子供の泣き声、消毒の匂い、注射。  
そういえば、子供のころに注射をうたれて泣いたっけ……  
白い壁に囲まれた小さな部屋で、彼はそんな事を考えている。  
「まだ……5分しか経ってないのか……」  
壁の時計を見て、自分にだけ聞こえるように呟く。  
時間がのんびり進んでいることに少し苛立ちを覚えた。  
 
診断結果を待つ時の、たまらなく嫌で、長い長い時間。  
彼は、その時間が一分でも早く終わることを願っていた。  
そして、その結果が自分にとって良いものである事も。  
 
病院。病気や怪我をした人たちが救いを求める場所。  
ここは、あまり来たくはない場所で、  
事実、来ずに済むならそれが一番の場所。  
そんな来たくはない場所に彼は居た。  
 
 
八城 暁(やしろ あかつき)。  
4歳ごろに野球を知り、それから呆れるぐらいの野球人生。  
小学校はもちろんのこと、中学、高校と当然のように野球部。  
高校ではそれなりの成績を残した。プロからの誘いもあった。  
しかし、『大学だけは絶対に出ろ』と両親に泣きつかれしぶしぶ進学。  
進学先はイレブン工科大学。勉強ではそこそこ有名で、野球部もある。  
しかし、なによりも実家から通えるというのが  
彼にとってはもっとも重要で重大なポイントだった。  
 
カチッカチッカチッ……  
 
いつもなら少し鬱陶しく思うような音も  
気が塞いでいる時にはちょうどいい事をオレは知っている。  
 
カチッカチッカチッ……  
 
『この時計はいつから動いてるんだろう……。』  
 
くだらない考えだというのは分かっている。  
くだらないと分かっているからこそ考えたいのだ。  
そんな、くだらない考えを運んでくれるから  
オレはこの時計の音を聞いているのだ。  
 
カチッカチッカチッ……  
 
いつもなら少し鬱陶しく思うような音も  
気が塞いでいる時にはちょうどいい事をオレは知っていた。  
 
『残念だけど、このまま球を投げ続けるというのなら  
 君の肩は間違いなく壊れる。数年以内には必ずね……。』  
 
『しかし、野球が出来ない訳じゃない。  
 肩が壊れると言ったが、それは投手としてあり続けた場合だ。』  
   
『野球のポジションはピッチャーだけではないだろう?  
 このまま投げ続けて野球のできない体になるか、  
 他のポジションで野球を続けるか……。』  
 
『……選ぶのは君だ。だが、私は野球を失くしたことで、  
 自分の人生すら失くしてしまった人を知っている。  
 君にはそうなって欲しくはない。……そう思う。』  
 
……ッチカチッカチッ……  
 
暗闇から少しずつ意識が浮上してくる感覚。  
眠ってしまった事に気づくのに、それほど時間はかからない。  
 
「ッハァ……オレは馬鹿か……。」  
 
時計を見ると、針は午前2時をさしていた。  
 
「別に疲れてるわけでもないのに……。」  
 
こういう時、習慣というヤツが嫌になる。  
毎日ヘトヘトの状態で帰宅し、10時には寝てしまう。そんな習慣。  
考えたくない事があるから下らないことばかりを考えていたのに。  
眠ってしまえばそれも無意味。自分の意思が介入しない夢の世界に落ちるだけ。  
 
夢は自分の願望をあらわすというけれど、オレはそれを信じない。  
自分の夢には嫌なことばかり浮かんでくるのが分かっているからだ。  
 
『4歳ごろだったかな……。』  
 
初めてボールを持ったときの事を思い出す。  
その時は思ったとおりにボールを投げる事すら出来なかった。  
それが悔しくて、面白くて、どんどん野球にのめり込んでいった。  
『人生=野球』そう言い切れるぐらいに。  
 
『そういえば、オレはいつから投手を目指したんだっけ……。』  
 
確か……小学4年生ごろ。父さんが、とある投手の話をしてくれた時だったか。  
マサカリ投法と呼ばれる豪快なフォームで200勝をあげた名投手の話。  
詳しい内容は覚えていないけど、オレはその投手にとてつもなく憧れた。  
なんとかその人のビデオを手に入れると、オレはテレビに噛り付いた。  
あまりにも豪快すぎるそのフォームに、オレは憧れたんだ。  
 
だんだんと狙い通りに投げられるようになり、  
だんだんと球が速くなっていくのを実感できた。  
才能というヤツがあったのだろう。中学ではエースと呼ばれ、高校では怪物と呼ばれた。  
プロからの熱烈な誘いもあった。悪い気はしなかった。  
オレは野球を続けられるだけで幸せだったから。  
 
だが、両親には猛反対された。  
大学だけは出て欲しいと泣きつかれ、オレが折れた。  
今時分、高卒だって珍しくないだろうとも思ったが、  
自分の境遇を考えれば、それも納得できる事だった。  
 
オレは、いわゆる『お坊ちゃん』だ。  
そこそこ大きくて、そこそこ有名な会社の社長の息子。  
将来的に会社を継がせることを考えるならば、  
オレが大学を出ることを望むのは当然のことだった。  
 
大学に進学したことを後悔はしていない。  
プロになることを反対された訳ではないし、ちゃんと野球部のある大学を選んだ。  
勉強で有名な大学だが、決して苦手ではないので問題はなかった。  
 
なにより、オレは仲間に恵まれた。  
 
入学早々仲良くなった矢部くん。  
一浪しているため、同級生なのに年上の雪村。  
薬作りが趣味のちょっと危ない先輩、満田さん。  
影は薄いけど、いつも一生懸命な部員が数人。  
助っ人として参加してくれるサッカー部の軽井沢とジャンケントリオ。  
サッカー部との兼任ながらもよく働いてくれるマネージャーのエリリン。  
 
