ぬるん…
「んっ…うう…!」
「よし、入った」
満足そうな感想と共に、下げられていたあおいのブルマーがゆっくり戻されていく。
その恥丘は多少ぬめった潤いを帯びていた。そして何より、割れ目の間から原色ピンクな
玩具の端をのぞかせていた。
「な、なんでこんな!」
あおいはユニフォームのズボンを上げる事すらせず、かすかに震える。その様子を
見守るのは、あおいと同じユニフォーム姿の男と制服姿の女子生徒だった。どちらが
犯行に及んだのかは言うまでもない。もっとも女生徒の方も、一応困惑の様子を見せては
いるものの、特に咎めたり驚いたりしている様子はなかった。
「外でみんなシート打撃の準備してる。ワンナウト、1・3塁」
「そ、それがどうしたのよっ」
こくんと唾を飲み込む音を立てつつ、あおいは更衣室の入り口の方へと神経質そうに
目を向けた。
「はるかちゃん、これね」
男はそれを無視して、制服の少女に小さな箱のような物を手渡す。
「なんですか…?」
「シングルヒットなら、目盛りを右に一個回す。二塁打なら二個、三塁打なら三個。
フォアボールなら四個。打ち取ったら左に一個、三振なら左に二個。点が入ったら、
1点ごとに右に一個。分かるね?」
「は、はぁ…」
少女は目をしばたたかせながら、受け取った箱に付いた目盛りを眺める。10段階ある
その目盛りは現在左端、0に合わされていた。
「ただしホームランが出たら一番右まで一気に回す」
「…わかりました。でも、これは…?」
「な、何を考えてるのっ!?」
あおいが焦った声を上げる。しかし異物感のためなのか、二人に近寄って制止しよう
という様子はない。
「打者九人回ったら交代だから、それまで頑張るんだね、あおいちゃん」
「い、いやっ! ボクはそんな事しないよっ!」
「…へぇ」
「もう十分でしょっ! ボ、ボクにあれだけ乱暴したんだから…もう…」
「チーム全員を裏切っておいて?」
「そ、そんな言いか…たっ…」
男の言葉に、あおいは崩れ落ちるように威勢を失ってしまった。その目には何かの
記憶を映していると思しき涙が滲んでいる。
「あ、あの…」
見かねたのか、はるかと呼ばれた少女がおずおずと男に声を掛けた。
男は彼女の肩にぽんと手を置いてから、
「はるかちゃん、これはあおいちゃんにとっても必要な特訓なんだって話はもうしたよね」
「…はい」
諭すような声で話し始めた。
「どういう効果があるのか分かる?」
「分かる…と思います。このスイッチを回すと…」
言いかけてから、はるかは真っ赤になって下を向いてしまった。
「最終回を預かるんだったら、ランナーを1人も出さずに切り抜けられなきゃだめだ。
ランナーを出して動揺するのはあおいちゃんの悪い癖なんだから、荒療治でも治さ
なくちゃならない」
「…はい……でも」
構わず話し続ける男の声に、はるかがチラと顔を上げる。
「はるかちゃん、君もオレと付き合って色々体験して体が健康になっただろ」
「………はい、それはその通りです」
「信用してくれるよな」
「………」
「はるかちゃん?」
「…わかりました、あおいの事は全てお任せします」
「はるかっ!?」
やり取りを見守っていたあおいが絶望的な声を上げる。
「あ、あおい…大丈夫、信じて…私も不安になった事はあったけれど、最後にはちゃんと…」
「はるか、騙されてるっ! 5年間も親友やってきたボクを信じないで、そいつを信じるの!?」
「……あおい、頑張って…そうすれば、きっと」
たたたたっ…
更衣室に、乾いた革靴の音が響く。
「は…はる…」
「よし、行こうか」
男があおいのユニフォームのズボンを引っ張り上げた。
「よし、プレイボール」
男が声を掛けた。その背番号は1、この恋恋高校野球部の創設時からエースとして活躍
してきたキャプテンである。あおいも少なからず信用を置いていた男だった。去年の夏頃から
はるかが彼と恋に落ち、何かが変わってしまった時まで…そして、この秋の大会の決勝戦で
あおいが背信した事を理由に激しい乱暴を受けた時までは。審判がその男ではないのが
せめてもの救いだった。
あおいはグッと硬球を握りしめる。何故こんな事になっているのか分からない。全くの
理不尽だ。しかしそれに論理的な形で対抗出来ないのがあおいだった。
「ああ、それから山田、今日はあおいちゃんに配球全部任せてくれ」
「え?」
マスクをかぶっていた捕手が怪訝そうな声を上げる。
「たまには自分とは違う人間の配球を見てみるのも参考になるかもしれないだろ」
「うーん……ああ、わかった」
多少納得の行かなさそうな声だったが、彼はうなずいてからミットを構えて座り直した。
「あおいちゃんも分かったなー?」
「うん」
返事をしてから深呼吸する。8つの守備位置、バッターボックス、1・3塁には既に部員が
スタンバイしていた。
「行くよ!」
「ああ、みんな気合い入れて行けよー」
『おー!!』
グラウンド全体から一斉に声が返ってきたのを合図に、あおいはセットポジションから
第一球を放った。
ビシッ!
