再び守の体は矢部によって後ろから拘束される。
「お前も、俺との約束は覚えてるよな?」
青海は抵抗の兆しを見せる守の足を広げ、守に問う。
約束、それは言わずもがな進の事である。
「く…っ」
守は答えずただうつむき、されるがまま、股間を青海に晒す。
(畜生が……!)
心の中で呪いの言葉を吐くが、もう反抗はできない。
あの時の恐怖をほう沸とさせる体勢にさせられる。
「そうそう、大人しくしときゃ進君も妙な心配しなくて済むんだぜ。気持ちよくもなれるしな、ははっ」
そしてそのまま青海は守の肛門をまさぐる。
「っ…」
守はその感触に耐えようと目をぎゅっと瞑った。
やがて、温く、ぬめっとしたものが肛門、そして腸内へと流れてくる。
それがローションであるのは理解できた。
目を開くと、自身の尻穴は粘液にぬらぬらとまみれている。
「ぅう…」
気持ちが悪い。生温い粘液が排泄口にまとわりつく感覚。
そして、その次に襲って来るであろう異物の予感に守は呻いた。
「ほら猪狩、お前が欲しがってたオモチャだぜ」
青海は、先刻澄香が持っていたバイブを守に突きつけ、守の予感を恐怖に変える。
「や…やめ…」
反射的に守は拒否の言葉を呟いてしまう。
それに青海は一瞬守を睨んだが、すぐにいつもの淫猥な笑みに変わる。
「まあいいさ。早く女装でみんなにご奉仕して差しあげろや!」
ずぬぅっ!
「ひぃっ、あ゙あぁ……!」
一気に腸内を侵していく凶悪な玩具。
めりめりと肛門が広がり、守のアヌスは疑似ペニスを根本まで咥え込んだ。
「いた…痛いっ!」
ローションで塗れてはいたが、慣らされずにバイブをめり込まされた肛門のひりつきは守を苛める。
「すぐに慣れるさ。あの時みたいにな」
意地悪く青海は守を引っ張り上げた。
下半身に強烈な異物感を伴っている守は、立つことにも体力を削られる。
十分にきついのだが、肛門の元々の機能から、力を入れて閉めていないと抜け落ちてしまいそうだ。
「ったく、そんなんでウェイトレスなんてできんのかよ?」
青海は苦笑しながら守に衣服を渡す。ウェイトレス服と、下着を。
しかし、その下着は女性用のショーツであった。
「これは…」
困惑の瞳で青海を見ると、青海は守の制服、無論下着も紙袋に入れて矢部に持たせていた。
「これは預かっておくぜ。着るもんはやったんだから、構わねえだろ?」
「下着が気に入らないなら、ノーパンでもいいでやんすよ?」
二人は小気味良いといった様子で笑い合う。
(くそっ!)
守はなす術もなく、足を震わせながらショーツを穿いた。
女性用のものだけあり、守の下腹部を締め付ける。
挿入されたバイブが押さえつけられ、抜け落ちはしないものの、嫌な感覚が守の下半身を襲った。
そして次はウェイトレスの服を身につける。
レースがたくさんあしらわれた典型的な制服だったが、存外に短いスタート丈だった。
ご丁寧にニーソックスまで履かされる。
全部を着終わると、青海は守を嘗めるように見た。
視姦による陵辱に守は唇を噛む。
そして青海はくくく、と喉で押し殺したような笑い声を発すると、守の下半身を指さして言う。
「猪狩、スカートめくれ」
「な、何っ?」
「めくれって。できねえのか?」
突然の要求に身じろいだ守だったが、逆らうことはできず、震える手でスカートを持ち上げた。
守の下半身が露わになる。
「おいおい、可愛いレースのパンツが膨らんじまってるぜ!きつそうだなあ、ケツに食い込んでんじゃ
ねえの?」
滑稽なものをからかうように青海は大げさに笑う。
守は狂ってしまいそうな程の屈辱を味わっていた。
かしゃっ
「!?」
ふいにシャッター音と光が守を包んだ。
矢部の持つ使い捨てカメラから発せられたものである。
「お前の痴態はばっちり撮ったでやんす!安心して仕事をするでやんす」
矢部はそのカメラを掲げて守に言い放つ。
そして青海はドアを開け、守を促した。
「ほら、行くぜ、ウエイトレスさん」
守は破滅への歩みを進めるように廊下にと踏み出した。
こうして二人は矢部と澄香を残して教室に向かうのだった。
守の女装姿たるや、たちまち全校中に話題が広まった。
あかつき大附属の有名人である守が、文化祭とはいえ女装姿を晒すとは、皆思っていなかったのである。
すれ違う生徒は口々に驚きの声を上げた。
守はその屈辱に耐えて教室へと歩く。
何より短いスタートで中の下半身の秘密がバレたりはしないかと緊張し、教室まで歩くにしては途方も
ない体力を使ってしまった。
しかし教室は終わりではなく始まりなのである。
教室に着くやいなや、守の姿を見た部員からおおっ、とどよめきが起きる。
「みんなー!今日の主役だぞ!」
その青海の一声で部員が一斉に猪狩の所へ集まってくる。
「スゲエな猪狩!」
「本当にやってくれたんすね!」
「や、やめろっ!」
守は下半身のものを悟られるのではという恐怖に後ずさりして皆を避ける。
しかしそんな事情など知る筈もない皆は、女装守をはやし立てる。
やがて教室の周りにも人が集まり始め、守のファンらしき女生徒が黄色い声をあげたりしている。
(もう…やめてくれっ!)
そう守が思った時、輪の外から割り込むように声がした。
「兄さん!」
やがて人の輪の中から進が抜け出し守に駆け寄った。
「進!」
来るな!
と叫びそうになったが、いきなりそんなことも言えず、守は傍らに来た進をただ見下ろす。
その進は兄の気持ちを解すことなく、微笑みながら守の手を握る。
「兄さん、その、文化祭なんて遊びですし、ね?我慢して下さい」
「進…」
進にしてみればフォローだったのかもしれない。
しかし、守にとっては唯一の味方に突き放されたような気持ちだった。
青海はその様子にまた声を押し込めるように笑う。
「おい、そろそろ時間だぞ」
教室の外で時間の到来を教師が周りに伝えた。
ギャラリーは慌てて自分達の持ち場に戻っていく。
野球部員も各々の仕事をするべく部屋の各所、或いは外に散っていく。
「あ、猪狩これメニューな」
「あ、ああ…」
猪狩は裏方の部員からメニュー表と注文用のメモを渡された。
教室にセッティングされたのは円テーブル六つ。
混もうが忙しくなろうが、それらを一人で捌いていかなくてはならない。
何かミスがあれば……。
背後の気配に守はちらりと目を遣った。
青海はポケットを指で示しながら
「ちゃんとやれよォ?」と笑う。
悪寒が走り守は目を逸らした。
ミスをすれば、腸内の玩具が暴れ出すだろう。
もしかしたら、ミスをさせる為に玩具を動かすかも知れない。
青海の目的は、守を辱めることなのだから。
守は何とか、痴態を晒すことなく乗り切ることを考えた。
声を出さず表情に出さなければいい。
守は自身に言い聞かせるように『大丈夫』と心の中で繰り返した。
……そして、
『皆さんお待たせしました!あかつき大附属高校文化祭、スタートします!』
開場を告げるアナウンスがBGMと共に流れた。
守は、ふうっ、と深呼吸をする。
(さあて、どこまでやれるかねえ…)
壁にもたれかかった青海は、不敵に笑い守を見つめていた。
校内に自由時間の生徒や一般客が溢れ始める。
同時にそこここでイベントの呼び込みの声も響き始めた。
「いらっしゃいませーっ!あかつきといえば野球部喫茶!」
「今なら超可愛いウエイトレスがご奉仕しまーす!」
野球部員も自慢の大声で呼び込みを始めた。
「チョーカワイイ、だってよ、猪狩?」
青海が煽るように囁く。
しかし守はつまらないことで腹を立てていてはいけない、と無視して黙ったままでいた。
そこに、ついに一組目の客が姿を見せる。
他校の制服を着た女の子二人組。どうやら守目当てらしい。予期せぬ女装姿に何やら騒いでいる。
青海は顎で守に指示をする。
「い、いらっしゃいませ!」
守は二人がついたテーブルに駆け寄った。
「ご…ご注文は…?」
ぎこちない台詞で注文を取る。
「あのぉ、ケーキセット二つー。アイスティで」
「…わかりました」
守はメモを取りテーブルから去る。
女子学生は守にアイドルに向けるような視線を向けながら感想を言い合っている。
守は恥ずかしさを隠し、注文を裏方に伝えた。
すぐに品物は守の元へ運ばれてくる。それを客に運び、一組目は難なくこなすことができた。
守は安堵し、元いた場所に戻る。
その刹那。
カチッ
「ひっ……!?」
下腹部に響く振動。
気を抜いていた守は短い嬌声を漏らしてしまう。
(どうしてだっ!)
