暮れかけた太陽が、川面を茜色に染めている。  
家路につく中学生。  
犬を連れた主婦。その周りを駆ける子供。  
川を渡る電車が高架を揺らす音。  
友沢亮は、走っていた。  
ルーキーイヤーの開幕が、間近に迫っていた。  
 
河川敷のジョギングコースに沿って、ゴルフの練習場と草野球のグラウンドが続いている。  
どこかの高校のものであるらしいフェンスに囲まれた球場では、まだ練習が行われていた。  
俺にもあんな頃があったな―――友沢は思った。  
暗くてボールが見えなくなるまで、泥だらけになって。  
すり傷やアザが絶えなくて。  
泣きたくなるほど悔しいことも。  
血反吐を吐きそうな辛い練習も。  
―――でも、楽しかった。  
ただひたすら白いボールを追いかけているのが。野球をやっているというそのことが。   
そんなに昔のことじゃないんだけどな、と自嘲する。  
春夏連覇を賭けた、夏の甲子園。涙をのんだ準決勝。甲子園の土。  
あれからまだ半年しか経っていない。  
カイザースにドラフトで指名されてからの慌ただしい日々。  
かつてないほど濃密な時間だったように思える。  
ま、今でも野球は楽しいけどな。そう心の中でつぶやくと、友沢は少しだけ足を早めた。  
 
陽が沈みきるには間があったが、あたりはもう暗くなっていた。  
一面の雲が空を覆っている。  
ひと雨きそうだな、と友沢が思った矢先だった。  
鼻と頬に冷たい感触。  
地面にぽつぽつとできた黒い染みが、あっという間に広がる。  
友沢は舌打ちをして、駆け足で橋の下に身を移した。  
(夕立ちならともかく、本降りにならなきゃいいけどな)  
自宅のマンションまでは目と鼻の先だ。雨が止むのを待つか、今すぐ帰るのか、決めきれずにいた。  
先ほどの高校生たちはまだ練習を続けているだろうか。  
自分は続けていたな―――いや、自分というより帝王実業が、か。友沢は苦笑した。  
一分一秒でも、他の誰かより練習していたかった。そうしないと不安だった。  
ボールが使えない時は一日中走っていた。とにかく、がむしゃらだった。  
今は―――プロになった今は、体調管理も仕事のうちだ。やればいい、というものでもない。  
誰もいない草野球のグラウンドを眺めながら、そんなことを思う。  
誰もいない―――わけではなかった。いちばん端のグラウンドのマウンドに一人、友沢の目に止まった。  
ボールがわりにタオルを持ち、黙々と投球練習を続けている姿があった。  
左の流れるようなサイドスロー。いいフォームだ、と友沢は思った。  
背の高さから中学生くらいだろうか。もう少し体ができてくれば立派な投手になれる。しかし。  
それにしても細い。女性かと見紛うほどに、細い。  
あのサイドスロー、どこかで……。目を凝らす友沢。  
ただ細いというわけではない。女性独特の、ゆるやかに曲線を帯びたフォルム。  
横にゴムで止めて、ぴょこん、と跳ねた、髪。  
思わず駆け出していた。  
「橘……みずき…?」  
 
橘みずきに間違いなかった。  
もう何歩か友沢が足を進めれば手の届くところまで近づいている。  
それでも、みずきは気付かない。一心不乱にタオルを振り続けていた。  
「そのくらいにしとけよ」  
友沢が声をかけて、ようやくみずきの動きが止まる。  
「あ……」  
会釈ととるべきか、一瞥ととるべきか、みずきは一瞬だけ友沢と目を合わせ、すぐにもとに直った。  
また、投球動作に入る。  
「もう、やめとけって」  
やめない。  
振りかぶる。  
足を上げる。  
振り抜く。  
「やめ……」  
やめない。  
繰り返す。  
「やめろってば!」  
みずきの肩をガッと掴み、友沢は声を荒げた。  
「邪魔しないで!」  
そして、みずきも。  
友沢を見上げるみずきの瞳は潤んでいて、しかし毅然としていた。  
精一杯、強がっているように見えた。  
 
     * * *  
 
 できのよい―――よすぎる姉がいるということ。  
 それがみずきには不幸だった。不幸だと、みずき自身は思っていた。  
 みずきだけを取り出してみれば、劣等感を感じる要素などどこにもないはずだった。  
 勉強でもスポーツでも、小学生の時やっていたピアノでも、みずきは周りの誰にも負けなかった。  
 しかし何ひとつ、姉よりできるものがあると思えたことはない。  
 そんな中で野球に出会った。中学一年のときだ。  
 友達に誘われてマネージャーとして入部したが、時に練習相手を務めることがあった。  
 みずきの投げるボールは誰よりも速く、誰よりも正確にコントロールされていた。  
 正式に部員になるのも、そしてエースになるのにも、そう時間はかからなかった。  
 姉と比べられない世界。ひとりの橘みずきとして見てもらえる世界。  
 嬉しかった。野球が楽しかった。いつまでも続けていたかった。  
 今もその願いは進行形で続いている。キャットハンズのルーキーとして、プロ野球選手になれた。  
 野球でも認めてもらえないかもしれない、そう思うことが二回あった。  
 ひとつめは、高校三年の夏、甲子園への切符をかけた県大会決勝で負けたとき。  
 もうひとつは、オープン戦の最終登板で開幕二軍を告げられたとき。  
 一昨日のことだ。  
 
     * * *  
 
「あなたに心配される筋合いなんてないから」  
みずきは言った。  
その頬を伝うのが雨なのか涙なのか、友沢には分からなかった。  
 
「友沢くんはずっといちばんの人だから、理解してもらえないかもしれないけど」  
いちばんの人。  
みずきの言葉の奥にある意味を、姉へのコンプレックスを、友沢が知る由もない。  
「同情なんて、されたくない。負けた相手からなんて、それこそ……ミジメになるよ…」  
最後は消え入りそうな声で、みずきが言った。  
「……何だよ、同情って」  
友沢の声には、少し怒りが混じっていた。  
「じゃあ何か? 『雨の中大変だな。頑張れよ』とでも言えばよかったのか?  
それとも声かけなきゃよかったのか? そもそも試合で打つなってのか?」  
はっきりと、怒っていた。  
「確かにオレたちは敵同士かもしれない。だから試合のときは何としても打ってやろうと思うよ。  
オレに打たれたことで橘が二軍行きになったのも、悪かったなんて思っちゃいない。  
ホームラン打ってゴメンナサイなんて、それこそ同情だろ?」  
みずきはただ黙って、ほんのわずかに頷く。  
「いちばんの人、って言ったよな」  
「……うん」  
「オレより上はいっぱいいるよ。高校の時もそうだった。プロに入ったら、なおさらさ」  
自分よりパワーがある選手。足が速い選手。肩が強い選手。守備が上手い選手。  
そういう選手を、カイザースだけでも友沢は見てきた。  
「もちろん、いつか必ず勝ってやろう、抜いてやろう、そう思ってるし……  
……無茶やって体こわして遠回りするの、勿体ないだろ?」  
目元に涙を溜めて、しかし表情には微笑みを見せて、うん、とみずきは言った。  
春の雨が優しく、おだやかに、ふたりの上に降り注いでいた。  
 
     * * *  
 
くしゅんっ、と小さなくしゃみがひとつ。  
「……大丈夫か?」  
「うん、平気。ちょっと冷えただけ」  
友沢とみずきは、ふたり肩を並べて、河川敷の土手を歩いていた。  
このまま行けば『新猪狩』の駅がある。  
キャットハンズの選手寮まで、電車に乗ればすぐの距離だ。  
「散歩してたの。何となくね」  
友沢に聞かせるでもなく、みずきが言った。  
「昼過ぎに練習終わって、ひとりで部屋にいるのも嫌だったし。  
ずいぶん歩いて……そしたら、猪狩ドームが見えたんだ」  
最後に投げた場所。  
友沢にホームランを打たれた場所。  
二軍行きが決まった場所。  
みずきにとっての、猪狩ドーム。  
「どうしようもなく悔しくなって、自分に腹が立って……あとは、友沢くんも見てたとおり」  
少し自虐的に、みずきが笑う。  
「橘……」  
話題を変えようとしても、友沢には上手く見つけられなかった。  
高校時代から、女子生徒には人気があった。ありていに言えば、とにかくモテた。  
しかし、ひたすらストイックに野球に打ち込む友沢の姿は、遠くにいる人だと映ったのだろう。  
バレンタインのチョコレートも、卒業式の花束も、山ほどもらったけれど。  
誰からも付き合ってほしいと言われたことはない。  
友沢は、いま置かれている状況に、慣れていなかった。  
 
