――最初は、ただの先輩と後輩でしかなかった。  
 
初野と出逢ったのは、俺が2年生になった春。たくさんの新入部員が我が野球部にも  
入ってきたが、その中でも初野はひときわ目立つ存在だった。  
「初野歩です。ポジションはセカンドです。よろしくおねがいします」  
「…これはまた」横で聞いていた矢部君が口を開く。「心優しそうな後輩でやんす」  
心優しい、ねぇ…。そう言ってしまえば聞こえはいいが、優しさなんて野球では何の  
役にも立たない。線も細いし、たいしたことない…最初はそれくらいの印象しか  
残らなかった。ところが、俺のそんな第一印象はわずか1時間足らずであっさりと  
覆されてしまうことになる。  
一通り自己紹介が終わると、今度は「1年生のとりあえずの動きを見る」ということで  
監督自らがノッカーとなり、ノックをすることになった。捕れなかったら即交代というルールで  
去年、俺もこのノックを受けたがたったの2球しか捕ることが出来なかった。最初は正面の  
優しい打球だが、2球目、3球目と進むにつれて嫌らしい当たりになる。去年の1年生は  
俺や矢部君を含めて3球目までで全滅。熊谷先輩の代も3球目をクリアした人は  
ほとんどいなかったらしい。…当然、新1年生もここまで3球目で全滅だ。  
「次!初野!」  
「ハイッ!」  
返事だけは素晴らしい。さて、どんな動きを見せてくれるか…。まずはイージーなゴロ。  
難なく捌く。まあ当然だ。次はちょっときつめのゴロ。とは言っても正面。これも難なく捌く。  
お次は右に大きく振られる。楽々キャッチ。捕ってからボールを返すまでも実に素早い。  
それまで騒がしかった他の部員達も急におとなしくなる。4球目。左に大きく振られる。  
あの位置ではまず捕れないと思った。ところが、だ。  
 
「捕ったでやんす!」  
俺と同じく、初野の動きを注視していた矢部君が驚嘆の声をあげる。――素早い動きで  
打球に向かい、逆シングルで捕球すると、そのままクルッと体を回転させてホームに  
矢のような送球を返す。その動きはまさに一瞬。ノッカーの監督は勿論のこと、送球を受けた  
熊谷先輩も狐につままれたような表情をしている。  
「すげぇ…」  
俺は無意識のうちにそう呟いていた。  
「あれはプロ級でやんす!今すぐプロに行って飯が食えるでやんす!」  
「…だな」  
驚くと同時に、どうしてあれだけの選手がドラフトにかからず、ウチみたいに大して強くない  
大学にやってきたのか、疑問に思ったのもまた事実だ。  
「あの守備、内野手の先輩としてどう思うでやんすか?」  
…矢部君が意地の悪いことを聞いてくる。内野手の先輩…とはいっても、あの守備を  
見せられた後では先輩を名乗るのも恥ずかしい。  
「…俺もうかうかしちゃいられないな」  
口ではそう強がって見せたものの、実際あれだけのレベルに達するには、ただ練習しただけでは  
追いつけない。…できる限り一緒に練習し、あの技を盗むしかない…俺はそう心に決めた。  
あとはどうやって初野と仲良くなるかだが…  
 
「センパーイ!」  
次の日の練習の帰りしな、誰かに大声で呼び止められる。  
「えーと、確か君は…」  
初野だ。わかってはいたのだが、吃驚して思わず意味のないことを口走ってしまう。  
「初野歩っていいます!入りたてで、色々分からない事があって、色々教えて欲しいことが  
いっぱいあって!それから…」  
「まあ落ち着けよ」興奮気味の初野を制するように言う。 「先輩といっても、去年1年は  
何もしてないし。俺も君と同じ新人みたいなもんさ」  
「そうなんですか…。でも、センパイはセンパイです。これからもよろしくお願いします!」  
俺を見つめる真っ直ぐな瞳。  
「ああ、よろしくな」  
…それからというもの、俺はなるべく初野と同じ練習メニューを選択し、一方の初野も  
俺に大学のことなどを色々聞いてきたりと、急速に打ち解けていった。  
――そして時が経ち、3年になると、なんとあの早川あおいが新監督として我が野球部に  
やってきた。最初は有名人の監督就任に浮足立っていた俺達だったが、次第に慣れて  
半月もすればいつも通りに戻っていた。そんなある日のこと…  
 
