『ガール ミーツ ア ガール』  
 
――――いつもと変らないあの日、雅ちゃんと出会った  
 
「雅ちゃん久しぶり」  
私は声をかけた。雅ちゃんは私を確認した後……何故か俯いて  
「あ……………………宮本さん」  
私は雅ちゃんに普通の速度で歩いて近寄る  
「?……どうかしたの雅ちゃん」  
雅ちゃんが顔をゆっくりと上げる。何故か顔が赤いみたい…  
不思議に思いつつも雅ちゃんの前で立ち止まる。  
「………………」  
「え?!」  
私は小さな声を上げた、雅ちゃんが急に近寄って肩の上から背中へと腕を回して抱きついてきたからだ。  
頬と頬が触れそうなくらいの距離で俯いた雅ちゃんの顔がある。そのせいで表情はわからない。  
私は驚いたまま  
「何かあったの?どうかしたの雅ちゃん?」  
答えは無い……いや腕に力が入った…事はわかる…  
小さく震えているようだ、その震えの理由が悲しいからなのか嬉しいからなのかも判らなくて、私は戸惑う。  
よくわからないので抱きしめ返すべきなのかそうでないのか、私の手は中途半端に出したまま行き場をなくしている。  
 
冷静に考えるんだ……嬉しいって…何で?…私に会っただけだよね……悲しいとしたら……え、何でえ?  
この間会ったのは、休んだ犬神の代理とかで桃月学園に来た時だった。  
その前は雅ちゃんが壊れて大変だったんだよな……  
さすがに私が死んだなんてのは無茶だよ、麻生先生も困った人だよなあ…先生として心配だよ……  
あ、今はそんな事を考えてるときじゃなかった……うっ……通行人に変に見られてるんじゃないかな…視線が痛い…  
でも、なんでだろう雅ちゃん……うーーん…どうしたらいいのかな…慰めないと…あ、でも…悲しいんじゃなかったら…  
 
答えが見つからない……思考の迷路に陥いる。  
 
頭に血が昇ったのか顔が熱い。なんだか鼓動が早くなった気がする、いや、焦っているのだから早いはずだ。  
そうでなくて心音がとても大きくなっているように聞こえる。  
雅ちゃんからは震えている震動が相変わらず伝わってくる。  
か弱さを感じさせる雅ちゃん。何とかしなきゃって気持ちだけ先に来て……行動が伴わない。  
思考の迷路どころか満足に考える事が出来ない状況だとようやくわかってきた。  
……どうなってるんだ私は?  
 
数分後、ようやく私は再び声を出した。  
「雅ちゃん…」  
今度は声が返ってきた。  
「……宮本さん」  
か細い声だった、やっぱり声まで震えている。  
 
「雅ちゃん…どうしたの?」  
「宮本さん…あのね……」  
雅ちゃんが顔を上げた。抱きついてくる腕の力が少し緩み体と体の間があく、顔が見えた。  
私は雅ちゃんの顔を見て言葉が出てこなくなった。  
真っ赤に染まった顔で…今にも泣きそうな(いや、目の端には涙が確かに溜まっていた)顔を崩して笑みを…  
そう、嬉しくて笑おうとしてるのに何故か泣きそうな表情…だった。  
 
――――なんで?  
 
「宮本さんに……会えてよかった」  
いつの間にかさっきよりも離れ、  
ノートで半分顔を隠したままの、よく見る恥ずかしそうな、それでいてはにかんだ笑顔の雅ちゃんが居た。  
私はさっきから同じポーズのまま、きっと周りから見たら前に出したままの手が馬鹿みたいに見えるだろう。  
「さっきは……急に抱きついてごめんね……」  
「あ……うん……別に……」  
「さようなら…またね…宮本さん……」  
相変わらず赤い顔のままで、とびきりの笑顔を見せるやいなやくるっと背中を見せて駆け去っていった。  
 
後にはよくわからないまま同じポーズで一人取り残された私が居た。  
 
 
 
そして数日後  
 
今、私は雅ちゃんの部屋に居る。つまり教え子の犬神の家に来ているわけだが…  
これで犬神に会えば家庭訪問になるわけだ。ある意味…奇妙な状態だな……  
などとどうでもいいような事を考えているわけは……なんとなく落ち着かないからだ。  
 
あの翌日に私の携帯に雅ちゃんから電話がかかってきた。  
麻生先生→望ちゃん経由で番号は確認したらしい。  
内容は、久しぶりに会ってお話ししたいから私の家に来てくれませんかという事だった。  
先日の態度も気になった私は断る理由もないのでOKした。  
 
そして部屋には雅ちゃんと私の二人きり。  
 
嬉しそうに雅ちゃんは思い出話を話してくれる。  
「皆で夜の学校に行ったよね……宮本さんあの時……頼もしくて恰好よかったよ」  
私も怖かったけど、雅ちゃんの方が怖がってたんだよね…………  
…………あの時、そんなに怖いのに学校に行った雅ちゃんに感心したんだよ……  
嘘をついていた心苦しさとあの時の雅ちゃんの言った言葉が蘇る。  
6年になっても同じクラスのままだからいろんな行事を一緒に出来るねって嬉しそうに言ってくれたんだ……  
「あ、この間ね、遠足に行ったんだよ。宮本さんも一緒だったらよかったのになって思ったよ」  
「それで望ちゃんがね……」  
私が小学校に通っていた間の話や、それ以外でも私が居たらとか言う具合に雅ちゃんの話に私が絡んでくる。  
とても楽しそうに私を見つめて話してくれる。さっきから雅ちゃんが喋りっぱなしだ。  
私は気づいていた、私を見る視線に熱いものがある事を……  
いや、あの時……雅ちゃんに会って抱きしめられた時にもなんとなく感じて…意識から外したんだ。  
 
学園に来た時に、雅ちゃんが大きくなっても私がまだ居たら桃月学園に入りたいなと言った時には、  
嬉しさと尊敬の混ざった目で見ていた。今のは……それとは別のものが混ざっている……そんな気がした。  
私は半分上の空で雅ちゃんの話に相槌を打ち続けていた。  
 
その日は……話した事のほとんどが残らなかった。  
 
 
家に帰って、頭を冷やしながら考える……  
まさか……だとしたらどうしたらいいんだ?……私が錯覚してるだけじゃないんだろうか  
でも、もし……  
雅ちゃんの事は友達として好きだ……いや、数少ない同年齢の親友……  
そう、同じ学校に行ってたときは間違いなく親友だったのだ、雅ちゃんと望ちゃん私……  
 
だけど私は選んだ、高校に帰る事を、小学生ではなく元の教師に戻る事を。  
それは一つの負い目だった、親友を騙していたのも……  
そして私が居なくなった理由……私が悪いわけじゃないが……  
さすがにあの説明をされた雅ちゃんの反応を考えると怖いものがある。  
なんとかソレを素直に信じたのだろう、壊れたのはソレが嘘だと判ったためだ。  
 
雅ちゃんは優しい良い子だ、それでいて心の強い子だ…  
…いやだったり嫌いなわけは無い……大切な存在だけど……だけど…それは私にとっては…  
もう悲しませたくないし……危なげなところは守りたいとさえ思う……  
でも同性だしなあ……  
 
電話が鳴った……雅ちゃんからだった。  
また会う約束をして私は電話を切った。雅ちゃんの声はとても嬉しそうだった。  
 
 
そして、また雅ちゃんの部屋に来ている。  
えーーと……何故かお泊り会になっていた  
(電話でそう約束していたらしい、再確認された時はもう訂正するには遅い状態になっていた)  
犬神とぎこちなーく挨拶して夕食を供にした、無口な二人に比べて雅ちゃんはよくお話をしていた。  
気を使ってくれたのかもしれない。  
その後の休憩が今だ。  
そして二人でトランプをしている、……ババ抜きだ。  
二人でするゲームではない気はするが頭を使う必要もないのは今はありがたい。  
 
ずっと考えていた疑惑。思い過ごしならいいのだが、事が事だけに確認しようにも方法が無い。  
もしも告白されたらどうするかまで考えてしまった……結論は断る言葉が見つからない  
私は友達だよと言えば済むのかもしれない……しかし…私は……なんでだろう……  
 