そして、オレにとって特別な女の子が一人。  
 
「・・・・・・・・・。」  
 
仲間のことを考えると、涙があふれてきた。  
 
みんな野球が大好きで、一生懸命で、  
一緒に野球をしていてどうしようもなく楽しかった。  
 
だからこそ申し訳なかった。悔しくて、哀しくて、申し訳なかった。  
オレは、彼らに夢を見させてしまったから……。  
 
もぞもぞと這うようにベッドに向かい、枕に顔をうずめる。  
 
ゆっくりと体から力を抜いて、特別な女の子の顔を思い浮かべた。  
 
次は彼女の夢を見よう。  
 
そう思うと少しだけ気持ちが楽になれた気がした。  
 
それは、体の底から震え上がるほど衝撃的だった。  
しなやかで力強く、それでいて流れるようなフォーム。  
鮮やかなサイドスローから放られたその球は、  
名前の通り綺麗な三日月を描きミットに吸い込まれた。  
 
正直言えば、それぐらいの球を投げる投手はたくさんいる。  
オレが驚いたのは、その球を投げたのが女の子だということだった。  
 
数年前に史上初の女性プロ野球選手が誕生したのは当然知っている。  
確かな才能と技術を持っていて、参考にさせてもらった事もある。  
だが、投手として完成されたアンダースローは  
女性のプロとしての可能性と同時に、女性としての限界を感じさせた。  
 
しかし、その女の子は……。  
オレの目の前で三日月を浮かべてみせた女の子は、  
驚異的な才能を感じさせながら、いまだ発展途上だった。  
 
『?……肘が少しブレてるな……。』  
 
彼女の投球を見る中で、オレはいくつかの問題を見つけた。  
それを直すことが出来れば、それを直した上で更に高みを目指せば、  
彼女がどこまで登れるのか、オレには想像できなかった。  
 
『見てみたい……最高の彼女を……。』  
 
足は、自然と彼女に向かっていた。  
額の汗を拭いながら息を整える彼女に、  
オレは出来るだけ驚かせないように声をかけた。  
 
「こんにちは。  
 オレは八城暁(やしろ あかつき)。キミの名前は?」  
 
閉じたカーテンの隙間から、朝陽が差し込む。  
まぶたを透過する柔らかい光に自然と目が開いた。  
 
「……ホントに見れちゃうんだから、夢も悪くないかな。」  
 
軽く伸びをしながら、出会った時の事をしっかりと思い出してみる。  
 
「そういえば、話しかけた時はナンパと間違えられたっけ……。  
 確かに言葉は足りなかった気はするけど……。」  
 
昨日は風呂にも入らなかったし、シャワーぐらい浴びようか。  
シャツを引っ張って臭いを確かめてみる。一応、こういう事が気になる年頃だ。  
幸い?汗臭くはなかったが、それが少し悲しかった。  
吹っ切るように息を吐きだし、閉めっぱなしだったカーテンを開く。  
今度の朝陽は少しだけまぶしくて、目を細める。  
 
そのとき、心がだいぶ軽くなっていることに気づいた。  
 
彼女の夢を見たからだろうか。  
あれだけ悩んでいた自分が嘘のように消えていた。  
なんの解決にもなっていないけれど、  
今はそれでもいいと思うことにした。  
 
「やっぱり、ちょっと現金かな……。」  
 
彼女の顔を思い浮かべてみると、心が柔らかくなる気がした。  
ほんの少しだけ苦笑いをして、オレは部屋を出るのだった。  
 
オレの通学方法は徒歩だ。正確に言えば、ランニング。  
実家から大学まで走って30分。電車やバスは一切なし。  
オレがイレブン大を選んだ大きな理由の一つだ。  
 
早朝と言うほどの時間ではないが、朝のランニングは心地いい。  
トレーニングの一環として始めたことだが、今ではそんな事は二の次だ。  
 
並木道で木漏れ日を浴びて、川の水に反射する陽光に目を奪われる。  
そうこうしているうちに大学の門が目に入り、オレの一日が始まるのだ。  
 
「あ、暁くん。おはようでやんす。」  
 
門を入ってすぐに聞きなれた声がした。矢部くんだ。  
 
「おはよう、矢部くん」  
 
矢部くんは小走りでオレの隣に並ぶと、少し心配そうに尋ねてきた。  
 
「暁くん、昨日は病院へ行ってたでやんすが、どこか悪いでやんす?」  
 
「あ、ああ……詳しいことは練習の時に話すよ。」  
 
少し声が震えてしまった。  
昨日に比べれば大分落ち着いたが、やはり、キツイ……。  
朝と同じ方法で心を落ち着けてみる。……大丈夫。  
 
幸い、矢部くんはオレの動揺に気づかなかったらしく、  
今度は申し訳なさそうな顔で会話を続けた。  
 
「暁くん……実は、今日の朝練はないんでやんす……。  
 昨日の夕方、監督から連絡があったでやんすが、  
 暁くんに伝えるのをすっかり忘れてたでやんす・・・…。」  
 
「そうなの?まあ、気にしないで。  
 どうせ朝練がなくてもこれぐらいの時間には来てるし。  
 走ってきたから、部室でシャワーも借りたいしね。」  
 
校舎の入り口まで矢部くんと他愛もない会話をして歩いた。  
朝練がないのに矢部くんが早く来ていることを疑問に思ったが、  
おおかた課題をやり忘れて、誰かに写させてもらうつもりだろう。  
 
「それじゃ、また後ででやんす。」  
 
校舎に入っていく矢部くんに軽く手を振って、  
オレはグラウンドの部室長屋に足を向けた。  
 
シャァァァァァァァ……  
 
「……フゥ。  
 朝練は中止か……助かった……かな?」  
 
本日2度目のシャワーを浴びながら小さく呟く。  
朝練がなかったことは、今のオレにとって救いだった。  
 
もし他の部員に会えば、やはり矢部くんと同じ質問をされるだろう。  
もちろん、彼女にも……。  
 
流石に、耐える自信がない……。  
 
いつかは知られることだし、知らせなければいけない事だけれど  
昨日の今日で割り切れるほど簡単な問題ではないし、  
割り切れてしまうほど、オレは能天気じゃない。  
 
シャァァァァァァァァァァ……  
 
「・・・・・・・・・・・・・。」  
 
チームや仲間のことを考えれば、すぐに知らせるべきなのだ。  
けれど、それを知らせることで自分の居場所がなくなる事が怖かった。  
いや……自分でそれを認めてしまう事が何よりも怖かったのだ。  
 
