あおいは唇を軽く噛みながらバッターボックスに入ってくる松田を見守る。彼はバットで
くるりと宙に円弧を描くと、それを真っ直ぐに構えてピッチャーマウンドに向き直った。その
金属バットがどれほどのパワーを秘めているかは試すまでもなく分かっている。軽く擦った
だけでも悠々外野まで運ばれるだろうし、当たるべき所に当たれば致命的な一打が待って
いるはずだ。
ホームランを打たれたなら…
未だジワジワと振動するバイブレータから重苦しい恐怖が立ち上っているような気がして、
あおいは身震いする。それだけは避けなくてはならない。
「………」
部員も皆も沈黙する中、あおいは慎重に第一球を投じた。
…しゅっ。
外角のはずれた所、ストレートだった。松田は左打者であるため、逃げ球のカーブを振ら
せるという事は出来ない。そしてストライクゾーンから外れた所に直進するボールに対し、
バットは微塵も動かされる事はなかった。
あおいは多少うつむき気味になってから神経質そうにボールを転がす。握りを何度も
変えては幾度も首を振って悩む。
第二球。
しゅっ!
さっきとは逆方向、松田の足元に向かってストレートが走る。MAX135キロ程度とは
言え、確実に低めを突いていく直球はあおいの武器のひとつだ。
ばしっ!
松田のバットは動かない。
だが、主審もまた動くことはなかった。ノー・ツーだ。
「くっ…」
あおいの頬を冷たい汗が伝う。知らず知らずにコントロールに狂いが出てきている可能性は
否定できなかった。精密機械のねじが少しずつ緩んでいくかのように、あおいの身体も
おかしくなって来ているのだろうか。
ヴヴ…ヴヴヴ
バイブは確実にうねり、あおいの中を蠢き回る。時間が経てば状況は悪くなりこそすれ
良くなることはあり得ない。
あおいはぎりりとボールを握りしめ、投球フォームに入った。第三球。
ひゅっ!
今のストレートと同じ場所を狙ったカーブだ。シンカーほどの自信を持った球ではないが、
左打者の内角を攻めるにはカーブに頼るしかない。
カキンッ!!
「あっ…!」
松田の身体が柔らかくしなり、バットが振り抜かれる。鋭い音と同時に、大飛球がレフト方向に
上がった。
(き…切れて! お願いっ!!)
ファール線上に高々と上がったボールの飛距離が十分なのは一見するだけで明らかだ。レフトも
全力で飛球を追うことはしておらず、皆ボールの行方をじっと見守っている。
「あ…」
「残念、切れたな」
風のためか、そのボールはファールラインの延長線上から左側に落下した。あおいは深い深い
ため息を吐いてからバッターボックスの方に視線を戻す。
(よ…良かった)
心臓が激しく高鳴っているのが感じられた。妖しい玩具の震える中、その動揺を収める事は
並大抵の労力ではない。あおいは山田のミットを凝視し、ボールを何度も何度も握りしめて
無理矢理にそれを抑え込む。汗がぽたりぽたりと土の上に垂れ落ちた。
…第四球。
しゅっ!
第二球と同じ、内角低めを狙ったストレートだ。
ぱんっ。
「………えっ…うそっ…!?」
主審は動かない。
「そ、そんなっ!」
「あおいちゃん、ボールはボールだぜ」
「……わ、わかってるけどっ…でも…!」
納得が行くわけではない。これでワン・スリー、あおいにとっては極めて不利なカウントだ。
しかし食い下がっても判定が覆るとは思えない。形式的にはキャプテンの方に理がある。
「さっさと行こうぜ、ただのシート打撃なんだから」
「………」
あおいは絶望の縁に立たされた思いでボールを握る。
読まれている可能性は極めて高い、だが選択肢はひとつしかない。
(…勇気出さなくちゃっ…!!)
心の中であおいは絶叫した。
第五球。
しゅっ!
あおいの指から離れたボールは、ストライクゾーンの真ん中付近にふわっと吸い込まれていく。
松田のバットが動く。
しかし球はそこから外角に向かってストンと沈んでいく。
ぶんっ!
(…やったっ…!)
豪快なスウィングは、ボールに当たることなく空を切った。文句無しのストライク、ツー・スリーの
互角のカウントだ。
しかも、松田のバットの軌跡は明らかにあおいのシンカーを予測したものだった。それはつまり、
狙い球だったにも拘わらず当てることが出来なかったということだ。
…あおいは返球されると即座に投球モーションに入る。
ここまで来れば、あおいの選択はひとつしかありえない。
(ボクのシンカー…打てるもんならっ)
松田を威圧的なほどに睨み、身を縛める玩具の存在を無視し、ありたけの力を下半身に溜め込んで
右腕を振りかぶる。
しゅっ!
(…打ってみなさいっ!!)
ひゅるぅっ…
「っ!!?」
ワン・バウンド…
「あっ…あっ…?」
あおいは呆然と立ちつくした。
「おいおい、力みすぎだぜ」
キャプテンが笑いながら言う。あおいの球は、完全にコントロールを失ってホームベースの遥か前で
バウンドしてしまっていた。山田は何とかプロテクターに当てて止めていたが、どこから見ても完全な
ボールである。
「フォア・ボール」
キャプテンがつぶやくような声で宣告した。
ヴッ…ヴヴっ…ヴヴヴっ…ヴヴヴヴーッ…!
(あ…く…ううううっ!?)
あおいは思わず悲鳴を上げそうになる。バイブレータの振動は一気に強められていた。
(い…いやあ…いやあああ…)
へたりこみそうになる身体を、あおいは必死に支える。下着の奥でこっそり震えるだけだった
今までと違い、はっきりと存在感を示しながら膣奥がかき回されているのだ。平静でいられる
わけがない。
だが、あおいが何より嫌悪を覚えたのは身体に確かな快感が生まれてきてしまっている事だった。
ペニスを突っ込まれたときは痛みと屈辱しか覚えなかったのに、無機質な玩具で刺激されただけで
ひくひくと快感の芽が疼き始めている。スポーツ・ブラの下で乳頭が固さを示しているのが感じられる。
「おーい、あおいちゃん」
キャプテンの声に、あおいは思わずピクリと震えながら顔を上げた。そうしてしまってから、
慌てて自分が不自然な反応をした事に怯える。全員が自分の体を、その中にある玩具を見つめている
ような気がしてならなかった。
(は、早く終わらせ…ないと…)
投球モーションに入ると、脚を振り上げただけでバイブの振動が強く厳しく性感帯を襲ってくる。
キャプテンに触られたときは痛みしか覚えなかった小さな一点が、甘い感覚を帯び始めているのが分かる。
下半身全体がジンジンと痺れているかのようである。
…しゅっ
外角低めを狙ったカーブ…
カキンッ!
「うっ…」
その変化はあまりに小さく、打ち頃のゆるいボールとなってバットに吸い込まれていった。あおいの真横を弾丸性の打球が一瞬ですり抜けていく。
その打球がセンターの右方向に落下するのを見計らって、三塁ランナーは悠然と走り出した。一・二塁間で止まっていたファーストのランナーも、猛然とダッシュし始める。二塁を蹴り、三塁に向かって駆ける。打球は右中間のかなり深い所だ。
「あおいちゃん! 今助けるでやんすっ!!」
「えっ…?」
ランナーがサードで止まらずに本塁を狙おうと走り出した瞬間、レフトの矢部が叫びつつ返球してきた。
中継を介さない、直接のバックホームだ。本塁上の山田に向かって真っ直ぐに飛んでくる。サードランナーも全速で本塁に走ってくる。
ずさぁぁぁぁぁぁっ!!
ツーバウンドのボールが山田のミットに収まるのとランナーが滑り込むのはほぼ同時だった。山田を迂回して、ランナーがスライディングざまにホームベースを叩こうとする。
「…アウトっ!!」
主審がジェスチャーまで交えながら本戦さながらに叫ぶ。
「ふっ…この矢部明雄、あおいちゃんの失点を増やすようなやわな肩は持ってないでやんすっ!
