一月一日、いわゆる元旦。
恋々高校一年生の矢部は同じ野球愛好会のキャプテンである小南(コナミ)君を初詣に誘おうと彼の家に行ったのだが、あいにく小南はもう初詣に出て行ったとのこと。
「ロンリー初詣でやんすか……」
いっそ初詣なぞ放棄してもいいのでは?敬虔な宗教心など1ピコグラムも
持ち合わせていない矢部はそんなことも考える。そもそもこんなに混むなんて不条理でやんす、
どうせ信仰心を持ってる奴なんてほとんどいないのだからみんな去年のうちに済ませておけば
いいでやんす。自分のことは完全に棚の上。とはいえせっかくここまで出て来た以上、
何もせずに帰るのはますます無駄に思える。矢部は半ば惰性で神社へ向かっていた。
と、前方に見慣れた背中。あの緑の三つ編みは…
「あおいちゃん!」
「あっ矢部君。ユニフォームでこんな所歩いて何してるの?」
「初詣でやんす。そういうあおいちゃんだってユニフォームでやんす。」
そこにいたのは我らが恋々高校のエース、早川あおい。しかも何故かユニフォーム。
「うるさいな。これは僕の晴れ着なんだよ。」
「あり得ないでやんす!」
そういう矢部がユニフォームなのは、初詣の後で小南と練習しようと思っていたから。なので
神社には明らかに場違いな鞄の中にはグローブも入っている。
「僕はこれから神社に行くけど、矢部君はもう初詣終わった?」
「いや、これからでやんす。」
「じゃしょうがないから一緒にいこっか。」
しょうがないから、とは酷い言われようであるが、矢部は気にしないことにした。一人でいくよりずっといい。
相手があおいちゃんなら尚更である。矢部はあおいに人には言えない淡い想いを密かに抱いていた。
いつかのロッカールーム。見つからない自分のグローブを一緒に探してくれたあおいちゃん。
小憎たらしい口はきくけれども、いや、小憎たらしい口をきくからこそ、
その存在は矢部にとって特別に思えるのだった。
「混んでるでやんす。これじゃ賽銭箱までたどり着く前に倒れてしまうでやんす。」
「う〜ん、しょうがないな。ここから投げちゃおう。」
えっ?矢部は我が耳を疑う。ここから賽銭箱までは約20m。たしかに投げて狙えない距離ではないが、
そもそも賽銭を投げるって、神様はそんなんで許してくれるのか?っていうかお金は大切にしなさい。
しかし止める間もなくあおいは投球モーションに入っている。右手には100円玉。
小さな体を大きく使ってのアンダースロー。
「えいっ!」
びゅーーん!
100円玉は賽銭箱よりやや左上に外れた方向へ一直線!ほらいわんこっちゃ無い。あの100円は
賽銭箱に入らなかった挙句、誰かに拾われてその人の賽銭になってしまうに違いない。
と、そのとき
ぐぐっ!
100円玉の軌道が変わった。賽銭箱の膝元に食い込むこの軌道は、シンカー。ちゃりーん!
「入ったでやんす!凄いでやんす!」
「へへっ。どんなもんだい!」
ちょっぴり得意げなあおいちゃん。っていうか100円玉で変化球投げれるのか?
しかし目の前でかような妙技を見せられた以上は
「こんどはおいらの番でやんす。」
矢部は5円玉を取り出す。
「けちねぇ。」
「違うでやんす。5円玉には御縁がありますようにっていうのがかけられて縁起がいいんでやんす。」
「ほんとに?」(いかにも疑っている眼差し)
「ほんとでやんす!このメガネは伊達じゃないでやんす!」
まだ半信半疑の様子のあおいちゃんはさておき、矢部も賽銭箱に狙いを定めて、
腕を大きく振りかぶって、投げた。
ぎゅーーん!