「セ、センパイ!その貝のキーホルダー、見せてくれませんかっ!?」  
夏合宿が始まって数日経ったある日の帰り道、俺が何気なくキーホルダーを弄んでいると  
それを見た初野が突然大きな声を上げる。  
「ん?ああ、これか。いいよ」  
「わぁ…ありがとうございます…。へぇ…うわぁ…」  
俺がキーホルダーを手渡すと、初野は子供のように目を輝かせながら隅々まで眺める。  
「センパイ、これ、どこで手に入れたんですか?  
「…昔、じいちゃんに貰ったものなんだけど、これってそんなに価値があるものなのか?」  
「はい。この巻き貝は昔、ハワイに生息していたんですけど、今では絶滅して見ることが  
出来なくなってしまった貴重なものなんです。センパイ、大事にしてくださいね」  
…知らなかった。俺は単に模様というか形が綺麗だからつけていただけなんだが、まさか  
絶滅種だとは夢にも思わなかった。初野はまだ、キーホルダーを眺めながら目をキラキラさせている。  
それだったら…  
「それ、初野にあげるよ」  
「え!?いいんですか…?」  
俺の言葉に初野は驚いたような表情を見せる。  
「いいっていいって。気にすんな。…それに、こういうのは価値の分かる人間が持ってた方が  
いいだろうし」  
そう言って俺はキーホルダーから鍵を外して初野に手渡す。  
「センパイ…ありがとうございます…。一生、大切にしますね」  
さっきまでキラキラ輝いていた目が、今度はウルウルしている。  
俺は、そんな初野の表情にどぎまぎしてしまって、ぶっきらぼうに「ああ」と答えることしか  
できなかった。  
 
キーホルダーの一件から1ヶ月近く経過し、長かった合宿もようやく終わりを告げ、打ち上げを  
兼ねて2,3年生のみんなで近くの居酒屋に繰り出すこととなった。  
当然、未成年も若干名いるわけだが、誰も気にしていないのは野球部の伝統か。いや、1人だけ  
気にしている人間が…  
「センパイ、ぼく、まだ未成年だから…」  
「…気にすんな。最初の乾杯の時だけビールに口をつけとけばいいんだよ」  
キーホルダーの一件以来、さらに打ち解けた俺と初野は、居酒屋までの道のりをふたり一緒に  
歩きながら会話する。…早生まれの初野はまだ19歳。形の上では未成年だが、今時  
そんなことを気にするとは…これも性格なんだろうか。  
「でも、ビールって苦いし…」  
「それだったらアレだ。チューハイにしておけ。あれなら飲みやすいし」  
飲みやすい分、酔いやすいというのが難点だが、まあ最初に乾杯するだけなら問題ないだろう…  
この時、俺はその程度にしか考えていなかったのだが…  
 
「カンパーイ!」  
ビールやカクテルなど、思い思いのドリンクを注文して、とりあえず乾杯。長かった練習漬けから  
ようやく解放されたこともあって、みんなの顔は一様に明るい。矢部君も狙い通りに加奈ちゃんの  
隣の席をゲットして、早くもご満悦だ。…して、俺の隣には当然のように初野が座っている。  
確かに、俺と初野は打ち解けてもいるし、懐かれているのはこっちも自覚してはいるんだが  
本当にそれだけなんだろうか…  
いつかは確認せねばと思ってはいるのだが、なかなかそのことを聞く勇気が持てないでいる。  
 
「センパイ、これおいしいですね♪」  
そんな俺の葛藤(?)をよそに、初野は初めて飲むコークハイに感動している。  
「おいおい、飲みやすいからって調子こいて…」  
…飲むなよ、と言おうと思ったが、初野はすでに全部飲み干していた。  
「あ、すいませーん!ラムネハイひとつください」  
程なくしてラムネハイが届く。俺はまだ一杯目のビールを持て余している状況だ。  
「うわぁ…きれいな色ですね」  
そんなことを言いながら初野はラムネハイを一気に片づける。…酔いが回ってきたのか  
初野の肌はほんのりと桜色に染まっている。それが何だか妙に色っぽくて、俺は勝手に  
自己嫌悪に陥る。  
「センパイ、飲まないんですか?じゃあぼくが飲んじゃいますよ」  
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、初野は俺が持て余していたビールの入った  
ジョッキを奪い、一気に飲み干す。…お前、ビール嫌いじゃなかったのか…?  
「…苦い」  
「当たり前だろ、ビールなんだから」  
「やっぱり、ぼくの口には…合いま…せんよ…」  
「…おい!大丈夫か?」  
急に呂律が回らなくなった初野の目を見ると、すでに半分閉じかけてる状況だ。  
「……」  
ダメだ。初野は俺が揺すっても反応を返さない。ただ見た感じでは、酔いが回って眠ってしまった  
だけのようなので、そのままにしておいても大丈夫だろう。…俺は初野を座の隅の方に移動させて  
寝かせておくことにした。しかし…  
 