「けっこう……自分勝手だったんだな、オレは……。」  
 
かなりネガティブな思考が頭を支配している。  
こんな時はいくら悩んでも解決しない。  
ならば、いくら悩んでも意味がない。  
 
ケ・セラ・セラ。後は野となれ山となれ。  
深みにはまりそうな自分に言い聞かせると、  
シャワーをとめて頭をブルブルと振るった。  
 
体を拭き、服を着て、シャワー室から外に出る。  
 
今日はとてもいい天気だ。  
まだ少し濡れている髪も、すぐに乾くだろう。  
陽の光を浴びると、なぜだか元気がでるような気がする。  
 
「紫外線はうつ病に効果があるとかないとか……関係ないか。」  
 
どうやら、いつもの自分の思考が戻ってきたようだ。  
太陽に手を伸ばしてみる。手のひらは、とても暖かかった。  
 
「よしっ!ケ・セラ・セラだ!。  
 
伸ばした手をグッと握るる。手のひらは、とても暖かかった。  
 
 
「……で、あるからして……なるのです。」  
 
教授の話を聞き、ノートをとり、考察する。  
それ相応の成績を残そうと思えば、手は抜けない。  
手が抜けないから余計な事を考える事も出来ない。  
講義が続く間はオレは野球を忘れられる。  
今のオレにとってこの教室は、  
講義という名の障壁をまとった最後の砦と言ったところか。  
 
……いや、最後の砦というのは格好良すぎる。  
勝てる可能性があるならば、そう呼んでもいい。  
だが、今のオレに勝ち目はない。負けが決まっている篭城戦だ。  
 
「……篭城戦ってのも格好良すぎるな。」  
 
キーンコーンキーンコーン  
 
講義の終了を告げるチャイムが鳴る。  
 
「はい、終了。」  
 
あっさりと負けを認め、荷物をまとめる。  
確かに悩むのはやめたが、少々投げやりになっている気がする。  
 
我ながら情けない。  
 
それでも、うじうじ悩むよりはマシだと思うことにした。  
 
 
「さて……と。逃げるのは好きじゃないけど、仕方ないよな。」  
 
というよりも、選択肢はそれしか用意していない。  
 
野球部に行けば当たり前の事だが部員に会う。  
そうなれば朝よりひどい状況になるのは  
火を見るよりも明らかな訳で、  
オレの精神状態を考えるとそうなる事は好ましくない。  
 
「昨日は病院に行ってたわけだし、部活を休んでもおかしくないよな。」  
 
監督に連絡しないという欠点はあるが、逃げる理由としては上出来で、  
オレのちっぽけなプライドを守れるぐらいには完璧だった。  
 
大学からの帰り道。それなりに大きな公園。  
一生懸命に白球を追いかける野球少年たち。  
そして、それを羨ましそうに眺める情けないオレ。  
 
投手を諦めればいいだけなのに……ただ、それだけなのに。  
 
ワァァァァァァァァァァァ!  
 
うだるような夏の日差しと、それに負けない大歓声。  
夏の風物詩。高校球児の見果てぬ夢……甲子園。  
オレはグラウンドの一番高いところに立っていて、  
バッターボックスには1人の強敵が立っていた。  
 
『負ける訳がないじゃないか……。  
 オレには8人の仲間がいて、ヤツは1人だ……。』  
 
負ける訳がない。負ける訳にはいかない。  
ここまで戦ってきた仲間が、オレの投げる球を信じてくれている。  
 
3年間ずっとオレの球を受けてくれた相棒が、ミットを構える。  
サインは……なし。オレに全てを任せてくれた。  
オレは大きくうなずくと、腕をこれでもかと振りかぶる。  
次いで左足。天を貫かんとばかりに振り上げたその左足を、  
体重の移動と共に地面に叩きつける。  
マサカリの名に恥じぬように。決して後悔しないように。  
 
「ズドーン!153kmストレート!!  
 バットは空を切り、八城の帽子が空を舞った!!」  
 
なんだか恥ずかしくて、その時のビデオなんかも一度も見た事はなかった。  
ただ、テレビから流れてきたこの実況だけが心に残っている。  
 
諦められる訳がなかった。  
この手が、この指が、この心が……。  
髪の毛の一本一本、細胞の一つまでもが、投げる喜びを覚えてしまっている。  
 
「投げ続けるか……? この肩がイカれるまで……。」  
 
「だーれがイカれてるって?」  
 
聞き覚えのある声と共に、ぷにぷにと頬を突かれる感触。  
ハッと振り向くと、そこにはオレにとって特別な女の子が立っていた。  
 
「みずきちゃん?!」  
 
心臓が飛び出るかと思うほど驚いた。おそらく、顔も引きつっていただろう。  
みずきちゃんは『やっほ』と言うと、もう一度ぷにぷにとオレの頬を突いてくる。  
 
正直、うれしい。  
彼女は人前でもオレの頬を突くが、他人の頬を突いているところを見た事はない。  
ちょっとしたことだけど、彼女にとってオレが特別なのではないかと思えた。  
 
「こ、こんなところで何してるのさ?」  
 
まだ心臓は高鳴っていたが、なんとか平静を装って問いかける。  
すると、彼女は頬をプーッと膨らませた。その可愛さに心臓が再び高鳴った。  
 
「ど、どうしたのさ?」  
 
「どうしたのさ?じゃないわよ!部活サボってるのは暁くんでしょ?  
 しかも、ロードワークコースで堂々と座ってるんだもん、いい度胸してるわ。」  
 
……しまった。  
自分の馬鹿さに少し頭が痛くなった。  
このコースはオレも毎日走っているじゃないか。  
 
「いや、ほらさ、昨日は病院に行ったから……?!」  
 
自分の馬鹿さ加減に少しどころかかなり頭が痛くなった。  
一番触れて欲しくない話題を自分から振ってしまうなんて、救いようがない。  
 
「あ、そういえばそうだったね。で、どこか悪かったの?」  
 
自分の馬鹿さ加減を全力で呪ってみたが、無駄だった  
 
「……別に、なんともなかったよ。」  
 
なんともない顔をしていない事は、自分でも分かった。  
オレの顔を直接に見る事が出来る彼女に分からないはずがない。  
 
「……どうしても言えない事なら無理には聞かないけど、  
 話して楽になることもあると思うよ?話してみない?」  
 
みずきちゃんはオレの隣に腰をおろすと、もう一度頬を突いてきた。  
 
少し覗き込むような彼女の顔に、オレの心はだんだんと落ち着いていく。  
あとは、楽だった。口が勝手に言葉を紡いでくれた。  
 
肩に爆弾をかかえていること。  
投手として投げ続ければ『それ』は数年以内に爆発すること。  
他のポジションにコンバートすれば問題はないということ。  
投げる喜びを忘れられそうにないこと。  
・・・・・・・・・。  
 
もしかしたら、関係のない事まで話したかもしれない。  
情けない事も言ったかも知れない。恥を晒したかもしれない。  
 
それでも、彼女は何も言わずに聞いてくれて、  
 
気づけば、オレは泣いていた。  
 
 
「アッハハ……。ゴメン……みっともないね。」  
 
涙を強くこすり、息をゆっくりと吐き出した。  
 
話してよかったと思う。  
みずきちゃんに話せてよかったと思う。  
彼女以外にはこんなみっともない自分は見せられない。  
 
もしかしたら、オレは彼女に見て欲しかったのではないだろうか。  
情けなくて、みっともない……天才でも怪物でもない自分を。  
 
「ううん、気にしないで……。  
 そっか……そうだったんだ……。」  
 
何やら深く考え込んでいる……。  
 
『もしかして、何かとんでもないことを口走ったかな……』  
 
何も考えずに話すというのは、  
気持ち的には楽な反面、何を話すかを選べないというリスクを伴う。  
 
……まずい。最後の方に何を言ったのか、全然思い出せない。  
もしも『みずきちゃんが好きだ』的な言葉を発していたなら、  
それはこれ以上ないくらいみっともない告白だ。  
 
みずきちゃんが何を考えているのか、とても気になるところだが、  
オレは彼女が言葉を発するのを待つ事しかできなかった。  
 
「ねぇ、暁くん……。  
 暁くんは、野球が好きなんだよね?」  
 
『ごめん』とか『友達としか思えない』とか言われなくてよかった。  
 
「当たり前じゃないか。  
 でなきゃ、こんなに悩んだりしないよ。」  
 
心底ホッとしながら、何を今更といった感じで答えてみる。  
すると、みずきちゃんはまた少し考えて、こう言った。  
 
「じゃあ、自分が投手だから野球が好きなの?」  
 
それは、とても難しい質問だった。  
野球は1人でやるスポーツじゃない。  
ピッチャーがいてキャッチャーがいて、内野手が4人に外野手が3人。  
オレは、全員で精一杯プレイする野球が大好きで、  
自分は1人で戦っているなんて思った事は一度もない。  
オレは常に1/9で、それは他のポジションでも変わらないはずだ。  
 
「そうじゃない。  
 オレは野球って言うスポーツが大好きなんだ。」  
 
「だけど、投げる喜びも忘れられないんだよ。」  
 
優柔不断だ。矛盾している気もする。  
けれど、これ以外の答えは見つける事が出来なかった。  
 
「じゃあ、野球をやめる?  
 肩が壊れるまで投げ続ける?」  
 
昨日から悩み続けている事が出てきた。  
何故だろうか。もしかしたら、他人の言葉だったからかもしれない。  
オレは驚くほど冷静に、その問題について考える事ができた。  
 
野球をやめれば、それは投手うんぬんの問題ですらない。  
投手として投げ続ければ、オレは肩を壊し、野球自体を失ってしまう。  
オレは、野球が続けられれば幸せだった……。  
 
「……答えなんて、最初から一つしかなかったんだ。」  
 
簡単な事だった。とても簡単な事だった。  
どちらを選んでも、結局は野球を失うことになる。  
オレはどちらも選べない。それだけだった。  
 
「ありがとう、みずきちゃん。」  
 
まだ辛い。だけど、決意は出来た。  
いつもの自分でいられるぐらいに、心は晴れた  
 
「お役にたてて光栄です!」  
 
みずきちゃんは、ビッ!と敬礼の真似をしてみせた。  
背筋はピンと、両足もそろえて、でも、顔は優しく笑っている。  
 
「なんてね♪」と、いたずらっぽく舌を出す。  
その表情は少し猫っぽくて、とても愛くるしかった。  
 
顔が熱くなっていくのが分かる。  
もともと夕暮れの光のせいで顔は赤く見えるのだが、  
それはそれで恥ずかしかった。  
 
「コンバートするんでしょ?やっぱり、ファーストかな?」  
 
みずきちゃんは少し嬉しそうに尋ねてきた。  
オレが野球を続ける事を選んだのが嬉しかったのだろう。  
 
新しい守備位置はゆっくり決めればいい。  
どこに移ってもそれなりに守れる自信はあるし。  
投手さえやらなければ大丈夫と医者にも言われた。  
それに、どこを守っていても1/9である事は変わらないのだから。  
 
「……っと、そうだ!」  
 
オレにはまだ、投手としてやり残した事があった。  
 
「みずきちゃんに、渡したい物があるんだ。」  
 
みずきちゃんを連れて家に帰ると、誰もいなかった。  
母親からの置手紙によると、主婦仲間とカラオケらしい。  
 
「そこの部屋で待ってて。持ってくるから。」  
 
みずきちゃんからは返事のかわりに  
「ハァ〜」というため息が聞こえてきた。物珍しいのだろう。  
古くから続くお屋敷とでも言うのだろうか、  
オレの家はそんな感じだった。まあ、多少手は加えてあるが。  
 
階段をのぼり、自分の部屋に入る。  
誰もいない家に女の子をいれるのは抵抗があったが、  
オレの理性がしっかりしていれば問題ない。  
……ちょっと自信はないけど。  
 
「おかしいな……。最後の一冊は……。」  
 
「なに探してるの?」  
 
「ん?ノートなんだけど……。」  
 
「あの机の上にやるヤツ?」  
 
「そうそう、あのノートだ。」  
 
……あまりにも自然な流れに、突っ込みどころを逃してしまった。  
 
「みずきちゃん、どうかした?」  
 
振り向くと、みずきちゃんはキョロキョロとオレの部屋を見渡している。  
ちゃんと掃除もしてるし、変な物は置いていない……はず。  
 
「ん。だって、暁くん遅いんだもん。女の子は待たせちゃダメよ。  
 それに、暁くんの部屋も見てみたかったしね。」  
 
「ごめん、探すのに手間取っちゃってね……。  
 でも、面白くないでしょう?野球関係の物ばっかりだから。」  
 
みずきちゃんは「そんなことないよ」と言うと、  
オレのベッドに腰掛け、探していたノートを読み始めた。  
 
「……?!」  
 
読み始めてものの数秒。  
突然ノートを閉じると、みずきちゃんが首をブルブルと振った。  
 
「ダメだよ!こんな大事なもの、受け取れない!」  
 
「大事だからこそ、受け取ってもらいたいんだ。  
 オレの投手としての全てが、そこに詰まっているんだ。」  
 
研究日誌とでも言うのだろうか。  
投をコントロールする方法。より強い回転をかけるための練習方法。  
投球の組み立てからバッターの心理の考察、さらにはキャッチャーの心理まで。  
オレが十数年をかけて培ってきた全てのことが、そこには記されている。  
 
「受け取って欲しいんだ、みずきちゃんに……。」  
 
首をよこにふるみずきちゃん。  
 
「オレは、みんなに夢を見せてしまった……。  
 その夢を叶えようと思ったし、叶えられると思った。  
 でも、オレには出来なくなってしまった。」  
 
「これはただの押し付けかもしれない。  
 でも、キミなら任せられる。キミなら出来る。  
 大学野球の頂点……キミなら叶えられると信じてるんだ。」  
 
「…………ズルイよ、暁くん。」  
 
みずきちゃんは、閉じていたノートをもう一度読み始めた。  
 
自分で言うのもなんだが、かなり有益な事が書かれていると思う。  
特に、最後の一冊は……。  
 
カチッカチッカチッカチッ……  
 
一冊、二冊、三冊。  
五冊あるノートのうち、既に三冊を読み終わっていた。  
四冊目もじきに読み終わり、最後の一冊を手に取る。  
 
「……なに?このふざけた題名……。  
 ここまできてバカこと書いてあったら絶交だからね!」  
 
確かにそのノートには題目をつけた。  
『丸秘 橘みずき観察ノート』……。我ながら怪しい題目だ。  
だが、題目はふざけていても、中身は違う。  
これまで一緒にやってきた1年と半年をかけて書いたノートだ。  
 
「ホント、ときどきバカなんだから……。」  
 
ほっぺたを風船のように膨らませながら、  
ゆっくりとノートを読んでいくみずきちゃん。  
 
膨れていたほっぺはすぐにしぼみ、真剣な顔になる。  
 
オレは壁にかかっている写真を見つめた。  
高校最後の夏、全国制覇を果たした時の写真。  
ゆっくりと目を閉じ、彼女の読み終わりを待った。  
 
ノートを閉じる音がする。どうやら読み終えたらしい。  
ゆっくりと開いた目をみずきちゃんを向ける。  
彼女は、泣いていた。  
 
事態がまったく飲み込めなかった。  
涙が出るほど感動的な詩でも書いてあっただろうか。  
そんなものを書いた記憶はなかった。  
 
オレの視線に気づいたのか、みずきちゃんがニッコリと笑う。  
 
『なんて綺麗なんだろう。』  
 
泣いている女の子を前に、不謹慎かもしれない。  
しかし、涙を流しながらも優しい笑みを浮かべたその顔は、  
オレの心を奪うには充分すぎるほど美しかった。  
 
「暁くん。ありがとね。」  
 
訳も分からないままお礼を言われてしまった。  
ノートに対するお礼なのだろうが、涙のわけは分からない。  
 
「オレは君に夢を押し付けたんだ……。  
 お礼を言われることなんて……。」  
 
そういうと、みずきちゃんは首をふるふると横に振った。  
 
「嬉しいの……。  
 暁くんが、ずっと私を見てくれてた事が分かったから。」  
 
「ノートがね、暖かいの。一文字一文字が暖かいのよ……。」  
 
ノートを胸にギュっと抱いて、一言一言を噛みしめるように。  
みずきちゃんの涙は、とまらない。  
 
「だからね、ありがとう……。」  
 
オレは、優しく微笑む彼女を強く抱きしめた。  
 
「……暁くん……私はキミが好き……。」  
 
オレの胸に顔をうずめて、みずきちゃんは囁く。  
抱きしめた体はとても小さくて、届いた心はとても大きかった。  
 
腕の力を弱めて、顔を上げようとするが、  
彼女は子供のようにイヤイヤをする。少しくすぐったい。  
 
よく見ると耳たぶまで真っ赤になっていた。  
 
恐らく、赤くなっている顔を見られたくないのだろう。  
こんな時にまで意地っ張りなみずきちゃんが、とても愛おしかった。  
 
「みずきちゃん、顔をあげて?」  
 
できるだけ優しく諭してみるが、彼女は首を振るばかり。  
そういえば、オレはまだ自分の想いを伝えていない。  
ここまで来て何を今更と思うかもしれないが、やはり大事な事だ。  
 
弱めていた力をもう一度強めると、耳元優しく囁いた。  
 
「好きだよ、みずきちゃん。」  
 
「?!?!」  
 
真っ赤だった耳が更に赤くなった。  
これがマンガなら「ボンッ」という擬音が付いた事だろう。  
 
みずきちゃんは、オレの服をギュっと握ると  
自分の顔をこれでもかとオレの胸に押し付けてきた。  
いつもの男勝りな性格はまったく見えない。  
 
もしかしたら、普段のみずきちゃんは  
素直さを裏返しているのではないだろうか。  
 
「みずきちゃん、顔を見せて?」  
 
……ダメだ。  
少々強引にいく以外に手はないらしい。  
 
オレは彼女のおでこに手をあてると、  
ひっぺがすように上を向かせた。  
 
「ぅ〜〜……」  
 
みずきちゃんは目を強く閉じている。  
オレの顔を見るのが恥ずかしいのだろう。  
見事なまでに真っ赤に染まった顔がとても可愛い。  
 
オレはおでこにかかった髪をかきあげ、  
そっとそこにキスをした。  
 
「?!」  
 
みずきちゃんの体がビクッと震える。驚かせてしまったらしい。  
 
「みずきちゃん、目をあけてよ。  
 なんだか無理矢理してるみたいだ……。」  
 
彼女は軽く唸り声をあげると、  
流石に観念したのかゆっくりと目を開けてくれた。  
それでも、見つめ合うのは恥ずかしいらしく横を向いてしまう。  
オレだって恥ずかしいのに。  
 
「キス、してもいい?」  
 
またまた体がビクッと震えた。  
ぱっちりとした大きな瞳が困ったように左右に揺れる。  
しばらくそれが続くと、みずきちゃんはうつむいてしまった。  
 
『しまった、少し焦り過ぎたか。』  
 
お互いにいい年頃だけど、今まで野球ばっかりしてた訳で、  
オレはもちろん、みずきちゃんだってこういう経験は乏しいはずだ。  
 
いまだにうつむいたままの彼女を、もう一度抱きしめた。  
泣いている子供をあやすように優しく頭をなでる。  
 
「ごめん、いきなりすぎたね……。」  
 
体を離そうとすると、みずきちゃんは服を握る手を強めてきた。  
 
「バカ……。好きだって言ってるんだから、  
 無理矢理にでもしなさいよ……。  
 意地張ってるワタシの方がバカみたいじゃない……。」  
 
そこまで言うと、少し憎らしそうに上目遣いで見つめてくる。  
前髪を再びかきあげ、彼女の目をじっと見つめる。  
 
「そういう事言うと、抑制がきかなくなっちゃうよ?」  
 
『キスのあと』まで進みたい。そういうニュアンスを含めてみる。  
彼女は、今度こそ目をそらさず答えてくれた。  
 
「してほしくなかったら、こんな事言わないわよ……。」  
 
 
ゆっくりと顔を近づけ、唇を重ねる。  
少し湿った唇はとても柔らかくて、  
唇が触れる瞬間に震えた体は、みずきちゃんの弱さを教えてくれた。  
 
「ファーストキス……。  
 他の子よりも少し遅くなったけど、キミでよかった。」  
 
彼女の両目には、とまったはずの涙が再びたまっていた。  
オレは、強がらせてしまったことを謝るように、優しく優しくキスをした。  
 
「服、脱がせるよ。」  
 
脱がせてもいいかと尋ねない。  
そうすれば、恐らく彼女はまた意地を張ってしまうだろう。  
 
オレは少し強引に攻めてみることにした。  
出来るだけ優しく、それでいて彼女を傷つけないぐらいに強引に。  
 
答えを待たずに3度目のキスをし、ユニフォームのボタンを外していく。  
 
舌を割り込ませると、みずきちゃんは驚いたように目を大きく見開いた。  
本や映像から取り入れた知識では本当に詳しい事は分からないので、  
とりあえず、お互いの舌を絡めるように動かしてみる。  
 
