───プニ  
 頬をつつかれる感触。  
 ───プニプニ  
 右から、左から。  
 集中力が削がれる。  
 ───プニ  
 ───プニ  
「っだあぁああっ! 邪魔しないでよっ!」  
 思わず立ち上がって、叫んだ。  
「……ヒマなんだもん」  
 床に指先で円を描きながら───いわゆるイジけているポーズをとって、みずきちゃんが言った。  
 先日のグラウンド使用権を賭けたジャンケンで負けてから練習スペースがロクになく、他のみんなはロードワークに出ている。  
 俺たちバッテリーだけがグラウンドに残って投げ込みをやる予定になっていた。  
 講義が長引いたみずきちゃんを待つまでの間、俺は部室でイメージトレーニングをやっていた、というわけだ。  
「いや、普通に声かけるとか、肩たたくとか───」  
「柔らかいんだね」  
 最後まで言わせてももらえない。  
「腕なんか、こんなに太くて。胸板も、こんなに厚くて。身体じゅう、ゴツゴツしてて固いのに───」  
 腕を、胸板を───言葉に合わせて、みずきちゃんの手が俺の身体を撫でる。  
 鼓動が、速くなる。  
「ほっぺたは、柔らかいんだね」  
 手のひらで、包むように。ほんの少し、ひんやりとして。  
 みずきちゃんの瞳が、唇が、声が、気のせいか潤んでいるような感じで。  
 自分の顔が真っ赤に染まるのが、見えなくてもはっきりと分かった。  
 
「赤くなっちゃって、カワイイんだから」  
 みずきちゃんは、いつもの元気娘の表情に戻っていた。  
「──────っ!」  
 からかわれたんだ。  
 さっきとは違う意味で、思わず赤面する。  
「なに想像してたのさぁ〜?」  
 ───プニプニ  
 優しくあてがわれていたはずの右手で、また俺の頬をつつく。  
「オラオラ、正直におねーさんに言ってごらん?」  
 ───プ  
 拒否するように、俺は勢いよく立ち上がる。  
「はやく着替えて。外で待ってるから」  
 俺がみずきちゃんのことをどう想ってたって。  
 彼女にとって俺は野球のチームメイトで、バカやって騒ぐ仲間で、でも、それだけだ。  
 部室のドアを開けて出て行こうとしたその時に。  
 俺の後ろからすっと伸びた手が、カチリ、と鍵をロックして。  
 そのまま、背中ごしに抱きしめられた。  
「───ごめん」  
 とても素直な声だった。  
「からかって、ごめん」  
 抱きしめる腕に力がこもって、みずきちゃんの胸のふくらみが背中に押し付けれたけれど、今度はわざとじゃない、と思う。  
「ほっぺた、柔らかいな、っていうのも。赤くなってカワイイな、っていうのも。全部ホントにそう思ったんだよ」  
 だったら、なんで。  
「怒ってなかったら、こっち、向いて」  
 そっと、腕がほどかれた。  
 みずきちゃんのほうを、向く。  
 怒ってたけど───でも、言わなきゃいけないことが、あるんだ。  
 
「また冗談でも、からかわれてたとしても、そうだったら仕方ないけど───」  
 俺のすぐ下に、みずきちゃんの顔がある。  
 ちょっと幼さの残る、かわいくて、表情が豊かな、3年以上ずっと見てきた、その顔。  
「俺、みずきちゃんが好きだ」  
 いつか、もっと後のいつか、言おうと思っていた。  
 たまたま、今に早まっただけた。  
「……いいの?」  
 確かめるように───確かめなくてもいいのに。  
「素直じゃないし、ワガママも言うし、イジワルもするけど、そんなわたしだけど───」  
「全部、そのまんま全部───好きだよ」  
 これ以上の言葉は、俺には見つけられない。  
 みずきちゃんの腕が、俺の首へと回されて、背伸びをしながら引き寄せられた。  
 頬と頬がすりあわされて、耳元で、彼女がそっとささやく。  
「わたしも、好きだよ」  
 頬越しに感じるほっぺたは、俺のよりずっと、柔らかかった。  
「───うん」  
 自然と、唇が寄り添う。  
 はじめての、長い長い、その間。  
 甘く、柔らかく、瑞々しい、彼女の味。  
「まさか、部室でなんてね」  
 唇が離れて最初に、くすっと笑ってみずきちゃんが言った。  
「でも、大丈夫。わたしの着替え中は、誰も入ってこれないもん」  
 俺も分かってたから、たぶん大胆になれたんだと思う。  
「───だから、大丈夫だよ」  
 何が大丈夫なのかは、言葉なしに、確かに俺に伝わった。  
 
 みずきちゃんの肌が、赤く、上気している。  
 引き締まった肢体に不釣合いなほど豊かな双丘を、夢中になって揉みしだく。  
 ───ほっぺたより、もっとずっと、柔らかいんだから。  
 恥ずかしさをごまかすようにみずきちゃんが言った、その通りだった。  
 ぎこちなくではあったけれど、おもむくままに、お互いを求めあって。  
 彼女の身体を覆う、最後の小さな一枚に手をかけた───  
 まさに、その時。  
 ドアが数回ノックされて、毎日聞いている、テンションの高い声がした。  
「みずきちゃーん! ちょっと荷物取りたいから、鍵あけてー!!」  
 ───エリリン!?  
 うっかりしていた。入ってこれないのは、男子部員だけだ。女子マネは当然入っていいわけで───  
(どどどどっか隠れて!)  
(どこにさっ!?)  
(自分で考えなさいよっ!)  
「ねー、みずきちゃーん」  
「い、いま着てるとこだから、ちょっと待って!」  
 
 この狭い部室のどこに隠れろっていうんだ───  
 
 
(おわり)  
 

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル