「う……」
「目を覚ましたでやんすね。気絶するほどよかったんでやんすか?」
澄香が目を開けると、矢部が自分の顔を覗き込んでいた。澄香は思わず後ずさりをする。
辺りを見回すと、あの二人はもういない。
「…行ったのね」
「ひひひ、今ごろ猪狩の奴、大勢の人の前でザーメンぶちまけてるでやんす。いい気味でやんすよ」
矢部はさも楽しげに笑う。
澄香は先刻まで…青海に虐められ、気を失ってしまうまでのことを思い出した。
(猪狩くんは、私を助けようと…してた…?)
青海の力に負け、守を辱めようとし、更には自分が守の前で痴態を晒し…。
澄香は今更ながらに後悔をした。
「っ…」
ふと、起きあがるときに感じた下半身の異物感。
まだ双方の穴にはバイブが挿入されたままだった。
「取ってあげるでやんす」
そう言って手を伸ばす矢部。しかし澄香はその手を払いのけ、自ら異物を抜き取る。
「…っ…はあ…」
ずるりと抜けた玩具は粘液で濡れそぼっていた。
それを沈痛な表情でからんと放り投げる。
矢部はそれを苦笑しながら拾い上げた。
「自分で抜いちゃうなんて、やっぱり澄香ちゃんは一人遊びの方が好きなんでやんすねぇ」
「!」
その言葉に澄香は赤面をして矢部を睨みつけた。しかし矢部は怯まない。
「しょうがないでやんす。あんな所でオナニーするのが悪いんでやんすよ?イケナイ『妹』でやんす!」
「……っ!!」
澄香はどうしようもない恥ずかしさにただ唇を噛む。
話は一週間程前に遡る。
澄香は練習を終えた部員を見送りながら、一人部室の掃除をしていた。
「じゃあなマネージャー、お疲れ」
「お疲れ様」
部室から最後の部員が出ていくのを確認すると、ふう、と息をつき箒を隅に立てかけた。
部室掃除は澄香の日課である。最後まで部室に残れる掃除は、澄香にとって都合のいいものだった。
それは、自慰に耽るから、である。
(もう、誰もいないわよね…)
外を確認し、部室に鍵をかける。
そして、そそくさと一つのロッカーの前に行く。
ネームプレートには『四条』の文字。
それは澄香の兄、賢二のロッカーだった。
そっと手をかけて愛おしむように撫でる。あらかじめ持っていたロッカーのスペアキーで、かちゃりと
扉を開けた。
「ああ…」
泥の匂い、使い込んだ道具の匂い、汗の匂い、…兄の匂い。
きちんと整頓された用具をしげしげと眺める。
すると澄香は、洗わずに置いておいた賢二のアンダーシャツを手元に引き寄せた。
すうっ…はあ…
シャツの匂いを吸い込んだ澄香の顔が恍惚に変わる。
(もう…駄目…)
澄香はベンチに座ると、スカートに手を滑り込ませ下着越しに自らの秘所に指を這わせた。
「あ…」
そこは既に充分すぎる潤いを称えている。
堪らずに澄香は染みのついたショーツを下ろし、ベンチに寝そべる。片手はシャツを握り、片手は秘所
をまさぐる。
「あ…ぁ」
くちゅっ、くちゅっ
指で充血した割れ目を撫でる。
指に愛液がたっぷりとまとわりつく。
「もっと…にいさ…んっ」
澄香は指の動きを早める。
敏感な突起。包皮の上からこねるように撫でる。
「はあぁ…にいさぁんっ、あっ、あぁ…」
快感の波がゾクゾクと澄香を責め立てる。
すうっ、と握りしめたシャツの匂いを思い切り嗅ぐ。
(兄さんの匂い…)
家では兄を兄と意識しすぎてしまって、兄を想って自慰をするのが後ろめたい。
しかし、学校ならば少しだけそれを忘れる事ができる。
野球部のキャプテンとマネージャー。
兄と妹の関係を、ここならばなかったことにできそうだった。
指を二本挿入する。膣壁がきゅぅっと指を締め付ける。
かき回すように動かすと、どうしようもない快感が襲う。
「あ、あっ!駄目ぇ…にいさぁんっ…!」
澄香は傍らにあった小型の冷却スプレー缶を手に取った。
「い…いれて…兄さんの…っ」
思い浮かぶのは兄の笑顔、兄の声、兄の温もり。
シャツの匂いは、もはや澄香にとって兄そのものになっていった。
「ひっ…あ…はあぁぁ…!」
ゆっくりとスプレー缶が澄香の秘所を割り、飲み込まれていく。
そして、奥まで飲み込んだのを確認すると、澄香は缶を抜き差しする。
ぶちゅっ、ぐちゅっ
「あ!ふあぁ!」
堅い異物に侵入され、抉られる快感に澄香は喘ぐ。
澄香にとって、それはスプレー缶ではなく、賢二の陰茎なのだ。
「ああ!駄目ぇ!そこ…いやぁ…!」
自然と腰が浮き上がり、ガクガクと動く。
出し入れする手が速まる。
「あ、あひぃ!ひぃあぁんっ!に、にいさ……っ!賢二っ!けんじぃいぃっ!!」
ビクン!
