「ん、ぐ…もぐもぐ」
「もっと落ち着いて食べろよ…誰も取りゃしないんだから」
「そうはいっても…んぐ、んぐ…美味しいんですからそりゃ箸もすすみますって。
みや…あ、いや。レベッカ、本当に料理上手くなりましたね」
「う…ほ、褒めたって何も出ないからな!」
「ははは、それは残念ですね。…ん、ぐ。ぷはー。ご馳走様でした」
「お粗末様でした。…ところで、なあ。早乙女」
「はい?」
「何か気づかないか?」
「え?」
「ん…だ、だから。…あたし見て何も思わないか?」
「?? いつもどおりかわいい、ですけど」
「そうじゃなくって!!…あ、いや…それはすげぇ嬉しいんだけどさ。
何かこう…いつもと違うなって思わない?」
「…? いえ、別に…?」
むかっ
「そうか…そうかー」
「あの、レベッカ?何か…」
「い・い・の!やっぱりお前には関係ないの!」
「は、はあ…?」
「ほら、いくぞ!そろって授業遅れたら怪しまれるだろ!」
ぐいっ
「あ、ちょ、ちょっと!」
「…ふん」
「あの…俺、何かしました?」
「した」
「………あの、もしかしてかなり怒ってます?」
「怒ってる」
つかつかつかつか。
「あ、ちょっと…あの。申し訳ないんですけど、何で怒られてるのか…」
「いいんだよ。期待したあたしがバカだった!」
つかつかつかつか。
「……………」
「……………」
「…ふう。わかりました」
「え?」
「レベッカに嫌われるのは絶対いやですから。
…なんでもしてあげます。それで許してくれませんか?」
「なんでも?」
「なんでもです」
「…本当になんでも?」
「本当になんでもです」
「わかった。…ちょっと顔かせ」
「う…いきなりビンタはちょっと勘弁して欲しい…かも」
「違うよ。ほら、さっさと顔。貸して」
「は、はあ…はい」
ちゅっ
「え…」
「ん、これで許す」
「……ほっぺたでいいんですか?唇のほうが俺も」
「ふふ、いいんだよ。ほっぺたのほうがさ」
「?????」
きーんこーんかーんこーん。
「こらお前らー。さっさと一列に並べー」
「お、早乙女。今日は随分はやか…った…?」
「? 乙女、どうした?」
「お、おいこら、早乙女!なんだよその顔!!」
「え、顔?顔が何か…」
「自分の顔見てみろ!ほら!!」
「い、いきなり手鏡つきつけられても… あ…
あーーーーーーーーーーーーーー!!」
「お?ベッキー、口紅なんて珍しいな」
「 …わかる?」
「わかるよ。いつもと全然様子が違うし」
「はああ…」
「なに、どうかしたの?」
「…なあ玲、気づいて欲しいことほど気づいてもらえないことってあるよな…」
「はあ?」
机につっぷしてぶちぶちいいながらベッキーは小さなルージュのキャップを開けた。
早乙女が買ってくれたそれは、先端が少しだけ丸くなっていた。
「…ばーか」
きゅ、と軽く塗りなおしてゆっくりとポケットに戻した。
校庭に目をやると乙女が早乙女の胸倉をつかみ、何かを問い詰めているようだった。
それが可笑しくて、ちょっとだけ笑った。