「おーい初野、しっかりしろ!」  
宴も終わりに近づき、そろそろ二次会に移動、という段になったが、酔いつぶれてしまった初野は  
俺がいくら名前を呼んで体を揺すっても、自分から動こうとしない。…仕方がないので、俺は自分と  
初野、二人分の勘定を払い、初野の肩を抱えて店を出る。  
「これからカラオケに行くでやんす」  
矢部君の提案に、加奈ちゃんを含め、ほとんどの部員が賛同する。ただ俺は初野を抱えているので  
付いていっても迷惑になるだけだ。  
「矢部君、俺はこいつをなんとかしなくちゃならないから、とりあえず家に連れて帰るよ」  
「…わかったでやんす」  
「すまない」  
「別に気にしなくていいでやんすよ」  
そう言った矢部君の眼鏡の奥がキラッと光ったように見えたのは気のせいだろうか。  
俺はカラオケ屋に向かったみんなを見送ると、もう一度初野を揺すって起こそうとするが  
完全に潰れてしまっていてどうにもならない。このまま引きずるわけにもいかないので  
仕方なく初野を背負って帰ることにした。…体を離すと倒れそうになるので背負うまでに  
時間がかかったが、背負ってしまったらあとは楽だった。しかし…  
(…柔らかい)  
背負った初野を支えるには、どうしても手の位置が腰の下あたりになってしまう。  
意識しちゃいけないと思えば思うほど、逆に意識してしまう悪循環。  
柔らかいのは手が当たってる部分だけじゃない。背中に受ける感触も…俺と同じ男とは  
思えない。自分の心の中で、あえて蓋をしてきた気持ちが一気に溢れそうになる。  
(いかん…何を考えてるんだ俺は…)  
自分の中の、初野に対する気持ち。初野は俺を慕い、一方の俺は面倒見の良い先輩を  
演じている。だけど本当の俺の気持ちは…。初野が俺を慕ってくれるのは正直嬉しい。  
大学に入ってから初めて出来た後輩、というのもある。だがそれ以上に、初野が俺に  
寄せている(であろう)信頼や好意といったものが、あまりにも純粋というか、ストレートに  
伝わってくるのが嬉しかった。…初野にとっての先輩は俺一人ではないのに、事あるごとに  
「センパイ!」と呼んであれこれ聞いてきたり、講義の時はわざわざ俺を探して隣に  
腰掛けてきたり…。そうした時間を一緒に過ごしていくうちに、俺の初野に対する感情は  
微妙に、だが確実に変化していった。  
 
あれこれ考えても仕方がない、全てが壊れるのを覚悟で初野にこの思いをぶつけてみようか  
とも思ったが…さすがにそこまでする勇気は、今の俺にはない…。  
…そんなモヤモヤを背中に背負いながら、やっとの思いで自分の部屋に辿り着く。  
まず初野をベッドの上に降ろし、部屋の電気とクーラーをつけて一息つく。  
酒を飲んだ上で、人ひとりを背負って30分近く歩いたのでさすがに汗だくだ。  
とりあえずシャワーでも浴びようと立ち上がった瞬間、初野が呻き声を漏らす。  
…ひどい汗だ。ただ暑いだけならともかく、一気に酒を飲んでぶっ倒れた後だけに  
不安がよぎる。  
(…とりあえず、楽な格好にしないと…)  
そう思い、シャツのボタンに手をかける。しかし、何か物凄くひどいことをしているような  
気になるのはなぜだろう。  
俺は動揺を収めるべく深呼吸すると、ゆっくり1つ1つボタンを外していく。  
「なっ…!」  
俺は上半身裸になった初野の姿を見て、思わず声を上げてしまう。  
胸の部分にきつく巻かれたさらし。そしてその下には、わずかな膨らみが見て取れる。  
(まさか…そんな…)  
なんで?どうして?俺の頭の中は疑問と混乱で一杯になる。  
しかし、いつまでも固まっているわけにはいかない。そのことは取り敢えず頭の隅に  
追いやって、汗びっしょりになったシャツを全部脱がす。  
(さすがに…これを取るわけには…いかんよなぁ…)  
胸に巻かれたさらし。目を覚ました時のことを考えると、外さないでおく方が無難だろう。  
取り敢えずさらしはそのままにして、汗で濡れた体を冷たいタオルで丁寧に拭く。  
上半身の汗を取り敢えず拭き終える。問題は下半身だが、これはさすがにそのままに  
しておくしかない。  
何か着せてあげようかとも思ったが、この体勢ではさすがにそれも難しい。仕方がないので  
そのまま毛布を掛けて、体が冷えすぎないようにしてあげる。  
 
改めて初野の様子を見ると、さっきまでの発汗はおさまり、今はうなされている様子もなく  
静かに眠っている。  
(…かわいい寝顔だな…)  
眠っている初野の顔をまじまじと観察する。前からかわいらしい顔立ちだとは思っていたが  
こうして間近で見るとその印象は一層強まる。  
(ちょっと…触ってみようかな)  
どうしてそんなことを思ったのかは自分でもよく分からない。  
思ったと同時に、指は初野のほっぺたに伸びていた。  
…ぷにぷにしてて柔らかい。初野の方は目を覚ます様子はない。調子に乗った俺は  
さらに行動をエスカレートさせる。  
(キスしても…大丈夫だよな)  
…相当卑劣な行為であることは自覚している。…この時の俺はどうかしてたに違いない。  
初野が本当に起きていないかどうか確認するため、もう一度手のひらでほっぺたを触る。  
「ん…」  
吐息を漏らし、わずかに身じろぎするが、目を覚ましたような様子はない。  
わずかに開かれた初野の唇、俺はそこに吸い込まれるように自分の唇を重ねる。  
時間にしたらわずかだが、柔らかい唇の感触は十分に感じることが出来た。  
だが、俺が唇を離したと同時に…  
「…センパイ…」  
「…!起きてたのか…」  
「えへへ…ごめんなさい…」  
そう答える初野の目からは、今にも大粒の涙が零れ落ちそうだ。  
「いや、すまん…。謝らなくちゃならないのは俺の方だ…」  
いくら酔いつぶれていたからとは言え、勝手に服を脱がせて、その上目を覚まさないのを  
良いことにキスまで…。絶縁されても何ら文句は言えない。  
「本当にスマン!悪気はなかったんだ!」  
俺はひたすら謝って、何とか許しを請う。  
 
「…いいんです、センパイ。隠していた…ぼくが悪いんです…」  
「初野…でも、お前…なんで…」  
ずっと女の子であることを隠していたのか。俺は当然の疑問を初野にぶつける。  
「…大学に入って…みんなと同じ条件で…特別扱いされたくなくて…」  
…なるほど。どうしても女の子だと特別扱いされるし、好奇の目で見られる。女性プロ選手が  
誕生した今でも、それは大して変わってはいまい。  
「最初は…センパイやみんなと一緒に野球が出来て…それだけで嬉しかった…けど…」  
「けど?」  
「いつかは…みんなに本当のことを言わなくちゃって……だけど…だけど…」  
最後の方は嗚咽で言葉にならない。俺は初野が落ち着くまで黙って待つ。  
「…センパイは…こんなぼくにも優しくしてくれて…最初はただ…いろんなことを教えて欲しくて…  
それだけだったのに…だんだん…センパイのこと…好きになって……でも…本当のことを言って…  
センパイに…嫌われるかもって思うと…」  
ぽろぽろと初野の双眸から涙が零れる。…俺はそんな初野が愛おしくて、ゆっくりと抱き寄せる。。  
「センパイ…」  
「…いいか?」  
俺の問いかけに、初野は黙って頷く。  
ゆっくり初野をベッドの上に倒すと、覆い被さるような体勢で初野の唇を貪る。  
「…ん…ふぁ…」  
苦しげに吐息を漏らす初野に構わず、俺は舌を差し入れ、初野の口の中を蹂躙する。  
最初はそんな俺の行為に戸惑いを見せていた初野だったが、じきに慣れたのか、体から硬さが  
抜けていく。それを合図に俺は唇を離す。  
「…っはぁ…」  
唇が離れたと同時に、初野は大きく息をつく。  
 
「…苦しかったか?」  
「あ、いや…大丈夫です。ただ、初めてだったから…」  
ん?初めて?それは一体…  
「初めてって、まさか…」  
「はい。…本当のファーストキスは、さっき寝たふりしてる時に奪われちゃいましたけど」  
そうだったのか…己の軽率さを恥じても、もう遅い。  
「…すまん」  
「えへへ。でも嬉しいです。ぼくのはじめてを…センパイがふたつも貰ってくれるんですから…」  
「ふたつ、って…」  
「だからセンパイ、優しくしてくださいね」  
そう言うと初野は上半身を起こして俺に背中を向けると、胸に巻かれたさらしを自ら解く。  
「…センパイは…やっぱり大きい方が好みですよね」  
「いや、別に大きさにこだわりはないんだが」  
「でも…」  
まだ何か言い続けようとする初野の言葉を遮るように、俺は強引に腕を掴み、自分の方に  
向き直らせる。  
「あっ!センパイ…!」  
抗議の声を上げる初野を無視して、俺は再び初野を押し倒し、双丘に唇をつける。  
…確かに形は大きくないが、全然無いというわけではない。俺は夢中になって、先端を  
舌で転がしたり、軽く歯を立てたりしてその感触を楽しむ。  
「あっ…やめ…っ…!」  
「…本当にやめて欲しい?」  
「センパイの…いじわる…」  
初野は顔を真っ赤にして俯く。  
そんな初野の姿に興奮した俺は、もう一度双丘の先端を口に含み、今度はわざと音を立てて  
吸い上げる。  
「…んっ!ああっ!センパイ…っ!…やっ…!」  
初野は抗議と羞恥の声をあげるが、俺はそれを無視するように、留守になった手で  
ズボンの上から初野の股間のあたりを愛撫する。  
「あっ…!」  
初野の体がビクっと震える。もどかしさを覚えた俺は、胸から唇を離すと初野のズボンを  
脱がせにかかる。  
 
「…センパイ…その…自分で脱ぐから…」  
そう言って初野は立ち上がると、自分でズボンを脱ぎ、下着一枚の格好になる。  
…改めて初野の裸体を観察する。まず目を引くのは、さっきまでの愛撫で先端が上を向いている  
ふたつの膨らみ、ウエストから下は、日頃あれだけ激しい練習をこなしているにもかかわらず  
意外にも女性らしい緩やかな曲線を描いている。一方、脚はカモシカのようにきゅっと  
引き締まっていて、その対比がアンバランスな魅力を醸し出している。  
「うぅ…センパイ……恥ずかしいからあんまり見ないで…」  
消え入りそうな声で抗議する初野。恥ずかしさからか俺の方をまともに見ることができず  
視線は斜め下の方を向いている。  
(かわいいなぁ…)  
普段の練習とかでは絶対に見ることが出来ない表情。俺の興奮は一気に高まる。  
俺はベッドに腰掛けたまま初野の腰を抱き寄せ、もう片方の手を使って、下着の上から  
割れ目に沿って指を這わせる。  
「…っ…!」  
初野の体がビクッと震える。俺はそのまま二度、三度と割れ目に沿って指を上下させる。  
「やぁ…っ…センパイ…っ!」  
初野は腰を引いて逃げようとするが、俺は腰を抱いている方の手に力を加えて  
それを阻止する。  
程なくして、下着から染み出した愛液が俺の指を濡らすようになる。  
「初野はえっちだな。下着越しに触られただけでこんなに濡らして」  
指に付いた愛液を初野の目の前に見せながら、俺は意地悪く囁く。  
「…」  
初野は顔を真っ赤にして視線を逸らす。あまりにそのリアクションがかわいかったので  
俺は調子に乗ってさらに続けてしまう。  
「…普段から自分でしてるんだろ?」  
初野はふるふると首を横に振る。しかし俺は追及の手を緩めない。  
「嘘言うなよ。だったらこんなに濡れるわけないだろ」  
「……ごめんなさい…」  
今にも泣きそうな顔で謝る初野。だがもうひとつだけ、どうしても聞いておきたいことが…  
「…どんなことを考えながら自分でしてるんだ?」  
すると初野は、聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟く。  
「…センパイのこと…考えながら…」  
 