切なく兄の名を叫んだ澄香の体が跳ね、絶頂を告げた。
ひくつく秘所。膣が缶を締め付ける。
大量の愛液は既にベンチと床に染みを作る位滴っていた。
「はぁ…はあ……っ」
澄香はシャツをぎゅっと抱きしめた。少なくとも、澄香にはこの時間この行為は至福であった。
あの男の声が聞こえるまでは。
「いやー、いいもん見させて貰ったぜ澄香ちゃん」
「!?」
突然聞こえた声に、澄香は慌てて起きあがり辺りを見回す。
「だ…誰!?」
「掃除を手伝いに来たんだけど、…一人の方が良かったみたいだな」
澄香は声のした方向を見る。
「…青海くん…っ!」
そこには、澄香が外を確認した窓から顔を出す青海がいた。
「やだ…何で…」
「不用心だぜ。鍵閉めたって、ここが開いてたら意味ないだろ?」
澄香は自慰を焦るあまり、窓の鍵をかけ忘れていたのだ。
「ここで見てた俺に気づかないなんて、かなり熱中してたんだな、オナニーに」
にやっと笑う青海。
澄香は愕然とした。自分の痴態を、他人に見られるなんて…。
そして、青海は聞いていた筈だった。澄香の切ない叫びを。
それは青海の口からはっきり語られる。
「に、してもまっさかオカズが実の兄貴…ちょっとびっくりだな。先輩が澄香ちゃんをオカズにするな
ら、ありそうだとは思ってたけど」
愉快に笑う青海。
澄香は窓に駆け寄り懇願する。
「お願い青海くん!言わないで!このことは…誰にも言わないでっ!!」
澄香は涙声で頭を下げた。
こんなことを皆に知られたら、いや、兄に知られたら!
澄香を絶望感が包む。
「お願い…青海くん…!」
しかし、その澄香の様子に青海は舌嘗めずりをして答える。
「どうするかなあ…。どうする?矢部くん」
「そうでやんすねえ…」
ふと青海の横から矢部が顔を出す。
「あ、あなたも見て…!」
突然の矢部の出現に澄香は驚く。
矢部はくすくすと笑いながら青海と並ぶ。
「実はオイラ前々から、何だか悩ましい声が聞こえるなー、とは思ってたんでやんすが…」
そして矢部はあるものを見せた。
「これ、ICレコーダーでやんす。これを再生すると…」
「い、嫌っ!!」
澄香はとっさに矢部の手からレコーダーを奪おうとした。
しかしあっけなく矢部の手は翻され、澄香は壁にもたれ掛かるようによろめいた。
「もしもさ、俺達がこれをみんなに聞かせちゃったら、どうする澄香ちゃん」
「えっ!?」
青海から悪魔の言葉が放たれる。
自分の禁じられた淫らな行為が暴かれる光景が頭を巡る。
澄香は涙目で青海のいやらしく歪んだ顔を睨みつけた。
「…脅迫するの…?」
澄香は自らを奪われてしまうかもしれない、堕ちてしまうかもしれない恐怖を感じる。
「脅迫?違う違う、協力、さ」
しかし、青海はおどけてウインクをして答える。
澄香はその態度に怖さと疑問を抱いた。
協力、とは何なのか。無論、いいことではないと澄香は解っていた。
しかし、今青海を拒否すれば、そこに待つのは全ての終わりだ。
澄香はゆっくり震える唇を開く。
「…なっ…何を…すればいいの?」
その姿に青海はにんまりと笑い、『猪狩守の陵辱』の計画を告げたのだ。