「ストライーク!バッターアウト!」
ボールが俺のミットの中に納まった瞬間、審判のコールが響く。
この試合、6つ目の三振を奪ったボールはあいつの得意なナックルだ。
キャッチャーであり主将の俺こと服部が率いるしるこ大学は、9割方変わることなく全国目指してリーグを戦っている。
ただ残りの1割、俺だけが知っている変わったことある。
それは…
「どうだい?今日のせっしゃは?」
ベンチに引き上げる途中であいつが話しかけてくる。
「ここ最近では一番いいキレだな。完封狙うぞ、影丸」
「もちろん、そのつもりだよ!」
親指を立てて無邪気に笑う。本人いわく試合用という黄色いバンダナが風に吹かれてたなびく。
(やっぱり可愛いよな…。男だったときは意識しなかったけど)
そう、この―俺の相棒であり、エースである―朝霧影丸が女に「なっちゃった」ということだ。
「んー…っと」
軽く背筋を伸ばす。日も昇りきっていない早い時間に俺は部室に向かっていた。
朝の自主練習は習慣だが、主将に任命されてからは自分がチームを引っ張っていかねばと自負を持ってより開始時間を早めている。
俺より早く部室に来ている奴、最も自主練習をしているのは俺くらいだから誰もいないだろうと思っていたが、
「おはよう、服部」
意外や意外、先客が居た。
「珍しいな、影丸。ようやくエースの自覚が出てきたか?」
期待半分、冗談半分で話しかけてみる。
が、影丸はいたずら笑いを浮かべながらあっさり否定した。
「あはは、違う違う。昨日、薬の材料を忘れてさ。探しに来たんだよ」
(薬…か)
影丸は代々続くという忍者の家系で今でも山奥の方に一族そろって暮らしているらしい。
その一族の収入源は治療や身体強化の薬なんだそうだ。
しかし、そんな貴重な収入源を部室になんかに置いといていいのか?
「あれー、おかしいなぁ…。昨日、確かに部室に持ってきたはずなんだけど…」
そんな俺の心情を知るはずもなく、影丸はもくもくと探している。
「昨日、と言えば…。おまえ、なんかちっちゃい箱を奥のデータ書類の棚にに押し込んでなかったか?」
うちの部室の奥には―役に立っているかどうかはともかくとして―今までの対戦成績を書き込んだデータ書類の棚がある。
そこに無理やり木箱を押し込んでいたのを着替え中に見たことを思い出した。
「あ、それだ。ありがとー!」
そう言って奥の方に駆けていく。
「お、おい、狭いところを駆け回ると…」
…言わんこっちゃない…。
言い切る前にどんがらがっしゃんと派手な音を立てて、盛大に影丸が転がっていた。
「影丸、大丈夫か?」
大丈夫なわけはないだろうが、一応の声を掛けつつ棚へ向かう。
影丸は数々のファイルやらバラバラになった紙の下に埋もれているらしい。
「…ん?」
と同時に変なにおいがする。甘ったるく、少し鼻につく。
(なるほど、これが目当ての薬か。なんだか頭がぼーっとするなあ…)
どうやら多少の催眠効果もあるらしい。
(…っといかんいかん。さっさと影丸を助けないと)
ファイルや紙を掻き分けて影丸を引っ張り出す。
(うわ…)
見るも無残、影丸は一緒にぶちまけた薬の粉まみれになっていた。
「おい、影丸。しっかりしろ」
「う?う〜…、あ、ああ、ありがと、服部…」
思い切り転んだのと薬のにおいで軽いめまいになっているようだ。
「大丈夫か、歩けるか?」
「ヘヘ…、大丈夫…っと、わ」
言ってるそばからよろめく。俺は咄嗟に影丸を支えてやる。
むにっ。
…は?
なんだ、今の感触は?