ババ抜きは私が負けた……顔に出すぎだよ雅ちゃん  
 
「あのね宮本さん……見て欲しいものがあるの」  
そう言って雅ちゃんがパスケースを出してきた。その中には犬神の写真がある。  
以前にも見たものだ。  
「あのね……」  
そう言って写真を取り出すと……私が映っている写真が下に挟まれていた。  
雅ちゃん、そんなに赤い顔しなくても……  
嬉しそうに見せてくる……それって……えっと……やっぱり…………何があったんだろう…  
 
 
一旦下におりて戻ってきた雅ちゃんが言う。  
「宮本さん、お風呂沸いたって…一緒に入る?」  
「え、…………あの……私…複数で入る日本式のに慣れて無いから…だから……」  
残念そうな顔をして雅ちゃんが俯く。  
譲り合いの末、お客さんの私が先に入る事になった。  
体を洗いつつ、まったくおかしな状態だと思った、犬神の家の風呂に入ってるんだもんな。  
……まだまだ夜明けは遠いよな……この後…どうしよ……  
ため息がこぼれる。お湯をかぶって雑念ごと洗い流したいかのようにかける。  
そして雅ちゃんと交代。一人で雅ちゃんの部屋にいるのもどうも恥ずかしくなってきたので、  
下におりると犬神が居た。  
「先生、牛乳でも飲みますか」  
「ああ、貰うよ…………あのな犬神……雅ちゃんなんだけど最近急に変ったこととかあった?」  
「雅がですか」  
牛乳を私に渡しながら思い返すように考えた犬神は  
「これと言っては無いですよ。先生が来るのを楽しみにしていました」  
犬神から情報を引き出すのは無理そうだな。  
(犬神には隠したい変化……)  
 
たわいない事を犬神と交わした後、牛乳も飲み終わったので雅ちゃんの部屋に戻った。  
パスケース……大好きなお兄ちゃんと供にその下に私の写真……  
その意味は……………そももそも雅ちゃんはお兄ちゃんの犬神が好きなはず……  
それが誰かに移るとは思えないよな……うん…思えない…なんでだ??  
疑問符だけが増えていく、これで違ったら大笑い者だな。  
 
雅ちゃんが戻ってきた。  
二人ともパジャマ姿。  
また雑談を交わす。  
 
「雅ちゃん…犬神…お兄ちゃんと何かあったの?」  
私は雑談の中で突如切り出した。雅ちゃんが一瞬固まる。  
「ううん、何にもないよ…何にも……」  
微妙に悲しみの混じった感じがした。  
「犬神って面倒見もいいし、いいお兄さんなんでしょ」  
「……宮本さん……もしかして……お兄ちゃんのこと……ケロ」  
目つきが変った…マズイ…  
「いや、私は別に犬神に対して何も無いよ、雅ちゃんが考えたような事は……私にとっては教え子だから」  
私の顔をじっと見てくる。嘘かどうか見抜こうとしているのだろう。  
「……宮本さん……あの……あう…好きな人とか居るの?…」  
「私?…………」  
雅ちゃんの顔を今度は私がじっと見てしまう。  
あれ、また鼓動が早くなってる……好きな人など居ないのだから簡単にそう言えばいいだけなのに…  
その返事にかかる時間を雅ちゃんは誤解したようだ、俯いて  
「あう……居るんだ……」  
「え、居ない……居ないよ…雅ちゃん…だから安心して」  
私は慌てて否定した。え?なんでこんなに慌ててるんだよ私?  
 
