特なハスキーなのかどうなのか判らない声。  
 やはり芹沢だった。  
「どうしたんだよ。こんな時間まで」  
「いや、少しボーッとしてた。芹沢は部活か?」  
「そうそう。演劇部。今は殆ど着ぐるみ部だけどな」  
 ははは、とロボットが笑う。何だか変な感じだ。  
 着ぐるみを被ってても表情が判る。  
「頑張ってるんだな」  
「まあな」  
 ふと、今芹沢を見ていると疑問に思った。  
「……その着ぐるみって暑くないのか?」  
「あぁ、暑い。夏なんかは蒸れて暑い上に臭い。あ、これは南条には内緒な」  
「やっぱり暑いのか。臭いっていうのは予想してなかったが」  
「今日は臭くないぞ!」  
 はは、と笑って教室の扉に手をかける。  
「ちょ、ちょっと待て!着ぐるみ脱ぐのを手伝ってくれ」  
「は?」  
 余りに唐突過ぎてそんな言葉しか出なかった。  
「一人で脱ぐの辛いんだよー、これ」  
「脱いだら下着とかではないよな」  
「何考えてんだ、犬神。もしそうだったら手伝わせねぇよ」  
 ああ、そうか、と思いながら自分の机に鞄を置いて芹沢に近づく。  
「で、何をすれば良いんだ?」  
 
「えーとなー、腕がこんなだからほとんど手伝ってくれ」  
 ロボットの手をガチガチと合わせてみせる芹沢。  
「あぁ……不便だな。勉強出来るのか?」  
「まあこれは慣れだな、慣れ」  
「そんなものなのか……」  
「じゃ、脱ぐから頭を引っ張ってくれ」  
 分かった、と返事をして芹沢の前から軽くロボットの頭を掴む。  
 そして、ゆっくりと力を入れ過ぎないように引っ張ると。  
 スポン、と芹沢からロボットの頭が脱げた。  
「はぁーあちー」  
 目の前には芹沢の上気した顔。  
 何故か異様に色っぽい。  
「おーいどしたー?」  
 思わず見惚れてしまった。  
「あ、いや、何でもない」  
 朱い芹沢の顔を振り払う。  
「次はこの服な」  
 着ぐるみの服服を指さす芹沢。  
 後ろにまわってみるとどうやらこれも上から被るモノのようだ。  
 芹沢を万歳の格好にさせてさっきのように脱がせる。  
「ありがとう。後は自分で出来る」  
 見惚れてしまう。蒼い髪、朱い顔。  
 着ぐるみとはいえ、着替えを見て惚けている自分がいる。  
 何故。する、と見える腕が。  
 何故。すらり、と見える脚が。  
 何がそんなに私の気をひくのか。  
「ずっと見てただろー」  
 芹沢が少し笑い、照れた顔で言う。  
「あ……すまない」  
「まあいいけど。私の体がそんなに気になるのか?」  
 何を。  
 紅く染まっていく芹沢の顔。  
 きっと私も真っ赤な顔になっているはず。  
 全身が熱い。  
「興味あるんなら、見せてやってもいいんだけどな……」  
 目を反らし、真っ赤な芹沢。  
 さっきとは正反対じゃないか。下着なんか見せないって言ってたのに。  
 
 パニックになりそうだ。何も答えられない。  
 今にでもその姿を見たいのに。どうして答えられない。  
 交錯する。ただ真っ赤になって。  
「う……」  
「あるのか?」  
 気が付けば。  
 芹沢の息が顔にかかるくらいの近さ。  
 まずい。もう逃げられない。  
 あぁ―――。  
「……ある……」  
「そうか。じゃあ」  
 歯を見せて不適な笑みを浮かべ、私の顔から離れていく。  
 芹沢が両手を上げていつもの体操服に手をかけた。  
 するり、するりと脱げていく体操服。露となる女性の下着、ブラジャー。淡い桃色が綺麗だ。  
 裏返った袖が手首に絡まっていく。  
 それを脱ぎ捨て、次はスパッツを掴む。ピチピチのスパッツは脚とくっついて妙にいやらしく見える。  
 ずらして。ずらして。伸縮性のある生地が伸びたり縮んだり。  
 艶やかのようでいやらしいようで。  
 靴で引っ掛かり、靴と一緒にスパッツを脱ぎ捨てた。  
 今芹沢が身に纏っているのはブラジャー、ショーツ、靴下、この3枚の布だけ。  
 火照った体が甘美で、今にも手に触れたくなる。  
「どうした?犬神?そんなに良かったか?」  
「い、いや、芹沢――」  
「なんだなんだ。女にだけ脱がさせるのか  
 犬神も脱げよー」  
「え。私が?」  
「そうだ。脱げ」  
 うわ、と声を上げそうになった。  
 芹沢が私の服を脱がそうとベルトを引き抜こうとしていたのだ。  
 カチャカチャという金属音。ベルトがずるずると抜かれていく。  
「せ、芹沢」  
 そんな言葉も虚しく、芹沢は私のベルトを抜き取った。  
「よし、次はカッターシャツだ」  
 いきなり。下からボタンを外された。下を見ると、何かを企んでいるような芹沢の顔が見える。  
 芹沢はその企み顔のままボタンを一つ、一つ愛撫するように外していく。  
 そして。遂にボタンが全て外され上半身裸になってしまった。  
 
「お、おい、芹沢」  
「よし、スラックスいくぞー」  
 戸惑う私など構いもせず、掴みかかる。そんなことをされたら、ベルトがないスラックスなどすぐに脱げる。  
 一気に足首まで下ろされてしまった。芹沢が私に向かってニヤリ、と笑う。  
「じゃ、準備も整ったところで始めるか」  
「何を?」  
「ここまですりゃぁ分かるだろう。アレだよアレ」  
 朱に染まっていた顔が真っ赤になっていく。  
 もしかして――  
「ここは教室だぞ!もしバレたら……」  
「大丈夫。大丈夫。誰も教室なんか入ってこないって。  
 それにしたいって言ったのは犬神だろう」  
「私はしたいなんて一言も言ってない!」  
「私の体に興味あるって言ったじゃないか。もう遅いぞ。  
 犬神には断る権利はないからな。それにもうこんなに……」  
 ショーツに触れたその手。指が濡れて妖しい光を放つ。  
 それは紛れもなく愛液。女性の証明。  
 ほら、と言って私の顔に持ってくる。その匂い。女性の匂い。  
 鼻腔から何かを叩くフェロモンが流れている。芹沢の匂いがする。  
 激しい興奮が襲う。生殖器が硬くなっていく。トランクスを持ち上げて自己主張を始めた。  
 亀頭とトランクスが擦れる。快感と痛みが交互に伝わっていく。  
「お、その気になってきたか。犬神」  
 顔を愛撫していたその手を下半身、生殖器に移動させ、触れる。  
 ひやり、とした快感。擦れる快感とは違う快感が私を酔わせる。  
 更にその手はトランクスの上から生殖器を撫で始めた。ゆっくりゆっくりと焦らしながら手を動かしていく。  
 その快感のようでない快感はもどかしくて、無理にでも私を興奮させた。  
 

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