投げた瞬間、矢部は「!」と思った。方向は確かに合っているのだが、明らかに高すぎる。
これではお金は賽銭箱に入らずあおいちゃんの好感度が下がってしまう!だが、
がらんがらん、ちゃりーん。
矢部の5円玉は運良く鐘に当たり、そのまま真下に跳ね返って無事に賽銭箱の中へ。
「やったでやんす!プ○ゴルファー猿もびっくりのスーパープレイでやんす!」
「…何そのたとえ?まぁいいや。運良く鐘も鳴らせたことだし願い事しとこう。」
「運良くとは失礼でやんす!」
いや、じっさい運なのだけど。内心そう思いつつも口を閉ざし、二人は手を合わせて祈った。
「で、何をお願いしたんでやんすか?」
「ん。早く試合が出来ますようにって。そのためにはまず人数をどうにかしないと
いけないんだけどね。矢部君は?」
「えっと、野球が上手くなれますようにと、女の子にモテモテになりますようにと、
甲子園に行けますように、でやんす。」
「多い…。」
確かに多いとは思う。が、青春の欲望は多いもの。これでもずいぶんと絞った結果だ。神様だって
3つのうちならどれか一つは叶えてくれるに違いない。雑誌のプレゼントはがきだって5枚送れば
5倍当たりやすくなるはず。その割には掛けた金額はあおいの20分の一だったりするが。
「そんなに多くちゃ神様も呆れて叶えてくれないよ。」
「ひどいでやんす!そんなケチな神様許さないでやんす!」
「ケチって、君が言うなよ。…しょうがないな。少しくらいは僕が叶えてあげるよ。付いてきて。」
「えっどこ行くでやんすか?」
「いいから来なさい!」
そういってあおいが連れてきたのは恋々高校。さすがに元旦からやっているような
盛んな部はないらしく、辺りは校舎にもグランドにも人影はない。あおいは迷わずフェンスを乗り越え、
ためらう矢部を引きずりあげた。二人は無人のグランドに立つ。
「さぁ、さっさとグラブを出しなさい。」
「何するでやんすか。」
「野球上手くなりたいんでしょ?だったら……特訓よ!」
「やっぱりでやんす!」
しんどいのは嫌だけど、あおいちゃんとマンツーマンで練習、というのは逆らいがたい魅力があった。
矢部は嫌々するようなそぶりを見せつつ、内心は喜んで特訓を受けることにした。
かくして「早川練習」が始まった。
ノックをしようと思ったのだがさすがにバットまでは携帯していない。鍵が閉まっているから部室から
取り出すことも出来ない。だからあおいがその手で、フライなりゴロなりを投げ、それを矢部があおいに
真っ直ぐ返す、そんな練習になった。人の手で投げるものだからあまり遠く離れるわけにはいかない。
本来外野手の矢部ではあるが、二人の距離はマウンドとホームベースよりもちょっと遠いくらい。
それにしても矢部はあおいに翻弄されている。ぼてぼてのゴロで全力ダッシュした直後に、
頭を大きく越えるフライでバックダッシュ。それに比べてあおいはほとんど動かない。
動いたとしてもそれは矢部の返球が逸れたせいになる。矢部にしてみれば間違いなく不条理な
このシステムのせいで、矢部の脚はあっという間にふらふらになった。
矢部の横を抜こうかというワンバウンドの早いゴロを辛うじて回り込み、返球した直後に
投げられた球は全力前進の、おそらくキャッチャーフライだろうという軌道。矢部は他に目もくれず、全力で
それを追う。風はセンターからキャッチャー方向への逆風で風力3。ほとんど真上に上がったボールは
風でさらに押し戻される。なおも追う矢部。そして
「わわっ矢部君あぶない!」
「えっでやんす!」
がっしゃーーーん!
矢部とあおい、正面衝突。矢部のグラブには辛うじて白球。しかし矢部は、あおいに覆い被さるように
倒れている。あおいはその下からアイタタタ、と上体を起こす。矢部も両手で上半身を支えるが、
今ので疲労の堰が切れたらしい、脚に力が入らず立ち上がれない。
「矢部君、だいじょうぶ?」
「アイタタタ。もうだめでやんす。疲れて立てないでやんす。」
「そっか…だいぶ練習したからね。」
正直な話、普段の練習の倍くらい疲れがたまった。
「でも、これで一つ目の願いはちょっと叶ったかな?
……じゃ、今度は二つ目の願い、叶えてあげよっか?」
「……!?」
返事が出来なかったのは言葉の意味を取れなかったからではない。その意味を理解する前に、
矢部の唇はあおいに塞がれた。あおいは左手で矢部の背中を、右手で後頭部を抱え込み、
起こしていた上体をふたたび横たえる。
身体を支えていた矢部の両腕は脆くも崩れ、二人の上半身が、密着する。
「僕の命令だ。嫌とは言わせないよ。」
一瞬だけ顔を離し、悪戯な眼で繰り出す甘美な宣告。矢部には断る余地も理由もなかった。
矢部はあおいのシャツのボタンを上から一つずつ外していく。しかし、指先が震えて思うように外せない。
「遅い…」
「ごっごめんでやんす。寒さで指がかじかんで上手く外せないでやんす。」
嘘だった。さっきまであれだけ運動していたのだから、グローブをはめていた左手はもとより
右手だって指先が震えるほど冷たくはない。さっきまでボールをきちんと投げられていたのがその証拠。
「嘘つき。本当は緊張してるだけだろ?」
「うっ、凄いでやんす!何で判るでやんすか!」
「そりゃ矢部君の顔を見れば、ね。それに矢部君は普段から『チャンスに弱い』だろ?」
図星だった。緊張しているのも、そしてチャンスに弱いのも。しかし人から面と向かって
そう言われると、自分で分かっていてもちょっとショックだ。
「大丈夫だって。ここで上手くいけばチャンスに強くなるかもしれないよ。」
矢部が落ち込んだのを見て取ったのか、あおいはすぐにフォローを入れた。
「そっそうでやんすね。頑張るでやんす!」
矢部もすぐに立ち直る。気分屋なのはこういう時には都合がいいのかもしれない。矢部は気を取り直
してさらにボタンを外してゆく。しかし下の方のボタンはズボンの中。シャツの裾を引っ張り出そうと
したが、きゅっと細く締められたベルトに阻まれ出てこない。ベルトはひとまず後回しにし、シャツの
襟をぐっと肩口まではだけさせた。中には矢部が着ている物と同じ、明るい紫のアンダーシャツ。
矢部はそれも捲り上げようとした。が、先程のシャツと同じくベルトで締められて出てこない。
「ちょ、ちょっと、あんまり引っ張らないでくれよ。シャツが伸びちゃうだろ。」
そう言うとあおいは自らベルトを開ける。それを待たずに矢部はアンダーシャツを引き上げる。
ちゃらん、とベルトの金具が鳴って、シャツとアンダーシャツの裾がズボンから解放された。
矢部はそのまま胸のふくらみの上まで一気に捲り上げる。露わになる白いくびれた腹部と白いブラ。
しかしそのブラは…
「なんでやんすかこれは!」
「え?スポーツブラだよ。」
「知らないでやんす。ブラってのはもっと細くてふっくらした物じゃないんでやんすか!
こんな、テレビショッピングに出てくる外人エアロビ姉ちゃんみたいなのブラとは呼べないでやんす!」
シャツの下からあらわれたそれは、胸全体をすっぽり覆う、いわゆるスポーツブラ。
矢部はブラといえばレースやら刺繍やらの入った、つまりは婦人服売り場のマネキンが
着けているような物を想像していたし、あおいが身につけているような物は「下着」ではないと
思っていた。だってそうだとしたらアメリカ製スポーツ用品のテレビショッピングのブロンド美人は
下着一丁で踊り狂う変態さんになってしまう。なんかの拍子にホックが外れたらどうするんだ!
「だって普通のブラだとサポートが弱くて胸が揺れて運動できないじゃないか。
それに揺らしすぎるとおばちゃんみたいに下にたれちゃうんだぞ。
それとも矢部君は僕みたいなうら若き乙女がしわしわでびろんびろんの胸でも構わないと言うのかい。」
「……女の子って大変なんでやんすね。」
「分かればよろしい。」
まだテレビショッピングの姉ちゃんが変態になることには納得いかないが、そのことはひとまず
置いておいて、矢部はブラを脱がすことにした。両手をあおいの背中に回し、背骨の辺りをまさぐる。
が、「ホック」があるだろう布地の継ぎ目が探り当てられない。探っているうちに心なしか
あおいちゃんの目はとろんとしてきたようだ。しかし矢部の目的は愛撫ではない。さてはこいつは
噂に聞いた「フロントホック」という物か?矢部は右手で胸の前を横になぞってみるが、やはり