雅ちゃんはホッと安心したように顔を上げて微笑み。  
そして……私をじっと見ている…  
「宮本さん……きつつき?」  
「へ……なんできつつきが??…………あ、うそつきか」  
きつつきが何か考え込むために私は雅ちゃんから視線をずらした。  
今度は嘘はないよと言おうとして視線を雅ちゃんに戻す。  
気づいた時には雅ちゃんが目の前にいて……  
…………………………  
「宮本さん…私の気持ち…」  
目を閉じて緊張した顔がスローモーションで近づいてくるように見える。  
私は動けなくなったまま  
チュ  
軽く唇が触れ合った……  
 
……………………何が……起こったんだ……  
雅ちゃんがこれ以上はないくらい真っ赤な顔して…目の前に…目を瞑っている。  
…………唇同士が触れた………………ああキスしたんだ……  
 
私は思考がこんなにノロマに動くのを実感しながらも、言語にまでなったのに、まだキスした実感がなかった。  
雅ちゃんが顔を隠すノートが無かったので服の裾を持ち上げて顔を半分隠して目を細く開けだしている  
………………後で考えれば、顔を隠すよりお腹丸出しのそのかっこうの方が余計恥ずかしいだろうに。  
 
「……雅ちゃん…」  
私は情けない声を出すことしかできなかった。  
その後にキスした実感に顔が熱くなっていく、きっと今の私は真っ赤だ。  
現状の整理だ……えっと……雅ちゃんがなんでキスしてきたの?  
え、……あ…気持ちって言ってた…………その前には…好きな人が居るかどうか……  
 
雅ちゃんがこちらを見ている…………これって…返事を待ってる状態?  
…私たち女の子同士だよ………でも…雅ちゃんには関係ないとしか見えない…もしかしたら変なことに気づいてないのかも…  
だったら、そんな事を気にしてる私がおかしいのか……それ以前の何かなのか…  
 
「あう…………いやだった?」  
雅ちゃんが見るからに落ち込んでそう言った。  
「いやなことないよ!」  
私は反射的に否定した。  
雅ちゃんが顔を隠していた服を離す。  
「よかった」  
よかった……と私も思った。  
その後は特にそれ以上の具体的に聞かれることも聞くこともなかった。  
 
その日は同じベッドで手を握って眠る事になった。  
なかなか寝付けなかったが雅ちゃんが先に眠った。幸せそうな寝顔してる。  
私はその後もほとんど寝れなかった。今日あった事を思い返して……今の状態を考えていた。  
握った手は離せないまま……手に汗をかいていた。  
 
結論……雅ちゃんの告白を否定せず受け入れた……OKをしたって事になったようだ  
…………まるで他人事のような言い方だな  
苦笑がもれる…………そして、やはり断れない自分に……  
親友ではない…別なものを期待して望んでいる感情が確かにあると…認めずにはいられないようだ。  
 
今の問題は……起きた雅ちゃんとどんな顔すればいいのかって事だ。  
横を向けばすやすやと眠ってる雅ちゃんの寝顔が月明かりで見える。  
また顔が熱くなった気がする。  
 
結局、結論が出ないまま朝になりその場面になった。  
きっと引き攣った顔でおはようと言ったに違いない  
寝ぼけぎみの雅ちゃんが、おは…よ…う…ござい…ますと返してくる。  
やばい、なんてかわいいんだ!  
急に、これを独り占めしていたであろう犬神が憎らしくなった。  
 
それからは内心どきどきしっぱなしで時間が過ぎていった。  
 
家に戻ってからベッドにバタリと倒れこむ。  
あーー、なんだーーー…………私、あんなに雅ちゃんの事を好きだったんだ……  
 
………………こっちから告白せずに済んでよかった……しようと思ったら死にそうだもんな  
逆に雅ちゃんの勇気を考えてしまう……守りたいとか思いつつも、私の方が後を歩いてるみたいだ。  
 
 
 
何故かはわからないけれど、お兄ちゃんだけだった恋愛感情が別の方向にも行くようになった。  
そしてその対象がたまたま私だっただけ………たまたまじゃないか  
まあ雅ちゃんの性格や行動からは男の子にいきなり向くとは思えないもんな。  
同年代の子供、同じようで違う私は……たぶん犬神の立場と共通するものがあったのかもしれない。  
 
……そのうちはっきりするさ。  
確かな事は……今、私は幸せを感じている……それが間違いないって事だ。  
顔をにやけさせつつ、夜中に眠れなかったせいか私は特上の昼寝に落ちていった。  
 

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