ある意味予想通りの答えが返ってくる。その答えに満足した俺は、下着に手をかけると  
ゆっくりと下におろす。  
さっきの愛撫で溢れ出した愛液が、下着と割れ目の間で糸を引く。俺はその淫靡な光景に  
思わず唾を飲み込む。  
一糸まとわぬ姿になった初野を仰向けにしてベッドに寝かせ、両足を開かせると  
俺はその間に顔を埋めて、秘所を舌でゆっくりと愛撫する。  
「ひあっ…!」  
舌が触れた途端、さっき指が触れた時以上に初野の体が大きく震える。  
「…センパイ…っ!そんなっ…!……んっ!」  
初野は俺の頭を引きはがそうとするが、俺は構わず舌を割れ目に差し入れる。  
「ああっ!…んっ!あっ……!」  
最初は抵抗していた初野だったが、未知の感触がもたらす快感に流されるように  
次第に嬌声が大きくなっていく。  
(もうそろそろいいかな…)  
これだけ濡らしておけば大丈夫だろう…そう思った俺は、初野の秘所から顔を離すと  
ズボンとパンツを脱いで、自分のものを取り出す。  
「…初野…いいか?」  
「あ…はい…」  
大きく息をしながら、初野が答える。…俺は自分のものを初野の秘所にあてがうと  
ゆっくりと体重をかけて、初野の中にうずめていく。  
「うっ…あああっ…!」  
膣内の抵抗が大きくなるに従って、初野の表情が苦悶に染まる。  
しかし、ここで動きを止めても初野に余計な痛みを与えるだけだ。俺はごめん、と  
心の中で謝ると、そのまま進入を続ける。  
 
ぷつっ、と何かを破った感触が伝わる。背中に回された初野の手にぎゅっと力がこもる。  
最後まで押し込めると、俺はそこで一度動きを止める。  
「…痛かったか?」  
「…えへへ…ちょっと痛かったけど…これで……センパイといっしょになれたから…」  
無理矢理笑顔を作ってはいるが、目の端には涙が光っている。  
俺はその涙を舌で舐め取る。  
「センパイ…くすぐったいです」  
そう言って初野は身をよじる。…初野が体を動かしたことによって、繋がった俺のものに  
刺激が伝わる。…それを合図にして、俺は抽送を開始する。  
「うん…っ!あっ!セン…パイッ…!」  
さっきよりもいくぶん快楽が混じった声をあげる初野。その声が大きくなるとともに  
二人の結合部から溢れる淫靡な音も大きくなる。  
「あっ…!センパイ…ッ!気持ち…いいですか…っ…!」  
「…ああ」  
実際、初野の中は俺をぎゅうぎゅうに締め付けて、ちょっと気を抜くとすぐに  
イッてしまいそうになる。  
…二人の結合部から溢れ出す愛液がシーツを大きく染めるに従って、俺の射精感も  
どんどんと大きくなり、腰の動きも激しさを増す。  
「んんっ…センパイ…ッ…!もっとっ…!ゆっくり…っ!」  
「…そろそろ…イキそうだ…」  
「あっ…!駄目っ…!センパイ!…中は…!」  
初野が目を見開いて懇願する。その間にも俺は激しい勢いで腰を打ち付ける。  
「センパイ…ッ!中には出さないで!赤ちゃんが…できちゃう…!」  
中に出したい。でも妊娠させるのはまずい。…考えたのは一瞬だった。  
 
俺は初野の中に深く挿し入れると、自らの欲望を一気に破裂させる。  
「くっ…!」  
あまりに凄まじい快感に、俺は思わず呻き声を漏らす。  
「んんんんっ…!あっ!出てる…っ!んっ…!」  
俺の欲望を体の奥で受けて、初野の体は大きく震える。  
…しばらく、ふたり繋がったままで息を整える。  
そして俺は初野から自分のものをゆっくりと引き抜く。  
…初野の秘所からは俺が大量に放った精液と、純潔の証が混じって流れ出す。  
「…センパイ…」  
その流れ出したものを見ながら、初野がゆっくり口を開く。  
「たくさん…出したんですね…」  
「…いや…すまん。…あまりにお前の中が気持ちよかったから…。  
その…やっぱり…危ない日だったのか…?」  
欲望に負けた俺は、初野の懇願を無視して思いっきり中出ししてしまった。  
すると初野は頬を染めて俯きながら、  
「今日は…ちょっと危ない日だから、ひょっとしたらデキちゃうかもしれないけど…  
でも…センパイの赤ちゃんなら…別に…デキちゃっても…」  
「えっ…!?」  
思わず聞き返す俺。  
すると初野は、ウィンクしながら笑顔で言った。  
「センパイ…その時は…ぼくをお嫁さんにしてね!」  
今まで見た中で、一番眩しい笑顔。  
(…もう逃げられんな…何があっても)  
それでも、この笑顔が独り占めできるなら、それは安い代償と言うべきかも知れない。  
 
――先輩と後輩から、恋人同士へ…俺と初野の物語は、まだ始まったばかりだ。  
 

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