助け舟を出したのは、みずきのほうだった。  
「そういえば、カイザースの寮って『底野前』じゃなかった? 結構遠いよね?」  
みずきの言うとおり、二軍の使う底野前球場に隣接して、カイザースの寮はある。正確には、あった。  
「建て替えてるんだ、いま」  
最新式の練習設備も兼ね備えた立派な建物になると、友沢は聞いている。  
「だからこの近所にマンション暮らしさ。ドームまで近いし、便利は便利だけど」  
また途切れる会話。みずきも、あまり慣れてはいない。  
沈黙のまま歩くふたり。駅に近づくにつれて、店も人も増えていく。  
部活帰りの学生。会社帰りのサラリーマン。買い物に来た主婦。  
人の流れをかきわけるようにして、ようやく駅にたどり着く。  
「今日はありがとう。ごめんね、当たったりして」  
みずきはぺこりと頭を下げて、券売機の方へ向かい―――足が止まった。  
「……あ」  
「どうした?」  
「お金、持ってきてないんだ……」  
困ったな、という顔をするみずき。ちょっと散歩のはずだったから。  
困ったな、という顔で返す友沢。友沢も、ロードワークに出ていただけだ。財布を持っていない。  
「……うち、寄ってくか?」  
ややためらいの間があって、こくり、とみずきは頷いた。  
「迷惑かけっぱなしで申し訳ないけど……もうひとつだけ、甘えさせて」  
そっと、みずきの手が友沢の手に触れた。友沢は照れくさそうに握り返す。  
細くて、しなやかで、やわらかくて。野球選手でありながら、まぎれもなくそれは女性の手で。  
少しひんやりとしたみずきの手を、指を、友沢は自分の手の中に心地よく感じていた。  
 
  * * *  
 
「何もないんだけど」  
ホットミルクの入ったカップを、みずきの前に置く。  
みずきの隣に、遠慮がちに距離をおいて、友沢は腰を下ろした。  
入念にふぅふぅと吹いてからカップを口につけるみずきを見て、少し笑った。  
「笑わないでよ。猫舌なんだから」  
「いや、ちょっと意外だったからさ」  
「何が?」  
「もっと大人ぶってるっていうか、見栄はって生きてるっていうか、そう思ってたけど……  
なんか、子供みたいだな、って」  
みずきはそれには答えず、ミルクをもうひと口飲んで、「美味し」と言った。  
「わたしも意外だった」  
今度は友沢が「何が?」と言った。  
それにも、みずきは答えなかった。  
時計が針を刻む音と、エアコンの動作音だけが、しばらく続いた。  
「はじめてだよね」  
「はじめてって?」  
「こういうふうに、ゆっくり話すの」  
「そうだな。いつも会うときは『野球選手として』だったし」  
テレビの画面に映り込むみずきを、友沢は見つめていた。  
画面に映ったみずきが、友沢を見つめていた。  
 
