「…すいません…」
「‥‥‥」
ひとしきり泣いて、わだかまりを出し尽くして。
落ち着きを取り戻して。
顔を上げた高坂は、改めて朋美に謝罪の言葉を口にする。
ただの謝罪ではなく、計り知れないほどの感謝の意を込めて、真っ直ぐに瞳を見つめて。
朋美も、それを感じ、無言で微笑んだ。
「…っと。」
「あ‥‥‥っっ!?」
体を起こし、高坂が朋美から離れる。
感じていた重さと、どこか心地よい体温がどいたと同時に、彼女に襲ってきたのは下半身の痛み。
思わず顔をしかめる。
改めて見れば、自分の体、特に下腹部や、あるいは高坂の上着や床が中々凄惨な状況に。
赤と白のコントラストが、見ようによっては綺麗で…などと思う余裕などあるわけもなし。
「す…すいません!」
それに気付いた高坂も、慌てて何か拭くものとかがないか探そうとする。
「床は雑巾で…あと、衣類は高坂さんがよろしければ、お洗濯しちゃいましょうかねー。」
その何とも滑稽な様子に、妙に冷静な頭になって状況を分析することができた朋美。
高坂に対して、適切と思われる行為をアドバイスする。
「え…と、洗濯は…」
「洗濯機は、トイレのそばですぅ。
とりあえずは、放り込んじゃって下さいー…っっ。」
汚れた衣類――とりあえず、彼女の下着以外は――を洗濯機に入れ、一通りの応急処置は完了。
何か自分は飲み物でも…と、朋美が立とうとして、又も激痛に襲われてその場にへたり込む。
「っ‥‥‥大丈夫ですか!?」
「あ…はは‥‥‥ちょっと動くのが大変ですねぇー。」
「…風呂はお湯はってありますか?」
「あ、大丈夫ですよー。
そうですね、できれば入っておきたいかもしれませ…ひゃああっ!?」
「ちょっとだけ、我慢して下さい。」
洗濯機に衣類を入れに行った際に、風呂の場所は把握。
そのまま湯船に入ることができるなら、未だ下着姿の彼女を連れて行く場所は一つ。
膝の裏と、背中に手を入れて抱え上げる。
いわゆる『お姫様抱っこ』。
高坂にしてみれば、こうやって運ぶのが効率面でも最適であった為に半ば無意識に取った行動。
だが、される朋美からすれば、不意打ちを食らった分も含めてこの行為に冷静ではいられない。
高坂の体温や筋肉を、密着する半身と、回された両手を通じて感じている。
今、自分が下着しか身に着けておらず、その上で抱え上げられている。
更に、傍から見れば非常に恥ずかしいであろうその抱え上げられ方。
反論の余地も、その機敏な動作と高坂の真剣な表情によって封じられ、その腕の中で俯き、顔を赤らめる。
そして先刻、私はその相手に自分の純潔を―――
股の間から、さっきはまるで意識しなかったものが溢れるのを彼女は感じた。
同時に痛みも感じたが、むしろそれは今の彼女に心地よいものとなっていた。
のんびりと湯船に浸かり、シャワーを浴びた。
のぼせない程度に体を癒し、暖め、タオルで体を拭く。
今は、入れ替わりで高坂が風呂へと入り、朋美は居間でホットのカフェオレを口にしていた。
体は随分と楽になってきた。
けれども、頭ではさっきの出来事が徐々に思い出されていく。
…高坂さんは、自分のことをどう思っていたのだろう…
とても博識で優しくて、それでいていつも一生懸命な、一緒にいてあげたい彼。
私はそんな彼を尊敬し、好きになった―――
筈だったのに。
自分が抱いていた違和感の正体に気付き、体を縮こめる朋美。
…私は、高坂さんのことを『好きになったと思っていた』だけだった。
彼の事を、本当には好きになっていなかった。
だって―――
今になって、初めて『人を好きになる』という感情がどういうものか、分かってしまったから―――
体が火照ったのは、湯冷めしないように羽織った寝巻きのせいでも、飲んでいるカフェオレのせいでもなかった。
風呂から、軽装を羽織った高坂が出てきて、ぎこちない動きでもって朋美の前に座る。
高坂の表情を見るや否や、朋美が切り出す。
「高坂さんは…
高坂さんは、私のことが、好きですか?」
「!?…っ、はい。」
一瞬その問いに戸惑うも、真っ直ぐにそれに答える高坂。
「私のことを、愛してますか?」
「愛してます。」
再び朋美が問い、今度は高坂は迷うことなく答える。
ふと、朋美が微笑を浮かべ、席を立つ。
そして、さっきのように彼の背後に回り、手を回す。
これには高坂も、戸惑いの声を上げる。
「朋美さんっ…!?」
「私‥‥‥私も、高坂さんのことを愛してます。
愛してます‥‥‥」
「‥‥‥」
「だから‥‥‥
今度は、きちんと抱いくれますか?」
「!朋美さ…」
「私なら…大丈夫です。
どうか、私を…高坂さんの恋人にして下さい。」
回された腕を静かに取り、立ち上がると、そっと正面から彼女を抱きしめる。
そのまま手を繋いで、寝室のベッドの方へと並んで歩いていった。
…二人とも顔は赤く、俯いたままで。
ベッドに座り、お互いの顔を見つめ合う。
髪を降ろし、眼鏡を外した彼女の顔。
無意識に頬に手を伸ばすと、柔らかかった。
そのままどちらからともなく顔を近付け、唇を合わせる。
口を軽く開け、舌を合わせる。
それだけでも、何だか互いの全てを知り、一つになれている錯覚を覚える。
荒い息を吐きながら、遊ぶように何度も舌を絡めた後、一旦それを中断する。
名残惜しそうに軽く突き出された舌から、唾が少しだけ糸を引く。
「キスって…気持ち、良いです。
何だか…くらくらしちゃいますねぇ。」
顔を上気させ、そう呟く朋美を、今すぐにでも欲しいと心が叫ぶ。
でも、ただ感情のままに彼女を食おうとするのはもうたくさんだ。
彼女と、『ひとつになりたい』んだ。
「失礼‥‥‥しますね。」
「ぁ…はい…どうぞぉ。」
どこか雰囲気に似合わないようなやりとりを笑顔で交わすと、高坂は彼女をゆっくりと押し倒す。
その最中、頭を支えながら唇を再度奪う。
「あむ…ん…ちゅ」
「んんっ…ん…」
完全に横たえたところで、さっきよりも深く、激しく舌を躍らせる。
舌だけでなく、相手の口の中を全て貪ろうとする程に。
いつまでもこうしていたい…そうとさえ思う朋美と、一方でふと、そんな朋美を少しでも悦ばせたいと考える高坂。
先ほどまで背中を支えていた手を引くと、その手を彼女の胸へと伸ばした。
「んん…!っっ…む‥‥‥ん、ん〜、んん〜〜!!」
服の上から、突然の刺激に驚く朋美。
ただ、驚いてはいるものの、その舌の動き自体はあまり変わらないまま。
それに安心すると、まずはやわやわと軽く動かしていた手を、徐々に大胆なものへと変化させていく。
女性らしさを漂わせるには十分な程度の大きさの胸を、あくまで苦痛は与えないようにしながら揉み続ける。
キスと、胸からの慣れない刺激によって、思いのほかあっけなくそれは訪れる。
「ん…う‥‥‥うむぅっ!?ん…んんんんっ!!」
トロンとさせていた目を突然堅く閉じ、目じりから涙をぽろぽろとこぼして、朋美の体が震える。
ビクン、ビクンと、断続的にそれを繰り返し、高坂に当ててた手を、力なくベッドに横たえる。
「…こんなの…はじめてですぅ…」
息を整えながら、そうつぶやく彼女。
その表情に、彼女を満足させられた安心感と、雄としての達成感のようなものに襲われ、安堵する高坂。
「なんだか…病み付きに…なっちゃいそうですねぇ…」
うわ言のように、それでいて幸せそうな顔で言う朋美。
「服…脱ぎますね。」
「ぁ…はいぃ…。」
心地よい感じ…快楽に浸る朋美を前に、まずは自身の部屋用のTシャツとズボン、下着を脱いで、ベッドの横に置く。
裸になったところで彼女を見ると、けだるそうな体を起こし、上着とブラジャーをゆっくりと外していた。
目の前でそれが終わったところで、高坂に軽い好奇心が芽生える。
「朋美さん。」
「え?…あ、ちょっ…」
上半身裸になった朋美を押し倒し、ズボンとパンティを自らの手で降ろそうとする。
そこに、彼女の手が重なる。
「駄目ですよぉ…」
彼女の嫌がることはしない。
そう決めていた高坂は、素直にそれに従う。
が、
「駄目ですけどぉ…でも、高坂さんがしてくれるのなら…」
そう続けて、朋美はその重ねた手をズボンの裾へと導いた。
ズボンの裾の下にあるパンティを探ると、両方同時にゆっくりと降ろしていく。
彼女の、やや薄い茂みとその下の秘部があらわになる。
パンティが秘部から離れる際に、その部分が水で湿っているのが分かった。
朋美もそれを感じたらしく、脱がし終わって顔を合わせると恥ずかしそうに、
「高坂さんの、キスが‥‥‥すごく気持ちいいんですよぉ…
だから私、こんな‥‥‥えっちな気分に…」
そんなことを言う。
今すぐにでも抱いてしまいたいという衝動を抑え、ふと避妊の道具が鞄にあることを思い当たる。
…さっき生でしてしまったことは棚に上げているようだが。
そのことを朋美も察し、高坂に言う。
「あの…私、今日は大丈夫な日です…。
ですから…」
職業柄、体調面に気を遣う必要性の高い彼女。
一応そういった知識も持ち合わせた上で、日頃からその辺りは心得ていた。
「あ、はい…
それじゃ、足を…ええ、力抜いてくれますか…。」
その言葉に我に返り、再び朋美に覆いかぶさる高坂。
彼女に足を曲げて貰いながら、一度目の時の緊張や恐怖を取り除こうと、ゆっくりと分身を彼女に近づけていく。
それでも性器が触れ合うと同時に、朋美が体をギクリと震わせる。
「っ‥‥‥ぁ」
「…大丈夫ですか、痛みはないですか?」
「ぁ…はい。」
片手で彼女の顔を軽く撫でながら、もう片方の手で彼女の中へ自らを導き、徐々に挿入を行う。
最初の時のような、侵入を拒絶するかのようなキツさはなく、むしろ狭いながらもその挿入を歓迎してくれているかのような錯覚さえ高坂は覚えていた。
「ぁ‥‥‥ぁ…」
「‥‥‥っ…く」
半分位まで入ったところで、侵入を一旦止める。
正直、このままのペースで続けては、最奥まで入れた後、ほんの数往復で達してしまいそうな感じだった。
それを誤魔化す為、そして彼女が痛みを感じていないかを確認する為に、再度質問を行った。
「…痛くは‥‥‥ないですか?」
「ぁ‥‥‥はぃ‥‥‥痛くは‥‥‥ありません。
あの‥‥‥」
痛みが完全に無いわけでは無かった。
初めての時のような激痛は、不思議と消え失せていた。
それどころか、何だか繋がっている部分がジンジンしていて…
―――気持ちいい‥‥‥かも、しれません。
ただ、それを素直に認め、告白することを彼女は躊躇った。
自分が、何だかはしたない女性に思え、又思われることが嫌だったから…
