秋季大会も近い。明日はきつい練習になるだろう。
ベッドに横たわる。
明日のために、はやく寝たいところだ。
が、考え事が、俺を眠りにつかせようとしない。
練習のこと。チームメイトのこと。みずきのこと。そして、絵里のこと。
絵里にメールをしてみようか、と思ったが、話の内容が思い浮かばない。
やめとこうか。と思った時だった。
絵里からのメールだ。
「品川クンと一緒にいると、アタシね、とっても楽しいの!
だからさぁ。今度どっかに遊びに行かない?
あ、今度は品川クンから誘ってね(笑」
・・・こういうとき、どう返信すれば、一番格好いいのだろうか・・・
とりあえず、
「ああ。俺も楽しいぜ。絵里といると。遊びにも行きたいな。」
と、ぶっきらぼうにしてみた。
すると、すぐに電話が来た。絵里か!と思って携帯に食いついた。
「おぉっす。みずきだよ〜。」
その電話は絵里からではなく、みずきからだった。
期待を裏切られた残念な気持ちも合わさって、
「・・・・何だよ。何か用か?」
と、あまりにも粗末な返事をしてしまった。
「ん〜?なにか、嫌なことでもあったの?暗いね!」
「・・・・いいや。違う。で、何だ?」
「あ・・・・ただ、今日の練習どうだった?って」
ちょっとやりすぎた。相手までも不機嫌な気持ちにしてはアレだ。気を取り直す。
「別に。変わったことといったら、雪村が挑んできただけ。結果は、分かるだろ?」
「あぁ〜!雪村いじめたなぁ〜?」
「そんなことないさ。最後にスローボールを投げてやった。」
「オナサケ、かぁ・・・。」
・・・そういえば。なぜ、みずきは今日の練習に参加できなかったのか。
それを聞いてみるか。まさか、監督にヤられてるなんてこたぁ無いだろうがw
「なぁ、みずき。お前、監督と何話してたんだ?」
「・・・・・・・・・・ワタシさぁ。ピッチャーやめることになったの・・・」
・・・
ゴクリ、と息を飲む。
頭の回転が速いヤツならぱぱっと励ましてやるんだろうけどな。
俺はあいにく頭の回転が速いわけではない。
「・・・・品川君?」
「・・・・ん」
「ワタシ、いいの。別に。」
この一言に、どれだけの思いが込められているのか。
みずきは・・・
イレブン大の野球部で投手として頑張ってきた。
子供の頃からずっと投手を頑張ってきた。
初の女性プロ野球選手、あおい選手を目指して頑張ってきた。
投手として、プロ野球選手になれるように頑張ってきた。
「投手」に込められた、たくさんの思いが。
「な・・・・何故だ?今まで、やってきたじゃないか。投手で。」
「ううん。いいの。ワタシ・・・品川君と一緒に・・・」
ピッ・・・
携帯の向こうのみずきは、泣いていた・・・のかもしれない。
・・・今夜は頭ン中がごちゃごちゃしている。
眠れそうにもないな・・・
と思っているところへ、絵里からメールが来た。
「おやすみ♪」
このメールだけでほんのちょっともやもやが晴れてしまう俺って、嫌なヤツ。
翌日。グラウンドにて。
「みんな集まったでやんすね。監督から話があるでやんす」
「うぉっほぉん。あぁー。チームの構成を考えて、ポジションをコンバートするぞぉ。みずき!」
「・・・はい・・・」
「お前はぁ、外野手に・・・」
「ちょっと待ってください、監督。」
「うぅん?どうした。品川。」
「何故ですか?みずきをコンバートするのは。」
「そりゃぁ簡単だぞ。ピッチャーは、お前一人で十分。
それに、もし何かあっても、高原がいる。彼は2年ながら、なかなか速い球を持ってるぞぉ。
守備のうまいみずきには、どこかを守ってほしいわけだ。」
「でも!みずきは・・・・」
「・・・品川君が投手でしょ。来ないかもしれない出番を待つより、外野手になって、少しでもチームのためになりたかったの」
・・・俺が投手じゃなけりゃ・・・
「みずきも、外野手へコンバートすることを承諾してくれたぞぉ。そういうわけだ。品川。」
「・・・・はい。」
「よし。じゃあ、練習開始だ!」
・・・・良かったのか。みずき。
もし俺が投手をやめれば・・・みずきは投手を続けられるかもしれなかった。
だが、俺にはできなかった。
自分が投手でないと勝てないと悟ったのか。それとも、自分が可愛かったのか。
どちらにしろ、投手を譲ることはできなかった。
「ぷにぷに・・・」
「みずき!!」
「ん〜ん。今は、何も聞かないで。それより、一緒に守備練習しない?」
「・・・・・分かったよ。」
いつもの元気なみずきに戻った。のか・・・。
みずきは、自分自身の夢の架け橋である、「投手」をやめたのだろうか。
もやもやしたまま、その日は終わってしまった。
大会は近かった。それなのに、練習に身が入らない。
俺は、絵里のこと、みずきのことを考えながら、ベッドに横たわる。
そんな、もやもやした気分の中、大会を迎えることとなってしまった。
シナガッシュ!!! part2
--糸冬了--