「んぅ!……ふぁぁ……はぁ……。」  
 
歯の裏側に舌があたり、みずきちゃんが体を震わせる。  
 
唇を放す。酸欠だろうか、頭がボーッとした。  
 
少し長くキスをしすぎたかもしれない。  
それとも、これが本当のキスの効力だなのだろうか。  
 
「みずき……。」  
 
そう呼ぶと、みずきの目がトロンとした気がする。  
喜んでくれてたらしい。  
 
もう一度名前を呼ぶと、再び深いキスを始めた。  
みずきも顔を赤くしながら舌を動かしてくれる。  
舌の絡み合う音がいやらしく耳に響いた。  
 
ユニフォームとアンダーシャツを脱がすと、みずきをベッドに横たえる。  
 
言葉がでなかった。  
 
こぶりながらもその存在を主張する胸。  
余計な肉は殆どない引き締まった腰。  
お尻から太ももにかけての柔らかなライン。  
 
シンプルなスポーツブラとショーツ。  
たった2枚の布に覆われただけのその姿は、  
オレの心をつかんで放そうとはしなかった。  
 
我を忘れてボーッとしていると、なぜかみずきの頬が膨れていく。  
 
「暁くん……小さいとか思ってるでしょ……。」  
 
「どうせワタシの胸は小さいもん……。」  
 
勝手にスネられてしまった。かなり気にしているらしい。  
 
「………………ふむ。」  
 
オレは、いきなりみずきのスポーツブラに手をおくと、  
ゆっくりと円を描くように揉みはじめた。  
 
「っあ!ばかぁ……いきなりなんて、っ!卑怯だよっ……。」  
 
『柔らかい……。』  
 
手のひらにすっぽりと入るハリのある胸が  
オレの手の動きにあわせて自在に形をかえていく。  
 
「っ!どうせっ、キミも大きいほうが……んんっ!」  
 
最後まで言い切らないうちに唇をふさぐ。  
舌を激しくからませながらも、手の動きは止めない。  
みずきの細い体がビクビクと震えた。  
 
「っはぁ……ばかぁ……。」  
 
少し涙目になったみずきの頬に、優しくキスをする。  
 
「別に、胸が小さくたっていいじゃないか。  
 みずきはみずき。誰にも負けないぐらいに魅力的だよ。」  
 
顔どころか、体中が紅潮していく。  
 
「……ばか。」  
 
「うわっ!」  
 
突然頭を抱きかかえられてしまった。  
心臓の高鳴りが肌で感じられる。  
 
「ありがと……。」  
 
ボソッと呟くと、みずきは腕の力を強めてきた。  
 
2,3分はそうしていただろうか、みずきが口を開く。  
 
「ね、キミにしたいようにして?  
 少し怖いけど、キミに気持ちよくなってほしい。」  
 
「あ、あとね……。汗くさく……ない、かな?  
 ロードワークの途中だったから、その……ね?」  
 
やはりおんなの子。かなり気になるらしい。  
オレがフルフルと首をふると、安心したように頭を解放してくれた。  
 
しかし、傷つけないようにと思っていたが、逆に気遣われてしまった。  
そこまで言われてしまっては、やらない訳にはいかない。  
 
「んっ……ふあぁ!」  
 
胸をしだく手を強め、ピンと立ってきた乳首をつまみあげる。  
 
「っ!……っは……んきゅぅ!」  
 
強弱をつけながら、もう片方の乳首も。  
 
「だっ……両方はっ……だめぇ……。」  
 
みずき可愛い声がオレの欲望を際限なく加速させていく。  
 
少し乱暴にスポーツブラを脱がせると、  
可愛らしいピンク色の乳首がピン、と張り詰めている。  
 
「あ……ん……ぁぁ!……っ!」  
 
それを口に含み、舌でころころと転がしてみる。  
 
「はあっ……あっ!」  
 
もしかしたら、みずきは感じやすい性質なのかもしれない。  
ためしに、乳首に軽く歯を立ててみる。  
 
「きゃぁっっ!」  
 
みずきの体がビクビクが痙攣し、力が抜ける。  
軽く達したのかもしれない。  
 
みずきの息が落ち着くのを待ってから、ショーツに手を伸ばす。  
 
「え、あ、そこは、だめぇっ……。」  
 
みずきは体をよじって逃げようとするが、たいした抵抗にはならない。  
オレの手はみずきの大事な部分に到達する。  
そこはじっとりと湿っており、サウナのような状態になっていた。  
 
「……濡れてる。気持ちよかった?」  
 
みずきは湯気が出そうなほどに顔を真っ赤にして、  
近くにあった枕に顔をうずめる。  
 
「知らないわよ……ばかぁ!」  
 
枕を通してくぐもった声が聞こえてくる。  
オレはみずきの手から枕を奪い取ると、軽く唇を重ねた。  
 
「可愛いよ、みずき。」  
 
「……しらない!」  
 
プイッと横をむくみずきが可愛くて、思わず口元が緩んだ。  
 
「なんで笑ってるのよぉ……。」  
 
「しょうがないよ、みずきが可愛すぎるんだ。」  
 
「……ばか。」  
 
もう一度キスをして、オレはショーツに手をかけた。  
 
「あ、ちょっと、いきなりは卑怯って……」  
 
とりあえず聞かなかった事にして、さっさとショーツを脱がしてしまう。  
 
露わになったその部分には殆ど毛がはえてなかった。  
まったく隠すものない秘裂から染み出した愛液が、  
蛍光灯の光を反射してテラテラと光っている。とても淫靡な光景だ。  
 
「んっ!」  
 
そっと触れてみる。ぴちっと閉じたその部分は、少しかたい。  
自分でいじってると柔らかくなるとかいう事を本で読んだ気がするが、  
さすがにそれを聞くことは出来なかった。  
 
「あ、ん、はぁ……っく!」  
 
少しでもほぐれるように、秘裂にそって指を上下させると、  
じっとりと熱く湿ったソコはさらに愛液の量を増やしていった。  
 
少し動きを強めて人差し指に愛液をからめると、  
秘裂の下部にある小さな穴にゆっくりと侵入させる。  
 
「っ?!」  
 
「ごめん、痛かった?」  
 
「ん、大丈夫……びっくりしただけ……。」  
 
痛みはないようだが、そこは指一本でもかなりきつい。  
オレのモノは特別に大きいわけではないと思うが、  
この窮屈な場所に入るとも思えなかった。  
 
「ん、あ、んくっ……ひぁ!」  
 
それでも、指を出し入れしていると  
窮屈だったそこが少しずつ柔らかくなっていく。  
指の動きを強めてみるが、みずきの表情から苦痛は感じられない。  
秘裂から垂れた愛液が、シーツにシミを作っていた。  
 
「みずき、そろそろ……いい?」  
 
こればっかりはいきなりする訳にもいかない。  
指をぬき、荒く息をするみずきに尋ねる。  
 
「ん……いいよ……。でも、優しくしてね……?」  
 
少し不安そうな顔をしたが、すぐに笑顔にかわる。  
オレの事を信じきっている。そう見えた。  
 
服を全て脱ぎ去り、みずきの足の間に体を割り込ませる。  
入るわけがないと思うぐらいに、みずきのそこは小さくて、  
オレのモノはかつてないぐらいに怒張していた。  
 
