またたびスタジアムの選手ロッカールーム。 
「………」 
パイプ椅子に座った彼が、着ているのと同じ色のユニホームを持ち、 
「あおいちゃん……」 
片手をしきりに動かしている。  
コンコン、と軽いノック音。ぎくりと彼はドアを振り返る。 
「先輩いますか?」 
女の子の可愛い声。  
ちょっと間を置いて、またノック。 
「先輩、いるんですよね?」 
ドアノブがガチャガチャしはじめる。 
「入るところ、見たんですよっ!」  
彼は諦めて大きく息をつくと、 
「今開けるよ、みずきちゃん」 
ドアに声をかける。 
「やっぱり。いたじゃないですか先輩」 
怒った声が返ってくる。  
肩をすくめ、彼はユニホームを椅子に置いてロックを外す。とたんにドアが開く。  
「何やってたんですか?鍵までかけて」 
立っていたのは、日焼けした顔で、青髪を変則テールにした少女。  
漂う男の部屋の臭いに顔をしかめながらも 
「居留守なんてひどいですよ」 
彼を見上げ、睨みつける。  
「ちょっとね。何か用かな、みずきちゃん」彼が素早く用件を聞く。  
「先輩。ボール受けてくれるっって言いましたよね」 
少女はさらに彼を睨む。 
「忘れたとか言いませんよね?」  
「あ……」 
彼が頭をかき 
「忘れてた。ごめん」 
両手を前で合わせる。 
「やっぱり」 
少女は細い眉を逆立てる。  
「だいたい先輩……どうしてロッカーに戻ったんですか?」 
少女の目が彼の顔や姿を探る。 
「さっきまで、あおいせんぱいと練習してたのに」  
「いやその……いろいろあって」 
彼がまた頭に手をやり、 
「先に行っててくれないかな」 
何気なく部屋の中を振り返る。  
「?」 
少女がその目線の先を負う。椅子の上の、折りたたまれたオレンジのユニホーム。 
「これ、誰のですか?」 
さっと椅子に走り寄る。  
「あ!」 
彼が思わず高い声を出す。 
「それ、あんまり触らないほうが」 
「何でですか」 
「と、とにかく……」  
少女は、持っていたスポーツバッグを床に置き、構わずユニホームを伸ばしてみる。 
小さめのユニホーム。  
バックナンバー01。  
「あおいせんぱいの……でも、どうして先輩が?」 
少女は首を傾げて彼を見る。彼が苦い顔になっている。  
「あ!」 
はっと少女は頬を紅く染め、じろりと彼を見る。  
「ふーん……先輩。そういうことだったんだ」  
 
「な、何がかな?」 
聞き返す彼の額に、汗が浮かんでいる。  
「あおいせんぱいって、いい匂いしますもんね」 
冷めた目で少女が皮肉る。 
「わたしでもドキドキしちゃうくらいです。男のひとなら尚更ですよね〜」  
「な、何のことかわからないよ」 
彼は手でパタパタと顔を扇ぐ。 
「そんなことより、ブルペン行かなくていいの?」  
「だから、先輩呼びに来たんじゃないですか」 
「そ、そうだった。でも今はちょっと……」 
「先輩、何かするんですか?」  
「ま、まあね」 
彼は渋い表情を見せる。 
「だから、みずきちゃんだけでも。行けば誰かいるだろうし……」  
「ここにいると、わたし邪魔なんですね?」 
少女が邪険に言う。 
「そうですよね〜」  
「いや、そういうことじゃなくて……そ、そうだ。試合は、っと」  
無理に笑いつつ、彼がモニターのスイッチを押す。ブラウン管の真ん中に映るマウンドに、 
オレンジ色の選手が数人集まっている。  
「あっ!千葉さん交代?あおいちゃんだ!」 
マウンドに向かうおさげの投手を見て、彼は喜々として叫ぶ。  
「………」 
少女がわずかに顔を歪ませる。それでも映し出される女性投手のアンダースローを、きら 
きらした瞳で見つめる。  
「あおいちゃん、がんばれ!」 
少女以上に輝いた目で、彼は同僚の投球練習に見入っている。 
「よし。さっきの調子のままだ。いけるよ」  
「……あおいせんぱいって」 
少女が低い声をかける。 
「カッコいいですよね」「うん。カッコいいよね」 
モニターを見つめたまま、彼はうなずく。 
「かわいいですよね」 
「うん」 
「それに、美人だし」 
「うん」 
「先輩、56+18は?」  
「え?えーっと、ななじゅう……」 
彼は慌てて頭をめぐらす。 
「はい時間切れでーす」 
少女が手を伸ばし、テレビ電源をオフにする。  
「こらこら、みずきちゃん。せっかくあおいちゃんが……」 
彼が映像を点けなおそうとする。 
「先輩!」  
それを遮って、少女がモニターの前に立ちはだかる。 
「え……な、なんだい」 
少女の真剣な眼差しに、彼も笑いを消す。 
「先輩。わたしって……」 
少女の頬が染まる。  
「……わたしって、ひとりえっちしてると思いますか?」  
 
「ええっ?」 
あまりに突然な問いかけに、彼は聞き返す。 
「な、何でオレにそんなことを?」  
「リミット3秒です」 
顔の朱みを濃くしつつ、少女が答えを急かす。その体は小刻みに震えている。  
「それはその……」 
答える彼も照れている。 
「し、しないんじゃないかな」  
「ブ〜〜、はずれです」 
明るい声とは逆に、少女がうつむく。 
「……してるんです。わたしだって」  
「そ、そうなのか」 
彼は引きつった笑いをつくる。 
「でも、そういうのは別に……」  
「しかも…先輩のこと考えながら、です」 
少女がいよいよ真っ赤な顔になる。  
「み、みずきちゃん…?」 
彼の顔も、のぼせ上がって朱くなっている。 
「オレのこと、って……」  
「……えっちな娘だって思いました?」 
顔を少し上げ、少女が上目遣いで彼の顔を見つめる。 
「嫌われちゃいました?」  
「いや、そんなまさか。みずきちゃんだって女の子なんだし」 
「はい。先輩も男です」 
「う、うん。その通りだよ」 
彼はしどろもどろになっている。  
「だけどそんな秘密をオレに教えてくれるなんて、その……嬉しいよ」 
彼はどうにか言葉を選ぶ。 
「信頼してもらってるんだね、オレって」  
「はい。ですからっ…」 
少女が顔を上げる。きゅっと唇を噛む。手を伸ばす。彼の手を握る。  
「ひとりでするより、ふたりでしましょうよ」  
 
「ふ、ふたりでって?」 
彼は素っ頓狂に声をあげる。 
「みずきちゃん、何言ってるか分かってる?」  
「あたりまえです」 
少女がまた唇を噛む。 
「わたしじゃ駄目ですか?」 
前に一歩踏み込む。 
「先パイっ!」  
「だ、駄目とかじゃなくて」 
彼は思わず身体を引き、 
「チームメイトどうしでってマズいんじゃないかな。それにいま試合中だし……」 
必死に少女を押しとどめる。 
「このことは、試合終わったら話そう。ね?」  
「やっぱり嫌いなんだ」 
少女の顔が曇る。 
「違うよ!」 
彼はあわてて首を振る。 
「オレはただ……」 
「もういいです」 
少女が投げやりに言葉を尖らす。  
「わたし、まだ子供なんですよね〜」 
「え?」 
「胸とかないし」 
「あの……」 
「あおいせんぱいのがいいんですよね」 
「…みずきちゃん!」  
彼は少女の肩をつかむ。 
「どうしたんだ、みずきちゃんらしくない。キミはキミだって言ったじゃないか」  
「先輩。今でも、そう思ってくれてますか?」 
「当たり前だよ」 
「それなら…」 
少女の目に涙が浮いている。  
「わたしのこと、もっと知ってください」 
「……」 
彼は黙る。  
「わたしも」 
肩の彼の手に、少女が熱い手を添える。 
「わたしも、先輩のこと、もっと知りたいから」  
彼は肩をすくめ、額に手をあて前髪を掻き上げる。 
「みずきちゃん」 
少女を見、僅かに口元を緩ます。 
「そうやって迫られっと……オレだって男だしスケベだから、その、素直になっちゃうよ」  
「なってください」 
少女がほほえむ。ためた涙を床に落とす。 
「素直がいちばんですよ。先輩は先輩です」  
「……わかったよ、みずきちゃん」 
彼はまだ堅い表情ながら 
「じゃ、おいで」 
笑い、少女に腕をひろげる。  
「先輩っ!」 
少女が飛びつく。彼が受け止める。 
「みずきちゃん」 
しっかりと腕を絡ませあう。ユニホームの身体を押しつけあう。 
「あ、待って先輩」 
少女が離れ、ドアへ近寄って鍵を下ろす。 
「これでオーケーです」 
振り向きかけた少女が 
「…みずきちゃん」 
彼に後ろから抱きしめられる。  
「あ…せ、セン、パイ……っ」  
 
「はぁ、はぁ、せんぱ、先輩っ……」 
切なく上気した少女が、両腕でロッカーの仕切の支柱を抱えこんでいる。 
「いじわる……っ」  
「それなら、みずきちゃん」 
彼が、その少女の体に腕を回して覆い被さっている。 
「最後まで、しちゃうよ。いいんだよね?」  
「はいっ」 
少女がうなずく。少女のオレンジのユニホームはアンダーシャツごと肩までめくり上げられ、外  
にさらされた真っ白な肌には汗がいくつも浮き出ている。 
「しちゃってください」 
半分のぞくスポーツブラには、背後から彼の手が差し込まれている。  
「胸、苦しくない?」 
「ううん。先輩の手、あったかいですから」 
「そ、そう」  
穿いていたニットパンツは、可愛い模様のショーツといっしょにずり下ろされ、足首にまとわり 
ついている。  
そして露わにされた少女の内膝には、少女の愛液と彼の唾液の混液が滴り落ちている。  
「入れるよっ、みずきちゃんっ……」 
「は、はいっ」 
「力、抜いて」  
赤黒い彼の肉竿を突き立てられた少女の裂け目。 
「うぁ……」 
拡げられ、少しずつ呑まされていく。 
「せ、先輩がっ……!」  
「…みずきちゃん、もう少し力抜いて」 
耳元でささやき、彼が腰を進ませる。少女が呻く。 
「あ……はっ、はいって……くるっ」  
「みずきちゃんのなか…すごい……」 
少女を抱きしめながら、彼が感嘆を漏らす。 
「熱くてキツくて……」  
彼がいったん腰を止める。息を吸い、 
「最後だよ……」 
余した根本を無理やりに挿し込む。 
「はぅうっ!」  
少女が指を握りしめる。  
「全部、入ったよ」 
彼が少女の耳元でささやく。 
「はい…先輩の……あたってる」 
少女がうっとりした顔で  
彼を見返る。 
「先輩…わたし……どうですか?」  
「うん。すっごく、いい……みずきちゃんも、だよね?」 
「えへ…はい……でも先輩のって、すごく大きくて……」  
「そ、そう?ありがとう」 
彼が少女のこめかみに唇をあてると 
「夢みたいだなあ……みずきちゃんと、こうなれるなんて」 
感慨を込めて、ささやく。  
 