「あはは…、たびたびごめん…」
どうやら本人は気づいてないらしい。
「…すまん、影丸。ちょいと確かめさせてもらう」
「へ?うわっ!?」
むにむに。
影丸の「胸」を何回か押してみる。
むにむに。
調子に乗って揉んでみたりする。
むにむにむにむに。
この男らしからぬ、やわらかい膨らみは…。
「…」
「…」
人は予想外のことが起きると時が止まったように感じるものだ、まる。
「影丸。おまえ、女だったのか?」
「ち、違うよっ!馬鹿!」
その瞬間、ぐーぱんちが俺の顔面にクリーンヒットした。
「へへえ、惚れ薬ねえ…」
説明を聞き、何度も頷く俺。
「う〜ん…ちょっと違うけど…。大体、同じようなものだね」
動揺と胸を揉まれたショックで多少、赤みを帯びた表情を浮かべつつ説明する影丸。
影丸が女になった原因。
それはずばり、あの薬の粉末だ。
辺炉紋丸と呼ばれる、特殊なキノコの胞子を精製して作るものだそうで、
飲めば異性に好かれるフェロモンを発するようになるらしい。
ただし、副作用として体内のホルモンバランスが崩れてしまう。
少量ならば問題ないが―。大量に胞子を、ましてや精製する前のものを吸い込んでしまうと、
「なんで、せっしゃがこんな目に…」
このように女になってしまうこともあると。
「ふーむ、ついに我が野球部にも女性投手が誕生か」
「冗談じゃないよ!」
真っ赤になって叫ぶ影丸。
そりゃまあそうだ。
今まで男として暮らしてきて、いきなり「あなたは女性になりました」なんて言われても納得できるわけがない。
「いい?絶対に他の人には言わないでよ!ばれたら一生、薬の実験台になってもらうからね!?」
恐ろしい剣幕で迫ってくる。
ぐえ…それだけは絶対に勘弁だ。俺まで材料をそのまま飲まされたりした日にゃ堪ったものじゃない。
「わ、わかった、わかった。約束だ約束」
「ほんとかなあ?」
俺が必死になってなだめても、一向に落ち着く気配がない。
「俺を信頼しろって。いくらなんでも、ばらすわけないだろ」
「だったら…いいけど…」
まだ疑いの目を向けてくる影丸。
お前は長い間バッテリーを組んできた相手を信頼できんのか…。
まあ、それはそれとして大変なことになった。
胸の膨らみはサラシを使って隠すことが出来る。上から服を着ればほとんど目立たないだろう。
が、問題は野球の練習で着替える時だ。部室では他のチームメイトに見られる可能性も高い。
かと言って、
「トイレとかでも無理があるよね…」
影丸の答えにも納得だ。いきなり部室ではなくトイレで着替えたりしたら不自然極まりない。
「うーむ…」
…。
かくなる上は…。
「おっす、主将」
「よ」
部室に入ってきたチームメイトと挨拶を交わす。
「あれ、珍しいな。主将がまだ着替えてないとは」
「ん?ああ、ちょっと事情があってな」
「ふーん…?」
首を傾げるチームメイト。
俺は表では笑いを浮かべつつも、内心「さっさと練習に向かってくれ」とハラハラしていた。
「今までは、いの一番に着替えて、練習してたのにねえ」
別のチームメイトが誰もが感じているだろう疑問を口にする。
「えーとまあ、影丸が来るまで待とうかなと…。投球に関しての話もしたいし」
もちろんそんなことは大嘘だ。
違和感なく言えただろうかと冷や汗が噴き出す。
「おおう、なるほど。うちの要だからなあ」
「ははは、そうそう!」
どうやら上手く納得させることが出来たようだ。この時ばかりは単純なチームメイトたちに感謝した。
「そういうことなら。んじゃ、お先ー」
手を振って他の部員を送り出す。
他全員の部員が着替えてグラウンドに出たのを見計らって、胸を撫で下ろしすぐさま携帯をかけた。
「いいぞ、影丸」
『OK、ありがと』
影丸の返答をしっかりと確認して俺も着替え始める。
(はあ、これで何日目だ…)
仕方なしに始めた防衛策。
バッテリーという立場を利用して一緒に練習をするかのように装い部室が空くのを待つ。
俺は部員たちが全員、練習に出て行くまで見張りをやらなければならない。