継ぎ目はない。困った矢部は両手でブラをぐるっと一回りなぞってみた。腋の辺りに
縫い目はあったが、それもホックではない。
「………。」
「どうしたの?矢部君。」
「ホックの場所が分からないでやんす。」
「あぁ、これは被るタイプだからホックはないんだ。Tシャツみたくすっぽりと脱がせばいいんだよ。」
またしても新事実登場。しかしこれで納得がいった。ブロンド姉ちゃんはホックが外れる心配が
ないからあんなに激しく運動していたんだ。
「まぁ、スポーツブラにもホックがあるタイプもあるけど。」
これ以上混乱したくないので聴かないことにした。しかしTシャツの要領で脱がせるのだったら
話は簡単だ。矢部はブラの下に指をかけ、一気に頭の上まで捲り上げる。
ブラが胸の頂点を超えると、ぷるん、と音まで聞こえそうな弾力で、真っ白な乳房が露わになった。
冬でも軽く日焼けしたあおいの腕と比べると、三重に守られてきたその色はあまりに、白い。
血管までもがうっすらと透けて見えるそのふくらみは、スポーツブラで守ってきた甲斐あってか、
仰向けになっている今でもなおその形を崩さなかった。その尖端にはピンク色の小さな突起が
ツンと上を向いている。そこは既に血が集まり硬くなっているようだった。
矢部は乳首に誘われるままに、そこへ口を付けようとした。
「あっ、待って!」
「何でやんすか!ここまで来ておあずけでやんすか!」
「うぅん、そうじゃないんだけど…寒い。シャツ、下ろしてよ。胸の上まででいいから。」
言われてみれば、確かに。雪は降ってはいないが今は冬のど真ん中。気温は10度もない。
加えて運動の直後で全身が汗にしっとりと濡れている。そんな肌に直接寒風吹き付ければ寒かろう。
首を抜いて肘の上まで一度はあげたシャツとブラを、矢部は腋の下まで下ろしてやる。
あおいの表情がゆるんだところで、改めて乳首を口に含む。あおいの身体がぴくっと震える。
「あっ、熱い……」
吐息混じりに小声で漏れる言葉。どっちでやんすかとも思ったが、誰に向けてでもない
うわごとのような喘ぎ声と切ない息づかいにツッコミを入れることは憚られた。代わりに
口に含んだあおいの右胸の尖端を舌で転がし、左手で腰をまさぐり右手で左胸を揉みしだく。
胸は汗で塩辛く、その塩辛さが矢部の脳を甘く痺れさせる。
「んっ、…ふぅ……くっ…ん…」
痺れてきているのは矢部だけではないようだ。一度は冷えたあおいの身体はふたたび熱を帯び、
肌は湿り気を放ち始め、上気した顔はきゅっと目を閉じあごを空に向けている。
腰に当てている矢部の左手から感じる背筋は金縛りにあったかのように緊張している。
緊張した背筋はそのお尻をときおり宙に支え、閉じた太腿はおしっこを我慢するように摺り合わされる。
「矢部…君……、下も…もう……。お願…ぃ。」
「がってん承知でやんす。」
矢部は舌を、胸から腹、そしておへそへと這わせる。ここからではあおいの表情は見えないが、
全身の細かい痙攣が雄弁だ。既にベルトは開けてあるから、後はボタンを外してチャックを下ろす。
チャックの隙間から見える布の気配に心躍らせ、ズボンを一気にヒザまで下ろす。
ズボンの下から現れたのはユニフォームのアンダーストッキングとアンダーソックス、
真ん中にちっちゃなリボンのあしらわれた白いショーツ、それに、
「あっ、あおいちゃん!なんで『ガーターベルト』なんてしてるでやんすか!」
「えっえっ?」
明らかに場違いな紐が、ショーツの下を通ってアンダーストッキングに繋がっている。
華麗なレースの施されたガーターと紐は、アンダーストッキングと合わせてというのも妙な話だが、
明るい紫。スポーティにまとめられた全体の中でそれだけが、文字通りの「異彩」を放っている。
「おかしいでやんす!バランス取れてないでやんす!」
「だ、だって…止めておかないとストッキングが落ちて来ちゃうじゃないか。
だからストッキング止めるものない、って訊いたら」
「どこで訊いたでやんすか。」
「…婦人服売り場。」
「普通はスポーツ用品店で探す物でやんす!」
「うぅ…。これって変なの?じゃ、じゃあ矢部君はどんなのしてるんだよ!」