だから、それを誤魔化す為にも、彼女は告げた。
「あの‥‥‥動いて…良いですよ。
高坂さんの‥‥‥好きなように‥‥‥ぅあああっ!」
その言葉を聞くや否や、一気に最奥まで挿入する。
そのまま、しばらく深く繋がったままで荒く呼吸を繰り返す。
「朋美‥‥‥さん…」
「高坂さん‥‥‥私‥‥‥分かります。
今、高坂さんと‥‥‥一つになってます。」
吐息混じりに、そんなことをつぶやく彼女。
「動いて、下さい‥‥‥いっぱい、感じて…下さい。
大好きです、高坂さん」
限界だった。
「朋美…さん!」
「っ…あ‥‥‥あああっ!」
砕け散って、粉々になる理性。
それでも、今回は―――
目の前の、大好きな女性をひたすらに愛したい。
彼女に、心からの歓喜の声を上げさせたい。
ただ、それだけの為に腰を動かす。
「あ‥‥‥ああっ‥‥‥高坂さんっ‥‥‥高坂さぁん!」
自分の膣内を、愛しい男が何度も往復する。
何度もギリギリまで抜き出され、一杯に押し込められる。
それだけの単純な行為に、何故こうも体は悦びに震えるのか。
どうして、こんなにも気持ちいいと感じてしまうのか。
「わた‥‥‥わたしっ!こんなの、駄目ですぅ!」
「こんな…わたし、こんなに、はしたな…ああっ!」
その様子に、ふと口元に笑みをこぼす高坂。
「気持ち…良いですか?」
「あ、はいぃ、いい、イイですっ! っあああ!」
快楽で、話すことさえままならない彼女の様子に、更に考える余裕も奪おうと、律動のペースを上げる。
結合部がぐちゅりぐちゅりと音を立て、その卑猥な音でさえが快楽の一部となって彼らを襲う。
ふと、自分の空いている方の手を、シーツを握り締めている彼女の片手に合わせ、指を絡ませる。
「ああぁ‥‥‥好き…好き…好きですぅ!大好きぃ!」
目からは涙をこぼし、ただただ叫ぶがままに、その想いを訴え続ける朋美。
―――もっともっと、ドロドロに二人溶け合ってしまいたい。
顔を近づけると、彼女の方から手を頭に回し、唇を奪ってきた。
「―――ンンンッ♪―――ッ♪―――ッ♪」
二度と離すまい、とばかりにその口内を踊り続ける彼女の舌。
…限界が近づいてきていた。
これが最後とばかりに、ギリギリまで自身を引き抜いてから―――
一気に最奥まで貫いた。
「―――!!!」
衝撃に、彼女の体が一気に張り詰める。
そして、そのままガクガクと痙攣し、股間からは新たに彼女の蜜がとぷっと溢れるのを感じる。
重ねた唇から突き出された舌を軽く甘噛みしつつ、不意に分身からあっけなく精液が吐き出されるのが分かった。
それのリズムに合わせ、彼女が震え続ける。
…全ての欲望が出尽くすと共に彼女の唇を開放した。
同時に虚ろな目と表情で、ベッドに力なく横たわる彼女。
…絶頂から中々降りてこられない間に、失神してしまっていたようだった。
朋美ほどではないにしろ、高坂の方も今のを含め、二度のセックスでかなり体力を消耗していた。
精液を放出し尽して、力を失った分身を彼女の中から引き抜く。
「…ぁ‥‥‥ぅ」
引き抜くと同時に、朋美が無意識の嬌声を上げ、結合部からは白い液体がドロリ…と溢れ出した。
気だるい体を起こして、ティッシュ箱から紙を何枚か取り出し、彼女の秘部とその周囲の汚れに押し当て、吸い取らせる。
一通りの応急処置が終わったところで、猛烈な眠気に耐えられなくなり、朋美と並んで横になる。
「朋美さん‥‥‥大好きです。愛してます」
夢の中にいる彼女に告げ、額に軽くキスをする。
そのまま高坂の方も、深い眠りへと就いた…。