決心が揺らいでしまわないうちに、  
オレは素早く狙いを定めると、腰を一気に突き出した。  
 
「いっ!っっっっっつぅ!!」  
 
入り口はとても固く、それでも力を加えると少しずつモノが埋まっていく。  
 
ブチン、と何かを貫き、オレのモノはみずきの一番奥に到達した。  
 
「っ……っく!」  
 
みずきの目からポロポロと涙がこぼれた。  
シーツを掴んでいた手を放すと、オレの頭を強く強く抱き寄せる。  
 
「いたっいぃ……。」  
 
その言葉だけを精一杯しぼり出し、みずきは声を殺して泣き続ける。  
オレに出来るのは、強く抱きしめる事ぐらいだった。  
 
少しの間そうしていると、みずきの嗚咽も大分小さくなった。  
 
「っ……よかった、ちゃんと一つになれて……。」  
 
嗚咽はとまり、体の力も抜けたが、涙だけは止まらない。  
 
「まだ、痛い?」  
 
想像することも出来ないが、それほど痛いのだろうか。  
心配になって尋ねると、みずきは優しく微笑んだ。  
 
「痛いよ……。」  
 
「でもね、ちゃんと受け止めたいの。  
 暁くんがくれた痛みだから、受け止めたいの。」  
 
オレだから受け止めたい。そういってみずきは微笑んでくれる。  
そんなみずきが愛おしくて、長い長いキスを交わした。  
 
「途中でやめるなんて、出来ないからね。」  
 
ゆっくりと抽出を開始する。  
赤く血のついたモノがゆっくりと引き出され、  
再びみずきの膣へ飲み込まれていく。  
 
「っ……くぅっ」  
 
痛みを押し殺すみずきに、罪悪感を覚えながらも、  
オレの意識は快感を捕らえる事だけに向けられていく。  
 
みずきの膣はとても熱く、生きているかのように絡み付いてくる。  
お互いに経験のない粘膜同士の接触は、いつ爆発しても分からないほどの快感だった。  
 
「あ、ん…っはぁ…んん……。」  
 
ゆっくりとしたストロークを続けていると、  
みずきの声がだんだんと艶を帯びてくる。  
抽出もスムーズになり、自然とスピードがあがっていった。  
 
肌のぶつかりあう音と、交わる際の水音だけが響き、  
オレの頭はたとえようのない快感に支配されていく。  
 
「あ、ふぁぁ…ん…んきゅぅ!」  
 
「あ、かつき……くんっ……ひっ!なにか……なにか、きちゃうよぉ!」  
 
やはり、みずきは感じやすいらしい。  
あれだけ痛がっていたのに、今はそんな様子はまったくない。  
オレは、みずきにあわせてラストスパートをかける。  
 
「ひんっ!だ…めぇ…はげしっ……すぎっ!」  
 
「あっ…っくる…も……きちゃう!」  
 
もう何も考えられなかった。  
お互いに、その頂点を目指して求めあう。  
ただひたすらに腰を動かし、快感だけを貪った。  
 
「ふあぁっ…んっ…あぁぁっ……」  
 
腰をうちつける度に快感が波になって脊髄をかけあがってくる。  
 
「みずき!そろそろ……っ!」  
 
限界が近い。気を抜けばすぐにでも果ててしまいそうだ。  
少しでも長くこの快感を味わいたくて、必死に耐える。  
 
「あ…ふぁぁ…い、いよ!、膣に……出し…てっ……!」  
 
「あ、んん、あ、ふぁぁ、ああああああぁぁっっ!!」  
 
みずきの体が大きく震え、頭の中が真っ白に染まっていく。  
オレはみずきを強く抱きしめると、その一番奥に欲望を吐き出した。  
 
「ん、ふぁぁ……なかに……でてる……」  
 
オレとみずきはしばらく絶頂の余韻を味わい、優しく唇を重ねた。  
 
 
 
雲ひとつない青空。  
 
ベンチに腰かけ、暖かい陽射しに目を細めていると、  
子供が追いかけっこをしながら駆けていく。兄弟だろうか。  
 
ゆっくりと目を閉じる。  
 
柔らかな風がオレの頬をなぜ、去っていく。  
 
『いっそ、このまま眠ろうか。』  
 
そんな考えが頭をよぎる。  
 
『……殺されるな、確実に。』  
 
そんな考えも頭をよぎる。暖かいはずなのに身震いがした。  
 
日曜日。大半の人が休日として過ごす日。  
オレも例に漏れず、ゆったりとした休日を過ごそうと思っていた。  
 
「ちょっと、暁くん!  
 こういうのって、普通は男の子が買ってくるものじゃないの?!」  
 
『神様は残酷だ。』  
 
練習のない日曜日なんて久しぶりだ。  
そんな日ぐらい、のんびり過ごさせてくれてもいいじゃないか。  
 
「暁くん!聞いてる?!」  
 
ひとしきり神様を恨んだ後、目をあける。  
 
そこにはオレの大事な恋人が立っていて、  
両手にはアイスクリームが1つずつ握られている。  
なんだかとても幸せな光景に、思わず頬がゆるんでしまう。  
 
「むぅ〜!勝者の余裕ってヤツ?!」  
 
みずきの頬がプーッと膨れる。最近、こんな表情が多い。  
 
「ご苦労様。オレの、どっち?」  
 
オレはその頬をぷにぷにと突くが、しぼむ気配がない。  
アイスクリームを買いに行かされた事にかなりご立腹だ。  
 
「ジャンケンを持ちかけてきたのは、みずきじゃないか。」  
 
「ワザと負けてくれたっていいじゃない!」  
 
あくまでもけんか腰。  
それにしても無理を言う。ジャンケンなんてものは確率勝負だ。  
ワザと負けるほうが、勝つ事よりもよっぽど難しい。  
 
「だから、オレが買いに行くって最初に言ったじゃないか。」  
 
「ほら、座って。アイスが溶けちゃうよ?」  
 
みずきの視線がアイスクリームに移る。  
アイスと理不尽な苛立ちとの戦いが幕を開けた。  
 
しぶしぶと言った表情で、みずきはオレの隣に腰掛ける。  
開始3秒、アイスのK.O.勝ちだ。  
 
「はい。暁くんの分。」  
 
右手のアイスを一口分だけかじると、残りをオレに手渡す。  
これでチャラにしてやるという事らしい。オーケー、交渉成立だ。  
 
「これって、間接キスってヤツかな?」  
 
「あれだけの事して、今さら何いってるのよ。」  
 
「あれだけの事」を思い出したのだろう、みずきは顔を真っ赤にする。  
 
『みずきの性格が大分変わった気がする……。  
 それとも、本当のみずきを見せてくれているのだろうか……。』  
 
あれだけの事をしてから3日。二人が結ばれてから最初の日曜日。  
オレはみずきに誘わ(拉致さ)れて(オレのオゴリで)遊園地に来ている。  
 
「そ、それよりも暁くん!  
 早くまわろうよ。せっかくのデートなんだし!」  
 
まだアイスは半分も減っていないのに、みずきはオレの手を引っ張る。  
食べながら歩こうという事らしい。まあ、せっかくのデートだし。  
アイスを持ち替えると、みずきの手をとり歩き出す。せっかくのデートだし。  
 
 
「ねぇ、みずき?」  
 
「ん、なーに?」  
 
「コンバート先、キャッチャーにしようと思うんだけど。」  
 
「……それって、ワタシの球を暁くんが受けてくれるって事?」  
 
「うん。みずきちゃんの球をオレが受けるって事。」  
 
「……うん!キミが受けてくれれば、もっといい球が投げれそう。」  
 
「ただし、オレの注文はけっこう細かいよ?」  
 
「大丈夫よ。その時は、キミが手取り足取り教えてくれるんでしょう?」  
 
みずきは、いたずらっぽく微笑んだ。  
ギュっと手を握り、微笑みかえすと、みずきの微笑みも優しいものになる。  
 
『大丈夫。』  
 
あの日、オレはみずきに夢を押し付けた。  
オレにはその夢を叶える事ができないと思ったから。  
 
でも、それは違った。  
 
オレがキャッチャーになれば、みずきを支える事ができる。  
二人で夢を叶える事ができる。二人で一緒に歩いていける。  
 
みずきの微笑みが、それを確信させてくれた。  
 
もうマウンドに立つことは出来ないけれど、  
これからはマウンドの上で輝く彼女を見つめていこう。  
 
空を見上げると。  
そこには、雲ひとつない青空が広がっていた。  
 
〜〜〜 Fin 〜〜〜  

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