もちろん、練習の終わった後は二人で投げ込みの練習をするふりをしてやり過ごしている。
疲れるし、この方法も後々限界があるかもしれないが―。
部の混乱を抑えるためには仕方ない。
「いつも、ごめんね。服部」
申し訳なさそうに入ってくる影丸。
「いいよ、気にすんな。さっさと練習にいくぞ」
「うん、ちょっと待ってて」
と、手早く着替える。
私服(?)の忍者服を手順を踏んで脱いでいく。
時々、隙間から見える肌が艶かしい。
(しかし、ほんと肌とか綺麗だよな)
今までは一番に着替えて練習に出ていたため、他人の着替えるところをほとんど見たことがなかった。
しかし、こうして改めて見ると影丸は性別がどうこう関係なく綺麗な体をしていたことに気づいたのだ。
白いうなじに細い肩、ただ痩せているというわけではなく適度に筋肉もついた均整のとれた体。
ひょっとすると並みの女性よりも美しいかもしれない。
(サラシを巻いてなかったら…。柔らかかったな)
ついつい、数日前、確認といいつつ影丸の胸を揉んでいたことを思い出す。
あの時はあまりの突然さに思考が停止したから良かったものの、そうでなければ自分がどこまでしていたかわからない。
「どうしたの?服部。ぼうっとして」
「うおっ!?」
いかんいかん、つい妄想の世界に入ってしまっていた。
「大丈夫か?顔赤いよ?」
「あ、ああ、だいじょうぶだいじょうぶ…」
口では言っているものの顔の温度がどんどん上がっているのが分かる。
傍から見れば、相当滑稽な姿だったろう。
「まあ、それならいいけど。早く練習に行こう」
「あ、ああ」
影丸が笑ってグラウンドに駆けていった。
不覚にもその笑顔が可愛くて、俺はまた面食らってしまう。
(落ち着け…俺。相手は男だ、男なんだ)
結局、その後の練習は影丸のことを妙に意識してしまって全く集中できなかった。
その後の日々もなんとかやり過ごし、部としては混乱も何もなかったものの―。
あの部室でのやり取り以来、俺の中で何かが動いているような気がした。
必然的に影丸と一緒にいるため、二人きりで話す機会が増えたこともあるのだろう。
実際に野球一辺倒だった俺が野球に集中できていないというだけでも大問題なのだ。
認めたくはないが、それでも俺が自分自身に戸惑っていることは否定できない。
(俺は…影丸のことを…)
「おつかれさーん」
「あいよ、おつかれー」
チームメイトに声を掛け、帰りを見送る。
正直、影丸と顔を合わせるのは辛いが今日も投げ込みの練習のふりに付き合うことにする。
部のためだと自分に言い聞かせた。
「今日も居残りかい?主将」
「ああ、大会に備えておくに越したことはないからな…」
「まだ先のことなのに熱心だねえ」
それじゃ、とまた一人帰っていく。
「…それじゃ、行くか。影丸」
「うん」
…とにかく他の部員がグラウンドが見えなくなるまでの間の辛抱だ。
パァンとミットの音が気持ちいい。
お互い、演技のつもりでいるがやはり野球選手だ。
投手はいいボールを投げようとするし、捕手はうまくキャッチングしようとする。
その本能に従っていれば、少しは自分の気持ちも忘れることができる。
この時間が俺の本当のクールダウンの時間でもあった。
「よーし。服部、上がろうー」
得意のナックルボールがミットに収まると同時に影丸が声を掛けてくる。
まだそんなに経ってはいないと思ったが時計を見ると最後の部員が帰ってから1時間も経っていた。
他の部の連中もとっくに帰っただろう。
「そうだな…帰るか…」
正直に言えば、もっと続けていたかったが、あくまでも「演技」だ。
いつまでも、グラウンドに居座ってるわけにもいかない。
しぶしぶながらも部室に引き上げることにする。
その横に影丸が小走りでついてきた。
…勘弁してくれ、一人で居る時でさえ悩んでいるくらいなのに…。
「へへ、"ふり"とは言え、つい投げてるうちに力がこもって来ちゃうね」
そんなことはお構いなく屈託のない笑顔で話しかけてくる。