外角のきわどい所に決まるストレート。打者のバットは全く動かず、1ストライク。
(う…)
だが、順調にスタートを切ったにも拘わらずあおいの表情は冴えない。アンダースローの
モーションは必要以上に下半身の大きな動きを要求する。それは必然的に異物感を強く
あおいの体に伝えてしまう。投げ終わるまでにぐりっと玩具の位置が移動するのをはっきり
感じられるほどだった。
「ポンポン行こうぜ、あおいちゃん」
「わ、わかってるよっ」
大声を発することで下半身から気を散らしつつ、第二球。1球目とほぼ同じ所からスッと
変化するカーブだった。
キン…
バットの端を掠めただけの打球はファースト方向へ力無く転がり、そのまま切れてファール。
(よしっ…)
ボールの力は普段通りのようだった。何も気にせず、落ち着いて投げれば大丈夫だ。
ランナーに少し目をやってから、第三球。甘めの所に入ったと見せかけて一気に膝元まで
沈み込んでいくあおいの必殺球、シンカーだ。
ぶんっ。
バットは空を切った。三球三振だ。
「高野、簡単に追い込まれ過ぎだぞ?」
「すいませんー」
キャプテンに頭を下げてからバッターボックスから下がる。
(高野君はやっぱり中と外の投げ分けに弱いのかな…)
円谷と1番バッターを競い合う俊足も、打球が前に飛ばなければ怖くない。あおいはボールを
玩んで意識を下半身から逸らそうと試みつつも、まだ後輩の心配をするだけの余裕を持って
いるようだった。
「甘いでやんす!! 今のシンカーなんて来るのが分かっていて当然でやんす!!」
そこに、大きな声が飛んでくる。
「…うるさいわよっ、メガネ!! そう言うのは打ててから言いなさい!」
「ふっ、この矢部明雄、あおいちゃんのデータならどんな細かい物もチェックしているで
やんす!! どこからでも掛かってこいでやんす!」
「望むところよっ」
豪語しつつバッターボックスに入ってくる矢部をあおいはにらみつける。そう、真剣に
野球をしているという意識があれば多少の異物感なんて気になるはずもない。
「打てるもんなら打ってみなさいっ!」
第一球。
…バシッ。
内角の低めに落ちていくカーブが、キャッチャーのミットに収まった。ボール。
「そうやって相手を挑発しておいてからのボール球、データ通りでやんすね!」
「黙りなさいよっ、メガネっ! ボクの球を打ってから言いなさいっ!」
間髪を入れずの第二球。外角の低いところいっぱいにストレートが走る。
「好・球・必・打でやんすっ!!」
キィンッ…!
「あっ!」
アッパースイングながらも、矢部のバットはあおいのボールを捉えていた。ふらっと
ボールが上がってライト方向に流れていく。
…ぽとっ。
「!」
前進してきたライトのグラブは届かず、ボールは土の上に転々ところがった。彼が慌てて
掴む間にも3塁ランナーはホームイン、中間位置にいた1塁ランナーも2塁セーフ。当然
矢部も悠々1塁セーフだ。
「武内、判断が甘いでやんす! おいらだったら今のフライは絶対取れていたでやんす!!」
「ポテンヒット打ったくらいで威張ってるんじゃないわよ、このメガネっ! クリーンヒット
打ってファインプレーしてから言いなさい!!」
「打ったもん勝ちでやんす!」
「この口減ら…ずぅっ!!?」
あおいの声が絞られるように小さくなる。
「? どうかしたんでやんすか?」
「な、なんでもないわよっ、さっさとライトに入んなさいっ…」
「…分かったでやんす」
矢部は眼鏡を上げてからライトに走っていく。
(こ、こんな…)
あおいは手で押さえてしまいそうになるのを必死にこらえて、はるかに下された命令の
内容を思い返していた。シングルヒットと1打点。つまり…
ヴヴヴヴ…
(い、いやっ…もう…こんなになんてっ…!?)
2段階目の強さという事になる。しかしその振動は、止まっていた時と比べ物にならない
ほど強い攻撃を大切な部分に与えていた。
「あおいちゃーん、もうバッター入ってるぜぃ」
「…あっ…うん」
歩き方が不自然にならないように細心の注意を払いながらピッチャーマウンドに戻る。
それだけでも理性と体力を吸い取られてしまうかのようだった。生まれて初めて味わう
振動が、一時の間も入れずにあおいの性感を浸食していく。
(…はるか…止めて!)
あおいはキャプテンの隣に立っている親友に、視線で力の限りアピールする。だが
はるかは、あおいから目を反らすようにしてスコアノートに目を落としてしまった。
「よし、プレイボール」
(…う…ううっ)
キャプテンの声。
(…これからが、本当の始まりだぜ?)
彼が暗にそう言っているのが、あおいにはひしひしと感じられた。
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