振動はまだ微弱であったが、確実に守の腹をかき回す。
「き…きちんとやっただろうっ」
思わず振り返り青海に反論する。
すると青海はもっともらしく守に言い返す。
「客に対する態度がなってない。愛想よく。あと言葉遣いもな」
「…っ」
青海の言い分は正しい。
しかし普通ならこんな緊張状態で愛想笑いなど出来はしないことは青海にも理解できているだろう。
しかし、ポケットの中の装置を弄びながら青海は視線を守から逸らした。
(くそっ!)
守は足に力を入れる。
まだ我慢できない振動ではないのが救いだった。
肛門に行きがちな意識を他方に持っていく。
自分にはどんな爆音よりも響くモーター音も、周りの雑音にかき消されているようだった。
(大丈夫だ…大丈夫)
しかし、客はどんどん増えていく。
やはりあかつき大附属野球部、その名を聞いて来る人、最初から野球部目当てで訪れる人、そして美形
部員目当ての女子学生や女性。
勿論守の女装の効果もあり、昼にもなると順番待ちやギャラリーが出るほどに人でごった返していた。
「すいませーん!」
「あのー」
次々に守を呼ぶ声。
守はできる限りの愛想笑いで注文取りや給仕に奔走する。
腸内に異物感を抱えたままでの移動は苦しかった。
気を抜けば微かに震える疑似ペニスの感覚に捕まってしまう。
守はとにかく無難に客を捌くことに専念した。
だが、ふいに奥のテーブルから守をギリギリの淵に追い込むような声が聞こえた。
「すいませぇーん、コーヒー頼んだのに紅茶が来てるんですけどー…」
「えっ…っ!!」
客の方へ向かおうとした守を強まった玩具の振動が捕まえる。
ヴヴヴ……
「ぅは…っ」
思わずしゃがみ込んでしまいそうになるが、後ろの青海の視線と前からの客の視線を感じ、守は何とか
歩き出した。
裏から渡されたコーヒーをその客の元に運ぶ。
カタカタとトレイの上で揺れるカップ。
「すいませんでした…」
客に謝りながらカップをテーブルに置き、紅茶のカップをトレイに置く。
ヴヴ…ン
「!!」
その瞬間、バイブの威力が更に強まりびくっ、と守の体が跳ね上がった。
その拍子にトレイの上で紅茶がこぼれる。
「ぅあ…っ」
「大丈夫ですか?」
客は心配そうに守を覗き込んだ。
「大丈夫です…っ」
守は慌ててその場を離れる。
トレイごと裏方に渡し、なるべく客の目が行かないような隅に移動した。
腹で暴れ回る玩具。
その端からはローションが漏れ出す感触がする。
満足に動くことは出来そうになかった。
そして何より、その振動が官能の疼きを呼び覚ましつつあることが堪らなく嫌だった。
(畜生っ…こんな状況で…!)