「ああ、そう、だな…」
あまり視線を合わせないようにする。
今、こいつの顔を見たらとんでもないことになりそうな気がした。
(さっさと帰って寝てしまおう…)
そう思って部室のドアを開けようとしたときだった。
あ。と後ろにいた影丸が声を上げる。
「どした?」
「雨…」
そう言われて、後ろを振り返ると確かにポツポツと雨粒が落ちていた。
そういえば、朝の予報で言っていたような気もするな。
「まあ、着替えてる内にやむだろう。大したことない」
「そうだね」
特に気にせず、後は着替えて帰るだけだ…と思ったのが間違いだった。
ざあぁぁぁぁ…。
「やまないねー…」
ざあぁぁぁぁ…。
「そうだな…」
かれこれ何時間経ったことだろう。
辺りはすっかり暗くなり、雨の音がどんどんと大きくなっている。
「着替えてる間に本降りになるとはな…」
大失敗だ。帰ってから着替えるという選択肢もあっただろうに。
わざわざ、状況が悪化してしまうような選択をしてしまうとは。
「もう誰もいないよね…」
影丸が不安そうにつぶやく。
だが、俺はそれ以上に不安になっていた。
他の部ももう帰っているだろうし、残っている僅かの職員たちもこの雨の中では別館となっているこの部室棟には寄ってこないだろう。
ということはつまり、
(二人っきり、ということか…)
しかもこの狭い密室にだ。
俺は心の中で溜め息をつく。どうすればいいのやら全くわからない。
「…」
「…」
気まずい沈黙。雨の音がさっきよりも大きくなったような気がした。
このままで居ると頭が狂いだしそうだった。
「ねえ」
沈黙を破ったのは影丸だった。
「あ?な、なんだ?」
しどろもどろな反応を返す。
「隣に行ってもいいかな?寒いからさ」
…。何だって?隣に座りたいということですか?
「え、いや、あの、それはだな」
そんなまさか、いくら寒いとは言っても二人で肩を寄せ合うというのは…。
「確か一枚、おっきいスポーツタオルがあったろ?せっしゃだけが使うわけにもいかないし、ね」
「いや…だから」
だめだ、まともに言葉が出てこない。
影丸がてきぱきと奥からタオルを持ってきて、俺の隣に。
そして、大きいそれで自分と俺の体を一緒に包む。
「これで多少はマシかな」
余計悪いわ、と突っ込みを入れたくなったが、突然の展開に頭がごちゃごちゃしてどうしようもない。
(頼む、さっさと止んでくれ…)
とにかくこの雨雲にご退場願うしかなかった。
健闘むなし。
あれからしばらく経っても、雨が止む気配は微塵もない。
しばらく影丸と言葉を交わしたような気もするが気持ちを静めることに必死ではっきり覚えていない。
はあーと溜め息をつき、うな垂れる。せめて朝までに止んでくれればいいと諦めることにした。
「おっと」
体がぐらつく。影丸が寄りかかってきた。
そういや、ずっと肩を寄せ合ったままだった…。
また顔が火照ってくる。
「ええい、影丸。もうちょいそっちに」
寄りかかってきている体を手で押しよけようとする。
その時初めて、影丸が寝ていることに気づいた。
「…」
可愛いとしか言いようがなかった。
柔らかそうな頬に長いまつげ。
すっかり安心しきっている寝顔だ。
でも逆に、その表情は俺にとって爆弾でしかなかった。
「ん…」
影丸が少し息を漏らす。
衝動的に俺はキスしていた。
(柔らかい…)
気持ち良かった。
触れるだけでこんなに幸せになれるものだとは思っていなかった。
…自分の思いを告げることはできない。
だから、せめてキスだけでも―。
「服部」
その一言で我に返る。
「あ、す、すまん!起こしてしまったか…」
一瞬で罪悪感に包まれる。
「本当にごめん!おまえの気持ちも考えずに…」
どんなことでも言い訳になるのは分かっている。
これで今までの関係が壊れてしまっても、もう取り返しもつかない。
罵声も仕打ちも覚悟した。だが。
ふぅと一息を入れた後、影丸の口から出たのは意外な言葉だった。
「好きだよ、服部」
…え?
い、今、何ていっ…!