言いながらあおいは上体を起こし、矢部のズボンのベルトを外す。手際よく
ボタンとチャックを下ろし、ズボンを一気に引き下ろす。矢部もあおいと同じ靴下ではあるが、
もちろんガーターベルトは使っていない。代わりに使っているのはストッキングホルダーなどと呼ばれる、
伸縮性のあるマジックテープの帯状の物。これをアンダーストッキングの上端にぐるりと巻き付けている。
「これが…」
あおいは少し悲しくなった。部活で着替えるたびにいちいちショーツを履き直していた苦労はいったい。
運動する場合はガーターベルトの紐は下着の下を通さないと都合が悪い。とはいえ
だだっ広いロッカールームに一人で下着を下ろす、という行為はどことなく背徳感がある。
最初からストッキングホルダーを知っていたら。っていうかもっと早く教えろよ、矢部!と、
不条理な気はするが矢部を非難しようと顔を上げる。するとそこには矢部のトランクス。
その中央部は明らかに膨らんでいる。
じーっとそれを見つめるあおい。あおいの目線に気付く矢部。あおいが顔を上げる。矢部と目が合う。
微妙な沈黙。
がばっ!と、沈黙が破られる。破ったのはあおいだ。あおいは矢部のトランクスを一気に
引きずり下ろした。矢部の屹立するそれがあおいの目の前にその威容を晒す。もっともその亀頭は
完全に露出していないが。
「これが…」
あおいはうっとりと困惑のまぜこぜになった顔でそれを見つめる。そしてその手がそれに触れる。
振れられた瞬間びくりと動いた。
「ちょ、ちょっと。動かすなよ。」
「そんなこと言われても無理でやんす!その指使いが悪いでやんす!」
指使いが「悪い」のかどうかには疑問の余地があるが、裏すじにそっと指を当てられ動くなと言うのは
確かに無理かもしれない。ならば、とあおいは右手でしっかりと掴む。
「いたたたたたた、痛いでやんす!握るならもっとそっとにするでやんす!」
「こうかい?」
と、あおいはボールを掴むように、直球の握りでそっと掴んだ。主に親指と人差し指と中指で支える形。
さっきのは危なかった。強く握りすぎである。皮で保護されていなかったら
どうなっていたことか、と矢部は思う。
しかし今度は痛くはないのだが、もどかしい。
「うぅっ。強さはそれくらいでいいでやんすが、もっとこう、パームボールの握りでお願いするでやんす。」
「僕パームなんか知らないよ。」
「手の平でそっと握って欲しいでやんす。」
あおいは言われたとおりに握る。すると手の中で矢部の物が僅かに体積を増した。
あおいは驚き、手をびくっと揺らしてしまった。いわゆる手淫のかたちに。ただしその手は
自分の物ではない。その未知なる快楽に矢部は視界が真っ白になった。
あおいは矢部の変化に敏感に気付いた。なるほどこれが気持ちいいのか。
あおいは早速発見したての弱点をつく。手首にスナップをきかせて
矢部のモノをしごいてやる。続けるうちに、矢部の尖端からは
ぬめりとした体液が出て来て、伸び縮みさせられる皮に付着し、ネチネチと
音を立てる。あおいは自分のことを顧みて、この液体が
矢部の感じている証だと言うことを理解した。
男の子も一緒なんだな。そう思い、前後に揺らす手はさらにテンポをよくする。
矢部はもう全身を強ばらせるしかできない。
そして、矢部の体内から白い物が沸き上がってくる感覚。
「うわぁ!あおいちゃん!もうダメでやんす!出るでやんす!」
「えっ、出るって、もう出てるんじゃ」
言い終わる前に、矢部の尖端からこれまでとは違う、白いゲル状の物が
勢いよく飛び出してきた。
あおいの顔はちょうどその目の前。予想外のことに反応が遅れた。というか、
反応しない方がマシだったかもしれない。第一弾はあおいの頬に、唇に、鼻の頭に
飛びつき、第二弾は頭を伏せたあおいのおでこと、髪を白く汚した。顔中から
初めて嗅ぐ異様な臭い。髪がべとつく。
はぁはぁと息を荒げる矢部君のそれは、もう二三回トクトクと動いて中身を絞り出すと、
矢部の身体が崩れるのと同時にしなだれた。
「い、イっちゃったでやんす…」
ヘナヘナとあおいに被さってくる矢部。そうか、これが男の人の「イく」なんだ。ってことは、
今出て来たのが、精子?
