「犬神君はぁ…私のことが…」  
はら。はら。はら。はら。  
放課後の校舎の裏で犬神と待ち合わせ。  
時間をもてあました南条は、手近な花を一枚摘み取り、一枚、また一枚と  
やさしく花びらをちぎる。  
手を離すと花びらは風に舞い、どこまでも続くかに見える空に消えた。  
「好き、嫌い…好き、嫌い…好き、きら…」  
ぴた。  
むう、と一枚だけ残った花びらを神妙な顔で見つめる。  
…………  
ぷち。  
「…犬神君は、私のことが?」  
はら。はら。はら。はら。  
「好き、嫌い、好き。嫌い、好き、き…」  
…………  
「ううううう〜〜〜………」  
 
「好き、嫌い…好き、嫌い…好き、嫌い、す」  
「待たせたな」  
「きゃあ!?」  
3本目の花をちぎっていたところに大好きなヒトの声。  
過剰な反応に犬神は面食らったような顔を見せた。  
「な、なんだ?…私の顔に何かついてるのか?」  
あちゃあ、という顔で南条は苦笑を浮かべた。  
…聞かれなかっただけでももうけものだ。  
「う、ううん。なんでもないんですのよ」  
「そうか?…ならいいが。じゃあさっさと行こう。時間が惜しい」  
「ん、もう!私みたいな絶世の美女と一緒にお出かけだっていうのなら、  
もっとうれしそうな顔できませんの?」  
「自分で言うことじゃないだろう…」  
今は軽口を叩き合う『友達』だけど。  
いつか一歩を踏み出したいな。  
あなたの一番大事な人に。  
私のすべてをゆだねられる人に。  
 
ふわ、と離した手からまた花が空に舞った。  
『嫌い』で止まっていた花占いの最後の一枚は、またいずこともなく消えた。  
 
 

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