「意外だったってのは、例えば」  
友沢がみずきに近づく。距離がなくなるほどに。  
みずきの顔を覗き込むようにして、続けた。  
「こういうところとか?」  
頬に軽いキスをする。  
「!!っ……」  
みずきの頬が、顔中が、瞬時にして真っ赤に染まる。  
飛び退こうとして、少しだけ跳ねた。飛び退けなかったけれど。  
「そっ、そういうことじゃなくてっ!」  
「嫌だったか?」  
「……別にイヤじゃ……ない…けど」  
消え入りそうな声で口ごもるみずき。  
「好きだよ」  
友沢の、突然の告白だった。  
「ずっと好きだった。はじめて会ったときから、今でもずっと」  
「わたし……うまく言えないけど…だけど……」  
みずきは目を閉じて、友沢の肩に体をあずけた。  
「友沢くんとこうしてるのは、とっても、いいよ」  
みずきの香りが友沢の鼻孔をくすぐる。  
シャンプーの香りというけれど、それとはどこか違う、とてもいい香りがして―――  
友沢はみずきを、ぎゅっと、抱きしめた。  
 
     * * *  
 
 県大会の準決勝、第一試合で決勝進出を決めた帝王実業ナインは、スタンドで第二試合を観ていた。  
 友沢はそこで「噂の女ピッチャー」橘みずきをはじめて目の当たりにすることになる。  
 最初の感想は、あろうことか「かわいいな」だった。  
 ただ「友沢亮はそんなことを言わないし、思いもしない」ことは友沢自身がいちばん良く分かっていた。  
 だから、黙々と試合を観た。  
 傍目には、次に対戦する予定の投手をつぶさに研究しているように見えたことだろう。  
 その強い眼差しに、息の吐かれる唇に、汗の伝う肌に、しなやかな肢体に、見惚れているだけだったとしても。  
 
 スクリューボールを引っ掛け、ストレートに詰まらされ―――  
 決勝とはいえ、県大会で帝王実業が苦戦を強いられるとは誰も思っていなかったはずだ。  
 打席で対したみずきは「かわいい」という意識を友沢に持たせなかった。  
 あどけない顔立ちからは想像もつかない、凄艶なピッチャーがそこにいた。  
 すべてを切り裂くような鋭さと、ひとたび触れれば壊れそうな脆さを併せ持つ―――  
 
 スコアボードには友沢が刻んだ「1」が。あとは両チームともにゼロが並んでいた。  
 試合終了。整列。礼。  
 涙をいっぱいに溜めたみずきの瞳から、それがどっとあふれ落ちる。  
 すぐにでも抱きしめたい衝動に駆られた。もちろん、できるはずもなかった。  
 ひとことだけ声をかけるのが精一杯だった。  
 「野球、やめるなよ」  
 
     * * *  
 
友沢の腕の中に、みずきがいる。  
鋭さと脆さ―――それは影をひそめて、暖かく柔らかい、みずきがいる。  
「……みずき」  
みずき、とはじめて口にした。  
腕の中のみずきが、くすっと笑って、頭を友沢の胸板に擦りつける。  
「なんだか、くすぐったい。そう呼ばれるのは慣れてるはずなのにね」  
「言葉責め?」  
「……バカ」  
友沢の口が、みずきの唇によってふさがれる。  
ぷるんとした瑞々しい唇の感触を確かめるように、友沢は軽いキスを繰り返し、時に強く吸った。  
ほんのり甘い、みずきの吐息。  
かすかにミルクの香りがする、はじめてのキスの味。  
 
どれだけの間、唇を重ねていただろうか。  
永遠のようでもあり、一瞬のようでもあった。  
「シーズンが始まったら、あんまり会えない……よね」  
友沢の膝の上で、友沢の指をもてあそびながら、みずきが言った。  
リーグが違えば日程も違う。遠征もある。近くに居合わせることさえ、少なくなる。  
せめて同じリーグならな、と友沢は思った。試合の後にでも、会える。  
「日本シリーズで待ってる。オールスターでも」  
「出られなかったら?」  
みずきが寂しげにかぶりを振る。肩越しに見せるその表情が、友沢には愛しかった。  
「出るから。オレも、みずきも。……絶対に、出るから」  
そう言い切る友沢に、みずきは微笑みを、頼もしさと諦めの入り混じった微笑みを、返した。  
 
