シュッ...
スパッ。
シュッ...
スパッ。
シュッ...
スパッ。
しなやかな球を放る、緑髪の女性。
女性プロ野球選手第1号、早川あおいである。
昨年2005年、キャットハンズはオーナーをミゾットスポーツと変え、その効果なのか、リーグ優勝を収めた。
そして今年、オールスター明けの今、1位に3ゲーム差の3位という順位につけていた。
それも、3年間のタイムリミットをバネに変え、今やミスターキャットハンズとまで謳われる名選手、柊の活躍が大きかった。
もちろん、移籍してきたあおいの影響も強かったわけだが。
日課の投げ込みを終え、あおいは更衣室へと向かった。
キィィィ...
バタン。
更衣室に入ると、そこにはみずきの姿があった。
この更衣室は、たった2人のタメに設けられた部屋である。
広めの部屋に、2人きりというのは、広々使えていいのだか、寂しい感が漂うのだか・・・。
「あ、センパイ。」
「あれ?みずきも練習してたの?」
「はい、ちょっと投げ込みを。」
「ふ〜ん・・・。」
そう言うと、あおいは着替えを始めた。
「〜♪」
鼻歌交じりに着替えるその姿が、みずきの目に映る。
「・・・鼻歌なんか歌っちゃって、また、柊センパイとデートですか?」
「うっ・・・!なんでいつもバレちゃうのかなぁ・・・。」
と、あおいは13回目の失態を悔やむのである。
「もう、冷やかさないでよね。」
「センパイこそ、ヒトの前で惚気るのだけは勘弁してくださいよ――。」
みずきが冗談っぽくそう言うと、着替え終わったあおいは、
「はいはい。じゃあ、また明日ね。」
あおいは汚れたユニフォームをしまい、ロッカーに道具を片付けて、更衣室を去っていった。
待ち合わせ場所は、彼の部屋。
2人とも、練習のあとに外へわざわざ出かけたくはないのである。
練習のあとでのデートは、デートとは呼べないような、「遊びに行く」感覚のものだ。
2人でテレビを見たり、夕食を作って食べたり――。
だが、野球のことを話すのが1番多かったりする。
2人も恋人同士、もっと恋人らしく、肉体的な交わりがあってもいいのだろうが、
柊曰く、「2人とも練習で疲れていて、そんなことをする気分にはなれない」という。
練習のない日に、ゆっくりとするのだそうだ。
ピンポーン...
インターホンを押す音。
柊の住まいは、マンションの一室。ちなみに彼の年俸は9400万円である。
一括で買っても1年間の稼ぎで足りてしまうのだから、安い買い物だった。
「いいよー、開いてるー。」
スピーカーから彼の声がした。
あおいは部屋に入ると、ソファーに寝転んだ。
「ぁー、疲れた――。」
「あおいちゃんなんかまだいいさ、俺は昨夜、監督にSNTとか言ってまた・・・。」
うんざりという表情で柊が言った。
そして、いつものように時間が過ぎていくのである。
「ねぇ、柊くん?」
「ん?」
「今年も優勝できると思う?」
あおいが唐突に問う。
「俺が優勝させてみせるよ。」
冗談交じりの笑い顔で柊は言った。
「ふふっ、嘘だったら承知しないからね。」
「あおいちゃんが打たれなければ大丈夫だけどね・・・。」
「なんだよ、その言い方。」
他人から見たら呆れるような会話も、2人にとっては大切な時間だった。