「先輩…あの……」 
急に少女が彼から視線を外す。 
「姉さんが……」 
「お姉さんが?」 
「先輩のこと、その、カッコいいって……言ってました」  
「へえ、じゃあ」 
彼が照れ笑いを浮かべる。 
「オレとみずきちゃんて、公認の仲なんだ」 
「えっ!?」 
「はは、なんて……ね」  
「そ、そうですねっ!」 
少女がぱっと明るくなる。 
「えっちでも、何でも、やっちゃえってことですね」  
「それはないと思うけど……」 
彼が苦笑し、 
「じゃ、みずきちゃん、そろそろ……」 
下腹部を少女の滑らかな尻肉に押しつける。  
「しっかりつかまって」 
彼が少女の体を抱え直す。 
「はいっ」 
少女も前を向き額を柱に押しつける。 
「んっ!」  
ブラがはずれかけ、彼の手で軽く盛り上げられた少女の乳房が現れる。  
それは小ぶりながらも彼の指をふっくら包み込んでいる。 
「みずきちゃんのおっぱい、柔らかいな」 
「え…でもでもっ」 
「本当だよ」  
かたく尖ったピンクの突起は彼の中指と薬指に挟まれていて 
「んくっ!」 
彼の指が曲がるたび幅がせばまり、摘まれる。  
「……動くよっ」 
声とともに、彼が腰を揺すりはじめる。 
「はひぃ…っ!」 
少女が呻いて背を反らす。 
「せ、先ぱ…っ、もっと、や、優しくっ……」  
「ごめん。だけどみずきちゃんが……」 
彼が手と腰をゆっくり動かしながら 
「可愛いすぎて……」 
ささやき、舌で少女の耳を撫でる。  
「ひゃっ!もう、せ、先輩っ……」 
「だって本当だし……」 
「そんっ……や、やぁっ!せ、先輩のが、こすれてっ……」  
少女の胸を揉みしだきつつ、 
「みずきちゃん……」 
彼が腰を回し、突き上げ、突き下げる。 
「感じてくれてるんだ?」  
「は……あっ、あっ、あっ」 
彼の動作のたびに少女があえぐ。前髪は汗でべったりと額に張り付いている。  
「はいっ……せ、先輩もっ……感じて、ますかっ?」  
「もちろん…!」 
彼が荒い息を吐きながら答える。 
「気持ち良すぎて、幸せすぎて、死んじゃいそうだよ!」  
「わっわたしもっ……!」 
少女が支柱を両腕で抱えこんでいる。 
「へ、へんになりそうです……ふぁっ!」  
白い太股がきゅっと引き締まる。  
「そんな締め付けたら、駄目だって!」 
ゆっくりだったはずの彼の動きが速く激しいものになっている。 
「み、みずきちゃんっ……オレっ」  
 
彼が少女の胸から手を外し 
「くっ」 
真っ白な桃尻を両手で横から掴み、持ち上げる。 
「んぁっ……!」 
少女の足がつま先立ちになる。  
「みずきちゃんっ…これで終わりだからっ」 
半ば以上まで引き、勢いよく突く。抜く。突く。 
「ふあぁっ!」  
少女が悲鳴を上げる。 
「せっ先輩ダメぇっ!」  
「こんな…こんなすごくされたらっ、わたし今日の……ひゃあぁ!」 
少女の結んだ髪がぴょんぴょん揺れる。  
「ごめん、みずきちゃん。もう止めらんないっ!」 
彼が叫びつつ、テンポよく少女の膣を犯す。 
「ハッハッ」  
彼の陰袋がペチペチと少女の内膝を叩いている。  
「あはぁああっ!」 
動きの速さに彼をくわえこむ少女の微かなヒダがめくれ上がり、ぐちゅぐちゅと白く泡立つ。 
「せ、先輩っ!」 
少女が目をぎゅうっと閉じ、必死に支柱へしがみつく。 
「わたし、わたしぃ……っ!」  
「くっ、だめだオレもう……」 
少女に腰を叩きつけながら、彼が呻き首を振る。 
「みずきちゃん、一緒にっ!」  
彼の右手が少女の下腹部に潜る。汗に濡れた薄い茂みを滑り、充血して尖る肉芽を探り当てる。 
「きゃあっ!」  
少女がビクリと震える。  
「うわっ!」 
彼も歯を食いしばる。 
「す、すげえ締まったっ……」 
腰は止めない。加えて、右手で少女の下腹部の肉を掴むようにし、その爪先で肉芽を擦る。  
「せ、先パっ!そこっ……あっあっ、わたしっ…ほんとおかしくなるぅっ……!」 
「いいよなって……オレも、もう、おかしい…」  
汗が舞う。涙が飛び散る。 
「先輩っ、先ぱいぃ…っ!」 
「みずきちゃんっ!」 
かすれた声で何度も呼び合いながら、ふたりが昇りつめていく。  
 