何が何だかわからない内に、今度は俺の唇が影丸に奪われていた。
唇の柔らかい感触、茶色がかった髪の匂いが鼻をくすぐる。
「はあ、ふぅ…」
「か、影丸」
さすがに照れているようで、はは。と悪戯笑いを浮かべる。
「これで両思いだね」
「い、いやあの」
確かに嬉しいことは嬉しいが…。
こんなにあっさり認められても…。
「いいのか、そのー…お前、体が女ってだけで…」
「んーん」
首を2、3度振った後、
「女になるずーっと前から、服部のことは好きだったよ」
「な…」
絶句。
じゃ、じゃあ、影丸はその気の…。
俺の様子を見て、でもちょっと待ってと影丸が慌てて訂正する。
「最初は友達としての憧れがほとんどだったよ」
でもね、と一息。
「最近、段々と男を異性として意識するようになってきたんだ。心の方も女に変わってきているんだよ」
「そうしたら、服部への気持ちも少しずつだけど変わってきてさ…。最初はこの気持ちが何だかわからなかったけど」
「でも、さっきキスされたときにわかったよ。『服部に恋してる』って」
えへへと、顔を赤らめて笑う。
呆然とした。
まさか、影丸も俺のことを…。
ずっと同じことで悩んでいたなんて…。
「ねえ、服部?せっしゃじゃダメかな?やっぱり、ちゃんとした女の子の方が…」
不安げな表情。そんな"彼女"がたまらなく愛しく、俺は影丸を抱き寄せていた。
「わわっ」
「関係ねえよ」
「え?」
ほんとに?と影丸は繰り返す。非があるのは俺の方だって言うのに。
「朝霧影丸は普通の可愛い女の子だよ」
あ。と声を上げて、すぐに微笑みに変わる。
「ありがとう…、服部…」
床にしいたタオルに影丸を寝かせる。
「あ…」
潤んだ瞳に上気した顔。
それに引き寄せられるように口づけをした。
「ん…」
柔らかい感触をわずかだけ感じ、舌で唇をこじ開ける。
「…!」
突然のことに影丸は一瞬だけ体を震わせたが、すぐに舌を絡ませて応えてきてくれた。
ぴちゃぴちゃ…。
「はぁはぁっ…」
お互いの存在を確認するように、一心に動かす。
口を離すと、ツゥと一本の糸がひいた。
「あは、なんか…やらしいね」
「そーゆーことをしてるからな」
「真顔で言わないでよ…ばか…」
影丸が顔を赤くして視線を逸らす。
その可愛い仕草に俺はくすくす笑いながら、片手を影丸の服の下へ忍び込ませた。
「わっ」
忍び込ませた手で体をなぞり、空いている手で忍者服を捲りあげる。
「ふわ、は、服部…。くすぐったいよ…」
「ごめん、あまりにも触り心地がだからさ」
手から直接、影丸の体温が伝わってくる。
すっと上に向かって、指をゆっくり移動させていく。そして、ほどなく肌とは違う質感にぶつかる。
「…いいか?」
こくん。
承諾を得て、手を回し、サラシをほどく。
小振りな胸がその下から現れる。
「あう…やっぱり恥ずかしい…」
「なんでだ。こんなに綺麗なのに」
でも、とまだ何か言おうとした影丸の言葉をさえぎるように胸を弄ぶ。
ふにふに…。
「ふあ」
ふに、ふにふにふに…。
「ん…んっ…んふっ…」
小振りのわりに…、小振りだからこそなのか軽く揉むだけでピクピクと敏感な反応が返ってくる。
「はあはあ…はっとりぃ…」
熱い息。
「もっと聞きたい」
「え―!?ちょ、ちょっと、やあ…」
乳房に舌を這わせる。
柔らかい肉をしゃぶり、硬くなった乳首に吸い付く。
「んああああああっ!!」
小刻みに震え、体を少しだけ仰け反らせて反応する。
もしかしたら胸の感度が一番いいのかもしれない。
「は…はっ…んふっ…ん…」
コリッ―
「うあっ」
軽く歯を立てた。
コリコリッ―
「うっ、くっ…」
片方に口で吸い付き、片方では指で攻め立てる。
「あ、あ、あ、あああ…は、はっとり、やめ…んうぅぅぅぅ!」
影丸の顔が更に上気していく。体がさらに熱さを増し、汗が浮かんでいる。
(可愛い…)
堪えきれなくなった俺は、影丸のズボンを下着と一緒にずり下ろした。
