「フフフフフフフフフフフフフフフフ」  
ロスの早朝になにやらアヤシイ笑みを浮かべながら  
真新しいスーツにアイロンをかる屈強そうな男。  
カイル・マディガンはどれだけこの日を待ちわびたことか  
「スーツ良し、花束良し、バーの予約確認。  
とうとうだ、とうとうこの日がやってきた」  
今日は月曜だし独立記念日でもないし、  
ましてやパーティがあるわけでもない。  
「今日こそアヤを誘える、今日こそアヤを誘える」  
そうだった。確か今日はイヴが研究のため、  
大学に預けられる日だった。  
最近アヤは子供(?)ができたせいか、  
ガンガン母親的行動をとるようになった。  
前に誘ったときなんかは  
「イヴの前で酒なんか飲めないでしょ」とつっぱねられ  
一人寂しくアースクエイクを口に運んでいたのを覚えている  
だがその憎き(?)イヴが預けられるとなれば当然アヤは寂しい  
「その夜を自分が慰める。完璧だ、完璧な計画だ」  
この世知辛い世の中そんな簡単な戦法が通じるなら  
彼女いない暦=年齢の男はいないだろう。  
「おっとそろそろ行かなくちゃな」  
スーツを丁寧にたたんでバックにつめ、意気揚揚と出勤する  
家のカギを忘れていることにも気付かずに  
 
MIST本部についた。  
カイルは鼻唄なんぞを歌いながらオフィスへと向かう、  
その途中、聞き憶えのある声が足元から聞こえた  
「おはよー」  
「いようイヴ、肩は治ったか?」  
昨日イヴはシューティングレンジで  
アヤのM93Rを勝手に片手で撃ち、  
見事に右肩を脱臼させたのだが、  
今日腕をロボ〇ンのように回転させているところをみると、もう完治したようだ  
すげぇな、パラサイトエナジーってもんは。  
「おいイヴ、アヤをしらねぇか?」  
カイルは目の前の不死身娘に親(?)の居場所を聞く  
「ロッカールームの中」  
「そうか、ありがとな。  
今日は偉い人がいっぱい来るからいい子にしてろよ」  
そういった後カイルは自分のデスクに着くと机に足を投げ出す。  
既にやらなければならない事務仕事は終わっている。  
あとは向こうから催促が来るまで休憩だ  
と、突然オフィス内の電話がなる  
「こちらみすとどうしましたか?」  
あからさまな棒読みで電話にでる  
「こちらNYPD、アヤをだしてくれ」  
 
「こちらNYPD、アヤを出してくれ」  
オヤジ臭いバリトンボイスが電話の向こうから聞こえてくる。  
NYPD?そういえばアヤがここへくる前に勤めていたとかいっていた。  
「はいはいそうですか」  
やる気なくそう応える。  
電話の保留ボタンを押し、アヤを探しに出る。  
確かロッカールームにいるっていってたな。  
カイルはオフィスを出てロッカールームに向かう。  
唐突に目の前が金色に染まる。  
「どこ見てンだオラァ……ってアヤか」  
「気をつけてよね」  
活動的な印象を与えるショートヘアーの女性。  
アヤ・ブレアはあきれたように言う  
危うくぶつかりかけたことには気にせず、さっきの電話のことを話す  
「そういえばお前に用があるっていう電話がきてたぞ」  
「どこから?」  
「NYPDからだとよ」  
「NYPDから?」  
アヤは首を傾げつつオフィスの電話を取る。  
電話に出たアヤの口調から推測すると、どうやら知り合いらしい  
 
しばらくしてアヤは電話を切る。  
アヤの顔が自分自身の不機嫌をまっすぐに表す。  
「なんだったんだ?」  
「向こうの科学者がニューヨークとロスを間違えたからこっちに来いって」  
「ニューヨークとロスは大都市ってこと以外共通点ないぞ」  
その科学者の馬鹿さ加減に思わず涙が出そうだ  
「で、向こうで研究することになったから来いだって」  
「今すぐ出発するのか?」  
カイルは一番気になることを問う。  
「そうしなきゃ日が暮れちゃうでしょ」  
マズイ、モーレツにマズイ。  
またあのような寂しい夜を過ごすことになる。  
それだけはなんとしても避けねば。  
そう考えてるうちにアヤはどんどん出口へ向かう。  
「おい、ちょっと待てよ!!」  
「私車出してるからイヴ連れてきて」  
間髪いれずにそういわれる。  
「日程をへん…」  
「早く」  
「そのバカサ……」  
「早く」  
だめだ、取り付く島がない。  
畜生、何で俺はいつもこうなるんだ。  
カイルは仕方なくアヤに従い、  
ピアースと一緒にPEANUTSを読んでいるイヴをアヤの車に載せる。  
「それじゃいってくるわね」  
カイルは昼の休憩時間中にある場所へ連絡する  
「予約をしていたカイルというものですが、  
今日キャンセルします」  
涙声でそう伝えると、何年かぶりに号泣した  
 
南東端にある米国最大の都市。ニューヨーク  
かつてあったミトコンドリアと人類の戦いの爪痕を残しながらも逞しく成長したこの街は、4年前と何も変わらない喧騒でアヤを迎える。  
「久しぶりね」  
「いくら大都市だからってそんなに変わりゃしねぇよ」  
アヤの隣でパトカーを運転する黒人刑事、ダニエルは4年前のあの事件で顔に火傷を負い  
植皮手術によって多少歪になった笑顔を向けながらそう答える  
まあそんなこんなで目的地のニューヨーク大学生物学研究所へ着く  
「送ってくれてありがとね」  
アヤはダニエルに礼を言うと、後部座席でくーすか寝ているイヴを背負う。  
既に午後12時を回っていたが、未だに研究所には明かりがついていた。  
アヤは大学の門をくぐるといきなりスーツ姿の前田が研究所から飛び出してきた  
「アヤさん!!」  
前田はアヤの前にくるなり土下座して「すみませんでした!!」と大声で謝る  
「本当に申し訳ありませんでした」  
顔を地面に叩きつけ、ごんという鈍い音をさせてものすごい勢いで謝る謝る  
逆にアヤのほうが申し訳ない気持ちになってしまう  
「まあそんなに謝らなくていいから」  
となだめてセンズリ人形のように同じ動作を繰り返す前田を止める  
「今日ホテルの予約はしていますか?」  
ようやく立ち上がった前田はさっきと同じ勢いでそういう。  
「いや、まだだけど……」  
「ならここに泊まってください」  
そういって前田はホテルのキーを差し出す  
「前田はどこに泊まるの?」  
「私は研究所に泊まります。そっちのほうが性に合ってるので」  
「いいの?」  
「はい、こんなことになったお詫びです」  
そういうのならいいだろう。アヤはホテルのキーを受け取ると前田に礼をいい、その場を立ち去る  
また腰から上をがっくんがっくん動かしながら「申し訳ありませんでした」をやりはじめたから  
 

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