「だ、だめだっ」 
とうとう彼が呻く。 
「くっ……!みずきちゃん!!」 
目を閉じ天井を仰ぎ、叫ぶ。 
「出るっ………!」  
ぐいぐいと少女の腰を引きつける。彼の腰がぶるっと震え、少女に押しつけられた陰袋がどくど 
くと脈打つ。  
「んあっ、あぁ………あうっ!!」 
次に少女が背と脚を伸び上げさせ 
「……せ、先輩がぁ」 
虚ろに目を見開く。 
「びくびくして……る……」  
「く……っ」 
未だ彼の陰袋は脈動していて、 
「お、終わんね…っ」 
彼が少女に腰を押しつけ続けている。  
「あ、あ……」 
少女もぶるぶると腰を震わせていて 
「先パイ……」 
涎を流し微笑みを浮かべている。  
「は、はぁ…はーはー……」 
ようやく彼が荒い気を吐き、少女からズルリと引き抜く。彼と少女に糸が繋がり、ぽたりと伝い落ちる。  
「あ……」 
少女の脚から力が抜ける。膝が曲がって床に崩れ落ちそうになるのを 
「……っと 
」彼が後ろから抱きとめる。 
「大丈夫?」 
「は、はい」  
「みずきちゃん…」 
彼が少女の髪を優しく撫でる。 
「よかったよ……」 
彼の目にも涙が浮いている。  
「は…はい……」 
少女が、彼に完全に体重を預け、 
「先輩……」 
瞼を閉じたまま 
「あ……ありがとうございまし、た……」 
と、幸せに微笑んだ。  
 
しわになったユニホームに袖を通しながら、少女は彼を振り返る。 
「わかんないですよね?」 
「たぶん…ね」  
すでに着替えを終えた彼が、白く膨れた風船をビニル袋で何重にも包んでいる。 
「まだ臭う?」 
「わかりません。でも」 
少女は彼の手許を覗き込む。 
「先輩って、そういうのいつも持ち歩いてるんですか?」  
「もちろん。男の身だしなみ」 
彼がまじめな顔で言う。少女は吹き出す。 
「そうなんですか」  
「まあ、本当言うと何かの講習会で配ってたのなんだ」 
彼が頭を掻く。 
「いつあったんだっけ……」  
「だけどそういうのって、前に誰かがイタズラして、針で穴開けてあったりとか……」 
「ええっ?」 
慌てた彼がビニル袋をほどきかける。  
「っと、破れてなんかいなかったよな」 
彼がほっと息をつく。 
「みずきちゃん。そんな話どこから聞いたの?」  
「ヒミツでーす!」 
少女が白い歯を見せる。  
「はは……ん?針、か」 
ふと彼が、椅子の上のあのユニホームを見る。 
「どうしよっかな……」 
「………」  
少女は、むっと眉を吊らす。  
「先輩って何で……」 
「え?」 
「い、いえ……あっ、そうだ!」 
少女はバッグを開け、 
「先輩、これっ!」 
脱いだばかりのシャツを差し出す。 
「先輩にあげます!」  
「よくわからないけど……もらっていいなら」 
彼が苦笑しつつ、少女の汗に濡れたアンダーシャツを受け取る。 
「大事にするよ」  
「ですから」 
少女は椅子からユニホームを取り上げる。 
「こっちは、あおいせんぱいに返しときますねっ」  
「あ!だから触っちゃ駄目だって」 
彼が慌てて少女の腕をつかむ。 
「まだ針、刺してあるんだから」  
「……え?先輩、今なんて」 
少女の動作が止まる。 
「針、って……?」  
「うん。縫ってる途中なんだ。怪我するといけないよ」 
彼が少女の手からそっとユニホームを取る。袖から針がぶら下がる。  
「さっきの練習で破れちゃってね。縫い直し頼まれてるんだ」 
「ええっ?」 
少女は目と口を大きく開く。  
「本当いうと、あおいちゃん自分で直すって言ったんだけどさ。オレがちょっと無理言って 
持って来たんだ。ピッチャーに指を怪我さすわけにいかないから」  
「せ、先輩が裁縫するの?」 
「うん。一人暮らし長いから」 
彼が情けなく笑う。 
「先輩たちにけっこう好評だよ。オレの修繕」  
 
「……じゃ、じゃあ」 
少女はまだぽかんと口を開けている。 
「じゃあどうして、鍵なんか掛けてたんですか?」  
「こういう仕事をオレに頼んだことをみんなに知られるの、あおいちゃんは嫌だろうからね」 
彼が照れて頭をかく。  
「それに、矢部君があおいちゃんのユニホーム見たら、矢部君が直したがるだろうし。 
矢部君て模型作るのは巧いけど、こういうの苦手だから」  
「…………」 
少女は、口に手をあてる。 
「どうかした?みずきちゃん」 
彼が首を傾げて聞く。 
「いいえ、な、なんでもないですっ!」 
少女は、あわてて顔を横にぶんぶん振る。  
「…なんか、ありそうなんだけど」 
「いいえっ。わたし誤解なんてしてません」 
「あ……そ、そう」  
「それに」 
少女はうつむき、 
「結果良ければすべて善しだもん」 
ひとりごちて、顔をほころばす。  
「え、みずきちゃん。何て言ったの?」 
彼が少女の顔を覗き込む。  
「ええっと、その」 
「試合中にお裁縫なんてやめたほうがいいって言おうとしたんです。 
先輩だって、怪我したらどうすんですか」  
「そっか。サンキュー」 
彼がにこりと笑いかけ、 
「……そうだ試合!」 
叫んでテレビを点ける。  
「あっ!あおいちゃん!」 
モニターに、帽子をとり汗を拭っている女性投手が再び映る。 
「ノーアウトのランナーか……」 
彼が難しい顔になる。  
「……先輩」 
少女はじっと彼の表情を見守る。彼がちらりと少女を見、 
「みずきちゃん。ここどう抑える?」  
と問いかける。 
「えっ?」 
少女は面食らう。  
「あおいせんぱいなら、やっぱりインのマリンボールですよね」 
「うん」 
彼がうなずく 
「それを何球目に投げるかだけど……。うっ!?」 
彼が目を見張る。 
「初球っ?」  
投手のアンダースローから繰り出された白球が打者の膝元に落ちる。バットが振られる。鈍い音。  
「6−4−3!やった!」 
彼がガッツポーズをつくり、 
「やるなあ、あおいちゃん」 
感嘆する。 
「ちょっとでもずれてたら、レフト線だった」  
「さすが、あおいせんぱい」 
少女も、ほっと胸をなで下ろす。 
「憧れちゃいますね」  
 
「この分だとあおいちゃん、次の回もいけそうかな」 
彼が少女を振り向く。 
「その次は半田、豊島、片桐って左が3人続くから、きっとみずきちゃんの出番だ」  
「だったら先輩!」 
少女はスポーツバッグを持ち、 
「早くブルペン行きましょう」 
彼の腕をつかむ。 
「だ、だけど…」 
彼がまたユニホームを見る。  
「わたしがお願いしたって、せんぱいには言っときますから」 
少女は彼を引っ張り、ドアに歩きかけたところで 
「んっ……」 
足をふらつかす。 
「だ、大丈夫?」彼がさっと腕で支える。  
「へ、平気です。バッグが重くて」 
「そう?それならいいけど……あんなことした後だし」 
「……」 
二人とも顔を染めて黙り込む。  
「……もし投げるの無理っぽいなら」 
「せ、先輩が激しすぎたからじゃないですか」 
「これ、オレのせい?」  
「トーゼンです。これで力入らなくて打たれたら、ぜんぶ先輩の責任ですよ」  
「オレとしては、そっちのほうがいいかな」 
彼が気を取り直し笑う。 
「負け試合なら、試合出してもらえるかもしれないし」  
「あ〜っ、そういう魂胆だったんだ!」 
少女はわざと声を上げる。 
「先輩がそう言ったって、監督に報告しときますね」  
「わわっ、じ、冗談だよ。オレが出られなくても試合勝てば……」 
彼が慌てて手を振り否定する。  
「問答無用です。あ、そうそう」 
いたずらな笑顔で少女は彼を見つめる。 
「球場の近くに、美味しいイタリア料理のお店、あるみたいですね」  
「……はいはい。今度のオフ、必ずおごります」 
彼が参ったと両手を上げる。 
「だから告げ口はやめてね」  
「あ、どうせだし、あおいせんぱいも呼んで……」 
「おっと、それは駄目」 
「高いんですか?」  
「それもだけど……そのお店って」 
にやけた彼が、少女の耳に口をよせる。 
「ホテルのレストランで、けっこう有名な、デートスポットだから」 
「あ……」 
少女は赤面し、 
「そ…それなら2人で行かないといけませんよね」 
ひとりでうなずく。 
「そうだ先輩!」 
「ん、何?」  
「今日登板して、3人で抑えられたら」 
頬を染めたまま、少女は彼に満面の笑顔を向ける。 
「今晩、連れて行ってください!」  
「こ、今晩て……今晩も?」 
うろたえる彼に、 
「先輩、約束しましたからねっ!」 
少女はウインクしてみせた。  
 
 
 
 
 

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