…ってあおいちゃん、なにか体の調子が悪いんでやんすか?」
「だ、だ、大丈夫…あ、ありがとうっ、矢部っ、くんっ…!」
…ツーベースと1失点、これで9段階目。あおいは股間を押さえ込んでしまいそうな衝動を必死になって
こらえていた。言葉が跳ね上がってしまうのをもう隠すこともできない。
(っ…んふうっ…!)
ぷちゅっ、ぷちゅっと恥ずかしい液体が噴き出すように溢れてくるのが自分でも分かる。バイブがめり込んだ部分がぬるぬると潤いを帯びていくのが感じられてしまう。ブルマの生地がスリットの形に沿ってじっとりと濡れてきている。
「おい、あおいちゃん、どうしたんだ?」
「…なっ、なんでっ…もっ…」
バッターボックスに入っているのはキャプテン本人だ。わざとらしい問いかけに怒りを覚えつつも、反論する事など出来ない。口を開けばそれだけでボロが出てしまいそうだ。
(お、終わらせないと……終わらせ…ないとっ…)
あおいは残り僅かな気力と理性をかき集めて、投球動作に入る。両脚が閉じるのを避けているのが少し見れば分かるほどに崩れたフォームだったが、なりふり構わずにあおいは全ての意識をボールに叩き込んだ。
びゅっ!
最初の方に投げた物に勝るとも劣らない、鋭いシンカーがバッターボックスに向かって走る。
「…!?」
その時、キャプテンがバットを寝かせた。
こんっ…
三塁線に向かって、転々と勢いを殺されたボールが転がっていく。ランナーは既にスタートしていたが、集中力の片鱗をも奪われたあおいに素早く反応する余力は残っていなかった。
ざざっ…
必死に前に向かって走る。しかしボールを掴んだ時にはサードランナーが本塁を駆け抜けていた。ファーストに送球してバッターをアウトに取るのが精一杯だ。
「ゲ、ゲッツーのっ、可能性が、あるのにっ、スクイズなんてっ…」
「警戒心なさすぎだぜ、あおいちゃん」
ヴヴヴ…っ!
「っ!」
キャプテンの声と同時に、バイブが激しくあおいの秘部を責め立てる。1段階のはずであるのに、それはフォア・ボールを与えたときと同じほどに段違いの変化を見せていた。ヘッド部分がうねり、イボのついた首がごりごりと膣壁をこすり、全体のバイブレーションが潤いきった蜜壷を完全にとろかしていく。
ビクンッ…
あおいは土の上にぐったりと崩れた。
ビクッ、ビクンッ…ビクビクンッ…ビクンッ
しなやかではあるが、あくまで華奢な少女の身体が幾度も痙攣する。容赦のない快感の
波はついにあおいをグラウンドの上でイかせてしまったのだ。
「あおいちゃんっ…どうした? 歩けるか?」
「くっ…う…」
あおいは下腹部の辺りを抑えつつ、恨めしそうな声を上げることしかできない。
その瞬間、あおいをエクスタシーに至らしめた器具はぴたりと動きを停止した。
「どうだ?」
「………」
あおいはふらつきながらも、土の上に立ち上がる。力無く垂れた顔は涙に濡れていた。
「歩けるみたいだな…はるかちゃん、ちょっと保健室に連れてってやってくれるか?」
「はい、わかりました…あおい」
はるかが近づいてくる。
「は…はるか…」
あおいはためらいもなくその手が差し出された事に、反射的に抵抗を感じた。しかし
再びスイッチをONにされる恐怖に負けて大人しくはるかの肩を借りる。
「じゃあ、はるかちゃん頼んだぞ」
「はい、キャプテン」
そのやり取りを背に、あおいは思考を真っ白にしながらふらふらと校舎に向かって
歩いていった。
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