「うああ…」
影丸が恥ずかしさに顔を手で覆い隠す。
覆いかぶさるようにして、秘所に指を伸ばした。
「濡れてる…」
「い、いうなぁ…」
真っ赤な顔で恨めしそうに睨んでくる。
「いや、ごめん…」
「む〜」
ちゅぷ…。
「ひゃ!」
そのまま舌を進入させた。
「は、はっとり、はずかしっ、ふあっ!」
胸とは違う柔らかい感触を舌に感じながら、その中を蹂躙していく。
「あう―はぁ…はぁ…んっ…あっ…あ…ああっ!」
(もう…いいかな…)
いそいそと服を脱ぎ、自分自身を影丸に添える。
「あ…」
「いくぞ…?」
「う、うん…。はっとりぃ、きてぇ…」
影丸の答えに大きくうなずき、ゆっくりと膣内へ沈めた。
「うっ…はあああっ…!」
十分にはぬかるんでいるが、小柄な影丸の膣内はきつい。
影丸の顔が苦痛に歪む。おそらく手間取れば余計に痛みを与えてしまうだろう。
「…影丸、ごめん」
「えっ…?―あっ、あぁぁぁぁぁぁっ!!!」
何度も心の中で謝りながら、影丸を一気に貫く。
ぷつっ、と何かを破った感触があった。
「はっ、はあ、ふぅ…」
「大丈夫か…?」
「少し痛かったけど…大丈夫だよ…」
健気な笑顔。狂うほどに愛しい。
俺たちはしばらく抱き寄せ合っていた。また訪れる沈黙―。
「あの…」
影丸が囁く。
「ん?」
「その…動いていいよ」
そう言って、また視線を逸らす。
(影丸…)
その仕草を合図にゆっくりと動き始める。
「あっ、あっ…あっ…ふぁうぅぅぅぅぅぅぅ!」
嬌声を上げて仰け反る影丸。
細い腰を支えながら俺自身も高めていく。
「んくっ、はっ、はっ、はっ…」
ズリュズリュと淫靡な音が大きくなる。
そのたびに、影丸が締め付け、膣内で絡み合ってくる。
「ああっ、んっ、あっ、ふあっ―」
「影丸の中、すごい気持ちいいよ…」
「あっ、あっ、はっとりが、服部のが、いっぱいいっぱい…ああぅ!」
貪るように二人で腰を突き動かす。
結合部から蜜があふれ出し、タオルにシミをつくっていた。
「うあっ、はっとり、はっとりぃ…」
「くっ、もう…」
限界が近い。
影丸を抱き寄せ、一気に奥へと潜りこむ。
「うあああああっ、あ、、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「影丸っ…!」
次の瞬間、あるだけの欲望を影丸へ解き放った。
「んああっ、出てるぅ…。はっとりのが…せっしゃのなかにぃ…」
もう一度だけ強く抱きしめ耳元で告げる。
「愛してる…」
そして、意識は闇の中へ沈んでいった。
「ねぇ、服部」
「ん?」
あれから数日、俺と影丸はきちんと"お付き合い"をしている。
もちろん、チームメイトには秘密だ。
練習と休日の合間を縫い、特別な所へ出かけることもないが―。
こうして傍にいるだけでも幸せなのだからそれでいい。
「どうした?」
今日は河川敷に散歩に来ている。
俺は草の上に寝転がりながら、隣に座っている影丸の呼びかけに答えた。
首に巻いている水色のバンダナが可愛い。
「男に戻る方法がわかったよ」
「え!?」
突然のことに唖然とする。
(今まではどんな方法を試しても無理だったのに…)
別に影丸自身がいなくなるとい訳でもないのに、俺は頭を抱え込んで悩みこむ。
そんな様子を見て、影丸がクスクスと笑った。
「あはは、うそだよ」
…はっ、うそ?はは…そうか、嘘なのか。良かった…。
「何だよ、脅かすなよな」
「えへへ、ごめん。…でも、服部はもし本当にせっしゃが男に戻っても、また恋人になってくれる?」
憂いを帯びた目で新たな問いを―。
冷静を取り戻していた俺は即答した。
「当たり前だろ。お前みたいな可愛い奴が別の男に取られたら一生、後悔するよ」
「…ありがと」
満足そうに微笑した影丸を抱き寄せる。
「わわっ」
「これからもよろしくな」
「…うん!ずっと一緒だよ!」
どんなことがあっても―ね。