そう思ったとき、身体の奥が、何かを求めるようにきゅんとなった。
あおいは唇に付いた白い物を舐めてみた。
「にがっ!なんてものを嘗めさせるんだ!」
「すまないでやんす…って、自分から嘗めておいてそれはないでやんす!」
「うるさい!いいから今度は矢部君の番だぞ。」
あおいは矢部の手を取り、自分の足の付け根に沿わせた。これが意味するところは矢部にも
すぐに分かった。矢部はショーツの上から、まだ見ぬ秘境の谷をさぐる。あるところで指が、
布を押して沈み込んだ。ここが目的のクレパスに違いない。
矢部はその位置を中心に、前後に優しくさする。
「あっ…うん……そこ…」
うわごとのような肯定の声。脳髄に響くその声に、矢部は指先に力を込める。
「ふぁっ…ぁふ…ぅ……っん…」
あおいの声は次第に意味を失ってゆく。一番原始的な意味だけが、残される。
今を受け入れ、求める、淫靡な声。全身に朱がさし、指先には布地の上からでも分かる湿り気。
その湿気にあおいも気付いたのだろう、
「あっ、ちょ、ちょっと、いつまで触ってるんだよ。…下着が汚れちゃうじゃないか。」
何を今更。というか、最初に触らせたのはあおいちゃんの方だろうに。
しかしあおいの発言は矢部にとっても福音である。彼にしてみても、いつまでも布の上からでは
物足りない。矢部はあおいのショーツを掴むと、ズボンと同じく膝元まで下ろした。
ショーツと股の間には糸が引いて、太陽の光を反射して光った。汗ならばこのような粘り気はない。
あおいの下の毛は、髪の毛と同じく緑がかっていた。色が髪よりも薄く見えるのは
細い毛が多いからだろう。腹部から撫でるように手を下ろしていくと、柔らかい毛が
手の甲にくすぐったい。そしてその奥にはピンクに充血した割れ目。その尖端に指が触れると、
あおいの全身は電気が走ったようにびくりと弾む。親指の腹で押すように揉むと、あおいは
喉を鳴らして全身を震わし、そのしたから止めどなく溢れる液体に手の平が濡れた。
「あおいちゃん…濡れてるでやんす。」
「……っ!汗だよっ!」
あおいはただでさえ上気した顔をもっと赤くして否定する。
「そうでやんすか。じゃぁもっと気持ちよくしなくちゃダメでやんす。」
そう言うと矢部は、親指で核を弄りつつ、中指を割れ目の中心に合わせて、力を込めた。
ツプッ。
小さな泡が潰れる音がして、指の尖端が、何者も受け入れたことのない穴の中へと分け入った。
「んあ!…くっ……ぁあ!」
中指を第二関節ほどまで入れて、親指とすりあわせるように動かす。
あおいの顔と声からはあっという間に余裕が無くなる。
「ごっごめっ…さっきの…ぅそっ。……あせ、じゃ…なかっ…だから、もう……や、ゃめっ
…あっ!もうっ!……んっ!ん!……んあぁああぁ!」
ひときわ高い声を挙げると、あおいは全身を痙攣させて弓なりにのけぞった。
中指がぎゅぅっと締め付けられる。
大きな波が去るとあおいは全身を脱力させ、少しのあいだ目を閉じた。そして
ふたたび目を開けると矢部の目を見て、
「今度は二人でする番だね。そっちもまた元気になったみたいだし。」
言いながら触れられた矢部のモノは、いつの間にか、というかずいぶん前から
やる気を取り戻していた。あおいのモノもまた、言葉で誘うまでもなく、まだ物欲しそうに
蠢いていた。矢部は自らのズボンとトランクスを完全に脱ぎ、あおいのズボンとショーツを
その足首まで下ろす。脚からは完全に抜かず、両膝を開かせてその間に自らの身体を通した。
矢部はあおいの背中に手を回し、身体を抱え上げて首筋に口付ける。あおいは左手を
矢部の首に回し、右手は矢部の性器を握り、自らの秘所にあてがう。矢部の腰が進む。
自分の身体を隙間無く包み込まれる感覚。それは自分の手よりも遙かに熱く、全体を締め付けてくる。
自分の身体に他人のそれが入り込む感覚。それは自分の指よりも遙かに熱く、太い。
「くうぅっ…!」
最初は明らかに無理をしていた。身体を「貫く」感覚。
異物を体の中に押し込まれる感覚に、呼吸もままならない。
しかし、それは次第に楽になっていった。朝一番でストレッチをするような。始めは