「コラ、ウェイトレスがこんな隅っこにいたら駄目だろーが」
そこに青海が確信犯の笑みで守に近づいた。
守は青海を睨みつけたが、その眼光は弱々しい。
「何だ、こんな大勢の前で感じてんのかよ。心底淫乱だなお前」
青海は小声で守を責め立てる。
そして後ろからスカートの中に手を差し込む。
「やめろっ!」
「ん?何だか前がさっきより膨らんでるぜ?」
「っ!」
ショーツを押し上げる肉塊を撫でる青海。
認めたくはないものを無理矢理に感じ取らされて、守は身じろいだ。
肛姦の感覚が体中に広がっていく。
「ぐっ…う」
声を必死で噛み殺し、守は疼きに耐えようとする。
しかし足が震えて今にも床に崩れ落ちてしまいそうだった。
青海は手を放し、守から離れる。
「しっかりやれよ。ほら、お客様がお待ちだぞ」
守は青海の背中を恨めしく睨んだ。しかし客は待ってはくれない。
「注文いいですかー?」
無情にも守を呼ぶ声が響く。
守は声にならない返事をしながらそのテーブルまで歩く。
もはや膝は震え、ぎこちない歩きだったが、こんな行為を人に知られたら何もかも終わりである。
裏には進もいるのだ。
守は我慢をして仕事を続けた。
「お…お待たせしました…」
緊張した手でカップを落とさないように慎重に置く。
全てが長く辛い作業だった。
その間にも、肛姦の悦楽は守を蝕んでいく。
(こんなこと…がっ!)
歩く度に玩具にいろんな所をつつかれ、更に振動でじわじわと広がる快感の波は、守の腸内を焼き陰茎
を猛らせる。
きついショーツに押さえつけられる感触も甘い疼きに変わる。
「ひぐぅ…っ」
給仕をしながら、守は低く呻く。
限界は近かった。
せめて人気のない所へ、と思ったが、青海が許さないだろう。
青海はしきりに守に客の前へ出るように目配せをする。
「はぁ…っく…」
(あいつは…おかしいっ!狂気じみた変態だっ!)
守は青海を心で罵倒し、ふらつく足で客の前に出る。
「あのー」
そしてすぐに声がかかる。
守はどこかにいきかける意識の中で、行かなくては、と歩を進めた時だった。
かちっ
「ひィ!!」
守の肛門と腸内に衝撃が走った。
強められた振動。
守はそのままがくりとくず折れた。
人々は突然の出来事にざわめく。
「おい、大丈夫か!?」
心配し守の元に駆け寄る部員達。
守は首を振って破滅の予感に恐怖した。
(いやだ、いやだぁぁあぁ!!)
そして、ついに。
「や…め………ぁ…!!!」
びくっ、びくっ、びくっ………。
守は皆の前で達してしまった。
ショーツの中で跳ねた陰茎から放たれた白濁液は、スカートをも汚した筈だった。
(あ……ああ…)
周りは、何が起こったか解っていないようだ。
それは守にとって救いであったが、当の守にはもう理解は出来ない。
「猪狩」
放心状態の守に青海が呼びかける。
守はただ小さい呻き声を漏らすだけだった。
そこに、進が慌てて飛び出してくる。
「どうしたの兄さん!大丈夫!?」
その様子だと、進も兄が大衆の前で粗相をしたなどとは気づいていないらしい。
青海は守を担ぎ上げて、進に言う。
「猪狩、やっぱり少し体調が悪かったみたいなんだ。保健室に連れていくよ」
「僕も行きます!」
「いや、進くんは代わりにフロアをやっててくれよ。ちゃんと看てもらってくるから」
「でも……」
どうしてもついて来たそうな進を大丈夫だからの一辺倒で半ば無理矢理フロアの仕事に就かせる。
そして青海は射精の悦楽と絶望に取り込まれた守を連れてあの準備室へと歩きだした。
途中、矢部に連れられた澄香とすれ違う。
澄香も守と同じ服を来ていた。
「ご苦労様」
澄香が守に呟いた。
守は朦朧とする意識の端で、澄香も自分のようになるのか、とやるせなく思った。
青海はふん、と鼻で笑い、守の耳元で囁く。
「まあ、これからもよろしくヤッてやるぜ、猪狩」
【了】