「強いよね、友沢くんは。やっぱり、いちばんの人なんだと思う」  
自分で違うと思ってても、とグラウンドでの会話をみずきは思い起こす。  
「絶対いちばんになってやるって、それだけの実力と努力があって、そう思える強さがあるから」  
みずきは向き直り、友沢の首に腕を回した。  
快速球を投げる力を秘めているはずの腕が、押し付けられた胸が、とてもやわらかく感じられた。  
「わたしにも、分けてもらえるかな……?」  
友沢の耳元で、甘い吐息とともにみずきがささやく。  
「友沢くんの持ってる強さと……それと、ほんのちょっとの勇気」  
言い終わるか終わらないかのうちに、友沢の耳を、かぷ、とやわらかに噛んで。  
友沢が、みずきの首から肩にかけて、ゆっくり唇を這わせて。  
たぶん、それが合図だった。  
 
―――みずきのどこに、こんな大きな胸が隠れていたんだろう。  
手のひらに伝わる、友沢が感じた驚き。  
服の上から触るだけで、はっきり分かる。中に手を入れまさぐると、よりはっきりと。  
ゆっくりと、愛撫する。こわれものを扱うように。たからものを愛でるように。  
「……ぅん……あ…はぁ………ぁあん……」  
友沢の手に込める力加減と、みずきの濡れた声とが、シンクロしていた。  
躰を絡みつかせあいながら、一枚一枚、みずきの服を脱がせていく。  
下着姿のみずきを、友沢は腕の中にしていた。  
野球をしているときとは違う、白いレースの揃いの下着。  
少しもたつきながら、友沢はみずきの背中に手を回してブラジャーを外す。  
みずきの胸があらわになり、それを待ち望んでいたかのように、揺れた。  
 
チェリーを飾りにあしらった、大きく、白く、やわらかく、甘い、マシュマロがふたつ。  
ごくり、と友沢の咽が鳴った。  
両手で双丘のそれぞれを鷲づかみにして、夢中で揉みしだく。  
強く、強く。  
みずきが痛みに顔をしかめる。  
「ちょ…もちょっと……ゆっくり…」  
しゃにむに力を込めていたことにはっとした友沢は、思わず乳房から手を離した。  
あらためて指先で、桜色の乳首をはじく。挟み込む。またはじく。円を描くように、こね回す。  
「ぁああんっ…!!」  
大きく声をあげて、みずきが喘いだ。  
―――乳首がいちばん感じるのか? それともやっぱり、こっちか?  
みずきの躰を覆う最後の一枚の布の中に、友沢は手を滑り込ませる。  
繁みの向こうは、既にしっとりと、湿地になっていた。  
花びらを二本の指で開く。閉じる。開く。それだけで、みずきが息を漏らす。  
くちゅっ……  
ぬめりとした音を立てながら、友沢の指がみずきの中でうごめく。  
みずきの肉壁の上下を。左右を。手前を。奥を。  
全身を責められているような快感が、みずきをかけめぐる。  
くちゅっ……くちゅっ……  
足首までずり下がった下着が、みずきにつられるように、たなびく。  
「あっ…ぁんっ! ……ぅん…」  
みずきが軽く達したのを見て取った友沢は、ゆっくり指を引き抜く。  
甘い匂いの露が、友沢とみずきを繋ぐように、つうっ、と糸を引いた。  
 
友沢はみずきを抱きかかえて、しずかにベッドに横たえた。  
荒い息。友沢も、みずきも。  
上から、下から、互いにじぃっと見つめあう。  
―――じゃあ、いくよ  
―――うん…いいよ…  
目と目で、そう語った。  
友沢は股間からそそり立つものを、みずきの秘所へとあてがう。  
このまま貫けば、ふたりがひとつになる、はずだったけれど。  
入口のところで、押しとどめられる。  
破瓜を迎えていない秘部の強い抵抗。他と比べたことはないが、おそらく。  
それを打ち破るかのように友沢が力を込めた瞬間―――  
「痛っ! …ん…くぅ……いた…痛い……」  
「ごっ、ごめん…」  
あわてて、先端だけみずきの中にあったそれを引き抜く。  
みずきの目には、涙がにじんでいた。  
「うん……だいじょ…ぶ。…ただ…わたし…その……」  
―――はじめてだから。  
みずきがそう言わずとも、友沢には分かっていた。  
―――俺も、はじめてだから。  
―――下手でごめんな、みずき。  
言葉に代えて。  
精一杯やさしく、精一杯ていねいに、舐めて、そして吸った。  
 
友沢の舌と唇が、みずきの躰を這い回る。  
そのたびにみずきは艶やかな声をあげて、小さく震えた。  
唇を、首すじを、乳房を。  
乳首を、へそを、腰まわりを。  
ついには下の繁みと、それに覆われた秘所を。  
「や…やだ……そんなとこ…汚いよ…」  
「汚くないよ。みずきのだから」  
ぴちょっ……  
割れ目を、舌でなぞる。  
びくっ、と躰を固くしたみずきの両股を、左右に押し広げる。  
―――これが、みずきの……  
みずきの、いちばん濃い部分。友沢にはある種異様に、それでいて美しく映った。  
「そ…そんなに…見な……ぁあっ、あっ…ぁゃぅんん!」  
突起を舌先で転がすと、みずきが激しく、乱れた。  
両脇から、ちろちろとくすぐる。口に含み、強く吸う。  
ぴちょっ……ちゅばっ…ちゅばっ…  
みずきの奥から溢れてくる露を舐め取りながら、友沢はみずきがやわらんでいるのを感じた。  
―――今なら。  
再びの挿入。入口のところで、みずきが呻く。  
「…ん……ぅく……んっ……」  
友沢が感じた抵抗は、先程ほどのものではなかった。意を決して、貫く。  
みずきが感じた痛みは、先程ほどのものではなかった。唇を噛んで、堪える。  
友沢がみずきの中に入っていく。先端から根元まで、入っていく。  
ひとすじの赤い糸が、ふたりがひとつになったことを物語っていた。  
 
繋がったまま、しばらく友沢は動けずにいた。  
みずきに対して慎重に、少し弱気に、なっていた。  
「痛くない?」  
「まだ、ちょっと…だけど、平気」  
「痛くなったら、ガマンせずに言えよ」  
ゆっくりと、動き出す。  
深く―――  
「…あっ……ぁあん……」  
浅く―――  
友沢の動きに呼応するように、からみつき、締め付け、みずきは熱っぽく声を漏らした。  
「どう? …みずき?」  
「変なの…よく分からないけど……とっても…んんっ!」  
「とっても?」  
「とっても…はぁんっ……きもち、いいの…」  
みずきが高まるのと同じくして、友沢の全身も快感に支配されていく。  
もう少しの我慢を、と友沢は思う。みずきをもっと気持ちよくさせられるまで、もう少しの我慢を。  
―――とりあえず、体位を……  
友沢は下になっていたみずきを抱き起こし、膝の上で抱えた。  
それはさらに奥への侵入を促すことになり、深みを突かれたみずきが激しくもだえる。  
みずきを全部受けることになった友沢も。ひたすら上下にガクガクと腰を揺する。  
「わたし…わたし、熱いよぉ……からだ中、溶けそうっ…!」  
「俺も、もう…イきそうだっ…!」  
 
     * * *  
 
 イく?  
 気持ちよくて、爆発しちゃうの…これが、イくってこと?  
 わたしも、もうイきそうだよぉ…  
 一緒にイこうよ、友沢くん……リョウっ―――  
 
     * * *  
 
「みずき……っっ!!」  
さらに強く、速く、突き上げる。今にもあふれんばかりに、はちきれそうに―――  
みずきは躰を激しくくねらせ、締めつけも一段ときつくなり、絶頂を―――  
「んっ…もう…わたし…あぁ……ぁんっ、ぁああああんっ!!」  
友沢から噴出したすべてをみずきは受け止めて、そして、果てた。  
くたっと自分の胸に寄りかかるみずきの重みが、友沢にはとても心地よかった。  
 
     * * *  
 
「ねえ、友沢くん…」  
「うん?」  
「一緒に行こうね。オールスターも、日本シリーズも」  
「ああ、もちろん」  
友沢はみずきの頭をやさしく抱いて、もう一度、やさしくキスを交わした。  
 
(終)  
 

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