痛いくらいの身体が次第に伸びてくると、じんわりとした快感が全身を包み込む。
そして、今感じているそれはストレッチに似てはいるけれど、心の別なところにまで染み渡る
新しい感覚。この感覚が永遠に続くことを望む気持ちと、もっと激しいものを求める本能。
「動いて、いいでやんすか?」
何故そんなことを訊くのか。いいに決まっている。が、気付けば霞んでいた視界。
そうか、矢部君はこれを見て遠慮したのか。
「うん、いいよ。もう大丈夫。だから、僕にもっとこの感覚を、ちょうだい。」
答えを聞いて、矢部は身体を揺らし始める。普段ならあり得ないような淫靡な言葉。だがその言葉も
自然に聞こえるくらい、二人は高ぶっていた。すでにあおいの中は十分に潤滑していた。
二人の腰は極めて自然に、動く。
「ん、んあぁ。凄いでやんす、あおいちゃんの中、熱いでやんす!」
「ん!矢部君も!気持ち…いい…よ!」
二人の動きは徐々にヒートアップする。あおいは両脚で矢部の腰を抱え込む。矢部はあおいの
背中を抱き上げる。重なり合う唇と唇。自分の精液が付いていることなんて関係ない。もはや
言葉も何もいらない。意味を失った二人の声が、誰もいないグランドに響き渡る。
「ん!ん!んぁ!あぁ!」
「あっあおいちゃん!おいら、も、もうダメでやんす!イくでやんす!」
「あぁ!ぼ…僕……も!いっ、一緒に……あっ!だめ!抜い…て!……なか…は…だめぇ!」
「えっ!」
矢部は言われてはっとした。確かに中はまずい。万が一もしものことがあったら一緒に
野球が続けられなくなる。矢部は腰を引いて、抜こうとする。
「だ、だめぇぇえ!」
そのとき、あおいは全身を痙攣させ、中がきゅっと締まった。
そして矢部を抱きしめる両腕に、腰を抱え込む両脚に、力が入る。
締め付けられた瞬間、矢部も限界を感じた。咄嗟に抜こうとする。が、
両脚で抱え込まれて放せない。なんちゅう脚力!エースたるもの走り込みは欠かさない。
そうして鍛えられた脚で締め付けられては、無防備な男の力で放せるはずがない。
あおいは子宮が液体で叩きつけられるのを感じた。
「ゴメンでやんす…」
「いや、なんて言うか…このことは半分は僕にも責任があるわけだし…」
半分でやんすか!と思わないでもないが、さすがに突っ込めるような事態ではなかった。
「それに、僕は今日、安全日だから。」
「えっ!でやんす!」
まさか確信犯?矢部はほっとしたが、あおいちゃんにすっかり弄ばれたような気がしないでもなかった。
「それを聞いて安心したでやんす。」
「(まぁ、安全日だからって100%安全でもないんだけど…)
よかったね、これで願い事二つも叶ったよ。僕に感謝するんだよ。」
「そうでやんす!本当にありがとうでやんす。ついでにもう一つの願い事も叶えて欲しいでやんす!」
「それは、だめ。」
え?矢部は当惑した。あのあおいちゃんが、まさか夢を諦めるような発言?
「だって、そんなの僕一人で出来るコトじゃないからね。だから、矢部君にも頑張ってもらわなきゃ。」
「……わかったでやんす!任せるでやんす!」
二人は一つの夢を誓い合った。冬の太陽は既に傾きかけていたが、二人の帰り道をしっかりと照らしていた。
*エピローグ*
矢部は弾道が上がった。
「チャンスに強い」になった。
矢部とあおいの間に友情が芽生えた。
誰もいないと思われたグランドだったが、遠くから見つめる眼があった。
スカウトの影山である。
「一年生だというのにあの腰の強さ…こいつは期待できるな。」
矢部とあおいのスカウトの評価が上がった!
矢部は帰り道、恋々高校野球愛好会キャプテンである小南君に会った。
「ロンリー初詣でやんすね。」
「そういう矢部君はどうなのさ。」
「むふふ。」
あおいは少し遅れて焦ったりもしたが、きちんと次の生理が来た。
実は妊娠してたらマネージャーにでもなろうかと思っていた、らしい。
その年恋々高校は出場停止を食らって甲子園には出られなかった。
矢部の願い事が全て叶うまでは3年の夏を待たねばならなかった。
...end